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竜宮城

作者: 大河けんた

急に思い立って、初めて書きました。

お手柔らかにお願いします。

 陽の光が窓から差し込むその部屋に男はいた。


時計は午前10時を過ぎていた。


男は昨晩の深酒のせいか、まだ布団から出れないでいた。


部屋からは付けっぱなしにしていたテレビからワイドショーの音が漏れる。


「いやぁー、近頃、行方不明者の事件が増えていますがパネラーの皆さんどう思われますか?」


ふざけた格好をした司会者の甲高い声が耳障りだ。


「るせぇな・・・」


寝言ような声を絞り出しながら男は体を起こす。


男はクシャクシャと寝グセの髪を触りながら、台所で水を飲む。


「昨日は飲み過ぎたな・・・」


男は反省のフリをしているかのように心にも無い言葉を吐いていた。


男の名前は、安藤佐助。32歳。親の仕送りとギャンブルだけで一人暮らししている。


昨晩は安藤が唯一の楽しみのギャンブルである競馬で大負けしてしまった。


絶対に来ると言われた馬がスタートと同時に落馬したのだ。


「ギャンブルで負けてクヨクヨするのは人間として弱い。

そんな時だからこそ、酒でも飲んで明るく生きる。」


それが安藤のモットーであり哲学である。


その結果が昨晩の深酒の要因であった。


安藤は無職だ。が、働いたことが無いわけではない。


ただ、人付き合いが苦手でムカつく事があるとすぐに顔や態度に出てしまい、


上司や同僚と喧嘩することが多く、その度に解雇通知を告げられる。


そんな安藤の父親は飲食チェーン店の経営をしている程の金持ちだが、


息子の佐助とは勘当同然の絶縁をしている。


佐助は、父親の経営する飲食店でも働いたことがあったが、


そこでも同様に問題を起こしたのだ。


ガラの悪い客と殴り合うという問題を起こしてしまったのだ。


その模様を他の客がスマホで動画を撮影してSNSにアップロードして大炎上したのだ。


そのことを知った父親は謝罪会見を開き、当該店舗の閉店などを余儀なくされた。


そういった事情から、当然息子の佐助は父親から見放され、家を追い出された。


しかし、母親だけは息子を見捨てる事はなかった。


そんな息子でも唯一の息子なのだ。


母の慈愛で仕送りはコッソリと息子に振り込まれていた。


そんな母の慈愛に見守られながら今日も安藤は仕送りの金を片手に握りしめ街へ繰り出した。


目的地は、競艇場。


母親の慈愛の仕送りで今日もギャンブルに興ずるつもりだ。


悪いとは思ってはいる。思ってはいるが、


止められないのだ。いわゆるギャンブル狂なのだろう。


賭けずにはいられない。いられないのだ。


自分の知識と経験で培った分析能力で金を一瞬で大金に変えてしまう、

そんな快楽に溺れてしまったのだ。


だが、安藤はギャンブルが弱かった。


なぜなら、それは自分が苦労して手に入れた金ではないからだ。


母親がくれたお金だから、負けても生活に支障は無い。


無くなればまた母親にねだれば良いだけなのだから。


だから今日も負ける、当然の流れだった。


「んだよっ、あの選手、いつも負けてるくせに、今日に限って・・・クソっ」


安藤は今日も文句を言いながら帰ろうとしていた、その時だ。


「あの、すみません」


黒髪の女性が話しかけてきた。


「突然すみません、舟券を落としてしまいまして、良かったら探すのを手伝って頂けませんでしょうか」


安藤は周りを見渡し、自分に言われてることを確認した。


「え、おれ?いや、悪いけど他を当たってくれ、じゃっ」


(わざわざ自分が負けてるのに、当たった奴の舟券を探すほどお人好しじゃねえよ)


心の中で安藤はそう思いながら、その場を去ろうとした。


「お願いします!見つけてくれたらお礼しますので!」


黒髪の女性のその声に安藤は足を止めた。


少し声を小さくして、女性は言った。


「実はさっきのレースで当たったんです。」


「・・・いくら賭けてたんだ」


安藤は声を震わせていた。


なぜならそのレースとは先程安藤が負けたレースなのだが、


大穴決着だったのだ。


その倍率は、60倍。


つまり100円で6000円、1000円で60000円、10000円で600000円との具合だ。


「・・・200万円です」


安藤は開いた口が塞がらないとの言葉を体感していた。


そしてすぐに周りに人がいないことを確認した。


(こんな話を聞かれたらとんでもない騒ぎになるぞ)


