わたくし、雨女ですけど幸せになれるのかしら?
「雨女っ! 雨女、さっさと出て来い!」
わたくしを呼んでいるのは、名ばかりの婚約者様ことノザール様。爵位はわたくしのお母様の一つ上である子爵家の子息様です。そして興奮したようにノザール様が呼ぶ“雨女”こと、わたくしアミリア。女男爵の娘です。
「お呼びでしょうか、ノザール様」
このような場所で大声を張り上げて愚かな方ですね。此処は王城ですのよ? 現在、国王陛下主催の夜会の直前です。始まってないからそれで良いわけでは有りませんのに。
尤も、ノザール様に常識が有るなんて思っていませんわ。
常識が有れば、わたくしという婚約者が居るのに関わらず、エスコートもしなければ他の女性の腰を引き寄せてわたくしを呼び出すなど、あり得ませんもの。貴族の常識をこの方は学んでいらっしゃらないのでしょうね。でも、この婚約は王命なのですから、わたくしが否を唱えられません。それは、わたくしを“雨女”呼ばわりして嫌うノザール様も同じ事です。王命を違える事は出来ません。国王陛下が婚約を解消して良い、とお認め下さらない限り。
そう、思っていたのですが。
「ふん、現れたな、雨女! ホラ見ろ、貴様がこの夜会に参加しているから外は見事な土砂降りだ! 全く、なんだってこんな女が夜会に出るんだ! お前は不参加になっておくべきだったんだよ!」
夜会に参加しているのは、国王陛下直々にご自分の腹心の執事様を我が家に向けられたからに他なりませんが……。まぁこの方にそれを話しても「そんな嘘をつくな!」 と怒鳴られて聞く耳を持たないでしょうけれどね。
そんな説明もする気は有りません。だってこの方、国王陛下が望んだ婚約なのに、わたくしに出会った時から毛嫌いしていらっしゃるのですから。まぁ仕方ないと言えば仕方ないのですが。だってわたくしは、雨女、ですから。
「確かに、仰る通りよね。雨女が夜会に参加するから、雨が止まないわ!」
ノザール様の発言をすかさず肯定している、ノザール様の隣の令嬢。しかし、周囲はこの状況を目にして観察しながらも、ノザール様の発言もこの令嬢の発言も咎めない。つまり皆様、お二人のお言葉に間違いは無いと思っていらっしゃるわけです。だから夜会になど出たく無かったのですけど。国王陛下直々に招待状を作成して下さった招待状を受け取らないわけにも、受け取っても不参加というわけにもいかないのです。
「さすが、俺のシエル。その通りだよ! まぁ仕方ない。雨女っ! 貴様との婚約は破棄だ! 毎回会う度にこんな大雨が漏れなくついてくるお前などと結婚など出来るか! 湿気ばかりで鬱陶しい日々しか送れん!」
この方……本当にご理解していたのかしら? この婚約は国王陛下直々のお声掛かりなのよ。何故、婚約が破棄出来ると思ったのかしら……。
「あの、婚約破棄と仰っておりますが」
「そうだ! 貴様の意見など無いっ! 受け入れろ!」
わたくしが話しているのを遮ってこう仰っておりますが……受け入れろと言われて受け入れられるのなら、そのように致しますけれど……。
「確認をさせて下さい。ノザール様のお父様はご存知ですの?」
「後で話す! 父上は、お前のような雨女が嫁に来るのは嫌だ、とボヤいたいたから後からでも認めて下さる!」
あら、ノザール様のお父様はそのような事を思っていらしたのね。この婚約が国王陛下直々のお声掛かりだとご存知のはずなのに。さて、如何しましょうか。
「いくら、ノザール様の事が好きだからって愛されていないんだから、さっさと受け入れて泣きながら此処から出て行きなさいよ! 折角の夜会がこんな大雨で台無しだわ!」
考えていたら、シエル様と仰るノザール様の恋人様が苛々したように仰って来ます。ですが、勝手に帰る訳にはいかないのです。
「そうよ、そうよ! 雨女ごときが国王陛下主催の夜会に来るなんて、厚かましいのよ!」
あら。また別の令嬢が口を挟んで来ました。そして、その隣の男性は令嬢のお父様なのかしら。年齢的にそんな感じの方が横で頷いています。
「全くだ! 折角の夜会が大雨なんて、庭のライトアップがダメになっただろう!」
更にまた別の方が……こちらは子息みたいですわね。先程の令嬢もこちらの子息もおそらく下位貴族出身ですわね。わたくし……いえ、我が一族の事をきちんと勉強している上位貴族の方々がこのような事を仰るわけが有りませんから。本来なら、下位貴族の方々も勉強するべき事なんですけど、下位貴族は上位貴族の方々と違い、国政に関わらず、領地経営でいっぱいいっぱいなのか、国の歴史を意外と勉強していらっしゃらないのですよね。
学園でも歴史の講義は人気が無くて、毎年毎年数える程度しか受講する生徒がおられないみたいですし。
だからこそ、このような発言をするのは下位貴族の方々だと理解してしまうのですが。それにしても、国王陛下主催だと理解していて、まだ国王陛下がお姿を見せていらっしゃらないとしても、このように大声を上げて場を乱している事がそもそも不敬だと何故気付かないのでしょうね。
しかも、囁き声で会話を楽しんでいた皆様が黙られて、注目も集めている事に気付いておられないみたい。そして、此方を窺っているのは、上位貴族の方々が多いですわ。
本当に、如何しましょうかね。
「黙っていないで、いい加減に認めろ! 受け入れろ! いくらお前が俺を好きでも、俺の愛はこのシエルの元に有る!」
わたくしは、溜め息をつきたくなりました。先ず誤解だけは解きましょう。
「わたくしは、ノザール様の事を好きでも愛してもおりません。親愛の情も友情も恋情も抱いてません」
「あらあら強がっちゃって。ノザール様の愛が私に有るからって、そんな強がりは言わなくても良いのよ?」
クスクス笑うシエル様ですが、話が通じない方は面倒くさいので、無視しましょう。
「何を勘違いされていらっしゃるのか存じ上げませんが、ノザール様との婚約は、王命ですわ。国王陛下直々のお声掛かりの婚約ですの。勝手に破棄など出来るわけが有りませんわ」
「嘘をつくな! なんで貴様との婚約が国王陛下直々のお声掛かりなんだ! よりによって国王陛下の名前を出すなど無礼にも程が有るぞ!」
えっ。ご存知無かったんですの⁉︎
「何を騒いでいる」
興奮して声を益々荒げるノザール様の声がさすがに耳に不快を呼んだのか、公爵の爵位を戴いた王弟殿下が近付いて参りました。公爵ですので、王族としてのご登場ではなく、臣下として先にこの場にいらっしゃったわけですね。夜会では騎士爵・準男爵・男爵・子爵・伯爵・侯爵・辺境伯・公爵の順で名前が呼ばれて入場致します。そして、公爵位の王弟殿下は、この茶番劇が始まる少し前に名を呼ばれて入場されていました。わたくしは、両親の代理ですので、男爵位代理で呼ばれて1人で入場しています。それはともかく。
「これは王弟殿下、いえ、ハザル公爵様、お騒がせしてしまい申し訳なく思います」
大物の登場にわたくしは直ぐに上位貴様方のお目を汚さない礼を取ります。わたくしに釣られたようにノザール様と恋人様と周囲の人々も頭を下げました。
「良い。上げなさい」
声を掛けられ頭を上げると、40歳をいくつか超えているというのに、30歳そこそこに見える程若々しいハザル公爵様が、王族特有の銀の髪を鬱陶しそうに掻き上げながら、淡い紫の目をわたくしを含めて周囲に向けます。王族を表す銀の髪は、昔からの伝承により肩から先に伸ばす必要が有るそうです。肩より短くすると災いが起こると言われているので、どれだけ鬱陶しくとも切る事が出来ないのだとか。
「それで? 何を騒いでいた」
視線を一周させた後、わたくしに目をひたりと見据えてお尋ねになります。わたくしは、ああ……この茶番劇をさっさと終わらせておくべきでした……と後悔しながらも、先程までの経緯を全て包み隠さず申し上げました。
ノザール様、気付いていらっしゃるかしら。ノザール様とシエル様は子爵家の方。横から口を出した令嬢様は男爵家の令嬢。その隣の男性がお父様なら、彼は男爵。そしてもう1人口を挟んで来た子息は下位の伯爵子息。
ハザル公爵様がお尋ねするのなら、爵位順なので、男爵様・その次が伯爵位の子息様・それからノザール様で、その隣のシエル様。男爵の代理で有るわたくしで最後が男爵令嬢様という順で尋ねるべき事なのに、ハザル公爵様が、直接わたくしに尋ねられた事。
チラリと横目で見れば、男爵様はさすがに可笑しい事に気付いて顔が青褪めていらっしゃるけれど、ノザール様含め、皆さんお気づきになられていませんわね。だから、歴史をきちんと勉強するべきなんですが。
「成る程。愚かだな」
ハザル公爵様は全てを聞いて一言バッサリと切った後で、わたくしから視線を外して、先ずはノザール様とその隣のシエル様をひたりと見据えられました。お二人共、ハザル公爵様に見据えられて身震いしておりますね。
「こんな愚か者と婚約させて済まなかったな、アミリア嬢よ。兄上には私から注進しておく」
「勿体なきお言葉」
「さて、ノザールとやら、シエルとやら。兄である国王陛下には私から伝えておいてやる。お前達の結婚を認める、とな」
お二人が歓喜の表情を浮かべて「ありがとうございます」 と頭を下げられます。
「礼には及ばん。平民になる2人が死別以外に別れる事が無いよう、祝福だ」
あ……平民確定ですか……。シエル様のご実家はお兄様が継がれるし、ノザール様の家に嫁に行く手筈だったのかしら? 継ぐ家が無いのに? あら、そう考えれば平民確定は可笑しくないですわね。
そういえば、先程ノザール様は可笑しな事を仰っていましたわね。ノザール様のお父様は何を勘違いされていたのか知りませんが、次男であるノザール様は我が家に婿入り予定でしたの。何故わたくしが嫁に行くと思われていたのかしら。わたくしは跡取り娘でしてよ?
