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孤独の果て  作者: 伽藍堂
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0.プロローグ

 世界が原因不明の大きな変貌を遂げて約50年、人類の版図は極めて限られた地域に押し込まれていた。

 魔物の凶暴化、強力化が進み、さらにその数を一気に増やしたことで、以前のような安穏とした環境は終わりを告げた。

 また、新種の魔物も確認され(後に魔族と命名)、有効な手だてを打ち出すまでに被害が大きく拡大した。何とか強固な壁塁を築き、さらに魔物除けの結界を展開し、精強な軍隊を擁してようやく存続するのが関の山であった。

 また、当然そんな環境を築けるのは大都市に限り、小規模な町や村などは放棄せざるを得なかった。カーディス大陸上にはかつて10以上の国家が存在したが、現在存在する国はノートシス王国、ティラルス王国、クラート共和国の3国のみだ。

 その3国も、王都を除けば5~6程度の都市を維持するのが関の山である。また、都市間の行き来も大幅に制限され、人の流れも物流も相当に縮小された。

 そんな状況であれば人口を維持する事など叶うはずもなく、その数は最盛期の3分の1にまで落ち込んでいる。


 人類もただ手をこまねいていたわけではない。しかし、人類の進歩よりも周囲の環境の変化が速すぎた。

 強力化した魔物は並の人間では到底歯が立たず、どれほど訓練を受けようと魔法の補助なしには渡り合えないほどに差があった。当初は普通の1体の魔物相手に騎士1個小隊で当たってようやく対処できる、というのが当たり前なレベルで、強力な魔物に至ってはそもそも対処できる人間が僅かしかおらず、ましてや討伐できる者など探す方が難しいほどだったのだ。

 新たに出現した魔族に至ってはその脅威度も、生態も何もかもが不明な中で、手探りで対抗策を構築するしかなかった。

 最初の5年は全体的に見ればほとんどが蹂躙されるがままであり、次の5年も絶望的な状況をひたすらに綱渡りの状況が続いた。その10年で滅亡した国家も多く、そこまでいかなくとも自国だけではどうしようもなく、大国と合併した国家も少なくなかった。

 それでも何とか踏みとどまり、以前よりも大幅に縮小としたとはいえ国家や都市を維持できる体制を整えただけでも、奇跡に近かった。

 ここに至るまでに20年。僅かそれだけで、1000年以上かけて築いた人類の版図を1/3程度にまで減少させた。


 さて、そんな状況に追い込まれたからこそ、人類に残された道は多くなかった。

 一つは、何とか整えた体制を維持し、変わり果てた世界の中で息を潜めながら生きてゆく方法。しかし、この道はいずれ袋小路に追い込まれる可能性が極めて高かった。

 何しろその体制を整えるまでに多くの優秀な人材が犠牲になり、今後の危機対処においては明らかに不足があった。それに、いくら最低限の体制は整えたとは言え、流通が滞れば流石に国家の維持などできない。

 しかし、何を運ぶにしても強力な護衛を組み込んだ護送団を編成しなければままならず、そこまでしても犠牲を0にするのは至難の業。

 いずれ対応すらままならなくなり、やがてはさらなる人口減少を招き、人類そのものが淘汰される可能性が高かった。


 だからこそ人類が選択したのは反攻作戦、そしてその為の人材を育成する事。

 まず、かつてもその有用性から重要な地位を占めていた魔法が、反攻作戦を担う人材においてはあらゆる職業に必須の技術として位置づけされた。

 特に生存圏外においては常に魔物からの襲撃に備えなければならなかったために、魔物との戦闘をこなせる人材の育成が最優先となった。

 その中では、たとえ近接戦闘を担う職種であっても魔法の補助が必須になる以上、自ら使用出来また使いこなさなければもはや一人前とは認識されない。

 全ての教育機関で魔法の修得は義務となり、その才を伸ばせたものはさらに高度な教育が用意される。

 そこでは、平等性や個人の意思などは殆ど顧みられなかったと言ってよい。なぜならば、反攻作戦に必要な人材を育て上げることが最優先課題であり、才のあるものを多く集めなければならなかったからである。


 また、その過程でいくつかの組織は大幅な変貌を遂げている。その中でも大きなものは2つ。

 まず、かつて冒険者と呼ばれた者たち、そして冒険者を統括する冒険者協会について。

 元々は国の機関では対応しにくい小回りの利く民間の何でも屋、という側面が強かった。中には極めて優れた実力を持ったものも多数いたが、一方でそこらのごろつきとさして変わらないような人間がいた事も事実。

