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エンシェント・オリジン  作者: ホメオスタシス
第3章 王都動乱
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第65話 人間の頂点

更新遅れてすいません!

前回最後の技名を削除し、一部変更しました。

 ──魔法を独自に昇華させた「魔魂」を作る。


 それが、ヴィカトリアが使う魔法の能力だ。一見単純そうに見えるが、その中身は広漠たるもの。 


 魔魂とは、端的に言えば魔法を固体化させた塊のことだ。しかし実体はない。

 魔魂は大地、物質、現象、術式等、この世のありとあらゆる存在に干渉する性質を持ち、それらが変化を起こすための溶媒となる。具体的に挙げると、何かの現象を起こしたり、物質を移動させたり、生物の動きを止める等々。それを行うための()()()()()()()の組み立てを完全に無視。それどころか干渉という工程を挟むことで、()()()()()()()()()()()


 その強さ故に、当然ながら弱点も存在する。

 通常、魔魂はその事象ごとにカテゴライズされた魔魂の術式を組成せねばならないのだ。例えば、火や水に干渉する術式、人の感情に干渉する術式、天気に干渉する術式など。それぞれの系統(カテゴリー)に応じた魔魂を術式で生成する。もちろんそれに応じて消費する魔力も違ってくるし、未完成の魔魂を生成したりうまく制御しないと暴発し、最悪術者が死亡してしまうこともある。

 魔魂による魔力の消費量はその()()()にもよるが、例えば大地を軽く鳴動させるくらいの魔魂なら、宮廷魔術師のクルーガーでさえたった一つの生成で魔力切れを起こして倒れてしまう。


 ここまでは、()()()魔魂の使い手の話だ。


 一方、ヴィカトリアの術式は。


 ・指を鳴らすことで完全体のみの生成が可能。


 ・最小限の魔力で生成した一つの魔魂を干渉させ、系統問わずありとあらゆる事象を発動させることが可能。


 ・例えば大地を軽く鳴動させるくらいの魔魂なら、完全体を最大で()()まで生成可能。


 ・そして、()()()()()からも魔魂を生成可能。


 名を誘導魔法(オルガナイズ)


 遥か太古に消失したとされる、()()()()の一種だ。


 クルーガーは過去にヴィカトリアとは何者か、という質問に対しこう語った。


『この世界の頂点は、大地の巫女セレス。これは揺るがない事実だろう。だがもし、人間の頂点は誰だとの問いならば、僕は迷うことなくこう答える。ヴィカトリア・カルテットだと』


 豪商カルテット商会の会長にして、人間最強の名を冠する者──ヴィカトリア・カルテット。


 魔魂誘導(オルガナイズ)──《系統:元》


「氷の礫」


  空高く作り上げた魔魂から、大地を丸ごと陰に包むほどの氷塊が多数生成された。


「じゃ、いくよ」


 瞬間──巨大な氷塊の軍勢はヴィカトリアの号令と共に、ジェフィ目がけて一斉に落下した。


 氷塊がジェフィに落ちる寸前、ジェフィは後ろ蹴りで高速移動し、氷塊の落下範囲から逃れる。


魔魂誘導(オルガナイズ)──《系統:地》


「大地の亀裂」


 しかし、ジェフィが退避した地面が割れたと思いきや、そこから亀裂が走り、一瞬で数キロ程の大地が陥没する。ジェフィは寸で大気中の水分を固化させて氷柱を生成。それは蜘蛛の巣のように亀裂を覆い天空へと延びていく。


|連鎖誘導《オルガナイズ=チェイン》──《系統:元》


氷人形(ノギン&コーディン)


 ヴィカトリアは指を鳴らす。それによって出現したのは全身が氷の羽毛で覆われ、鋭き形相に二本の牙が生えた鳥のような謎の生物。いや、生物を模した二対の氷の人形だ。

 瞬間、それらは猛スピードで天空へ突き進んだ。その標的は、伸び行く氷柱の頂上に立つジェフィ。ジェフィは接近した氷の人形を剣撃で破壊するが、そのうちの一体が氷柱に衝突。そこからヒビが入り、氷柱はいとも容易く崩れ落ちる。


比類なき氷壁フリージング・フィールド


 氷柱が破壊されジェフィは落下。自由落下の最中、ジェフィは魔法で氷のスライダーを生成させ、それに身体を預けビュワンと降下する。スライダーの先にいたのはヴィカトリア。