安藤は、心を落ち着かせながら黒髪の女性に問いかける。


「つまり、1億2000万円分の舟券を落としたと?」


女性は、コクッと、うなずく。


「さっきお礼と言っていたが、それは・・・」


「見つけてくださったら10%の1200万お譲りします、ですので・・・」


よく見ると黒髪の女性は涙目だ、それもそのはずだ。


200万円もの大金を注ぎ込んだ舟券が1億2000万円の超大金に変わったのだ。


それが今は行方不明。見つからなければ0だ、全てが無なのだ。


しかも見つけると1200万が自分の手元に来る。1200万もあれば、母親にねだる必要はない。


しばらくは楽して暮らしていける。いや、それよりも俺が先に見つけて、


見つからなかったことにすれば良い。


そうすれば俺が1億2000万円を手に入れる事が出来る。


安藤は笑みと鼓動を抑えながら女性に言う。


「それは大変だな、いいぜ。手伝ってやるよ」


「本当ですか!ありがとうございます!誰にも言えなくて・・・」


黒髪の女性は肩を震わせながらお礼を言っていた。


「それじゃあ色々状況教えてもらおうか」


黒髪の女性は、自分の名前を【海川みどり】と伝えた。


みどりも安藤と同じくギャンブル狂らしく、ギャンブルで得られる快感が忘れられず、


仕事の給料が入るとすぐにギャンブルに注ぎ込んでしまう体質らしい。


その結果エスカレートしてしまい、会社のお金に手を出してしまったのだという。


しかも、その会社というのが、


「・・・この競艇場なんです」


みどりはこの競艇場の会社員だったのだ。


みどりは、自分の会社のお金を自分の職場のギャンブルに興じていたのだ。


これがバレれば、会社のお金を使っていたこともすぐわかってしまう。


つまり、社内の人間にはみどり自身がギャンブル狂ということが疑われてはいけない。


だからこそ、みどりは他人である安藤に声を掛けて協力をしてもらうことにしたのだ。


例え、社内の人間に見つかっても、


自身が社員として安藤が無くした舟券を一緒に探してあげていたという口実が出来るからだ。


みどりは、そう安藤に説明した。


「だいたいの話はわかった。が、なんで俺なんだ?他にも人はいるだろ」


みどりは、少し戸惑いながら言った。


「実は私あなたのこと知ってるんです」


「え?」


「仕事柄、競艇場にもよく顔を出してたので、常連さんのお顔は覚えちゃいました」


安藤は動揺した。


身バレしていると悪いことは出来ないからだ。


(とはいえ、やり方はまだある。大丈夫だ。)


安藤は落ち着きながらみどりに目を配る。


「ところで、どこで落としたのか目星は付いてるのか」


「はい、舟券を買ってからトイレに行って、その後客席に来てレースが終わるまではずっとコチラにいました」


「客席はちゃんと探したのか?」


「はい、見ました。でも、無くて。もちろん、ポケットの中やカバンの中にも無くて」


みどりは身振り手振りで伝えてくる。


だとすればトイレしか無いだろうな、そう安藤が言おうとした瞬間、


「あ!トイレ見るの忘れてました!」


みどりはハッとした顔を見せて、急に走り出した。


「あ、おい。ちょっと!」


安藤もすかさず、みどりを追いかける。


(1200万は逃さねえ、いや、俺の1億2000万は逃さねえ!)


