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エンシェント・オリジン  作者: ホメオスタシス
第3章 王都動乱
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第62話 逆襲者《前編》

本当は次話と一つの話でしたが文字数の関係で二つに分割しました。後編は近日投稿します。

 クルーガーとヴィカトリアが訪れたのは、燈色の屋根が特徴の屋敷。

 そこは、とある中流階級の貴族が居住している豪邸だった。

 屋敷の南北を縦断するように続くレットカーペットの廊下。そこを屋敷の執事だという男の先導の下、クルーガーとヴィカトリアはひたすら歩く。

 三人は終始無言のまま。いや、執事は後ろ二人の異物さにおろおろと目を泳がせているようだ。それをカクカクとした首元の動きで察したクルーガーは、うんざりと前を歩くヴィカトリアに目線を移した。


「こんなところに僕を連れてきて、一体何を見せたいんですか?」

「まぁまぁ、それはついてからのお楽しみ」


 弾んだ声音で返すヴィカトリア。そう言いながらも、既に五分ばかしこの廊下を歩き続けている。にも拘らず先が一向に見えて来ない辺り、この屋敷の広大さに参ってしまうだろう。


(まあ、屋敷の主が中流階級の中でも大層有名な人物であることは、誰しもが口を揃えて口にすること。まさか、ヴィカトリカさんは主がアヴァロニカ帝国の手先とでも言いたいのか)


 ヴィカトリアがクルーガーを呼んだ理由は、問わずともアヴァロニカ帝国関連の情報を入手したからであろう。そんな情報が有名貴族の屋敷に眠っているとなれば、大問題である。

 そもそもなぜ先程からヴィカトリアは一言も言葉を発しないのだろうか。

 商人魂の塊のようなヴィカトリアが無言で歩くくらいになると、それくらい“ヤバい”代物があるのだろう。そういうことにしておこう。

 まあ、クルーガーにとっては話しかけないくらいだけありがたいのではあるのだが。何しろクルーガーの脳内には今現在にも膨大な数の使い魔からの監視映像が届いているのだ。

 いくら頭の柔らかいクルーガーといえど、それだけの情報を分析し、尚且つヴィカトリアのに応えるのは無理がある。

 しかもだ。この少女、毎度のこと話の内容が、同じ見た目年齢の少女とは思えないくらいに複雑で深刻(ヘビー)な内容の話が息をするように口から飛び出してくるのだ。それを受け答えするのは幾らか気力が要る。

 とはいえど、無言タイムに耐え切れなくなり自ら口を開いてしまったのは事実だが。

 

 しばらく歩いて数分後、相変わらず終わりの見えない廊下の一角で執事が突然立ち止まり、その脇にある焦げ茶色の扉の鍵をガチャガチャと開錠し始めた。


「この扉の向こうに、()()()が?」

「察しがいいですね。例の物が」


 やはり、アヴァロニカ帝国に関連性の高い物なのだろう。

 ならば運よく“内通者”についても情報を得られればと好都合だが。


「どうぞお入りください」


 執事が扉を開け、ヴィカトリア、クルーガーの順にその部屋に足を踏み入れる。

 暗く太陽の光一つ届かないその部屋は、見たところ書斎のようだ。

 しかし本棚や作業机、更には床に至るまで、クルーガーの研究室とは比較にならない程に物が散乱していた。これには流石のクルーガーでさえも。


(うわぁ……)


 散らばっているものの中には、本や羽ペン等々の書斎に置いてありそうな雑貨から、ボールやスプーン、化粧品などの明らかに書斎とは無縁そうな物さえ無造作に放置されている。


 その惨状に、ヴィカトリアは多少顔が引きつってしまうが、一言発した後のクルーガーは平然としたままだった。


「よくこの散らかり様を黙って諦観できますね」

「慣れていますから」

「へぇ……」


 あっけらかんと言ったクルーガーに、ヴィカトリアの目が細まる。


「が、僕の目から見てもこれは“酷い”の一言ですね。屋敷の使用人たちはこうなる前に清掃一つなさらなかったのですか?」

「わ、私もこの惨状を拝見しましたのは初めてでして……何分主様には中へ入るなときつく命ぜられておりましたので」


 そうわなわなと言い返す執事。呆気にとられたような焦り具合を見る限り、その言葉は真なのだろう。


「主……屋敷の主、()()()()()()()()()()殿にですか?」

「え、えぇ」

「いつから?」

「く、詳しくは私も覚えてはいませんが……確か一週間か二週間前くらいだと思います」

「ほほう。その間、この部屋はこの惨状のまま放置されていたと」

「そ、そうなりますね」

「主は今どこに?」


「それが此処へ来た本題です」


 クルーガーの問いかけには、執事ではなく黙々とゴミ溜まりのような部屋の一角を漁っていたヴィカトリアが応えた。


「本題?」

「実は屋敷の主、ネザ・シルヴァルードは三日前から行方不明になっているらしいのです」

「ほう」

「昨日の午前中、私が商談のためにこの屋敷を訪れた際に、奥様が泣きながら私に懇願してきたんですよ。夫を探してくれって」

「それで僕をこの屋敷に呼んだわけですね」


 なんとなくクルーガーは納得した。

 ヴィカトリアにとっても、突発的な出来事だったのだろう。王都の騎士に連絡せず、衝動的に頼りになるクルーガーに連絡したというわけだ。


「実は、この商談は一か月前から決まっていたものなんです。ですが商談相手である私に言伝せず行方を晦ますとなると、流石に何か事情があるのかと思いまして」

「その商談と言うのは?」

「些細なことですが、ネザ殿は王都の商工会の幹部も務めておりまして、月に一度、この屋敷で定例会議のようなものをしているのです。今回も王都の商店街に仕入れる武器等の値切り交渉をしたいと、二週間以上前から連絡を取り合っていたのですが」

