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孤独の果て  作者: 伽藍堂
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19.真の強者

 あまりの魔法の威力に、視界が一面白に染まる。隔離結界を張っているのに、その余波しかこちらには届いていないのに、それでも思わず身構えてしまう程の圧倒的な威力。

 本来ダンジョンというものは破壊不可能にもかかわらず、崩れてしまうのではないかという思いすら抱かせる力の奔流。

 だが、やがて視界を取り戻した先には、全く無傷のウェインの姿があった。


「何だと!?」

「どうした?消し飛ばしてくれるんじゃなかったのか?」


 驚きと、僅かに狼狽の混じった声をあげる魔族に、あざけりの言葉をかけるウェイン。一体に何が起こっているのか、フェリアには理解が追いつかない。


「く!?なめるな!」


 そう言って今度はウェインに急接近し、右腕をふるう魔族。先ほどまでよりもさらにスピードが増している。

 魔法ではダメージを与えられない可能性があると見て、本気で直接攻撃を仕掛けたのだろう。



ガシッ!


 だが、ウェインはふるわれた右腕を、これまではひたすら回避していたその打撃を、片手で受け止める。


「「「「「「なあっ!?」」」」」」


魔族だけでなく、フェリアたち皆からも驚きのあまり声が漏れる。


「ぬるい。」


 その言葉とともに、魔族が吹き飛ぶ。見るに、おそらくウェインは右腕で打撃を放ったのだろう。持っていた剣での攻撃はなく、剣を握っている拳で殴り飛ばした形だ。

 それは、離れて見ているフェリアにすら、動きが全く見えなかった。


「クソオオオ!」


 怒声とともに、魔族が立ち上がり再びウェインに向かう。どうやら、見た目ほどにダメージはないか、あるいはそれ以上に魔族がタフなのだろう。

 だが、その攻防は先ほどまでと一変していた。

 そもそも、最初から戦闘技術という意味において言うならば、ウェインの方が上だったのだ。だからこそ、パワーとスピードで圧倒的に上回る相手であったとしても、何とか攻撃をしのぎ続けていられたのだ。

 しかし、そのパワーとスピードが相手と同等、いやそれ以上になったらどうだろうか?その答えは簡単で、素人をあしらうかのごとくだ。


「馬鹿な!有りえん!」

「どうした?さっきまで現実を受け入れられないうちの仲間をさんざん馬鹿にしてくれていたのに、いざとなれば自分も同じか?とことん小物だな。」

「ウオオオオオ!」


 魔族は何とかしようとあがいているが、全く届く気配がない。その様は、まさに蹂躙と呼ぶに相応しい。


 フェリアは、一体何が起きているのか、必死で感じ取ろうとする。

 隔離結界は、単純に攻撃を防ぐだけの結界ではない、種類にもよるが様々な事象に影響を及ぼす。内部から外部で起こっていることを感知しようとすることにも多少の影響があるが、しかし慣れさえすれば概ね実行可能である。

 その感知で得られた情報と自らの知識を総ざらいして、照らし合わせていく。得られた結論は……


「ドレイン能力……」


 ぽつりと、誰にも聞こえないようにつぶやく。それが、おそらくウェインの能力の正体だ。

 ドレイン能力とはその名の通り、様々な力を周囲から奪う能力である。主に特定の魔物が所有している能力であるが、人間にもこの能力を所有する者が存在すると言われている。

 もっとも、過去の記録を見ても事例としては極めて稀で、その存在自体が事実かどうかも近年では疑問視されている。

 それこそ僅かに断片的な記録が残っているのみで、研究などもその少なさからほとんど進んでいない。

 いくつか分かっている点は、周囲から魔力、生命力、熱等様々なエネルギーを吸収する能力であること、吸収するエネルギーの種類や強度は個人差があること、共通しているのはそのエネルギーを能力者の任意に扱えることだ。

 能力の差については少ない記録ながらも振り幅が大きく、殆ど一般人と変わらない者もいたし、逆に大きな力を振るえる者もいたようだ。

 過去には一度国が力を入れて研究を行ったこともあり、フェリアが知っていたのもその研究の記録を見ることが出来たからだ。

 もし仮にこの能力が解明できれば、強大な力を持つ魔物に対して有力な対抗手段となるかもしれない、と考えたことが研究の始まりである。

 だが、その研究ではそもそもドレイン能力者が当時見つかっていなかったこともあり、全くと言ってよいほど成果をあげられていなかったが。


 そして、ウェインの能力はあまりにも強力で、恐怖すら覚える程だ。下手をするとフェリアたち程度では、この隔離結界の外に放り出されたとき、瞬く間に生命エネルギーを奪いつくされ死んでしまうのではないか。