安藤の必死の走りの結果、何とかみどりに追い付くも、そこは人通りの少ない女子トイレ。


みどりはレース前にこの女子トイレに寄ったのだろう。みどりが急いでトイレの中に入っていったのを安藤は見ていた。


「おい。見つかったか?どうなんだ?」


安藤は周りを見渡しながら声を潜めつつ、みどりに聞こえるようなトーンでトイレ前で話しかけていた。


「あ!」


廊下に響き渡るみどりの声。


トイレからみどりが満面の笑みで出てくる。


その手には一枚の舟券があった。


「ありましたよ!!!」


みどりは大きな声で安藤に向かって言う。


「本当か!よし!」


安藤の顔にも笑顔が見える。


(本当は先に見つけたかったが、見つけられないよりはマシだ)


安藤はみどりよりも先に舟券を見つけて後で換金して全額独り占めしようと思っていたが、


こうなっては仕方ない。1200万円で手を打とうと考えていた。


無理やり奪うことも考えたが、みどりはここの社員。監視カメラもあるし、いずれ足がつく。


安藤はそう自分に言い聞かせていた。


「さぁ早速換金に行こう!」


「本当にありがとうございました!貴方のおかげで大事な舟券を見つけることが出来ました!」


みどりは無邪気に喜んでた。だが、今の安藤にそんなことはどうでもいい。


「まあ、うん、そうだな。さぁ、また無くす前に早く換金しに行こうか」


「あ、そうですね。すみません興奮しちゃって。行きま・・・」


その瞬間だった。


競艇場に甲高い音が鳴り響く。


『本日の営業は終了しました。館内にいらっしゃるお客様はお帰りをお願い申し上げます。お客様のまたのお越しをお待ちしております。本日も御来店ありがとうございました』


営業終了の放送アナウンスが流れた。


「おい!なんだよ!俺の・・・いや、俺らの換金はまだだぞ!」


安藤は突然のアナウンスに怒りを滲ませる。


「あ。ごめんない、舟券探してる間に営業時間過ぎちゃいましたね」


舟券の払い戻しはレースの翌日以降60日間まで有効だ。その事を知っててか、みどりは余裕の顔をしていた。


「おまえ、さては俺に分け前を渡さないわけじゃないだろうな?」


安藤は鋭い視線をみどりに向ける。


「何を言ってるんですか!そんなわけ無いじゃないですか。ちゃんと明日にでもお渡ししますよ!」


(この女もしや今日で会社辞めて明日にはココには来ないんじゃ。あり得るぞ。そりゃそうだろ、1億2000万もあればしばらくは何もしなくても贅沢に暮らせるんだからな。)


安藤は何とかしてお金をとんずらされないようにと必死に頭を回転させていた。


「それよりも」


みどりが、そんな安藤に声をかけた。


「良ければこの後、私の家に来ませんか?」


安藤の頭は急に止まった。


「え?」


「せっかくここまで探すのに協力して頂いたんですから、お金だけじゃなくちゃんとお礼もしたいんです」


みどりは笑顔だった。


「いいのか?」


「当然です!それにお金の事で私を信用できないなら、そのまま私の家に泊まってください」


安藤は思考が追いついていかない。


「そしてそのまま明日一緒に換金に行きましょう。それなら安心出来ますよね?」


こんな願ったり叶ったりなことがあって良いのだろうかと、安藤は戸惑ったが、


「ああ、そうだな。あんたがそれで良いなら、そうしよう」


安藤は心の中で叫んでいた。


(よぉぉぉぉしっ!これは最高の状況だ!このまま舟券奪うことも可能だぞ、ツイてるぞ)


「では、参りましょうか。コチラです」


みどりは歩き出した。しかし、それは競艇場の出入り口の方角ではなかった。


「ん?おい、出口はあっちじゃ?」


安藤がそう声掛けるも、


みどりは振り返らない。まっすぐ歩き続ける。


二人だけの足音が廊下に響く。


どれくらい歩いただろうか。気付けば建物の一番端であろうところまで来ていた。


「おい、どこまで歩かせるんだ」


安藤がそう言い終わると同時にみどりが振り返った。


「コチラです、どうぞ」


そこは、廊下の一番橋の壁。


みどりが慣れた手付きで壁を触る。


すると周囲に機械的な音が鳴り響く。


ウィィィーーーーーン。


ガチャン。


ガガガガガガガ。


先程まで黒かった壁の一部分が左右に開く。


その開いた先にあったのは青い囲い。


安藤は急に起きた事象に声が出ないでいた。


「こ・・・これは、いったい・・・」


何とか絞り出した言葉だった。


「エレベーターですよ?」


みどりは当然のことのように答えた。


「あ、私言ってませんでしたっけ?私実はこの会社の社長の娘で、この競艇場の地下に家作ったんですよ」


安藤は理解するのに時間を要した。


(社長の娘?地下に家?)安藤は単語を反芻していた。突然の出来事とカミングアウトに動揺を隠せないでいた。


「ここだったら明日の朝にはすぐにお金換金出来ますよ?」


みどりがそう囁いた、その直後、安藤は冷静を少しばかり取り戻した。


(そうだ、おれ落ち着けおれ。ここはこの女の親の会社で、こいつはここの地下に家があるだけだ)