「その後、ばったりと連絡が途絶えた……」

「そう言う事です」


 クルーガーの考察にヴィカトリアがビッと人差し指を向ける。


「では、私は紅茶の用意を」

「えぇ、少し時間を置いてからでお願いします」


 一礼をして執事は立ち去った。

 それを横目で見届けたクルーガーは、またもやガサゴソと土竜のように本の山を漁っているヴィカトリアに尋ねる。


「では、この塵溜めの中から失踪の手掛かりになり得そうな代物を探すのですか。ヴィカトリアさん、この後の用事は?」

「前倒しで王都での用事はすべて片付けてきましたので、日が暮れるまではフリーです」

「ふむ、現在時刻は二時頃。猶予はあと三時間ほどですか。なかなか泥仕合になりそうですね」

「いいえ、もう勝ち試合なんですけどね」

「と、いうと……?」


 すると、ヴィカトリアは本の山の中から、一冊の分厚い本を取り出した。


「見つけた」

「それが手掛かりなのですか?」

「昨日、仕事終わりにこの部屋に籠って証拠探しと言うの名の芋ほりを行っていたのです。まぁ、魔法を駆使したので一瞬だったのですが」

「そうでしたね。ヴィカトリアさんには魔法がありました」


 ヴィカトリアの手際の良さに呆れかえったクルーガーは嘆息を吐くも、直ぐにきりっとした目つきに戻る。


「それは?」

「彼の手記ですね」

「手記、ですか」

「実はこの本に書かれていた真実を、クルーガーさんにお見せしようと思いまして」

「ほう」

「どうやら事はかなりの重要さを持ちます。くれぐれも本格的な調査を始めるまでは他言無用のように」

「防諜用の結界を張った方がよろしい?」

「えぇ、()()が私たちを監視している可能性もゼロではありませんので」


 ヴィカトリアの頷きを確認すると、クルーガーはローブの内から魔杖を取り出す。

 そして魔杖を指揮棒のように左右に振ると、部屋全体が淡い藍色の光に包まれた。


「完了です」

「感謝します。では」


 と、ヴィカトリアは手に持っている手記を開こうとする。

 が、本は内側からページ全体がくっついたかのように重く、開く気配がない。


「御覧の通り、この本には何者かによって術式が掛けられています」

「第三者に閲覧されるのを防ぐ魔法術式……見たところ凶悪な犯罪者を捕縛する際に使用するような拘束術式のようですね。それも、本からにじみ出る魔力反応を見る限りなかなか高度なものとお見受けします」

「そうなんですね。初めて知りました」


 そう言うヴィカトリアは指をパチンと鳴らし、次の瞬間何事もなかったかのようにページは開いた。


「あなたは本当に……」


 クルーガーは眼前の少女のあまりの規格外さに思わず頭を抱えてしまう。

 が、そんな素振りもヴィカトリアは目に入れず、パラパラとページをめくる。


「ページの一つ一つにも術式が掛けられているようですね。それも、後半へ続くほど高度になっている。術師はかなり用心深い人物ですね」

「そうですね。その狡猾さは私の知っているネザ殿と一致します」


 そう普段の読書と同じように術が施されたページをパラパラとめくるヴィカトリアは、あるページで手を止め、それをクルーガーに見せびらかした。


「これを見てください」


 クルーガーもそのページを注視する。がしかし、


「ただ、ネザ殿が王都を散歩する様子を綴った日記ですね」

「そうですね」

「はぁ、暗号術式ですか」

「えぇ、解読した物を私が音読しますね」

「あなたの場合、“解読した”ではなく“読めるようにした”でしょ」


「端的に換言すれば、手記の主──ネザ殿は裏でアヴァロニカ帝国と()()()()を行っていたみたいですね」


 ヴィカトリアから放たれた言葉に、クルーガーはすっと眉をひそめた。


「ありがとうございます」

「何がですか?」

「これを聞いた瞬間のクルーガーさんの驚きようが見たかったので」

「性格悪いですね貴方」


 ふっと微笑するヴィカトリアを細い目で見つめたクルーガーは、コホンと咳払いして。


「つまりこの手記の主、すなわちネザ殿は、潜在的に奴隷商を行っていたと」

「そうですね。主にミレニア王国で捕虜とした獣人を取引していたみたいです」

「それも、アヴァロニカ帝国、にですか」

「正確に言えば、王国の反体制派──アヴァロニカ帝国への従属を呼びかける者たちとの取引です」

「所謂、アヴァロニカ派ですね」

「これが、二週間前までのことです」


 ヴィカトリアはぱらっとページをめくる。

 そこには手記の主が商店街の人々に気軽に挨拶を交わす文章が綴られていた。


「紆余曲折あって……」

「……?」

「コホン……!!いろいろあってのちに彼は反体制派のリーダーの座に就いたようです。私との連絡が途絶えた時期と一致していますね」

「ほう」

「これが、ハインゲアで亜人の姿が見えなくなった原因かと」

「ふむふむ、その影響かは定かではないですが、最近になって奴隷取引が活発化していますね。詳しく照らし合わせてみないと分かりませんが、亜人の往来が急激に減った時期とも一致している」

「そして、レディニア王国が滅びた日、とも」


 ヴィカトリアは静かに付け加える。

 

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