 ヴィカトリアは指を鳴らしスライダーを崩壊させ、ジェフィは再び宙を舞う。


氷刃の牙(アイシクル・ファング)!!!」


 飛散した氷壁の破片、また宙を漂っていた氷柱の破片が集約し、無数の鋭利な氷刃となる。標的はヴィカトリア。ジェフィは空中で剣先をヴィカトリアに向け、照射。

 

 迫りくる氷刃。しかし、ヴィカトリアは魔法を発動することなく、襲い掛かる刃の雪崩を、スタジャンのポケットに手を突っこんだまま軽いステップだけで避け続ける。

 

「──っ!?」


 ちっと舌打ちをすると、残った氷の刃を剣に集め、一本の巨大な腕を生成。それを重力のまま、振り下ろすようにヴィカトリアへ落下させた。


氷神の腕(アイシクル・アーム)!!!!!!」


 ヴィカトリアは自らに降り降ろされた巨大な腕を目の前にして、ぽかんと手を額に当てて眺めるのみ。 


(何故、一歩も動いていないんだ……!!)


 そして、ぴょんぴょんと地上を数回うさぎ跳び。



 瞬間、腕が落ちる前にヴィカトリアは空高く跳躍。ヴィカトリアのいなくなった大地に、氷の腕が衝突する。さらに地面からも腕が噴出し、二重の腕が地上付近で衝突する。


 ジェフィは瓦礫と化した二つの腕を氷柱に変化させ、再び空へ舞い上がる。そして、空中浮遊するヴィカトリアにまで届くと、


「いいね、ここまで気絶しないでまともに戦えてるの、キミが初めてだよ」


「お褒め頂き……」


「じゃあ、これはどうかな?」


 片方の手をポケットに突っこんだまま、もう片方の手をジェフィに向ける。


 そして、指を鳴らすと──


魔魂誘導(オルガナイズ)──《系統:天》


「暴風雨」


 ヴィカトリアを中心とする、雨風吹き荒れる竜巻が出現した。その規模は、リリアが王都で出現させた代物とは比べ物にならない。まさに荒野に現れた風の巨塔。

 

「ぐっ!?」


 ジェフィはその風圧に吹き飛ばされるも、竜巻の中で魔法を発動。


氷結の鎖コンゲラート・チェイン!!」


 ジェフィから氷の鎖が渦巻状にヴィカトリアへと発射される。


魔魂誘導(オルガナイズ)──《系統:元》


 パチンと指を鳴らすと、氷鎖は跡形もなく融解。


「くっ!!!うおおおおおおお!!!!!!」

 

 最後の手段。ジェフィは術式拡張(スペル・ディレイト)で竜巻内の雨水に魔法を展開、


氷礫乱舞(ダイヤモンドダスト)!!!」


 ジェフィの魔法によって、豪雨はたちまち氷粒へと固化する。ただの氷ではない。極限まで切れ味を追求した、極小の刃。それらが竜巻内で舞い、ヴィカトリアの皮膚もろとも抉っていく……ように見えた。


(傷ひとつ付かないだと……!!)


 ヴィカトリアが不敵に微笑む。


魔魂誘導(オルガナイズ)──《系統:天》


 直後、一筋の落雷がジェフィを貫き空気を裂いた。ジェフィはそのまま真っ逆さまに落ちていく。


「ぐはぁ!!!」


 一瞬で竜巻は止み、砂埃が立つ。

 地面に埋まったジェフィは、ガバッと身を起こした。それと同時に口から吹き上げてきた血を拭い、剣を支えに立ち上がる。


「えっと、今ので29秒か。惜しい、一秒差」


 悠然と歩いてきたのは、傷ひとつなくピンピンと腕を見つめるヴィカトリア。

 その姿に目を見張ったジェフィ。その瞬間、悔しくも脳裏にオスカーとの言葉を思い出した。


『ジェフィはそんな商会長にも達するほど強くなった。だって、俺と三日も修練したんだから』


(何を、仰られていたのだ、オスカー様は……)


 オスカーは言った。三日三晩修練したジェフィの実力は、ヴィカトリアにも達したと。そして確信した、今のジェフィなら、ヴィカトリア暗殺も夢ではないと。しかしその確信は、今を持って打ち砕かれた。


(ヴィカトリア様と同等に……?強くなんて、ないじゃないか……)


 ジェフィは頭を抱え、ブルブルと震えた。

 目の前の華奢な少女に。いや、その少女に眠る、深くて計り知れない脅威に。


(俺は……何しに来たんだ……そうだ、暗殺だ。ヴィカトリア様の暗殺……)