「へ、平民⁉︎」
「ノザールとやらとシエルとやらの家はそれぞれ跡取りが居るんだ。平民確定だろう」
ハザル公爵様、下位貴族の家族構成まで脳内に入っていらっしゃるなんて、素晴らしい頭脳ですわ。そしてお二人は何故、あっ……という表情になったのかしら。普通、理解している事ですわよね?
「それと、陛下に後程裁可頂くがお認めになって下さると思うから、2人の王都追放も奏上しておくから安心して出て行くが良い」
「「えっ⁉︎ 王都追放⁉︎」」
仲良しですこと。綺麗なハーモニーですわ。綺麗と言えば、この場のシャンデリアの輝きを受けてハザル公爵様の髪が益々美しいですわ。いつもご自慢しているノザール様の金髪が霞んでしまう程に。ノザール様の金髪は、長年使用されているようなくすんだ金貨のような髪色なんですけれど、まぁわたくしの髪色と比べたら確かに輝いていますわね。
ついでに隣のシエル様の髪は金と白の間のような薄めの金髪で、それは確かに美しいとは思いますが、ハザル公爵様の銀の髪と比べたら……お手入れの差なのか、あまり綺麗には思えませんね。
尤も彼等からすれば、雨雲を引き寄せそうな暗く重たい感じのグレーの髪のわたくしの方が、美しくないのでしょうけれど。後、多分ですが、夜というより闇を思わせるこの黒い目もノザール様はお気に召さなかったのでしょうね。ちなみに、ノザール様の目の色は日陰の芝生みたいな濃い緑色ですね。シエル様はお花畑の脳味噌が目に現れたようなピンクな目の色。あら、お花畑に失礼なことを考えてしまったわ。お花畑は訪れる人の心を和ませるけれど、脳味噌がお花畑な人は周囲の人の心を引っ掻き回しますもの。全く違うものですわね。
あら、わたくしが容姿観察をボンヤリとしている間に、王都追放にお二人が抗議していましたわ。
「何故、私達が王都追放に……っ」
ノザール様、必死ですわね。
「寧ろ、その程度で許される事を幸いと思え」
「許される……?」
「当たり前だろう。国王陛下直々のお声掛かりの婚約をお前ごときが破棄などと言いおった。陛下に対する謀反だと思われてそこの娘共々処刑されても可笑しくない。アミリア嬢が何も言わないから、不問に処す事にしたんだ。兄上のお耳にも入っていないし、な。国王陛下の耳に入り、アミリア嬢に嘆願されれば、即刻処刑だぞ」
「えっ、は? ……この雨女との婚約が国王陛下のお声掛かり?」
「無礼な! アミリア嬢に対して何たる言い様だ! これだから下位貴族は……。我が国の歴史など学ばなくても良い、とでも思い勉強して来なかったのだろう。していたならば、このような愚かなことを仕出かすわけが無いのだからな!」
ノザール様は理解していらっしゃらないみたいだけど、ハザル公爵様のお怒りを買われた事は理解していらっしゃるようですね。そして此処までハザル公爵様がお怒りの様子を見れば、先程わたくしにアレコレ仰っていた男爵令嬢様や伯爵子息様も、何だか分が悪い事に気付かれたご様子。顔色が蒼白ですわ。当然、ノザール様とシエル様も蒼白で今にも倒れてしまいそうですね。
「兄上に知られる前に、粛々と受け入れるんだな」
それで話は終いです。ハザル公爵様が手を上げて護衛騎士を呼んでノザール様とシエル様を連れて行くよう指示を出しています。その後ハザル公爵様が他の者はどうする? とばかりにこちらを見ましたので、首を振ってお咎め無しにしてもらう事に致します。
「下位貴族とはいえ、あまりに物知らずは許されない。今回は大目に見てやるから歴史を学ぶんだな」
ハザル公爵様に冷たく言われて、わたくしにアレコレ仰っていた方々は項垂れて引き下がられました。その後、国王陛下・王妃殿下・王太子殿下・王太子妃殿下・第二王子殿下と婚約者様・第三王子殿下と婚約者様がお目見えになられました。……このタイミングを見るに、騒動はとうにご存知でも、ハザル公爵様が間に入った事により、国王陛下はお任せになられたのでしょうね。
何事も無かったかのように、開会宣言。そして此度の夜会の目的であるハザル公爵様のご子息様の婚約者選びの件をお話されています。成る程、ハザル公爵子息様の婚約者選びでしたか。ご年齢はわたくしより3歳年上の21歳の跡取りのご長男様。ご次男様はわたくしと同い年。更にわたくしの2歳下にご三男様がおられますよね。こちらお二人の婿入り先もお見つけする感じでしょうか。
大変ですわねぇ……。
あ、いや、わたくしも他人事では有りませんでした。
男爵家とはいえ、お婿さんを探さねばなりません。わたくし、跡取り娘なのですから。一応、婚約者がおりましたから、その感覚で他人事でしたわー。
どうしましょう。国王陛下お声掛かりの婚約が相手方有責で破棄(ハザル公爵様が、わたくしにそう仰っていましたからね)になりましたが、謝らないといけないでしょうか。……いえ、考えてみれば、謝る必要は有りませんね。
「結局、ノザール様とは思い合うどころか、距離も縮まらなかったですものね……」
はっ。うっかり口から出ていました。不味い! まだハザル公爵様がお隣にいらっしゃるのでしたわ! どうしましょう! お耳に入ったかしら!
恐る恐るハザル公爵様をチラリと見ましたら、どうやらバッチリ聞かれていたご様子で、憐みの視線を受けてしまいました……
ーーああ、お母様、お父様、アミリアはやらかしました。お許し下さいませ……。淑女としてはしたない、とお母様に怒られそう。
黙っていれば解らない。
なんて事は有りません。ノザール様の件は報告義務が有りますからね……。
やらかしも報告せねばならないでしょう。
「兄上には、今回の件を口実に、アミリア嬢よ婚約に口出ししないよう、話しておくから」
「え、あの、ハザル公爵様」
「大丈夫。今回の件は、兄上の失敗だからね」
周囲に聞かれないようにそっとわたくしの耳元に囁くハザル公爵様。申し訳ないです、と思いながらも、其処はお願いしておこう、と頷きました。陛下の開会宣言が滞りなく終わり、ハザル公爵様は奥方とご子息様方の元へお戻りに。奥方様と公爵様は確か政略結婚ながら、公爵様がかなり奥方様を大切にされていらっしゃるのですよね。
さて。ひょんな事から婚約者が居なくなったわたくしですが、居てもファーストダンスを踊った事は有りません。あまり社交界に出て来ないのも有りますが、あの元婚約者様がわたくしの事をお嫌いでしたから、エスコートもファーストダンスも無かったのです。まぁわたくしも踊れるとは思えないので良かったのですけどね。そんなわけで、現在壁の花真っしぐらです。観察する分には楽しいので構いません。
あちらのご令嬢は昔懐かしいベルラインのドレスですね。確か数十年前くらいに流行したとか。あちらはAラインのドレスです。ええと。わたくしの記憶が間違いなければ、令嬢方って流行のドレスを着る事が多く無かったでしたっけ? 現在は昔懐かしいドレスが流行しているのでしょうか?
わたくしはお母様が着ていらしたAラインのドレスを着てますけど。Aラインドレスって流行なのかしら? お母様はシンプルさを好んでいらっしゃいましたが、わたくしはリメイクで胸元と裾にレースを付けいます。少し色褪せていますが、全体的なのでレースも色褪せたレースを探して、それを付ける事によって逆に新しく見えます。……多分。オレンジ色のドレスに黄色いレースで少し目が楽しいと思うんですよね。
いやでも、王妃殿下も王太子妃殿下もマーメイドラインのドレスですね。王族ってある意味ファッションリーダーですから、王妃殿下も王太子妃殿下も着ているマーメイドラインのドレスが流行なんじゃないんでしょうか。ハザル公爵夫人もあちらの公爵夫人もマーメイドラインですが、向こうの侯爵夫人やあちらの公爵令嬢はベルラインですね。……流行は追わなくなった?
