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孤独の果て  作者: 伽藍堂
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16.奈落より

「じゃあ、行くぞ。」


 扉に罠がないことを確かめたのち、その場所へ踏み込む。そこは非常に広い空間があり、その奥に自分たちが求める上への階層への階段らしきものが見える。そして、その前に存在する人影も。

 その姿は極めて人と近い。

 身長はおよそ2m程度あり体躯は一回り大きいといってよいが、それでもそこまで違うわけではない。衣服を纏っており多くが隠れているが、覗いている肌が人の肌と比べればやや硬質そうに見える点が一番大きな違いだろうか。


「ふむ、自ら入ってきたか。これまでずっと逃げ回っていたから、そろそろこちらから出向こうかと思っていた所だが。」


 そのかけられた声の内容からするに、やはり自分たちの行動は把握されていたようだ。そして、自分が予想していた事態のうち、最悪な部類に属するものが的中したことを知る。

 全く、世界は優しくないものである。


 基本的に、魔物の中でも高い知能を有する存在はいない訳ではない。実際に魔法を使う種もいる以上、人並みの知能を持つ魔物もいるだろうとはされている。

 しかしそれでも、人語を解するする魔物の存在は、現時点で確認されていない。だが、ウェインにはその存在に一つだけ心当たりがあった。

 もっともその相手は魔物ではなく魔族という種ではあるが。しかも、一般には全く知られていないはずである。


 自分たちがこのフロアに飛ばされるきっかけとなった罠が発生したこと自体が、おかしいとは思っていた。そして、その理由がこの目の前の相手なのだろう。

 ダンジョンに何らかの理由で場違いな強さを持つ存在が突如発生した場合、ダンジョンそのものの構造に影響を与えることがある。

 極めてまれな事象であり、ウェインも過去に一度だけしか遭遇したことは無いが。


「あれが……その敵?」


 ハリエットの言葉に含まれるのは、僅かな困惑と拍子抜けの気配。

 どうやらウェインの告げた内容やエッダの取り乱し方からして、とても恐ろしい物がいると覚悟していた所に、一見普通にも見える相手に戸惑っているらしい。

 確かにその体躯は自分たちより多少大きい程度だし、まとっている威圧感も大きなものではない。自分達と似た人型の姿も、それを後押ししているだろう。

 だがそれは、見かけと気配の偽装によるものに過ぎない。実際に、感知に優れているエッダとフェリアは、相当に顔色を悪くしている。


「クク、このフロアで生き延びているのだから、人間にしてはそれなりに手練れかと思いきや、この程度の偽装すら分からない者がいるとはな。誰かにおんぶに抱っこでここまで来たか?」

「何ですって?」

「落ち着け。あと、絶対俺より前に出るな。」


 相手の挑発にいいように乗せられそうなハリエットを制し、前へ出る。向こうのこれまでの行動からしてそうではないかと思っていたが、やはりこちらをいたぶる気満々なのだろう。

 奴からすればちょっとした遊び程度の感覚なのだろうが、巻き込まれる方は実にいい迷惑である。


「全く、何かとんでもないものが待っているとは思っていたが、まさかこれほどの相手が越境しているとはな。」

「ほう?もしや貴様、奈落の事を知っているのか?人間ながら博識なことだ。」


 愉快そうに返される言葉に、自分の予想が当たっていたことを確認する。十中八九間違いな無いとは思っていたが、奈落という言葉が出てきた以上確定だろう。


「ちょっと、勝手に納得してないで説明してよ!何者なの!」


 どうやら馬鹿にされている事に我を忘れているようだが、どうせすぐに思い知ることになる。

 相手がどれほどの存在なのかということが。


「こちらの定義で言えば魔族ってやつだ。ただし、一般に知られている存在よりも桁違いに格上のな。それこそ、こっちで一般に知られている最上位種ですら、奴からすりゃそこらにいる小動物レベルだ。」

「え?」


 その言葉に信じられないように相手を見るハリエット。ケネスとニコも同様の様子だ。


「結構結構、そうでなくては待っていた甲斐が無い。身の程知らずばかりでは、興覚めもいいところだ。」


 あくまで余裕を崩さず、愉快そうに話す魔族。その動きに細心の中を払いながら、対話を続ける。不意打ちをして来そうな様子はないが、警戒してし過ぎることはない。

 それ程に、強大な相手なのだから。


「さて、そろそろ始めるか。ここまで待たせてくれたのだ、簡単に壊れてくれるなよ?」

「来るぞ!対精神ショック備え!」


 その言葉を発した直後に、圧倒的なプレッシャーが押し寄せる。それは、まるで暴風が自分たちに向かって吹いたかと錯覚するほどの。


「「「「「「な!?!?!?」」」」」」


 おそらくウェインの言葉に反射的に抵抗の備えをしたのだろう、全員が無事に耐えたようだ。

 普通の人間ならば、備え無しに浴びてしまえば、気が狂いかねないほどのプレッシャーである。もっとも、この程度に耐えられないようでは前途多難もいいところだか。


「い、一体今、何をしたの……?」

「奴は特別なことは何もしちゃいない。気配の偽装を解いて、俺たちに戦意を向けただけだ。」

「何ですって……?」


 余りの衝撃と動揺に絶え絶えに、何とか言葉を絞りだしたハリエット対し、魔族が取った行動に端的に説明する。

 その言葉に、信じられないという顔をするハリエット、だが奴からしてみれば本当にその程度の事なのだ。それ程に、桁違いの相手ということだ。


「受け入れろ、事実は変わらんぞ。」


 そう言い残し、相手を抑えるべく接近する。

 そして、絶望的な戦いの幕が開く。

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