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孤独の果て  作者: 伽藍堂
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17.圧倒的強者

「ほう!?なかなかいい腕だ!多少は遊び甲斐がありそうだな!」


愉快そうに言いながら、ウェインとの接近戦に付き合う魔族。その動きは、これまでの戦闘の相手とは別格。

 何より厄介なのは、単なるパワーとスピードに任せた動きではなく、技術に基づいた動きだということだ。その為に、通常の魔物と相対するのとは天と地の差がある。

 もっとも、技術そのものはそこまで高いというわけではないが、持っているパワーやスピードが桁外れだ。

 己の感覚を全開にし、何とか受け、しのぐ。正直言って、こちらから攻撃に転ずる余裕はあまり無い。むしろ、見かけ上の均衡を保つことすらギリギリだ。

 しかも、それですら奴にとっては全く本気ではない。


 今回ばかりは、仲間の準備に気を回して、攻撃機会を確保する余裕などない。攻防の隙をみて、皆に何とか当ててもらうしかない。

 そうして続けること数分、戦闘速度になかなか攻撃機会を見いだせなかったようだが、ようやく隙を捉えたのだろう。

 ケネスの魔法が放たれ、魔族に命中する軌道で飛んでいく。だがその魔法は、相手に届く前に霧散する。


「何っ!?」


 驚くようなケネスの声が上がるが構っていられない、即座に抑え込むために距離を詰める。

 その後は、同じような展開が何度か続く。どうも、皆は何が起こっているかを把握出来ていないようだ。


「クハハ!何だ何だ!この小僧がそれなりに腕が立つから残りはどの程度かと思いきや、ひよっこもいい所ではないか!その程度では遊びにすらならんぞ!」


 魔族から嘲るような言葉がかけられるが、全くもって反論の余地がない。何しろ、相手が用意した防御手段に、攻撃を届かせる事すら出来ないのだから。

 だが、それでも皆に乗り越えて貰うしかない。これを乗り越えられないようでは、そもそも戦闘が成立しない。


「私が攻撃に回るわ!エッダは補助をお願い!」


 フェリアが仲間にそう宣言する。おそらく、そうでもしなければ如何ともしがたいと判断したのだ。何が起こっているかを正確には把握できていないが、とにかく相手の防御力が高すぎる。

 自らの魔力を限界まで練り上げ、保有する魔法で、この状況で使えるうち最も威力の高い魔法を選択し構築する。

 補助を受けたことを確認し、後は攻撃の機会をうかがう。


ーそこ!


 ようやく見つけた隙に、全力で魔法を放つ。自分にとって、これ以上はないという程の会心の手ごたえ。

 だが……


「む?」


 放った魔法は、先ほどとまで違ってすぐには消えずに残っていた。

 しかし、それでも魔族に届く時には相当に威力を減じており、敢え無く四散してしまった。


「そんな……!」

「ふむ、多少はましな人間がもう一人はいたか。だが、残念ながらその程度では届かんな。」


 そういって、やおら距離を取る魔族。その意図がつかめずに、警戒を緩めずにいると。


「クク、小僧、貴様なら何が起こっているかくらい分かっているだろう。仲間に説明してやったらどうだ?」


 さも愉快そうにそう告げる魔族、なんとも趣味の悪いことである。だが、ウェインとしても有難い間ではあるので、その言葉に乗ることにする。


「……奴は別に特別な防御手段を取ったわけじゃない、ただ俺と接近戦をしていただけだ。厳密に言えば一応防御のための備えはしていたが、そこに届いていないから同じことだな。

フェリアの最後の魔法だけがかろうじて届いていたが、防御するまでもなく皮膚で弾いていただろう。」

「いや、そもそも何で私たちの魔法が届かないのよ!?おかしいでしょ!?」


 悲鳴のようなハリエットの問いかけに、その言葉が与える衝撃が分かっていても、答えを告げるしかない。事実は、動かせないからだ。


「それが奴らという存在なんだ。あまりにマナとの親和性が高く、圧倒的な量の魔力を常時保有しているために、生半可な魔法では届きすらしない。自然と纏っている濃密な魔力が天然の障壁となって、魔法による干渉を遮断するからな。

まずはこれを突破しなけりゃ、戦いのスタートラインにすら立てないんだ。」

「ククク、そういうことだ。常日頃からこちらに越境している有象無象ならともかく、我のような上級魔族ともなれば、この程度は当たり前だぞ?