こんなに様々な型のドレスの夜会って数少ない参加した夜会の記憶を辿っても無いのですが……。でも、なんていうか、皆が皆同じ型のドレスを着るより、今の方がよっぽども目には楽しいですね。とはいえ、上位貴族の方々は最高級のドレスを着るとか、家宝並みの装飾品を付けるとか、そういった事で財力も見せないと、それはそれで拙いですから大変ですよね。
上位貴族の方々は、お茶を飲む時と食事を摂る時と読書の時と庭に出る時……等々の場面毎でドレスを着替えるとは耳にしています。最初に聞いた時は、「は? そんな事で着替えるの? 勿体ないし、面倒くさい」 なんて思っていましたが、教育を受けて気付きました。そうする事で財力がある事を他者に教えているのです。つまり、それだけこの家は安泰ですよっていうアピール。散財は以ての外ながらある程度は必要。そう思うと、つくづく下位貴族で良かった……なんてわたくしは思うのです。
財力がある。力は衰えていない。そのアピールは、詰まるところ、国力の強さにも通じます。臣下が力の衰えが無い事をアピールしていて、王家がそれを余裕で見ている。それだけで国力が安定していると思わせる。これがうっかり王家が焦りでもしたら、国力の無さを露見させているようなもので、上位貴族の力強さアピールが無意味になりかねない。上には上の苦労が有るんですね。
そんな事を考えながらも、チラリチラリと横目で確認しつつ、少しずつ少しずつわたくしは移動します。急ぐと、はしたないので急いでないように見せつつ。そして時に知人に挨拶し、お母様の代理として当主の方とも挨拶をしながら。わたくしは其処に辿り着きました!
イヤッター! 肉! ローストビーフ! 生ハムで作られた花のサラダ! 此処は天国に違いないっ!
わたくしは、大好きな肉料理の前に居ます。令嬢ははしたない事は出来ない、と肉料理の前に集る事はしませんが、わたくしは普通のお嬢様達とは違います。他の令嬢方が見向きもしない、この肉料理に舌鼓を打つために! わたくしはこの夜会に来たと言っても過言ではない!
あの元婚約者様は基本、わたくしを放置でしたからね。元婚約者様と離れた時点で肉料理を堪能していました。そして今日も堪能するつもりです! 肉は正義!!!
さて、と……
周囲をキョロキョロなんてしません。それじゃ悪いことをしているみたいですからね。逆に挙動不審で目立ちます。そしてわたくしははしたない事と言われても、肉料理を堪能することは止めません。カトラリーとディッシュを手にして音がしたならサササッといった感じで手前のローストビーフをフォークで掬います。音はさせませんよ? 音がするのはマナー違反ですからね。瞬く間にディッシュに山積みのローストビーフの出来上がりです。
「相変わらず、美しい山を築き上げますね」
ん?
横から顔見知りの王城の給仕さんが声を掛けてきていました。
「ありがとうございます。だって、綺麗に盛り付けなくては、ローストビーフに失礼ですからね!」
「ははは。料理長に話しておきます! そうだ! 姫様、他国の食文化でしゃぶしゃぶという肉料理が有りまして。次の定例会にお出しします、と料理長から」
「しゃぶしゃぶ? どんな食べ物なんです?」
「豚肉を薄く切ってお湯に潜らせて火を通したら、タレに付けて食べるそうです」
「美味しそう! タレっていうのは?」
「ソースですね。しゃぶしゃぶに合うタレっていうのが有るみたいで、詳しくは定例会の日に実際に食べて下さいよ」
「そうするわ! ありがとう! 料理長にも伝えておいて! 次の定例会が楽しみですって」
「伝えておきます! そういえば姫様」
「ん?」
「あ、ローストビーフがもう口の中に入っていましたね……すみません、邪魔して。ちょっと料理長から聞いて気になったんですけど、姫様のお母様は甘い物好きだったって本当ですか?」
給仕との会話の合間にローストビーフを頬張っていたわたくしは、その質問にコクリと頷いてからローストビーフを大まかに咀嚼して飲み込んで口を開いた。
「本当よ。お母様は甘い物好きだったの。お父様は、お母様がホールケーキを1人で制覇していた姿に惚れ惚れして婚約を申し込んだそうよ」
「はぁ……親子なのに、極端ですねぇ……好みが」
「好みは、ね。でも食べる事の熱意は同じよ」
「ホールケーキを1人で制覇は、確かに親子を感じさせますね……。じゃあ姫様、ローストビーフを堪能していって下さいね!」
「ありがとう!」
わたくしの肉好きは、王家の皆様がご存知だし、当然ハザル公爵家の皆様もご存知だ。そんなわけで、此方に近寄って来る雲の上のお方達を目の端で捉えてもわたくしは手も口も止める気は有りません。
「相変わらずの良い食べっぷりだ」
ちょうどわたくしがローストビーフを空にした所で、ハザル公爵様のご次男・ご三男のお二方が声を掛けてきました。カーテシーも出来ないので頭を下げるだけです。そんな無礼もわたくしならば、と許して頂いてます。
「お褒めの言葉をありがとうございます」
「うん、どういたしまして。それにしても今日も凄い雨だね。年々強くなっている?」
ちなみに、今お声をかけて来たのは、ご次男様であられる、リート様。隣のご三男様のお名は、ワット様。ご長男のお名は、ヤード様。ご次男のリート様は3兄弟の中で最もハザル公爵様に似ていらっしゃり、中性的な顔立ちに長身痩躯。ヤード様とワット様は国王陛下に似た体躯で、リート様程は背丈は無いけれどガッシリとした横幅が有る。後ろから見るとヤード様とワット様の区別が付きにくい。
「そう、ですね……。良いことなのか悪いことなのか」
「良いことでしょう? だって、それは雨乞いの神子様のお力を確かに持っている証になるんだもの」
ワット様が純粋無垢な目を向けて来ますが、そういうものですか? 尚、この子犬のような目に騙された者の末路を知っているわたくしですが、まぁそれでもこの目にはたじろぎます。この3兄弟は見た目と中身のギャップが半端無いのです。全員、腹黒……
「なんか失礼なことを考えているよね、アミリア?」
「ええ、考えていますよ、リート様。そして敬称は付けて下さい、と何度お願いすれば良いのです?」
「私達とアミリアの仲じゃないか」
リート様に呼び捨てはやめて欲しい、と言えば、そんなことを言う。仲という程のものじゃない。
「確かにわたくしは、この身に流るる血が故に、王族の皆様とは小さな頃から交流をさせて頂いておりますが、仲と言う程のものは無いか、と」
「幼馴染みだろう?」
「年に数回の定例会の時に会うだけの仲は、幼馴染みとは言わないか、と」
リート様が顔を歪めるけれど、事実しか申し上げておりません。
「じゃあ、私達とアミリア嬢の関係って何?」
黙ってしまわれたリート様に代わり、ワット様が尋ねて参りますね。
「腐れ縁……?」
改めて尋ねられると何とも言えない。敢えて言葉にするのなら……と思ったら、スルリとそんな言葉が出てきた。瞬間、リート様とワット様が微妙な表情を見せます。まぁ王弟殿下のご子息……つまり臣下になられているとはいえ、王族ですものね。王族相手に腐れ縁って……とは思いますよね。
でも、幼馴染みというほど常に共に居るわけでは無いですし。友人と言えるほど、親しくもないですし。他に適当な言葉……あ。
「知人ですね!」
腐れ縁より余程良い言葉なのに、2人は更に微妙な顔です。何故ですか。幼馴染みでも友人でも無いのですから知人が1番当て嵌まる言葉だと思うのですが。
「アミリアは、本当に俺たちの境遇に興味ないよな」
リート様の言葉にわたくしは首を捻りました。ハザル公爵子息という境遇の何に興味を持つのでしょう?
「令嬢方は、跡取り娘で無ければ、ヤード兄上の婚約者狙い。跡取り娘ならば、僕かリート兄上の婿入り狙いだからさ」
「ああ……そういう」
確かに、遠巻きにリート様とワット様を見ている令嬢方がいらっしゃいますね。婿入り狙いですか。ハンターのような目付きですけどね。わたくしと話しているから近寄っては来ませんけど。……ん?
「もしや、わたくしを盾にお使いで?」
わたくしがハッとしてお二方を見れば、バレた? という表情で笑ってます。やっぱりそうですか……。わたくしと話すことで近寄っては来ませんものね、令嬢方……。盾にするのはやめて頂きたいものです。
「じゃあ、わたくし肉料理を堪能するので、御令嬢方と逢瀬を楽しんで下さいませ」
「俺とワットを見捨てるのか⁉︎」
「お二方より肉料理が優先です! まぁそれと、先程からヤード様の視線が向けられているので。お二方だけ逃れてズルイって目ですねー。わたくしが助けに行くと、お二方は囲まれますよね? ヤード様を仮に助けに行った結果、この肉料理の前で御令嬢方に囲まれたら、どうなるか分かりますよね?」
「アミリアが定例会放棄して定例会当日に料理長のところで肉料理を堪能する……」
リート様が、過去にわたくしが定例会をすっぽかした事実を思い出され、苦い顔になりました。ちなみに、国王陛下とハザル公爵様もご出席される定例会をすっぽかしても、わたくしは怒られません。その原因を作った第三王子殿下が叱られました。
すっぽかした原因?
