14.正体不明
本日二話目です。
転移の罠により飛ばされたフロアの探索を初めて3日、一つの部屋を除いて全てのフロアを探索し終えたが、脱出できそうな経路は見当たらなかった。
ウェインの予想したA級に近いB級の難易度はやはり外れておらず、魔物も罠も相当に苦戦した。特にA級に匹敵する厄介さを持つ魔物との戦闘が一度あり、この時は戦闘中に一度パーティーが崩れかけた。
しかしそれでも何とか致命傷までは至らず、辛くも撃破出来ている。メンバーの何人かは小さくない負傷を負った事もあったが、辛うじてフェリアの治癒魔法で回復可能な範囲であった。
蓄積した疲労は流石にどうしようもないが、全体的に見れば、まだ何とか大きな被害は出さずに乗り切れていると言える。また、勝利を積み重ね探索を続けられていることで、それぞれに少しずつ自信がついてきてもいるようだ。
因みに、この未発見領域はボスがいないタイプのようで、それらしき部屋も魔物もいなかった。
下りの経路が無かったことからおそらく、この階層は未発見領域の最下層、そして最後に残った一つのフロアに上の階層への経路があるはずだ。
だがしかしそこが最大の問題であり、何かと理由を付け探索を後回しにしたフロアであり、正体不明の何かがずっと居座っている場所だった。少なくともウェインの感知力は、それは極めて危険な何かで相対するべきではないと告げていた。
たとえこの領域がダンジョンボスの存在するタイプだったとしても、ここまでの相手にはならない。だが、それでもそこに行かなければ、待っているのは餓死しかない。ダンジョン内で食料を調達するといっても限度があるからだ。
救助を待つのも期待できない。基本的に、ダンジョン内で何が起ころうとも自己責任である。それが了承できない人間はそもそも探索者を目指せないし、ダンジョンの探索が許されることもない。
今回は学院のカリキュラムであるために一応捜索隊は出るだろうが、発見されるまで捜索を続けるとは思えない。
何より、これまで数十年間という期間で未発見だったこの領域を、この機会に発見できる可能性は極めて低いだろう。
「マッピングした地図を確認する限り、残りの部屋は一つだけだな。多分、そこに上の階層への経路があるはずだ。」
「だっ、ダメッ!!!」
ウェインがそう告げると、エッダから悲鳴のような声が上がる。驚いてエッダを見るウェイン以外の4人。
探索中も多分気付いているだろう、というフシがあったがやはりだったらしい。
「……気付いていたか。探索の時の様子からして、おそらくそうなんじゃないか、とは思っていたが。」
「ウェイン君も、分かっているなら何でそこに行こうとするの!?無理だよ、こんなの!」
「そうは言っても、そこを突破しなければ待っているのは緩慢な死だ。ならば、万に一つしか可能性が無くとも、挑むしかない。そして挑むならば、最も良いコンディションで挑んだ方が確率は上がる。
待つことは、可能性を狭めることにしかならない。」
「無理だよぉ……勝てないよぉ……」
泣き声すら混じり取り乱すエッダをみて、唖然としている他の4人。その中から代表として、フェリアから質問が上がる。
「……そんなに危険な相手がいるの?」
「どうにも向こうが自分の気配を小さく見せるよう偽装している感があって、正確には捉えられないがな。だが、それでもこのダンジョンに巣食う魔物よりも桁違いに危険だろう。
下手をすれば、ここの階層全ての魔物が束になってかかっても、苦も無く薙ぎ払えるくらいに、な。通常このレベルの魔物がいるなら、間違いなく難易度S級に認定されるレベルだ。」
ウェインのその言葉に、これまでの探索で自信を付けてきたはずのメンバーの顔が、一斉に強張る。
難易度S級とは、あまりにも危険すぎて探索が原則禁止されているダンジョン、あるいは領域の事である。これは難易度がA級より高い、という意味だけではない。その難易度の測定が、現時点では不能という意味なのだ。
探索者の中で最高レベルのパーティーですら手に余るレベルとなると、迂闊に手を出すことは許されない。それだけの優秀な人材を失うことは、人類にとって痛手どころの話ではないからだ。
探索するにしても特別な許可が要り、その許可もめったなことで下りる事はない。
「ほ、本当に、そこに行くしか、道は、ないの……?」
震える声で問いかけるフェリア。平静を保とうとしているが、それでも恐怖を抑えきれないのだろう。
「ああ、この階層はもう探索しつくした。そこ以外に、道はない。」
「だ、だけどよ、もしかしたらそいつが何かの拍子で移動する可能性も……」
「期待できないな。俺が感知する限り、その気配は俺たちがこのダンジョンに飛ばされて少し後から、基本ずっと同じ場所に居座り続けている。全く動かないということはないが、そいつが動いた隙を見てそちらに移動しようとすると、その動きに合わせて戻っているから、望みは薄い。
この事から推察されることは2つ。高い知能を持ち本能で動くようなタイプの魔物ではないということ、そしておそらく相手もこちらに気付いているだろうということだ。
俺たちが脱出を考えるならば、そこを通らざるを得ないという事を分かってるんだろう。」
ウェインの言葉に他の皆の顔が更に強張る。
そう、それだけ強大な相手が、実に不自然に1か所を封鎖するように行動しているのだ。ただの偶然とみるよりも、向こうもこちらに気付いた上での行動だと考えた方がいいだろう。
「で、でも、勝手にどっかに移動する可能性もゼロじゃないでしょ?」
「もちろんゼロではないが、今度は別の危険の確率が上がる。その気配の主が動き始めたとして、もしそれがこちらを襲撃するためだったら?」
ハリエットの質問に対する返答に、全員が沈黙する。それだけの知能や思考回路を持った相手かは分からないが、分からないからこそ最悪のケースを想定すべきなのだ。
ただでさえ遥か格上の相手なのに、向こう側から襲撃され主導権を握られるとなれば、あっという間にパーティーは瓦解するだろう。
「ひとまず突入するフロアの近くまで行って、休憩だな。そこで、身体の活動を活性化させる料理を作る。気休め程度だが、何もしないよりかはましだろう。」
その後は全員が無言だった。これまでの戦いも厳しいものばかりだったが、それとは比較にならない、勝利することが絶望的な戦いに挑もうというのだ、無理もない。
ウェインとしても、今出来ることはほぼ何もない。ある程度は励ますことは出来ても、最終的にはそれぞれが自分で整理をつけるしかないだろう。
泣いても喚いても、そこにある現実は変わらない。時間の猶予もさしてない。
果たして皆がこの事態を受け入れる事が出来、前向きに挑めるかどうかすら分からない。だがそれでも、やはり自分たちに出来ることは、自分たちがやれる中で最善を尽くす事だけなのだ。
たとえそれが、望む結果を引き寄せる確率が極めて小さなものであったのだとしても。