(明日の朝まで世話なって、朝になったら金貰って終わりだ、金持ちなら地下に自宅があっても珍しい話じゃないじゃないか)


安藤は必死に自分に言い聞かせた。


安藤はみどりに腕を引っ張れれて、その青い囲いの部屋【エレベーター】に入る。


みどりは青い囲いの中の壁に慣れたように触る。ボタンも何もないのに、なにかポチポチと触る。


先程と同じような機械音が聞こえてくる。


ガガガガガ


ガチャン


それはまるでエレベーターのように、青い壁は閉まった。


ウィィィィィィーーーン


安藤の足元がおかしい。重力が安藤を襲う。いや違う。


これはエレベーター。


地下に移動しているのだ。


自分の身に何が起きているかは見当がつかないが、考えるのはよそう。安藤はそう言い聞かせるしかなかった。


どれくらい地下に行ってるのかはわからないが、数分後、重力がおさまった感覚を安藤は感じた。


「おまたせしました」


みどりがそう言うと、またしても機械音が鳴り響いた。


ガガガガガガガガ


ガチャン


壁が左右に開くと安藤の目の前には、それはそれは大きな部屋が現れた。


そして、次の瞬間・・・


『おかえりなさいませぇ!』


10人以上はいるだろうか。若い女性が我々を出迎えたのだ。


きょとん顔の安藤をよそにみどりは何事もないような顔だ。


「さぁコチラです、どうぞ」


みどりに導かれるように安藤は足を進めた。


部屋の真ん中に大きなテーブルがあった。


テーブルの上には、何十種類もの豪華な料理が並んでいた。


「あなたの為に御用意しました、どうぞたくさん召し上がってくださいね」


安藤は訳がわからないままテーブルの席に着いた。


「こ、これはいったい何のマネだ」


安藤は平静を装いながら問いただした。


「言ったじゃないですか、お礼しますって。」


みどりは先程と人が変わったように見えた。


地上では気弱な女性に見えたのに、今ではまるで強気なお姫様だ。


「あ、もしかして毒とか疑ってますぅ?そんなもの入ってませんよ、フフ」


そう言いながら、みどりはテーブルの上の唐揚げをつまんで食べてみせた。


「みなさーん、この方は私の恩人です。存分におもてなし差し上げてね。」


『はーい!』


そう言うと、先程出迎えてくれた10数人の女性達は各々に動き出した。


ある者は安藤の隣でお皿に料理を盛り付けて渡す者、ある者はお酒を注ぐ者、


ある者は安藤の前で踊りだす者、各々が安藤に目一杯のおもてなしを施し始めた。


最初こそ戸惑っていた安藤だが、それもスグに慣れた。


お酒が入り、可愛い女の子が周りを囲み話をしてくれて、目の前では踊りもしてくれる。


今の安藤では到底あり得ない状況だ。自分のモットーを思い出したのだ。


楽しまなきゃ損であると感じ、気持ちを切り替えることにした。


料理は美味しく、酒も美味い。可愛い子も多く、明日には大金が手に入る。


ここは正に天国であり、楽園であり、桃源郷だった。


安藤は改めてみどりの顔をマジマジと見た。


みどりも笑顔で食事をしていた。


もはや何を心配することがあるのか、最初こそ壁からエレベーターが出てきて不安だったが、


競艇場の社長の娘だということであれば、これくらい金持ちでも不思議ではない。


しかも、これを他の同僚に隠しているとすれば?