 しかしこのような状況になれば、人々の依頼などをこなして組織を維持することが難しくなった。

 生存圏外での活動が極めて危険度が高く、また制限されてしまうようになったために、依頼そのものが成り立たなくなったからだ。ただ街の外に出るというだけで極めて高い実力が要され、更に常に命の危険が付きまとう事となる。

 ゆえに依頼料を低額になどできるはずがなく、かと言って街中で済む依頼など、態々金を払ってまで頼むような案件は少ない。

 つまりは、需要と供給が全く合致しなくなり、運営そのものが成り立たなくなったのである。

 だが、これまであった運営のノウハウや、一部の高レベルの冒険者達の実力は、今後において必須とも言えるもの。

 そういった訳で、国の支援を受けて新たな組織として生まれ変わる。

 その名前を、探索者及び探索者協会という。

 主な活動は、人類の生存圏外において必要とされる事柄全般である。

 その中でも重要な物は3つで、人類の未踏領域の調査、都市間移動者の護衛、そして生存圏外に存在する物資の調達である。

 それをこなせるための人材育成制度が整えられ、資格自体が国家資格となった。


 もう一つはこれまで存在した騎士団を含む国家に仕える騎士という身分の消滅と騎士団という組織の解体。そして、それらは魔物に対する国防軍として作り直された。

 かつては名誉などが重んじられ、どちらかと言えば国家と国家の争いに備えた教育が為されていたが、こうなってしまっては余りに状況が違う。

 まず、対人に考案された戦闘技術、戦術、戦略などは殆ど役に立たない物となった。また、それまでの武具、兵器などでも有効な物は極めて少なくなった。

 だからこそ、その存在の意義を根本から変えざるを得なかったのだ。

 全ては魔物に対する有効性を基準に考えられ、何においても生存圏そのものを守ることを優先する組織へと変更された。

 そして、これまであった王家の存続や貴族の守護などは、考えたところでさして意味はなくなった。

 尊い血であろうが何だろうが、魔物に敗れてしまえば滅亡する以外にないからだ。例えそこだけを生かしたところで、生存圏が蹂躙されてしまえば再建の道など存在しない。


 未だ王国制や貴族制も存在しているが、その存在はあくまで統治者として責任を負うもの、そして魔物との戦いの最前線に立つもの、という意味合いが強くなっている。

 多少の例外はあるものの、基本的にとられているのは徹底した実力主義であり、各貴族家には大きな責任が課されている。

 制度を一から作り直していてはとても対応できなかったために既存の仕組みを流用したものの、課される役割や要求される能力が全て変わったという事だ。

 貴族家として認定された家は世襲が認められているし、多くの特権も有するが、その特権は全て義務を履行するからこそ許される。

 魔物との戦いにおいて人類の先頭に立つ、そのことを担えない貴族家はどれだけ伝統のある家だろうと、存続を許されない。そうでもしなければ、人類全体が生き延びることが叶わなくなったのだ。


 このような変化を経て、ようやく人類は魔物の脅威に対抗する手段を構築できた。

 もちろん、それらが最初からうまくいったわけではなく、むしろ当初は先行きを疑問視する人間も多かった。それでも、あきらめずに愚直に進み続けて30年余、近年ではようやくその成果が実りつつある。

 人流や物流が安定し始め、生存圏からある程度離れた地域への調査団の派遣なども叶いつつある。

 また、かつては存在しなかった鉱石や木材、植物等様々な素材が発見され、これらもまた魔物に対抗する手段、あるいは人々の生活を支える物資として活用されている。

 しかし、それでも事態が好転したとは到底言えない状況であり、いうなればようやく最初の一歩を踏み出すことが叶ったという程度であった。


 ノートシス王立魔法学院、その名の通りノートシス国が直接運営する魔法に関する育成の専門機関であり、名実ともに最高峰の教育機関でもある。

 入学すること自体が極めて狭き門である上、卒業するには更に難しいカリキュラムの数々。

 故にここを卒業する事は最高の肩書であるとともに、実力を身に着けるという意味でも最良の選択となる。

 そこでは、国中から最高レベルの人材の卵が集い、互いに切磋琢磨しあいながら競い合う。


 これは、そんな学院に通う一人の少年と、一人の少女の物語。


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