今回と同じくまだ婚約者が決まってなかった第三王子殿下のための夜会で、第三王子殿下がわたくしに声を掛けて来て、そこから色々あって令嬢方に取り囲まれたから、です。わたくしが堪能する予定だった肉料理が思う存分食べられなかったので、そのストレスで定例会をすっぽかして城の厨房で肉料理を堪能してました。
普通は、わたくしの首が胴体と離れる程の不敬ですが、わたくしは特例です。わたくしにストレスを与える方が不味いので、結果的に怒られたのは第三王子殿下でした。
「兄上を助けに行ってくるよ……」
「はい、さようならー」
リート様とワット様の目が暗くなりましたが、わたくしは笑顔で送り出しました。ヤード様だけでなく、ご自分達の婚約者探しなのに、何故リート様とワット様は他人事だったのでしょうね。
まぁわたくしには関係ないので、どうでもいいですけど。
さて、次は生ハムの花サラダです! ベビーリーフだのオニオンだのを見ながらも、生ハムで出来た花をディッシュに乗せます。出来る事ならば、この飾られたサラダの大皿毎抱え込んで食べたいのですが……さすがにそれをお母様に知られたら、淑女教育のお浚いと称して叱られまくる事でしょう。尤も、現状淑女とは程遠い有り様ですが、この程度はお母様も許容範囲です。
「アミリア嬢」
生ハム花サラダを消し去ったわたくしに、ヤード様が現れました。……さらば、わたくしのローストビーフ……。リート様とワット様だけでしたら令嬢方も突撃して来ないですが、ヤード様と3人がわたくしの元に来たら突撃して来るでしょう、3年前の第三王子殿下の時のように。定例会で憂さ晴らしに肉料理、ですかね……。次の定例会、いつでしたっけ……
「ヤード様、お久しゅうございます」
「目がローストビーフから離れてないよ。ごめんね、直ぐに済むから。国王陛下からの伝言だ。次の定例会では、君の婚約問題について、話し合う、と」
済まなそうな顔だったヤード様が、それでも国王陛下の伝言をわたくしに伝える時には、威厳が有りました。さすがにわたくしも陛下の伝言を「分かりましたー」 と聞き入れるわけにはいかない。頭を下げて、ディッシュとカトラリーをテーブルにおいて深々と恭順致しました。
ヤード様はそれだけだったらしく、直ぐに離れてリート様とワット様を連れてわたくしの元から離れます。わたくしは、次の定例会では寧ろ堪能出来ない事が理解出来たので、肉料理を堪能することにしました。わたくしの夜会での楽しみは、コレくらいですから。
***
女男爵であるお母様と婿入りしたお父様に、夜会での婚約破棄騒動とその日の夜会について余す事なく報告し、きっちり淑女らしさが全く無いわたくしを叱ってから、婚約破棄についてはノザール様のご実家の子爵家とシエル様のご実家の子爵家に抗議して下さったお母様は、今度はわたくしが傷付いていないか心配して下さりました。……これっぽっちも傷付いていませんけども。
「まぁ、陛下の気遣いが完璧に裏目に出た婚約でしたわね……」
傷付いていないわたくしに、お母様はポツリと溢しました。不敬かもしれませんが、まぁ事実です。
そもそも。我が家は代々女性が当主を務めます。女児が産まれなかったら長男が継ぐのです。建国以来長年に渡り男爵の位を賜わり続けているのと共に、女性が爵位を継ぐのも続いています。長い歴史の中で女児が産まれなかった世代も有りましたが、2代続けて産まれない事もまた、無いのです。まぁ2代どころか6代続けて女児が産まれた頃も有ったようですけれども。
その理由は、元婚約者様がお嫌いだった、所謂“雨女”だからです。
雨女。
わたくしは、雨を降らせる体質……いえ、血を持っている、というべきでしょうか。
起源は300年以上前と言われていますが、500年以上前とか1000年以上前とか言われてもおりまして、実際のところは不明です。ただ、言えるのは。
わたくしの先祖が“雨乞いの神子”と呼ばれる神様から愛された人間だったそうです。伝承ではとても美しい容姿の女性だったとか。この国より遥か北の地にて暮らしていた雨乞いの神子。彼女はその名の通り、雨乞いが得意な方でした。旱が続き彼女にお願いすれば、どんな地でも雨を降らせる事が出来たそうです。
彼女は結婚し、子を生んで。その彼女の血を引いた何代も後の女性が200年程前に、この国を建国した初代国王陛下の末の弟君と出会い、この国に嫁入りした、とか。その末弟様と彼女が、まぁ我が家の初代のご先祖様ですね。男爵位を賜わり、以後我が家は代々男爵のままです。
これは、初代の国王陛下並びに末弟であり初代の婿だった王弟が、この力に権力を与えれば余計な混乱を招くだろう、という判断からで。代々の王家と我が家の歴代の当主とが話し合って決めたこと。以来守られている決まり事ですね。
それともう一つ。
代々我が家では、女性が産まれたら政略結婚はさせないことになっております。
そうです。国王陛下お声掛かりの、わたくしの婚約はこの政略結婚はさせない、という部分に引っかかっています。コレについては陛下の気持ちは解らなくも無かったのですが。まぁ結果はコレですからね……。
陛下も代々の伝承をご存知なのですが、なんて言うか……。まぁ口に出さないから不敬に当たらないと思いますけれど。陛下って、些か恋愛脳なんですよね……。厄介な事に。
ハザル公爵様は、王弟殿下ですからね、当然、我が家の事はご存知で。だからこそ陛下が王命で婚約を決めた事を物凄く反対なさったのです。でも陛下も頑なだったし(陛下は悪気が有ったわけじゃ無かったので、まぁ気持ちは解らなくもないですが)わたくしの母である女男爵が。
「まぁ、もしかしたら万が一にも……という事は有るかもしれませんから、良いんじゃないかしら」
と、許諾した所為です。……ええ、つまり、この婚約、陛下よりも母の方が悪いんですよね。だって、断れる存在だったのですから。当家は特殊な事情故に、男爵位ながら王命に逆らう事も出来るわけです。要するに、雨乞いの力のお陰というやつです。それなのに。断れるはずの母が認めたのですから、今回の件はどちらかと言えば、母が悪いんですよね。
「まぁ、それを物は試し、と受け入れて認めたお母様の方が更に悪いですけど」
わたくしがズバリ申し上げると、黙りになって恨めしげにわたくしを見るお母様。いや、本当にお母様が悪いですよね? わたくしは何も言わずに、にっこりと笑ったまま。お母様は分が悪いと悟ったのか「ごめんなさいね」 と聞き取れないくらいの声音で謝って来ました。
わたくしの容姿はお母様譲りですが(髪も目も顔立ちも全てお母様そっくりと、お父様に言われます)性格は正反対です。大雑把なくせに、何か有ると直ぐに悄気てクヨクヨするお母様。基本的には慎重ですが、何か有ると開き直って大胆になるわたくし。そんな母と娘を常に笑顔で見守るお父様の度量はとても大きく深いのです。
尚、お父様は元は侯爵家の三男でした。結構力有る侯爵家でしてねー。白金の髪を照れたように掻きながら当時を思い出すとエメラルド色の目を細めて嬉しそうに笑うお父様を見るのが好きで、幼い頃は良くお2人の恋愛譚を聞いてました。
まぁ要するに、三男とはいえ侯爵家のお父様。婿入り先も同じ侯爵家か伯爵家でお家の方は考えていらしたのに関わらず。当時デビューしたばかりの夜会でお母様を見染めて、強引に婿入りして来ました、そうな。最初はお母様は断りまくったそうですよ。相手は三男とはいえ侯爵家(しかも結構力有る)だし。お母様はまだデビューしたばかりで、お父様のことはご存知無いし。知らない人から「好きだ。一目惚れした。結婚して」 と言われたって恐怖しか覚えなかったらしいし。まぁ解ります。
ただ、お父様はお母様を見た途端、その外見(雨雲のようなグレーの髪と闇を思わせる黒い目は我が家の特徴です)からお母様が建国から存在する“雨乞いの神子”の血を引く令嬢だと理解したようで。しかも、当然のように土砂降りの雨の夜会だし。これはもう間違いない! と押せ押せモードだったそうです。……お父様、歴史大好きで、特に建国の頃のお話大好きで、雨乞いの神子を女神のように崇めていたそうな。そして、その女神と同じ外見を持つお母様を見て、一目惚れした、と。それを聞いたお母様は、「女神なんかじゃない! 普通の人間です! 混同しないで!」 と言ったそうですが。
お父様、お母様のそんな遠慮無しの発言が気に入ったらしくて。つまり外見どころか中身まで好みだったようで。お父様はご自分のご両親に「彼女以外と結婚は出来ないので、侯爵家から勘当して下さい!」 と宣言した後で即刻この家に押し掛けて来た、とか。
お母様が認めてもないのに、何日も玄関先に居座り、根負けしたお母様が我が家に迎え入れ。その時には、お父様のご実家の侯爵家も諦めてお認めになり……2人は結婚したのです。お父様は最初、お母様が好きになってくれるまでは、お母様と節度有るお付き合いを結婚しても続けたそうですが。
「結婚式をしましょう」
と、お母様の言葉を受けて泣いて喜んだそうです。
代々、我が家の女性は恋愛結婚なんですよね。それはこの力をコントロールするのに必要なこと。どういうわけか、雨乞いの神子の力を持つのは女性だけで。生まれた女性は両親と共に居る時は母親がその力をコントロール出来るのですが、母親の居ない時は必ず勝手に雨が降ってしまう。その勝手に降る雨をコントロール出来るようになるのは。
互いに想い合う相手と結ばれること
なのです。
つまり、政略結婚が向かない理由はここに有るわけで。