妬みや嫉妬を恐れた両親が金を掛けてても不思議なことでは無いじゃないか。


すっかり安藤はリラックスしきっていた。


宴会が始まってどれくらい時間が経ったのだろうか。


安藤はすっかり出来上がっていた。


「ここの料理はよぉ、美味しくて文句ないんだが、何で肉料理しか無いんだぁ?ヒックッ」


「ヒックッ、唐揚げにハンバーグにステーキにしゃぶしゃぶ、あー、あと焼肉に、あとなんだ?」


「それによー、これ何の肉なんだぁ?ヒックッ、鶏肉でも牛肉でも豚肉でもない食感なんだよなぁ、ハハハ」


みどりは微笑みながら答えた。


「フフフ、安藤さんすっかり酔っ払っちゃいましたね。我が家は代々魚料理は食べないんです。私達の仲間の生き物を殺傷して食べるなんて考えられませんからね」


「それに野菜はどんな土で育ってるかわからないじゃないですか、そんな野蛮なモノを食べるなんて考えられません」


「その点、肉は信頼できるトコロから調達してるので安心なんですよ、だから・・・あら?」


安藤は寝てしまってた。昨晩と同じく深酒してしまったからだろう。


それから更にどれだけの時間が経っただろうか。


安藤は夢を見ていた。


父親のチェーン店で料理人として働く日々。自分を慕ってくれる後輩。愛する家族との暮らし。


他人より恵まれて幸せになるはずだった人生。どこで狂ったのか。待っているのは孤独のみ。


そんな現実と夢のギャップに苛まれながら、ふと目を覚ます。


ベッドの上で寝ていたようだ。


「っいっててて・・・」


飲みすぎたせいか頭が割れるように痛い。


『お目覚めですか?』


先程もてなしてくれた一人の女性が立っていた。


『隣の部屋にお風呂を御用意しておりますので、どうぞお入りくださいませ』


そう言うと、女性は去っていった。


このまま寝入るのも良かったが、この後にまだお楽しみがあるかもしれないしな、と安藤は考えをめぐらせていた。


隣の部屋に行くと、誰もいない大きな浴室がそこにはあった。


早速安藤は服を脱いで、白い湯船に体を漬けた。


湯加減は少し熱いが、気にならない。


安藤は入浴してスグに気付く。


「ん、この風呂の匂い、もしかして・・・」


安藤は白い湯船を口にする。


「日本酒じゃねえか!どこまですげえんだよこの家は」


「それにしても、あいつこんなに金持ちだったんだなぁ。人生最高じゃねえか」


「・・・ん?金持ち?」


そんな事を考えながら日本酒に浸かっていると、安藤は異変に気付いた。


風呂が随分と熱い。


最初の頃よりかなり熱くなっている。


日本酒のせいか、再び酔っ払った身体がなかなか思うように動かない。


だが熱い、熱すぎる。


湯船から何とかして出ようと、安藤は重い身体を動かす。


しかし、おかしい、湯船のヘリが高い。なぜだ。


お湯から湯船のヘリまでおよそ2mもある。届くわけがない。


これは一体何が起きている、酔っ払ってるのか。


安藤は意識が朦朧としていた。


すると、機械音が浴室に響き渡る。


ガガガ 


ウィィィィィィン


いつの間にか高くなっていた湯船のヘリが下がってきた。


しかし、安藤はもう身体が動かない。酒と熱さで意識が無くなろうとしていた。


「湯加減いかがですか、安藤さん」


湯けむりの中、海川みどりが安藤の前に現れた。


「・・・み・・・ど・・・り?」


「やっぱり酒蒸しが臭みを消すのは一番なんですよねぇ」


みどりが何を言ってるのか安藤にはわからなかった。


「そのまま食べたらさすがにちょっと匂いがきついですから、ふふふ」


安藤は返事すら出来なくなっていた。


「あ、そうそう安藤さんにプレゼントがあるんですよ」


そう言うと、みどりは1つの箱を取り出した。


みどりは箱を安藤の前で開けてみせた。


その中から出てきたのは一枚の紙だ。


「欲しかったんでしょ?ふ・な・け・ん」


安藤は既に意識がなくなっていた。


「あらぁ、死んじゃったか」


みどりは舟券を再び箱の中に入れて、その場を去っていった。


        《翌日》


競艇場は今日も人がたくさん賑わっている。


競艇場の休憩スペースにあるテレビからワイドショーが流れている。


「いやぁ、最近ホントに行方不明者多いですねぇ、パネラーの皆さんどう思いますかぁ?」


今日も、ふざけた格好をした司会者が甲高い声で話をしていた。



                                              完





いかがでしたでしょうか。

お楽しみ頂けたら幸いです。

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