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孤独の果て  作者: 伽藍堂
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15.絶望の中で

 食事が終わって、ようやくそれぞれでぽつりぽつりと、会話が見られるようになった。

 まあ、心理的に乗り越えたとはとても言えず、何とか気を紛らわせている程度だが、それでも先ほどの沈み切った雰囲気よりは多少マシである。

 だがそんな中、ただ一人皆とは違う様子だったのがフェリアである。ウェインが観察するに、これからの戦いに慄いているというよりは、どこか思い詰めた様子だった。

 また、口を開こうとしては、結局何も言えないという様子もたびたび見受けられる。


「大丈夫か?」


 少し皆と離れた場所でフェリアに声をかける。これからの戦いを考えれば、とても平気ではいられないだろう。だがどうもそれだけではなく、何か違うことを考えていそうだと思ったのである。


「ごめんなさい。こんな時こそ、リーダーとしてしっかりしなければいけないとは、分かっているのだけど。」


 そう言って、弱弱しい笑みを浮かべるフェリアを見て、悩んでいたことはそれかと納得する。

 恐らく、本来自分がどう振る舞わなければならないか、リーダーとして何をしなければならないか、理解できてしまうのだろう。それなのに、それが出来ない自分の弱さに、嫌気がさしているといったところか。

 だが、それは無理もない。

 ウェインが現状でも平静を保てるのは、自分の体質と向き合う中で、そして鍛錬していく中で幾度となく死線を潜り抜けたからである。

 そのような経験が無いままこんな状況に放り込まれて、他者にまで気を配れというのはあまりに厳しい注文だろう。


「あまり気に病むな。こんな状況にいきなり放り込まれて、しかも限りなく厳しい戦いに挑もうというんだ。経験も無いのにそれで平気だったとしたら、そっちの方がむしろ危ない。危機意識も想像力も、全く足りないということだからな。

今は、とにかく自分に出来ることに集中すればいい。」


「……ありがとう、ウェイン。私たちが挑んだ探索カリキュラムは、あなたがいなければとても成功しなかったと思うわ。この階層に飛ばされてからも、私たちだけだったら無様に逃げ惑った挙句、すぐに壊滅していたはずよ。

これからの戦いに、一縷の望みをかけて挑もうと思えるのも、きっとウェインがいるからこそだと思う。」


 まるで、これが最期だと思っているかのような感謝の言葉。その言葉ににじむのは、恐怖と諦めだ。それは、恐らく他のメンバーよりも濃い。

 相手との実力差があまりに大きいとき、実はあまり実力や知識が無い者の方が楽観的になれたりする。その間にある隔たりを全く想像できないために、開き直り易いのだ。

 だがある程度実力があると、その隔たりを嫌でも理解してしまい、絶望に支配されてしまう。

 それがやり直しのきくことだったら、まだ開き直りようもある。

 しかし、それが命に関わるとなれば、たとえ頭では理解していたとしても、体や心が言うことを聞かないのだ。

 こればかりは、他者ではどうしようもない。ある程度手助け出来たとしても、最終的には自分で乗り越えるしかない。

 ならばせめてと、フェリアの頭にポンと手を置き、言葉をかける。


「心配するな、まだ道は残されている。どうしようもない時は、最後の切り札を切る。それでどうなるかまでは流石に保証できないが、何としてでも皆を生きて帰してやる。」


 その行動と言葉に、驚きに目を見開くフェリア。

 これで、少しでも恐れが晴れればいい。

 たとえそれがあまりに低い可能性だとしても、成し遂げようという気概で挑むのか、諦観に支配され挑むかでは全く違う。

 僅かな望みでも、あるいは望みが僅かだからこそ、死力を尽くして立ち向かわなければならないのだ。

 フェリアはここまで並々ならぬ才覚を見せてきた。それこそ、ウェインの想像を遥かに上回るレベルでだ。だからこそ、今回の戦いにおいても、きっと自分で自分の問題を解決できるはずだ。