だから本来なら、わたくしの婚約は陛下お声掛かりでもお断りする案件。それなのに、もしかしたら陛下が勧めてくれた婚約者が想い合う相手になるかもしれないから、とお母様が受け入れたので婚約が成立したのです。
やっぱり、どこからどう見ても、お母様の責任ですね。
まぁ陛下の考えは解るのです。そもそも陛下の妻である王妃殿下は、隣国の王女。完全な政略結婚だったのですが。どうやら互いが好みだったようで、愛を育めたわけです。つまり、相思相愛の国王陛下夫妻。ご自分がそういう経験をしたので、わたくしの相手の事が気になっていた陛下は、王命で結んだ婚約でも、もしかしたら愛が芽生えるかもしれない! と思い至り。建国以来小さな領地で暮らす我が家のお隣の領地へ婚約を打診しました。もちろん、ハザル公爵様から反対されつつ、お母様がお認めになったから、ですけど。
そうして調った婚約相手がノザール様で。そうして調ったけれど、向こうはわたくしを毛嫌いし、そんな相手にわたくしも情など有るわけもなく。今回の婚約破棄騒動に至ったわけです。
陛下も普段は冷静・冷徹で有りながら一方で国民に寄り添える名君なんですけど。本当に恋愛脳なところだけは何とかして欲しいですよね。尤も、わたくしが特殊な存在なので暴走したのが真相でしょうが。この特殊な血故に、物心ついた時から定例会に向かう母と共に王城に時折来ていたわたくしを、恐れ多くも娘のように思ってくれたのでしょうが。
まぁこう言っては不敬ですが、要らん世話を焼かれた、というのが本音です。これで陛下もお母様も勝手に婚約者を見繕って来ないでしょう。
さて、そんなこんなで迎えた定例会。やっぱり今回の件を申し訳ないと謝罪をされた陛下に、気にしないで下さい、と申し上げて話を終えた所で。こんな提案を受けました。
「アミリア嬢よ。今回の件で受けた傷心を癒しておいで」
「いえ、傷心などこれっぽっちも有りませんが。傷ついてないのに、癒しなど不要です」
恐れ多くも陛下の申し出をバッサリ切ったわたくしですが、陛下が傷心したはずだ! と言うので仕方なくその提案を受け入れる。
「では、ハザル公爵の領地で、暫し休養を取るが良い」
「ーーは?」
休養を取る先まで勝手に決められた上に、それが何故ハザル公爵の領地なのでしょう。わたくしは不敬を承知で、尋ね返してしまいました。だって、可笑しいでしょう? 傷ついてもないのに癒しを、と言われ、そのための休養先に公爵領って。何をどうしたらそうなる……ああ、陛下、結構、今回の件をお気にされていたのですね……。そうですか。陛下の心労を減らすのも臣下の役目。
粛々とその提案に従わせて頂きます。
溜め息をつきたいのを呑み込んでわたくしは受け入れました。……まぁハザル公爵様も奥方様もご子息3人も、小さな頃から定例会で顔を合わせて来たので全く知らない仲では無いですし、偶には良いかもしれません。それにハザル公爵様ご一家ならば、わたくしが散々雨を降らせても嫌がる事は無いでしょうから。
諸々を考えて受け入れたわたくしは、5日後。ハザル公爵家からのお迎えで、公爵領へと足を向けました。
***
「良く来た」
ハザル公爵様と奥方様とご子息3人総出のお出迎えにギョッとしたわたくし。何故に勢揃いですか……。
「アミリアちゃん!」
「叔母様! お久しぶりです!」
「アミリアちゃん、綺麗になって……。今回の事、夫から聞いているわ。此処でゆっくりしなさいな? あ。あなたの婚約者である事の光栄さが解らない子爵家もその相手の子爵家も既に手を回してあるから安心してね」
来た早々、わたくしは叔母様の発言に冷や汗を掻きます。叔母様、手を回してあるって何を……。
ハザル公爵様の奥方様は、実はお父様の年の離れた妹にあたる方で、一応叔母様とは呼んでますが、どちらかと言えば“ハザル公爵様の奥方様”という感覚。ですので、叔母とはいえ適度な距離を保っていたつもりだったのですが……どうやら、叔母様はわたくしの事をきちんと姪として愛してくれていたようですね。今回の件を怒って、何かしてくれた様子から見るに。
身分がどうの……と遠慮しないで、もっと叔母様に甘えるべきだったかもしれません。
「母上。アミリア嬢が困っているから、サロンに案内してお茶でも飲みましょう」
「あら、そうね。ヤードの言う通りだわ。ごめんなさいね、アミリアちゃん。エントランスホールで話も何も無いわよね。さ、先ずはアミリアちゃんのお部屋に案内するわね」
そう。わたくしは、2週間程、ハザル公爵領で休養という名のバカンスを楽しむ。天気? もうすでに雨です。でも誰もその事に文句を言わない。
ノザール様は何処に行くにも雨が降る事に、いつも文句を言ってらっしゃいました。……そうか。わたくし、文句を言われなくて済むのですね。
「母上、俺が案内するよ」
「いいえ! わたくしが案内します! 陛下から、アミリアちゃんを休養させるから我が領地に、という話を伺った時から、わたくしはアミリアちゃんのお部屋の準備をして来たのよ! リートが案内する必要なんて有りません! 引っ込んでなさい!」
叔母様……。こういう性格でしたね。なんだかんだでお父様の妹様ですので、情熱的な性格で、ハザル公爵様にアプローチをしまくったと聞き及んでます。
元々ハザル公爵様が第二王子殿下だった頃、ソート第二王子殿下(ハザル公爵様のお名前)は、第一王子殿下より優秀だと言われ、ソート殿下を王太子に、という声が多かったそうです。しかし、ソート殿下は「王位に興味は無い。継承権は放棄する。私は兄上の臣下になる!」 と仰ったそうですが、中々に王位継承権を返上出来ず。それに焦れたソート殿下は留学と称して他国へ。その留学劇を支援したのが、ソート殿下のご学友であるお父様とそのご実家である侯爵家でした。
さすがにこうなると第一王子殿下を王太子にせざるを得ない。立太子式と隣国の王女殿下との婚約が決まって、お父様とソート殿下はご帰国。同時にソート殿下はハザル領をもらい“ハザル公爵”様となりました。で、この年にお父様はお母様を見染め、叔母様はハザル公爵様に猛アプローチを開始したとか。ただ、第一王子殿下が王太子殿下となられても、未だにソート殿下を推す派閥が消えなかった事から、王太子殿下がご結婚しお子が生まれるまでは結婚しない、と仰ったそうです。元々お父様より年齢が7歳下の叔母様。全然焦っていなかったわけですから、全然構わないわけで。叔母様の粘り勝ちでソート殿下もといハザル公爵様とご結婚したわけです。
そして、王太子殿下ご夫妻に3人の王子がお生まれになり、第三王子殿下がお生まれになってから2年後にヤード様が。その3年後にリート様が。更に2年後にワット様がお生まれになられました。で、現国王陛下が即位されて落ち着いたのですが、ハザル公爵様は念には念を入れて、第三王子殿下に婚約者が出来るまでは、我が子達に婚約者は作らない、という姿勢を貫いたのです。
それ故にこの前の夜会、ようやくハザル公爵様のご子息3人……つまりわたくしの従兄弟にあたられる皆様の婚約者探しとして、開催されたわけですね。
そう考えると、皆様の婚約者探しのための夜会だったのに、わたくしの婚約破棄って縁起でもない状況でしたね……。わたくしの責任では無いとは思いますが、でも少しは責任を感じます。
「さ、此処よ。アミリアちゃんが気に入ってくれると嬉しいわ」
叔母様はご機嫌な表情でわたくしを見ながらドアを開ける。こういうニコニコ笑顔はお父様そっくりだなぁ、なんてわたくしはぼんやりと思いました。そうか。ハザル公爵様のご子息3人と従兄弟とはいえ、わたくしはお母様似。ヤード様達3兄弟はハザル公爵様似だから、あまり血縁を感じないから余計にわたくしは3兄弟から一歩引いてしまうのかも。
そう思いつつ、叔母様に促されて中に入ったわたくしは「わあっ……素敵」 感嘆の声を上げてしまいまして。淑女としてはしたないってお母様に突っ込まれそうだけど、仕方ないと思うのです。
「あら、良い反応。気に入ってもらえて良かったわ」
「叔母様、お父様からお聞きになられました?」
「あら、バレてしまったわね」
クスクスとイタズラっ子のような目で肯定する叔母様を見て、間違いなくお父様と兄妹ですね。こんなところがお茶目なのは、性格そっくり。白金の髪とエメラルドの目はお父様とご一緒だけど、性格までそっくりなのは知らなかったです。叔母様の性格が解ってわたくしは2週間が楽しめそうな事が嬉しくなりました。
今まで、こんな風に1人で家から離れるのは、王城に行くくらいだったから、余計。
ずっと雨しか降っていない外の天気が気にならないように、なのでしょうか。部屋の壁紙は穏やかな青空の色をしていますね。わたくし1人になってしまうと……お母様から離れてしまうと、一度だって見たことの無い青空。アザーブルーね。床の絨毯はアイビーグリーンで落ち着きの有る緑が心を和ませてくれます。本棚と書き物机に椅子は同じチェスナットブラウンで、アイビーグリーンの絨毯と共に落ち着いた色合い。ピンクやイエローが嫌いでは無いけれど部屋の壁紙や絨毯には使いたいとは思わなくて、自室も落ち着いた色合いの物を使用しています。自室のような居心地の良さは、叔母様の歓迎ぶりを現しているみたいです。
「叔母様、わたくし素敵な2週間を過ごせそうです」
「そう。それなら良かったわ。これからよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします、叔母様」