 ばっと、ジェフィはヴィカトリアを見上げる。

 ヴィカトリアは、横長の瞳を繰り上げながら、まるで神のようにジェフィを仰ぎ見ている。


「やぁ、まだ生きてるんだね」


 そう言って、和やかに手を振った。それで分かった。


(無理だ、私にヴィカトリア様を殺すなんて……無理だ)


 ジェフィは絶望を顔に染み込ませ、ガクガクと動向を震わせる。ジェフィの脳内に映り込んだ、オスカーの笑み。


(あぁそうだ……最初から無理だったのだ……しかし、オスカー様に唆され、強くなったと錯覚したのがこの様だ……)


 やはり、勘ぐるべきだった。なぜオスカーは、あの場であのような命令を出したのか。


(私は、騙されていた……強くなったと、誤解していた)


 ジェフィは膝から崩れ落ちる。


(では、なぜオスカー様は私を……)


「ヴィカトリアさん!」


 項垂れるジェフィを他所に、城門から荒息を吐きながら駆けてきたのはクルーガー。


「クルーガーさん」

「終わったのですか」

「えぇ」

「あなたは本当に……とりあえず、その穴は片付けてくださいよ」


 そう言ってあきれながらも、クルーガーはヴィカトリアが生成した陥没した大地を指さす。


「はぁ……まあ自分でやったことだし。そうだ、クルーガーさんは代替の馬車を用意してくれませんか。至急」

「いいでしょう」

「あと、アイツの埋葬も頼みます。一応、十年付き添った仲なので」

「あなたは優しいですね」


 クルーガーの言葉を流すと、ヴィカトリアはおもむろにジェフィに目をやる。


「キミも……あれ」

「いませんね」


 だがそこに、ジェフィの姿はなかった。

 


「はっ……ここは」


 項垂れていたジェフィだが、ふと我に帰ると、そこはいつものレディニア侵攻部隊の本拠地だった。だれかが魔法で転移させたのだろうか、そう思い顔を上げると、目の前には玉座に腰かけ不敵に笑みを浮かべるオスカーがいた。


「やぁ、お帰り、ジェフィ」

「お、オスカー様……」


 名を呼んだのも束の間、オスカーが座る玉座の背後に、


「──っ!」


 騎士と思われるものの死体が転がっていた。


「こ、この死体は……」

「どさくさに紛れて殺すよう仕向けたんだけど案の定失敗してね。だから殺した」

「殺す……?」


 恐らく、ジェフィと共に送り込まれた刺客なのだろう。ジェフィとヴィカトリアの戦いの裏で、暗殺を狙っていたのだろう。あの戦いには、それだけの隙は存在したはずだ。しかし、殺せなかった。

 もちろん、ジェフィもだ。ならば、自分もこの騎士と同様に、


「では、私も」

「お前は合格」

「へ……?」


 ニッと白い歯を見せながら、オスカーは言う。

 なぜ、なぜだろう。なぜオスカーはそこまで自分を、

 やはり、なんらかの強さを見込んでいるのだろうか。


「あの、オスカー様」

「ん?」

「何故、私もにあのような命令を出されたのですか?」


 ジェフィはガクガクと震える声でそう尋ねた。オスカーは相変わらず、得体の知れない藍色の瞳でジェフィを見つめている。


「オスカー様は、私がヴィカトリア殿と打ち砕けるとお思いだったのですか?」


 オスカーは考えることなく、


「ううん、全然」

「え……?」


 その答えに、ジェフィは一瞬の硬直を要した。だが、オスカーは続けて口にする。


「だって、たった三日だよ。それだけで地上の災害と戦って勝てるわけがないじゃん」


 へらへらと口にするオスカー。その瞬間、ジェフィの中で何かが割れる音がした。


「嘘だと、いうことですか?」

「だってそうでも言わないとお前、商会長を本気で殺そうとしてくれないだろ?」

「はっ……?」

「まあ、あの商会長を空高く飛ばせたのは凄いと思った。多分、ジェフィが初なんじゃないかな」


「ならばなぜ!!!」


 相手がオスカーであるも関わらず、ジェフィは声を荒げて追及する。


「ちょっと、お前を試したかったんだ」

「試す……?」

「言ったろ、合格って」


 そう言うと、オスカーはすっと立ち上がった。

 そして、呆けるジェフィの前に立ち、


「お前にちょっと来てほしい場所がある」

「場所?」


「明日、帝国に帰るぞ」


魔法の説明が分かりづらいようでしたらコメントお願いします!

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