 もうかける言葉はない。自分も戦いに向け準備をするために、踵を返す。

 ウェインとしては、出来れば切り札を切りたくはない。それがどんな事態を引き起こすかは、容易に想像がつくからだ。

 だが、恐らくそれ無くしては乗り切れないだろう事も、覚悟している。

 そういう意味では、フェリアがいたことは僥倖だった。彼女がいなければ、それすら切れない可能性もあったのだから。

 そして、全員が生還する可能性も格段に上がっている。


 何があろうと、それこそ自分の生死すらも脇に置き、最善を尽くす。それは、ウェインがこれまで生きてきた中で、常に要求され続けたことだ。

 それが出来ない様では、とてもここまでたどり着けなかった。

 だからこそ、今回もまた同じだ。決して諦めずに、最後まで最善を尽くす。

 そう誓う。


ー--


ーあ……


 フェリアはふいに頭に置かれたウェインの手に吃驚し、離れていく手に名残惜しさを感じる。

 そして、かけてもらった言葉に、先ほどまで鬱積していた後ろ向きな気持ちが、嘘のように軽くなっていることに気付く。


 何故だろう。

 何故ウェインの言葉は、行動は、ここまで自分を揺さぶるのだろう。

 最初彼が褒めてくれたことが、びっくりするくらいに嬉しかった。

 唐突に巻き込まれた緊急事態に、表面上は冷静を装いながらも、内心パニックになりそうな自分の恐れを止める勇気をくれた。

 自己嫌悪と諦観に苛まれていた自分が、もう一度前を向く力をくれた。


ー必ず生きて帰してやる


 最後にかけられた言葉を思い出すと、じんわりと胸に温かさが広がる。

 彼が言う切り札が何なのか、それが本当に事態を打開できる物なのかは分からない。だけど、信じてみよう、と思う。


 今回の探索で、ウェインは一度だって自分たちに嘘は言わなかったし、出来ないことをやれるとも言わなかった。

 ならば、きっと何かあるのだ。そして、それを軽々には使えない理由も。けれど、そのことに対しては特に思うところはない。


 そもそもを言えば、ウェインがいたからこそここまで命をつなげたのだ。自分たちは、あまりに多くを彼に頼る形で、何とかここまでやって来れたに過ぎない。

 ならば、彼の言葉を、判断を信じなければ嘘だ。


 何より、最初の探索でも、この高難易度の階層に飛ばされてからも、ウェインは常に冷静に的確な対処を積み重ねている。

 ただただ自分にできる最善を尽くすことが、最高の結果につながるのだと行動で示すように。

 言葉で言うのは容易い、だがどんな状況でもそれを貫くというのは、思っているよりも遥かに難しい。


 例えばこのエリアに飛ばされた時の自分たちがそうだ。

 冷静に状況を判断し、仲間の安否を確認し、自分達に出来る対応を話し合う。それが重要だったはずだが、ウェイン以外は唐突な展開に混乱し、ろくな行動は殆ど出来ていなかった。

 もし彼がいなければ、混乱したままとんでもない悪手に走っていた可能性が高い。


 今から立ち向かおうとする困難に対しても、挑むしかないなら、リーダーたる自分が皆を鼓舞しなければならなかったはずだ。

 けれど、ウェインに告げられたあまりの壁の高さに、どれだけ口を開こうとしても、勇気を持たなければと言い聞かせても、結局は何も出来なかった。

 それでもウェインは冷静で、自分を、皆を気遣いながら、可能な限り最高のパフォーマンスで困難に挑もうとしている。

 いかなる状況でも揺るぎ無い芯を持ち、最善を尽くし続ける彼は、一体これまでどれほどの研鑽を重ねてきたのだろう。

 自分たちと同い年のウェインが何故それだけの域に達しているかはまだ分からないが、それは決して生易しいものではなかったはずだ。


 今回の探索で、ウェインから本当にたくさんの事を学んだ。けれど自分が、いや自分達が本当に見習うべきは、きっとこの姿だ。

 戦闘での連携、仲間同士の融和、冷静な判断、困難に挑む決断、それらはあくまで枝分かれした末端の一つ。

 その中心には、どんな時でも自分に出来る最善を尽くす、という姿勢あるはずだ。


 ならば、今からでも、きっと遅くはない。

 何があろうとウェインを信じること、そして最後まで諦めないこと。それが恐らく、今の自分に出来る最善のはずだ。


 彼がくれた大切な物を胸に、最後まであがくことを決意する。

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