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孤独の果て  作者: 伽藍堂
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9. 見張りの一幕

 見張りの順番はケネスとエッダが1巡目、ウェインとフェリアが2巡目、ハリエットとニコが3巡目という順番となった。

 全員で話し合うとき、戦力バランスを考えて、という理由でウェインとフェリアがペアとなったとき、何とも言えない気持ちになった。因みにそれはもちろん、フェリアの実力が高いのは他の4人も認めているので、そのフェリアと総合職ではないウェインが組んだ方が良いという意味だ。

 他の総合職4人にそこまで悪気は無かっただろうが、ウェインの実力はその特性の違いを考慮したとしても、明らかに自分たちより遥かに高い。ただでさえ相手を下に見るような発言はパーティーで探索する上でまずいのに、それが相手を正確に捉えられていないならばなおさらである。

 ウェインが別に実力を隠しているなんてことは全くなく、目の前でしっかりと役割を全うしているのだから、余計に救いがない。

 だがしかし、ウェインがさして気にしている様子もないし、自分が指摘することが逆に迷惑をかけてしまうと元も子もないと躊躇し、結局何も言い出せなかった。

 やはり、自分は明らかに経験不足なのだろう。

 しっかりとしたリーダーならば、大きな不和を起こさずにきちんと指摘し、窘めることが出来たはずである。

 本当に今回の探索は、自分の至らなさに気付かされることが多い。

 もしウェインが様々な面でフォローしていなければ、どこかでパーティーが瓦解していた可能性も低くくなかっただろう。


 そして、ウェインとペアでの見張りが決まったとき、内心「やった!」と思ってしまったことも、実は何も言えなかった理由の一つだ。

 ウェインは、自分たちと比して明らかに突出したレベルにある。

 そしてフェリアは、実力を身に着けている人間を、「才能の差」で片づけることが非常に嫌いである。何故ならばフェリアが観察する限り、周囲が天才ともてはやしている人間こそ、誰よりも努力し研鑽を摘んでいるということが大半だったからだ。

 それに基づけば、ウェインは自分たちと比べて遥かに多くの努力を積み重ねた事になるが、なぜ自分達と同じ年齢でそこまで至ったのかが、とても気になっていた。

 また、今回の探索についても、相当な部分で迷惑をかけ、フォローしてもらっている。

と言うかむしろ自分よりも、よっぽどリーダーらしい行動をしている。

 そういった諸々を、お礼もかねて二人で話してみたいと思っていたのである。


「ウェイン、今日は本当にありがとう。」

「……何のことだ?」


 そう切り出すと、怪訝な顔をして聞き返される。

 どうやら、あまりに礼を言いたい事が多くて、逆に主語が飛んでしまったようだ。


「そうね、探索開始前のひと悶着を収めてくれたこともそうだし、その二人の食糧問題を解決したこともそう。

戦闘なんて、最初から最後までウェインに頼りっぱなしの状態だったし。

本来だったら初日でパーティーが瓦解して、撤退しなければならないほどにミスを重ねていただろう私たちを、全部フォローしてもらったから。しかも、他の4人はそのことに全くと言っていいほど気が付いていないし。

だからせめて私くらいは、お礼を言わなければとね」

「あー、まあ、たまたま俺の方が経験値が高くて、フォローできたって話だからな。

自分の出来ることをやっただけだから、あまり気にしなくていいぞ?」

「そういう訳には行かないわよ。自分たちの何が要因で上手くいっているのかきちんと把握しておかないと、よりウェインに負担を押し付けることになってしまうわ。それに、自分が成長していくためにも、今起きていることを正確に捉えることは必須だし。

