12.初の高難度戦闘
始まった戦闘を目にして、フェリア以外の4人は呆然としていた。
ファイアリザードの巨体と、その大きさからは想像できない素早い動きにも驚いているだろうが、何よりそんな相手を前にして何の問題も無く役割を果たすウェインが信じられないのだろう。
「呆けないで!戦闘はもう始まっているし、ウェインの負担もこれまでとは訳が違うのよ!」
そんな仲間を叱咤する。
フェリアとしてはウェインは全幅の信頼をおける実力だと思っているが、それでも余計な負担をかけ続けるわけにはいかない。何より、ダメージを与えるのは自分たちの役割だ、チームとして機能しなければ打ち倒すことは叶わないだろう。
フェリアの声にようやく魔法を準備しだす4人。だが慌てているのか、戦闘の基本を全くおろそかにしている。
「全員固まらないで散開!特に相手のブレスの車線に入らないよう、常に注意を払いなさい!」
この様子だと、おそらく全員が落ち着くまでは時間がかかるだろう、それまではフェリアがあえて細かいことまで指示する必要がある。
だが、全員が普段通りに動けるようになったとて、それだけではこの戦闘に勝利するには到底足りない。むしろそこがスタート地点で、それから連携力を高め、何が有効かを探り出していかなければならない。
仲間の様子を常に把握しながら、フェリア自身も攻撃のための魔法を準備するが、ウェインから注意があった通り、先ほどまでのダンジョンと比べれば非常にやりにくい。
今までは気にもしていなかった自らの構築の粗や揺らぎが、そのまま増幅され失敗しそうになる。まず最初はそこまで難度の高くない魔法を選択して正解だった。
やがて、ファイアリザードがウェインから距離を離した瞬間、ウェインから警告が飛ぶ。
「ブレス注意!」
射線上にやや近めのメンバーがいたが、その警告もあって特に問題なくブレスをしのぐ。そして、その隙に合わせられるタイミングで魔法が完成したので、即座に相手に放つ。
他のメンバーの魔法も何発かは合わせて着弾したが、ダメージが無いとは言わないものの、大して効いてなさそうだ。
ーこれでは威力が足りないか。
その様子を見ながら、状況を冷静に把握するように努める。
ダメージがあったことは朗報、だがこの程度のダメージではどれほど時間がかかるか分かったものではない。おそらく攻撃手段の最低ラインが分かっただけで、もっと有効な手段を探るのは必須である。
だがしかし、今の状態で無暗に難度の高い魔法を選択すれば、構築そのものを失敗しかねない。焦る気持ちを抑え、自分にできる範囲で試し、慣れていかなければならないだろう。
「嘘でしょ!?殆ど効いてないじゃない!?」
悲鳴のような声をあげるハリエット、だがこの程度で泣き言を言っていられない。
「予想されてたことよ!何が有効か他にも色々と試しなさい!」
本当の事を言えば、フェリアだってやれるかどうかなんて分からない。
だが、やるしかないのだ。だからこそ、あえて自信があるようにふるまい、皆が落ち着くよう声をかけ続ける。
恐らく今の自分たちの実力では、無策に攻撃するだけで打ち倒せるほどのダメージを積み重ねることは困難だ。先ほど放った攻撃の結果から見て、そう判断できる。
であるならば、自分たちが相手を打ち倒せるような方法を、この戦闘で模索していくしかない。
そして、その戦術を軸にしたスタイルを、最低1つは構築したい。1つの型さえ作れれば、あとは応用させていけば良いからだ。
もしそれで通用しない相手が出てきた時は代替案が必要になるだろうが、今の自分たちはそこまで考えられる実力ではない。
まずは目の前のことを、一つ一つ解決していくしかないだろう。
先の探索で、ウェインの動きに触発され、色々と試していて本当に良かったと思う。
自分だってまだまだ連携についてはようやく理解し始めた程度だが、それでもすでに踏み出しているというのは本当に大きい。