荷物は既に使用人達の手によって仕舞われています。来た時にお願いしました。見られて困る物は入れてないし。公爵家の使用人達は、さすがレベルが高くて。馬車での道中も気遣ってもらえました。そして此処でも。叔母様の合図で着ていたドレスをあっという間に脱がされてわたくしが持って来たワンピースの中からレモンイエローの物を出してくれます。後ろにボタンが有るタイプなので、滅多に着ない代物。
滅多に着ないからお出かけ用に持って来たけれど……やっぱり公爵家から見ると物の質は低いですよね。それが恥ずかしいとは思わないけれど、質の違いは仕方ないのです。でもそんなことを口にしない使用人達は、やっぱり公爵家の使用人として良い教育を受けているみたいだわ。で。叔母様と一緒にサロンへ向かい、改めてご挨拶をしてからお茶を頂きます。普段の茶葉より格段に良い物なのは茶葉のブランド名などに疎いわたくしでも分かります。
「アミリア嬢、我がハザル家の図書室に後で案内しようか」
2週間をどのように過ごすのか、という話の時にハザル公爵様からそのように打診を受けました。まぁこの2週間は絶対雨だから、何処かに行けないわけですし、そうなると図書室に籠りきりになりますよね。わたくしは物凄く嬉しいですけど。本大好き。
「是非お願いします!」
「あら、図書室だけなんてつまらないでしょう? 温室も有るから温室にも行きましょうね」
「温室、ですか?」
「そうなの。わたくしが欲しくて旦那様にお願いしてね、去年出来上がったのよ」
「見てみたいです、叔母様!」
「うふふ。楽しみにしていてね?」
わたくしはなんとなく肩の力が抜けた気分になりました。いくら幼い頃から交流が有るとはいえ、ハザル公爵一家の団欒に1人で滞在するなんて、初めての事で緊張していたみたい。息をするのが楽になりました。明日はハザル公爵様直々に図書室を案内して下さるようです。
ヤード様は学園を卒業しているので、この領地で当主になる為の勉強に励まれている最中。リート様は学園の最終学年。ワット様も同じ学園生だそう。わたくしはこの血故に学園への入学は免除されています。まぁそりゃそうです。我が領地を1人で出たら雨が降るわたくしですから、学園に通っていたら毎日雨でしょうから。その代わり、同じ内容の勉強を受けられるよう、国王陛下の差配により家庭教師を付けてもらっていますので、勉強が劣っている事は無いと思います。……多分。
ハザル公爵領は王都から近くも無いですが遠くも無い距離なので、午後から王都へお二方は出発されるそう。週末にまた会えるようです。お二方が学園で寮生活を送られている間、わたくしは図書室を利用したり温室けんがをしたり……という予定なのですが。
「ヤード様」
「なんだい?」
「わたくしもご一緒に勉強をしてもよろしいでしょうか」
「私と? ああそうか。アミリアも女男爵として跡取り教育が必要だものね。いいよ。但し、条件が有る」
「条件?」
「昔みたいに、兄様って呼んでくれたらね」
クスクス笑いながら条件を出して来るヤード様。確かに幼い頃は兄様と呼んでましたけど。淑女としては不味いような……
「従兄妹同士だし、此処は私達家族と使用人しかいない。使用人達も家族同然なんだから気にする必要無いよ」
「分かりました、兄様」
わたくしの顔色を読んだようにヤード様……もとい兄様が仰るので、わたくしは了承しました。兄様はニコッと笑って「じゃあ明日は父上と共に私も図書室を案内するよ。明後日は一緒に勉強しようね」 と本当の妹のように優しく諭されました。昔から兄様はこうしてわたくしやリート様、ワット様を導いて下さっていましたね。兄弟姉妹の居ない一人っ子のわたくしは、ヤード様を「兄様、兄様」 と慕っていましたっけ。
お母様は身体が弱い方で……というか、多分“雨乞いの神子”の力が強いせいで身体が弱い方なのです。わたくし自身で分かりますが、コントロールが出来ない現在の状況は、わたくし自身、酷く疲れ易い身体なのです。お母様はわたくしより力が強いお方なので、疲れ易いどころか弱ってしまったのでしょう。なので、子を生むのは1人が限度だったと思われます。そして生まれたのがうまい具合に女であるわたくしですから、1人だけでも周りからは何も言われなかったようです。
昔お祖母様から聞いた話ですが、お祖母様のお祖母様は、子を5人産みましたが5人が皆男だったために、女を産めない事を責められていたようです。女にしか受け継がれない力ですからね……。そしてお祖母様のお父様が男爵家を継いでお祖母様が生まれた事で、お祖母様のお祖母様はようやく肩の荷が下りたように安堵した、とか。
男女のどちらが生まれるかなんて判らない事で責められるのは可笑しいし、そもそも5人も産んだ事自体、凄い事を褒めるべきではないか、とわたくしは思いますけど。
お祖母様のお祖母様だって女男爵だったわけですから、力のある女性だったはず。つまり身体が疲れ易かったはずです。お母様がわたくし1人しか産めない程、弱い身体なのですから、お祖母様のお祖母様だって体力はあまり無かったはずなのに、5人も産んだだけ凄い事ですよ。我が家だけでなく、女性全員に言えますが、出産は命がけなんです。それなのに女が産めないと責める周囲って……。お祖母様のお祖母様は相当ご苦労されたでしょうね。
わたくしもいつかは結婚して子を産んで、あの家を繋いでいく必要が有る身。どちらが生まれるか分かりませんが、子を生む事は課せられているのです。わたくしも男しか産めなかったら周囲がうるさくなるのでしょうかね……。まぁ何を言われようと気にする必要は無い、とお祖母様もお母様も仰っていましたけどね。わたくしも子が産まれたら、この事を伝えていくつもりです。
そんな事を考えていたら、わたくしが考え込んでいる事に気づいたのか、叔母様が心配そうにわたくしの顔を覗き込んでいました。
「アミリアちゃん? 大丈夫? 疲れた?」
「あ、ごめんなさい、叔母様。違います。ヤード兄様を兄様とまた呼べる嬉しさから、わたくしは兄弟姉妹が居ないのよね……とちょっと振り返ってました」
「そう。アミリアちゃんのお母様……わたくしのお義姉様は、お身体が弱い方だものね」
「そうですね。でも、だからこそ、ヤード兄様とまた呼べるのは嬉しいです」
心配させた事を詫びるより、笑顔を見せる方が良い、と笑いかけると叔母様も笑顔になってくれましたが。夕食までは休んでいて、とやっぱり心配そうに言われました。あまり心配を掛けるのも……と言われた通り、わたくしが過ごす客間へ。皆もお開きのようにそれぞれの自室へ向かい……こうして、公爵家滞在1日目は終わりました。
翌日にはハザル公爵様直々に図書室に案内してもらい、面白そうな本を片端から読んで1日を終えて。次の日はヤード兄様と共に当主に必要な勉強をして。解らない所はヤード兄様に尋ねながら領地経営も参考程度に話を聞く。我が家も領地は有りますが、この血故に領民が居ないので経営もしません。どれだけ雨が降っても問題無い砂地ですがコントロール出来る者が居るので、晴れの日も有ります。有ってもいつ降りだすか分からないですけどね。女児が産まれたら当主である母親がコントロールしても、女児自身が雨を降らせるので(わたくしの経験上、降って欲しいと思って降らせるわけではなくて、気づいたら降っている感覚。それをお母様が上手くコントロールして雨から晴れへと切り替えるような感覚)領民が居ても領民が安心して暮らせないでしょう。
そんなわけで領地経営の勉強は参考程度です。寧ろ当主になるための心構えとか。そういった勉強です。
その日の午後には叔母様の案内で温室でお茶タイムとか。そんな感じであっという間に週末を迎えたのですが。ハザル公爵様・叔母様・ヤード兄様と共にリート様とワット様をお迎えした所。リート様が不機嫌なのか苛立った表情で帰っていらっしゃいました。……学園で何かあったのかしら。
「お帰りなさい、リート・ワット」
叔母様が声を掛けるのに合わせて2人が答えつつも、リート様がわたくしに目を向けて来て、いきなり手首を掴みました。えっ⁉︎
「アミリア、来い!」
「えっ⁉︎ あの、リート様⁉︎」
手首を掴まれグイグイと引っ張られてしまい、ハザル公爵様・叔母様・ヤード兄様とワット様を見ますが、叔母様がニコニコと手を振るだけです。……えええ。皆さんなんで止めてくれないんですか、この状況。とにかくわたくしは早足のリート様にグイグイ引っ張られて足を縺れさせないように着いて行くので精一杯のまま、わたくしの滞在している客間へ。
ドアをバンッと開けてわたくしを1人がけのソファーにポイッと投げるように座らせたリート様が怖くて、震えて立っているリート様を下から見上げます。何かわたくしは気に触る事をしたのでしょうか。
「り、リート様?」
「泣け」
「へ?」
「アミリア、泣け」
「な、なけ?」
リート様が仰る事が呑み込めないわたくしは、言葉を繰り返します。
「そうだ。泣いて怒って感情を発散させろ」
「あの……」
本当に何を言っているのか解らなくて混乱する。そんなわたくしにリート様は何を思ったのか、わたくしの頭に手を伸ばしてグシャグシャと髪の毛をかき混ぜてきました。それもかなり強めでちょっと痛い程です。
「い、痛い! リート様、痛いです!」
「痛くしているんだから当然だ」
「な、なんで急にっ」
止めて下さい! とお願いしているのに止めないリート様なので、全力で抵抗して