それなりに楽しませてくれるかと思っていたら、まさか触れることすら出来ないレベルとはな。」


 上級魔族という言葉にピクリと反応しかけるが、結局何も言わず流すことにする。それを言い立てたところで、何が変わるわけでもない。


「うそ……うそよ……」


 説明された内容の衝撃に、うつろな声で否定するハリエット。認めたくないという気持ちはわかる。だが、それでも現実は変わらない。


「うそよ!」


 そう叫び再び魔法の準備に入る、おそらく自らが使える最高難度の魔法だろう、だが。


「たわけ」


 一言放たれた魔族の言葉に合わせるように、途中で魔法の構築が崩れ霧散する。


「い、今のは……何……?」


 震える声でエッダが問う。


「今のも大したことじゃない。奴が簡単な魔力操作で、まとっている魔力の一部をハリエットに伸ばしただけだ。それで、奴の支配下にある魔力が外乱要素となって、構築が崩れたんだ。」

「何なのよそれ、こんな滅茶苦茶なの、どうしようもないじゃない……」


 魔族はおそらくその実力の半分、いや下手をすれば1/3すら出していないかもしれない。何しろこれまでウェインとの近接戦闘をのぞけば、まともに攻撃も防御も行っていないのだから。

 それに反してこちらは全力だというのにこの有様だ。その差に絶望してしまうのも、致し方ないだろう。


「全く嘆かわしいな、己の力不足すらまともに認められないとは。結局、我との戦いの土俵に上がれるレベルなのは、その小僧のみか。」

「ウェ、ウェインは魔法については関係ないじゃない……」

「本当に愚かだな貴様は。その小僧が言っていたであろう、我は常に濃密な魔力を纏っていると。我と近接戦闘を行うということは、その濃密な魔力に常に晒され続けるということだ。

では、その小僧は自らを強化するための魔法を、それだけの相手の魔力の中でも活動を可能にする手段を、どうやって維持しているのであろうな?」


 その言葉にはじかれたようにウェインを見るフェリア以外の4人。恐らく、そのことについて説明を聞いてすぐに理解できたのは、フェリアだけだったのだろう。

 彼らは、フェリア程ではなくとも、これまでの探索でウェインの実力を感じてはいたはずだ。だがそれでも、近接職としての実力や、探索における経験などが秀でているとしか思っていなかっただろう。

 総合職の自分たちの方が、魔法に関しては実力は上だと。


 実際、その認識自体は一部は間違っていない。総合的に見れば、少なくとも学院の評価基準であれば、魔法の腕は彼らが上手なのも事実。

 ただ、ウェインは自身の特殊な体質が理由で、魔法に関する理論を膨大に身に付けなければならなかった。その知識と理解があるからこそ、自らに扱える魔法ならば、ほぼどんな環境でも構築・維持することが出来る。

 この点に関して言えば、はっきり言って王立魔法学院内では追随を許さないと思っている。むしろ高等部どころか、高位の探索者と比較してですら秀でている場合もある位なのだ。