もし今の状況に至るまで何も考えていなければ、他の皆と同じように動揺の中、訳も分からずただ闇雲に動いていただけだっただろう。
リーダーたる自分がそんな状況に陥れば、ウェインの実力をもってしても、パーティーが瓦解した可能性は決して低くない。
仲間の状況を把握し、自らの動きをまずは全体の調整役にし、最適解を模索する。
現状で最も高い威力を叩き出せるのはフェリア、次いでケネス、ニコと続く。だが、フェリアが攻撃に専念したとて、そこまで効果的なダメージにはなりそうもない。
1戦だけに全力で臨み、消耗度外視でいいならば何とかなりそうだが、それでは探索が続けられない。
他のメンバーは現状では攻撃することと、ブレスの射線上に入らないことでいっぱいいっぱいのようだ。むしろ、それですら処理能力を超え、迂闊な動きをしそうなメンバーに警告を出さなければならない回数も少なくない。
こういった事態を予測したからこそウェインも、自分に連携の指揮を取るように言ったのだろう。遥かに格上との戦闘を、否が応にもこなさければならない。しかも、負ければ死を意味するという状況にたたき込まれだのだ。
それはウェインからの、パーティー全体が成長しなければどうあがいても生還は叶わない、自分だけの力では限界があるという、無言のメッセージだと受け止めた。
そして、自惚れでなければ、それをこなせるはずだという、自分への期待も含まれていると。
正直に言えば、自分だって怖い。けれど仲間への責任と、ウェインからの期待が足の震えを止める。必死で戦況を把握し、仲間の特性を把握し、調整し、戦術を再構築する。
そうやって戦う中で、徐々に有効な戦術を探り出してゆく。
まず、フェリアは基本的に完全なサポート役に回る。補助魔法の充実度が、明らかにフェリアの方が高かったからだ。
攻撃については、全員がバラバラに攻撃しても当て難いし、当たったとてダメージが低い。故に、メインアタッカーとサポートの役をはっきりさせ、1回あたりのダメージを重視するやり方に切り替える。
ケネスとニコは威力こそ高いものの、構築や狙いの精度があまり高く無い。
だが狙いの精度は高くとも、ハリエットやエッダの威力では、フェリアがサポートしても与えられるダメージがあまり高くならない。
まずは、威力の確保が最優先、そうでなければそもそも戦闘が前に進まない。その為、メインアタッカーはケネスとニコとし、ハリエットとエッダはメインアタッカーの攻撃を当てるための牽制を主に立ち回る。
フェリアは火力の補助を最優先とし、戦況の把握と指揮を行いながら、臨機応変に動くことにする。
ある程度思考を単純化するために、ケネスとハリエットをペア、ニコとエッダをペアにする。まだ、全員がそれぞれの動きに応じて、臨機応変に対応できるレベルでは無いからだ。
それならばサポートするペアを事前に決め、それぞれで専念させた方が間違いが少ない。試行錯誤の末、戦闘を開始してすでに30分以上が経ったころ、ようやくにして基本の型が出来上がった。
この体制を取ってから、目に見えて相手へのダメージが積みあがっていく。だが、ここまで来たからこそ、やはりウェインの実力に感嘆せずにはいられない。
何せ、これだけ強力な魔物相手を長時間にわたり全く危なげなく抑え込み、しっかりと攻撃機会も作り出しているのだから。
また、ダメージが蓄積してゆく中で起こる相手の動きの変化にも、余裕をもって対処している。だからこそ自分たちは攻撃に専念することが出来ているし、試行錯誤する余裕もあったのだ。もし彼がいなければ、あっという間に全滅していただろう。
その幸運に感謝するとともに、何としても生還しなければと思う。
自分たちはまだいい、多少なりとも前途有望な生徒が不幸にも命を落とした、というだけの事だ。だが、ウェインほどの実力者を失うということは、人類にとっての損失といっても過言ではないのだから。