「痛いから、止めてって言ってるでしょう! リートっ」
叫んだ所でリートがようやく止まった。
「はっ。やっと遠慮が無くなったな。やっと怒ったし」
「な……何よ、急に」
「うるさい。アミリア、俺とアミリアは従兄妹だ。昔は仲良かったのに、いつの間にかアミリアは俺たちと距離を置き出した」
「そ、それは」
「公爵家と男爵家の身分差とか淑女教育とか色々あってそういった判断をしたんだろう。それは分かったし構わない。だけどな。同時にアミリアは、感情を出さなくなったんだろう? 伯父上が気にしていたぞ。いつも笑顔で“大丈夫”しか言わない。泣きも怒りもしない。母上宛の手紙に書かれていた、と。
その上、今回の件。
本当なら、それこそ怒って泣いて喚いたっていいはずなのに、アミリアは困ったように笑って“大丈夫”しか言わない。こんなんじゃ、アミリアの心が死んでしまう、と伯父上は心配していた、と母上から聞いた。アミリア、今回の件は怒っていいんだ。泣いていいんだ。国王陛下のお声掛かりだからって、自分を誤魔化す必要なんて何処にも無い」
わたくしは、未だにわたくしの頭に手を置いているリートの話に肩を震わせました。
「泣いていい?」
「そうだ」
「怒っていい?」
「もちろんだ」
わたくしは気付けば涙を溢していました。
「わ、わたくしは、ノザール様の事を慕っていませんでしたわ! ですけど、なんであんな公の場で婚約破棄などされなくてはなりませんの⁉︎」
「そうだ。きちんと淑女として教育を受けて来たアミリアなら、あんな公の場で貶められる事がどれほど誇りを傷つける事か知っているはずだ。その怒りは間違ってない。好きでなくても婚約者である以上、アミリアなりに大切にしていたはずだ。その情を無駄にしたあの愚か者を怒っていい。あんな男に詰られる悲しさに泣いていい」
うっ……うわぁああんっ
気付けばわたくしは盛大に泣いてました。リートの手はいつの間にか優しく頭を撫でられていて。そしてその手の優しさに導かれるようにわたくしは言葉をポロポロと溢していました。
「わ、わたくしは、好きで、雨女に、生まれたわけでは、無いし。陛下、お声掛かり、の、婚約者でも、ちゃんと、大切にしている、つもり、でしたっ。なのにっ、何故、あんな公の場で、婚約破棄なんて、宣言、されなくちゃ、いけなかったのっ。わ、わたくしだって、皆と同じように、学園に行きたいし、外へ出かけたいし、晴れた天気の中で、遊んでみたいですぅ……」
後から思い返すに、恥ずかしい限りの思いの丈を、リートは「うん」 とか。「そうだな」 とか。ただ只管相槌を打っていた。
「あ、あんたなんか、婚約者が居るのに、浮気するあんたなんか、こっちから願い下げよーっ」
泣きながら怒ったわたくしは、おそらく感情を発散させたせいでしょう。夢に引きずり込まれていきます。
「全く……アミリアは感情を出さなくなった途端に、全部抱え込むようになって……手が掛かる。まぁとにかく……寝ろ」
夢に引きずり込まれつつも、リートの言葉が耳元で聞こえて来ます。手が掛かる、なんて失礼だわ、と思いながらも反論する気力が無くて。言い方はキツイのに声が優しかったからか。寝ろ、の言葉と同時にわたくしの意識は途絶えました。
「うーん……」
目が覚めました。……多分。目が半分くらいしか開きません。なんで? と首を捻って思い出しました。……はしたない事にわたくしは盛大に怒って泣いてリート様に迷惑をかけました。
はぁ、失敗。
「失礼します」
ノックの音と共に、ハザル公爵家滞在中、わたくしの世話をしてくれている侍女さんです。
「お目覚めになられました?」
「は、はい、あの、ごめんなさい。ええと今は……」
あまりの羞恥で混乱しているわたくしに、侍女さんがクスクスと笑って。
「昨夜はかなりお泣きになられたようでございますね。目蓋を直ぐに冷やしましょう」
テキパキと話しながら、今の時刻を教えてくれ、身支度を整えてくれます。ちなみにリート様とワット様を迎えたときのドレスのまま泣き疲れたわたくしを、この侍女さんを含めた数人がかりで寝巻きに着替えさせてくれたそうで。……お手間をかけました。わたくしが寝巻きに着替えた後、部屋の外に出ていたリート様が寝ているわたくしをベッドに寝かせてくれたそうです。……恥ずかし過ぎて今なら死ねそうです。
「リート様が、アミリア様がお目覚めになられたら知らせるように仰っていたので、お伝えしますね」
「は、えっと、はい、お願いします!」
昨夜の今日でどんな顔をすれば良いのかしら、と思いながらも礼を言おうと思ったわたくしが了承した途端に、お腹が鳴りました。割と盛大に。穴があったら入りたい、とはこのような心境だと思います。
「昨夜はお食事をされないうちにお眠りになられましたものね。アミリア様が大好きなローストビーフを挟んだサンドウィッチを朝食にお持ちしますね」
ローストビーフ!!!
お腹が鳴った事の恥ずかしさよりも肉への思いが勝ちました。サンドウィッチですか。楽しみです。侍女さんに「お願いします」 と頭を下げて。ローストビーフを待つ事にします。別の侍女さんの手により、わたくしの目蓋は無事に回復もしましたよ。
侍女さんがローストビーフのサンドウィッチを持って来てくれて、美味しく堪能した直後でした。
「アミリア」
「り、リート様」
「まぁた呼び方が戻ってる。リートで構わない」
「えっ、あの、でも」
「いいから! 朝食のサンドウィッチは堪能出来たか?」
はい、と頷きます。ローストビーフ美味しかったです。
「アミリアも伯母上も“雨乞いの神子”の力を使っていると空腹になる、と聞いている。足りなければもっと肉を持ってこよう」
この力……というか、雨が降り続いている状況は、とても空腹に苛まれる。お母様は甘いものじゃないと空腹が満たされず、わたくしは肉じゃないと空腹が満たされない。魚も野菜も甘いものも嫌いじゃないし、普段はバランス良く食べている。肉ばかりになるのは空腹感がピークの時か多大なストレスが有るか。どちらか。
「ありがとう、リート。でも大丈夫」
「そうか」
「あの、リート、昨夜はありがとう」
「うん」
わたくしが怒って泣いて。全部受け止めてくれたリートに頭を下げる。
「アミリア」
「はい」
「結婚しよう」
「は?」
リートが何を言ってるのか解らなくて、マジマジとリートを見てしまう。この方、何を言ってるのかしら。
「結婚しよう。もう、陛下だろうと誰だろうと横槍を入れてアミリアを盗られたくない。伯父上がアミリアの母上と結婚したように、もう結婚しか手は無い。ちゃんと、雨乞いの神子の伝承は理解している。愛し愛される相手と結ばれないと、力を制御出来ない、という事も。だから。アミリアが俺を好きになるまで我慢していた。アミリアの知っての通り、俺達は婚約者も作れなかったのも有ったから。それなのに、国王陛下は勝手にアミリアの婚約を決めて。俺が知った時には既にアミリアは婚約していた。それでも。アミリアが幸せならば諦めるつもりだったが。あんな公の場で婚約破棄を告げる馬鹿にアミリアは勿体ない。だったら俺が貰う。アミリア、俺を好きになるように全力で口説く。だが他の横槍はもう要らない。だから結婚しよう」
「え⁉︎」
リートの言う事が頭の中に入って来ない。ど、どういうこと⁉︎
「結婚だ、結婚。もう頷いとけ。俺はアミリアを逃さないし、アミリアは絶対俺を好きになる。好きにさせてみせる。だから婚約破棄も無いから婚約をすっ飛ばして結婚しよう」
「ど……何処からそんな自信が……」
「なんだ。自分で言うのもなんだが、俺は王弟の息子だから身分も権力も富も申し分無いぞ。父上に似てるから外見も良い。学園の卒業試験は1位だった。武術もそれなりに嗜んでいる。何が不満だ」
「不満は無い……というか、リートはわたくしで宜しいの? 男爵家の婿ですわよ? 他の方がいいのでは?」
「あのな、聞いて無かったのか? 俺はアミリアが好きだ。婚約が許されればアミリアと婚約するつもりだった。アミリアを逃さないと言っただろう。全力で口説くとも。それでどうして他なんだ。他は要らない。アミリア、俺の14年に及ぶ初恋を舐めるなよ」
「14年……」
「そうだ。雨乞いの神子様との定例会で、アミリアが初めて国王陛下や王族達と俺達にお披露目された時に一目惚れしてから、ずっとアミリアを想ってきた。アミリアがフリーになったというんだから我慢する必要など無いだろう。だからアミリア、大人しく俺と結婚しておけば良い」
リートの話はチョイチョイ偉そうだけど。嘘じゃない事くらいは解る。わたくしはどうしようか、と思いましたが。リートなら嫌な気持ちにならない。自然にコクリと頷いていました。
「お、お願いします」
「良いのか⁉︎」
「リートなら、嫌な気持ちにはならない、から……」
「そ、そうか」
「でも、その、リートと同じ気持ちになれるかどうかは……解らなくて」
「ああ、それは大丈夫だ。離婚する気も無いからな。人生は長い。絶対にアミリアを振り向かせるさ!」
その自信は、本当に何処から来るのか不思議だけど。決して嫌な気持ちにはならなくて。わたくしはちょっぴりフワフワした気持ちになりました。
その後。
ハザル公爵様も叔母様も、ヤード兄様もワット様も、リートの気持ちを知っていたとかで。まだリートを好きかどうかも解らないわたくしだけど、リートと結婚する事を受け入れた事に歓声をあげていました。ついでに、お父様とお母様にも連絡済みだったみたいで。トントン拍子に婚姻の手続きが進み。国王陛下も喜んで結婚をお認めになって下さいました。