ただ、今の状況だと、私から言っても他の4人が納得するかがね……」


「そりゃそうだろうな、表面上は上手くいっている訳だし。

まあ、自分で気付くまでそのままでいいんじゃないか?どうせ今回気付かなかったとしても、早々に突きつけられるだろうしな。

一応、自分で気付くよう誘導するくらいはやってもいいとは思うが。」

「そうね、明日からは私も、何か出来ないか考えてみるわ。」


 こういう事をなあなあで済ませてしまうと、助けられている側が更に怠ける方向に、助けている側に更に負担が増える方向に向かってしまう。

 だから、頼りないとはいえリーダーである自分はしっかりと何が起こっているかを把握し、修正するために動かなければならない。

 そんなことを考えていると。


「それに戦闘に関しては、最後まで俺に頼りっぱなし、ってのも少し違うだろう。」

「え?」

「リーダーだって、途中から色々と自分の動きを改善してただろ?あれだけでこっちも随分やりやすくなった。改善スピードもかなり速かったしな。」


 そうウェインに言葉をかけられ、虚を突かれて一瞬黙り込む。


「いえ、それこそウェインと比べたら、全然大したことじゃないわよ。」


 少し微笑みながら平静を装って返すも、実際は内心を表に出さないようにするので精一杯だった。


ー嬉しい。


 おそらくウェインからしてみれば、そんなに大したことを言ったつもりではないのだろう。ただ、戦闘中に感じたことを、何気なく伝えただけに見える。


ーどうしよう、凄く嬉しい。


 けれど、ウェインに褒められた、という事実が想像以上に心を揺さぶっていた。それこそ、飛び跳ねたいくらいに嬉しい、と感じている自分に自分でも驚く。

 どうにか取り繕ってはいるが、少しでも気を緩めれば思いっきりにやけてまいそうだ。


 そして、人に褒められるのがこんなに嬉しかったのって、いつ以来かなとふと考える。思い返す限り、純粋に喜べていたのは、まだ幼い頃が最後だった気がする。

 現状では、魔法で頭角を表すということは、それがそのまま人類の期待を背負う、ということに直結する。少なくとも魔法に関する成績で上位の者は、人類の生存圏の守護や拡大の為に、種類は違えど魔物との戦いの最前線に配置されることが殆どだ。

 それくらいに人類は追い込まれていて余裕がなく、どうしても個人の意思よりも全体の利益が優先されてしまいがちになるのだ。

 フェリアもそれは早い段階で気付いていたし、仕方の無い事だとも思っていた。また、それがそこまで嫌な訳でも無かったし、最近ではむしろ皆の役に立ちたい、ということを自分でも意識するようになっている。

 けれど、誰かに何かを褒められても、その裏にある本心を感じずにはいられなかったのだろう。

 だから、最近ではどれだけ褒められても、あまり自分の感情は動かなくなっていた。

 少しの謙遜と更に努力する姿勢を見せることをテンプレートに、そつなく対応する事が当たり前になっていた気がする。


 それなのに、僅か数回会っただけ、実際に行動を共にした日はまだ1日だけのウェインに、褒められることがこんなに嬉しい。

 恐らく、全く裏を感じない言葉だったから、尊敬の念を抱くほどに高いレベルにいる人だったから、ということが理由だとは思うが、それだけでは無い気もする。

 だがそれ以上は、自分のことなのに何故かは分からなかった。


 そして、明日からの取り組みに対して一層気合が入った現金な自分に、少しだけ呆れる。でもまあ、それが結果としていい方向に働くならばいいか、と思うことにする。

 むしろ、張り切りすぎて空回りしたり、オーバーペースになることに気を付けなくてはいけないかもしれないが。


 その後も二人で見張りを続けながら、様々な話をした。

 戦闘に関することだったり、探索時の戦闘以外の面での注意点だったり、パーティーのまとめ方やモチベーションの保ち方など、本当に様々にだ。

 そして、そのどれについてもウェインの凄さを改めて感じずにはいられなかった。何と言うか、当たり前だと感じていることのレベルが非常に高いのだ。

 一つ一つにフォーカスすれば、おそらくフェリアたちでもやってやれないことはないだろう。けれどそれらを無意識に実行できるレベルで、あらゆる面で身に付けていることが、結果としてとても大きな差となっている。

 もちろん難しい技術、高度な業、そういった事を身に着けることは大切かもしれないが、この当たり前のレベルを上げるということも極めて大切なのだと思わされる。

 それと同時に、何故ウェインがここまでの領域に達しているのか、一層気になってしまう。

 しかし、その点について尋ねるのは流石に憚られた。


 自分とウェインの間にある隔たりはあまりにも大きいが、フェリア自身そこまでぬるい努力をしてきたつもりはない。

 むしろ、様々な事を犠牲にしたり、諦めたりして積み重ねて来た事も多く、同年代ならば自分と同等以上の取り組みを出来ている者が圧倒的に少数派なのだ。

 それをもってしてもここまでの差があるということは、おそらくウェインのこれまでの歩みは想像を絶するほど過酷なものだったのではないか。

 血がにじむどころか、それこそ命を削るようなレベルの取り組みだったと言われても、驚かない。

 そして、それほどまでに過酷な努力を、何の理由もなく出来るとはいくら何でも思えない。自分達のように、人類の役に立ちたいというような漠然とした思いでは、明らかに不足しているだろう。

 恐らくは、そうせざるを得ない、切実な理由があったはずだ。

 だが、そんなことをまだ知り合って間もない自分が聞くのは、いくら何でも不躾に過ぎる。まずはこうやって知り合うことが出来て、同じパーティーを組めたことだけでも幸運な事なのだ。

 それに、互いの縁がこのカリキュラムが終われば切れてしまうわけでもないし、今後も交流を続けていけば、いずれ聞くことの出来る機会もあるだろう。

 だから今は、そこまで焦ることはない。

 そう思っていた。

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