 おそれくそれが簡単には使えなかった理由だろうし、隔離結界を張るよう指示したものも同じ理由だ。迂闊に使ってしまえばパーティー全員の命を奪いかねない能力など、そう簡単に使えるわけがない。

 それほどまでに、周囲のエネルギーを大量に奪い続けている。


 特にマナだ。

 ウェインは言った、このンジョンはマナの濃度が高いと。その有り余るマナを大量に吸収し、下手をすれば相手が纏っている魔力すら奪いながら、その力を存分に振るっている。

 魔法も頻繁に放っており、その使い方は常軌を逸している。

 何も準備する様子を見せず、まるで息をするように、無詠唱・無動作で放たれる魔法。しかもそれでいて相当な威力を秘めているらしく、魔族は放たれるたびに防御行動を余儀なくされている。

 もちろん、魔族が纏っている魔力の層など、本当に存在しているのかと疑うほど簡単に突き抜けている。

 また、その構築はこれまで見たことが無いほど洗練されており、美しいとさえ感じるほどだ。

 だが、魔族の方も相当にタフらしく、内容そのものは圧倒しているものの決定打にかけ、まだまだ動きが衰える気配は無い。


「ふむ、これだけでは効率が悪いか。」


 ウェインはその姿に埒があかないと見たのか、そう言うや否や一度鞘に収めた剣を抜き、大量の魔力を持っていた剣に注ぎ込む。

 ウェインが本気を出してから、圧倒的な手数で責めているが、剣での攻撃は行っていなかった。ウェインの能力が飛躍的に上がったとしても、剣の性能は変わらない。

 おそらく、どれだけ強い力で振るおうが、大してダメージを与えられるような代物ではないのだろう。下手をすれば、かかる負荷に耐えられずに剣自体が壊れる可能性すらある。


 だが、そうやって魔力を流し込み強化することも、問題があるはずだ。

 そもそも、それだけ性能が足りない武器なのだ、キャパシティも大してある訳ではない。どれだけ大量の魔力を加え強化たとしても、伸びしろはたかが知れているはずである。

 しかし、その後にフェリアは更に度肝を抜かれることになる。

 大量の魔力に耐えられず崩壊しそうな剣を強引に押しとどめ、更に改変し新たな剣として作り直したのだ。それは、膨大な魔力を使っているにも関わらず、恐ろしい程に複雑かつ精緻な魔法だった。

 これまで使っていた魔法も凄かったのだが、これは更に次元が違う。


 やがて完成したのは、濃密な魔力を纏った一振りの剣。その剣を、振るわれた魔族の左腕に対して、無造作に振りぬく。

 それは、まるで紙を切るかの如くあっさりと、魔族の腕を切り飛ばした。


「グアアアア!?」


 そのダメージに大きな声をあげ、思わず飛び退る魔族。この戦闘が始まり、ウェインがその真の実力を発揮しても決して見せなかった、相手にひるみ下がる行為。


「グ、認めん、認めんぞ!」


 思わず後退してしまった事を、認めずに再度前に出る魔族。だが、趨勢はすでに決していた。


「終わりだ。」


 僅かな攻防の後に、魔族の首を刎ね飛ばすウェイン。そのあまりのあっけなさに、呆然と見ているしかないフェリアだったが、瞬間怖気が走る。

 刎ね飛ばされた魔族の頭部が、笑ったように見えたのだ。


「ウェイン!?」


 首を刎ね飛ばされた状態の魔族が、ウェインに対して渾身の力を込めて右腕を振るう。

 まさか、首を刎ねてすら命を断てないというのか。

 おそらく魔族の方もノーダメージとは行かないだろうが、肉を切らせて骨を断つを実行したのだ。そうでもしなければウェインに攻撃を届かせられないと判断したのだろう。

 だがフェリアの心配とは裏腹に、ウェインの対応力は更にその上を行った。


 魔族の腕が空を切る。気が付けばウェインは魔族の背後に回り込んでおり、その剣で胸部を貫いていた。

 離れていたフェリアにすら、瞬間移動したようにしか見えなかった。


「バ……カ……ナ……」

「馬鹿はお前の方だ。あれだけ奈落とお前らについて知っているんだ、その生命の仕組みについても、知らないわけがないだろう。わざわざお前の策に乗ったのは、ただの余興だよ。お前が散々やってくれたことと、同じ様にな。」

「……」


 恐らくその攻撃が致命傷だったのだろう、もはや声すら発せず、崩れ消えてゆく魔族。

 後に残されたのは、おそらくウェインが貫いたのであろう、魔族の中にあったらしい二つに割れた水晶のような物質のみだった。


 ウェインは何も言葉を発しない、そしてフェリアたちも何と声をかけていいか分からない。

 先ほどとは打って変わって、重い沈黙が場を支配した。

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