そうして学園を卒業したリートはそのまま我が男爵家に婿入り。リート狙いだった、跡取りのご令嬢方はかなり悔しがっていたようですが。既に国王陛下が認められた上に、お父様とお母様の恋愛話は社交界でも有名らしく、わたくしとリートも婚約をすっ飛ばして結婚をしてしまったので、親世代は「またか……」 としか思わなかったようです。そしてご令嬢方も相手が“雨乞いの神子”であるわたくしでは仕方ない、と上位貴族から諦めたので、当然下位貴族のご令嬢方も諦めるしかなく。結果。表向きはこの婚姻に誰も文句も言えない状況になりました。
問題は……わたくしの気持ちです。
わたくしの“雨乞いの神子”の力は、愛し愛される相手と結ばれないと本当の意味で力を発揮出来ません。でも、わたくしはリートの事を好きなのか、愛しているのか、と考えると解らないのです。
リートは優しいですし。きちんとわたくしを大切にしてくれます。好きだ、と伝えてくれますし。手紙とか贈り物とか些細なことですけど行動も示してくれます。わたくしの話も聞いてくれますし。エスコートもしてくれます。いつだってリートの目にわたくしは映っているみたいです。
それなのに、わたくしは自分の気持ちが解らなくて困ります。
そして困った事に、国王陛下がまた暴走してしまい、結婚式の日取りや式場となる教会を押さえた、と伝えられました。わたくしの気持ちが置いてきぼりなのです。これにも国王陛下相手なのに、リートはきちんと抗議してくれました。
「アミリアの気持ちを蔑ろにして結婚式をする気は無い」
と。
リートにここまで言わせておいて、自分の気持ちが解らないってどういう事なのでしょうか。
我が家の庭はお母様のコントロールで良い天気です。尤もわたくしの力で、いつ雨が降るのか分かりませんけれど。
でも。折角晴れているので気分転換に庭へ出てみましょう。
「あら、考え事?」
「お母様」
「リートの事ね?」
「どうして……」
「わたくしも、お父様と先に結婚してしまって、自分の気持ちが解らなくて戸惑っていたから解るわ。そしてお母様やお祖母様が話を聞いてくれたものよ。あなたのお祖母様は現在、旅行に行っていて此処には居ない。だからお母様が話を聞くわ」
「ありがとうございます、お母様。リートは優しいし大切にしてくれます。わたくしの話を聞いてくれるし」
「そう」
「でも、解らないんです。好きな気持ちが」
「そうねぇ。答えは出ているとは思うけど。こう考えてみて。楽しいことや嬉しいことをリートに話して分かち合いたいか。悲しいことや苦しいことをリートと共に乗り越えたいか。その答えが全てよ」
お母様の問いかけにわたくしは自分にもう一度問いかけます。
リートと共に楽しいことを分かち合いたい。
リートと共に悲しいことを乗り越えたい。
これが好き、ということ?
でも、それはノザール様の時と何が違うのかしら。あの方と婚約していた時だって、一緒に乗り越えていけたら……と思いました。
あれ? でも。ノザール様と乗り越えていけたら、と願うだけで、ノザール様と共に乗り越えたい、と望んでいなかった……。楽しいことを楽しいとお互いに言えたら良いなぁ……と願ってはいたけれど、楽しいことを分かち合いたい、と望んでいなかった。
でも、リートには自然と他者にどうにかして欲しい、と願うのではなく、自力で何かをしよう、と望む気持ちが浮かぶ。
これが、好きな気持ち?
「好き……」
言葉が零れ落ちてようやく気付きました。
わたくしは、リートが好きです。
「お母様、わたくし……」
「それはリートに言いなさいな。……大体ね、あなた、感情的にならないようにって教育を受けてからは、変に頑なになって怒りもしないし泣きもしなくなったのに。リートには、きちんと怒りも泣きもするんだから、その時点で結論は出ているでしょうに」
お母様が呆れた口調で、でも微笑んで仰って。わたくしはあまりのことに赤面して言葉を失いました。
つまりまぁ、自覚する前から、わたくしはリートが好きだったようです。
リートは今、執務室でお父様と一緒に勉強中です。勉強の邪魔はしたくないけど、どうしても、今すぐに伝えたくて。わたくしは、執務室に急ぎました。
「アミリア? 急いでどうした?」
お父様に尋ねられましたが、わたくしは驚いているリートしか目に入りません。
「リート、大好きです!」
わたくしは告白と共にリートに抱きつきました。リートを見上げれば驚いた表情からゆっくりと笑顔になって。
「ああ、俺も大好きだ!」
その後、結婚式の日取りや式場となる教会は、国王陛下が押さえてくれたそれをそのまま使用する、とリートが言うし、ウェディングドレスは既にデザイナーに話を通してある、と当たり前のようにリートは言うし。アレヨアレヨという間に結婚式です。しかも、わたくしが憧れていたマーメイドラインのウェディングドレス。何故知っているんでしょうね、リート……。いえ、尋ねなくても解ります。わたくしの事だから! と胸を張って言うに決まってます。結婚式の日取りとか早過ぎる、と国王陛下に抗議していた割にウェディングドレスは発注済みって……。
わたくしが、そんなに早くリートを好きになるって読んでいたのでしょうかね……。
「だって、アミリアが怒るのも泣くのも俺の前だけだろ?」
ウェディングドレスの発注に関してジッと見たら、キョトンとした顔で言われました。そうですね! わたくしが気付くのはそんなに遅くないだろうって思いますよね! 無意識にリートが好きだったんですからね!
もう、いいです。
とにかく、今日を無事に迎えたのですから。
相変わらず雨が降っている本日の結婚式。
「アミリア」
「はい、お母様」
「願ってみなさいな。雨が止むことを」
わたくしは驚きましたが、願ってみました。本当に、リートの事を愛して愛されているのなら、雨をコントロール出来るはずなのです。
「どうか、晴れた天気で結婚式が迎えられますように」
祈りの言葉も覚えています。でも言葉を知っていてもコントロール出来なかった今まで。だけど、今は。
祈りの言葉を口にして気付きました。
雨が降る時の力とは別の力が湧いている感覚が。この感覚は、お母様に聞いても表現出来ないわ、と言われた意味が理解出来ます。愛し愛される相手が出来て生まれる力の感覚のようですし、その相手が居ない事にはこの感覚は理解出来ません。
道理でお母様が説明が難しい、というはずでした。
「晴れたぞ!」
誰かの声が聞こえて来ます。「本当だわ、晴れてる!」 という誰かの声。
「アミリア!」
わたくしの目に合わせたような黒いタキシードを着ているリートが興奮したように、花嫁の控え室に現れました。
「リート、わたくし、貴方という愛し愛される相手が出来た事で、雨が降ることをコントロール出来るようになりました」
「そうか! これはアミリアの力なんだな。これが本来の“雨乞いの神子”の力か!」
「はい。リート、大好きです。これからもずっと一緒に生きて下さい」
「ああ、俺も大好きだ! アミリアを生涯大切にするよ!」
「アミリア。あなたに教えるわね。最後の雨乞いの神子の秘密。次の女児が生まれて、その子に愛し愛される相手が見つかってコントロールが出来ると、それまで雨が降ることをコントロールして来た者は役割を終えるの。つまり、これでわたくしの雨乞いの神子の役目は終わり。普通の人として、生きて行くのよ。だから、何処にでも行けるし、その行った土地で雨が降るか晴れるかも分からないし、雨が降っても晴れに変えられなければ、晴れなのに雨を降らせる事も出来ない。だから、今後、国からの要請を受けて、様々な土地に雨を降らせる我が男爵家の、雨乞いの神子の役割は、あなたが務めるのよ」
「それは、つまり。もう、お母様は何の力も無いという事、ですか?」
「ええ。この身から力が抜けた感覚がしたもの。だから、アミリア。あなたの娘か孫娘が生まれて、愛し愛される相手が出来て力をコントロール出来るようになるまで、今度はあなたが頑張りなさいね」
「はい。リートが一緒ならきっと大丈夫です」
「伯母上、大丈夫。俺が必ずアミリアと共に役割を継いでいくから」
「お願いね、リート。アミリアと共に幸せになって」
「必ず」
そんなわけで、わたくしが今度はきちんと本当の“雨乞いの神子”として、役割を果たしていくことになりました。
でも。リートが居てくれるならきっと大丈夫。乗り越えていけます。大好きな人と力を合わせるのですから。
時間です。
リートが腕を差し出してわたくしをエスコートしてくれます。
晴れた青空が教会の窓から見えます。同時に、この光景を見た結婚式の出席者の皆様は、わたくしが“雨乞いの神子”という事をご理解頂けたはずです。ノザール様やシエル様達のように歴史をきちんと知らない人はこの式には参加していないですが、それでも。出席者の方達の視線からわたくしに対する畏敬の念を感じました。
これからは、お母様に変わってわたくしが雨乞いの神子の役割を果たす事を、結婚の誓いと共に神様に誓うことにしましょう。
ーーわたくし、“雨女”と婚約者に罵られ、婚約破棄を突き付けられましたが。
婚約破棄を了承したら、わたくしに必要だった愛し愛される相手を見つけられました。
今度は、“雨女”ではなく、“雨乞いの神子”としての本来の役割を果たせます。
わたくし、雨女ですけど、愛し愛される相手を見つけて。幸せになれました!
(了)
お読み頂きまして、ありがとうございました。