 ただ、その点については特に評価の対象にならないし、実際に求められる状況も稀なので、学院内の成績には反映されないというだけである。

 しかし、フェリア以外の4人は自分たちが優位だと思っていた所ですら差を見せられてしまえば、残っていた僅かなプライドすら、崩れてしまうことだろう。

 全く、本当に悪趣味なことだ。わざわざ精神的にも嬲るために、戦闘を止めてまで解説させるのだから。


「あ……ああ……」


 そういってへたり込むハリエット、おそらく心が折れたのだろう。もう、立ち上がれまい。残りも似たようなものだろう。


「それでは、再開するか。仕方がない、残りはそこの小僧との戦闘を楽しむこととしよう。己らは、別に何をしていても構わんぞ?どうせ、我には何も届かないがな。」


 そう言って、ゆっくりこちらに歩み寄る魔族。ここらが、限界だろう。これ以上は、無理だ。


「フェリア、合図からきっかり60秒後に隔離結界を張ってくれ、持続時間は10分で。今の配置で全員が効果範囲に入るようにな。発動間際に、俺も効果範囲に入る」

「それで、どうするの?」

「俺に策がある。信じてくれ。」

「分かったわ。」


 返された、予想に反したしっかりした声音に、少し驚き思わずそちらを見ると、フェリアの目は死んではいなかった。どこまでもあがこうとする決意と、ウェインへの信頼が見える。

 本当に、予想の上を行く。ここまで絶望的な現実を突きつけられて、それでも心が折れていないとは。

 知らず知らずの内に笑みを浮かべ、魔族を振り返る。

 恐らく奴は、最初からこちらの実力などはおおよそ把握していただろう。少なくとも、自分からしたら遥か格下だということは、十分認識していたはずである。

 それが分かっていてこんなやり方をしたのは、単にこちらを時間をかけていたぶるため、要は遊びだったのだろう。

 だが、それが驕りでもあることに、果たして気付いているだろうか?最初からこちらを仕留めに来ていれば、切り札を切る余裕すら無かったかもしれないのに。


「行くぞ!」


 その声を合図とし、魔族との戦闘を再開する。

 相手の攻撃を躱しながら、今度はこちらからも積極的に攻撃を仕掛けていく。もっとも、攻撃に転じること自体が難しいし、それがたとえクリーンヒットしたとて有効打は望めないが。

 物理的な攻撃は相手の魔力には妨害されにくいが、この探索に許された武器程度では相手の肌を貫く事が難しいし、簡単な防御をされるだけでお手上げだ。

 武器に魔力を乗せる事で威力を高めることは出来るが、今度はそれが相手の魔力の妨害を受ける。ウェインの今の処理能力では、自らに必要な強化の補助魔法を維持するだけでも、かなりギリギリなのだ。

 ここに加えて武器の強化まで運用するのは難しいし、かといって仲間にかけてもらおうにも、相手の魔力の影響下でも維持出来るような強度は出まい。


50……49……48……


 相手の右腕の薙ぎ払いを躱しながら胴へ斬撃を放つがやはり傷はつけられない。そのことを相手も分かっているので、意にも介さず左の蹴りを放ってくる。

 それを相手の右側面に回り込むように躱しながら、背後を取り背中への突きを放とうとする。だが、それよりも速く相手が反転し裏拳を放って来たので、あきらめて後方に下がって回避。


36…35…34…


 相手との攻防の中で、正確に時間を刻みながら、フェリアの準備が進んでいることを確認する。他のメンバーも問題のない位置だ。

だが、そうやって意識を僅かにそらした事が良くなかったのだろう。今度は魔族の方から仕掛けられ、ひたすらにこちらが耐えしのぐ展開に持ち込まれる。


13…12…11…


 相手の攻撃が一度でも当たれば実質終わり、かといってこちらの攻撃は殆ど届かない。せいぜい、水滴が石を穿つ程度だろう。

 ただひたすらに綱渡りの攻防を続けても、得られる対価は僅かなもの。いずれ、どこかで均衡が崩れこちらが劣勢に追い込まれるのは、火を見るより明らかだ。


3!


 だからこそ、己の切り札を切る。だが、そのためには準備が必要なのだ。

 フェリアに伝えた60秒に残り3秒となった時点で、相手の攻撃を大きく躱し、更に仲間の方へ向かって地をける。

 そこで、ウェインが要求した60秒という時間に、ほぼ狂いなくフェリアの魔法が完成するであろう事を感じ取る。

 そして、隔離結界が発動する。


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