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エンシェント・オリジン  作者: ホメオスタシス
第3章 王都動乱
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第61話 この一撃で

最近リアルが忙しくなり週1回投稿になってしまっています。すみません、、、

 一人防壁に阻まれた安全圏で、エーリカは思索していた。

 

(今回も……私は後ろで見ているだけ)


 自分の弱さで戦闘には参加できず、ただ付与魔法(バフ)だけを掛けてあとは後ろから野次馬のように見ているだけ。レイズは、自らの拳にはエーリカの意志も込められていると鼓舞してくれた。だけど、それでは──


(私も、二人と共に戦えるようになりたい)


 自分の意志を、自分の手で、敵にぶつけたい。


(見ているだけなんて……嫌だ)


 自分の手で、夢を叶えたい。


 レディニア王国を復興させるという夢を、


 けど今はただ、見ていることしかできない。


 *


「もう逃がさないわよ」


 血塗を散らした身体をエーリカの盾とし、リリアは眼光を練磨させた。その手で構えた剣先は、ネザの心臓を抉らんとする医師が伺える。

 一方、ネザは太陽が沈み切り夕闇となった空を大仰に見上げ、


「悪いが、刻限が来た」

「逃がすと思ってる?」

「強行突破だ。無理にでも帰宅させてもらう」


 ネザは誇張された笑みを顔に張り、チャッと鞭を携える。


「私を待つ者がいるのでね」


 その瞬間、ネザはレイズとリリアへと駆けだした。

 正面突破。レイズとリリアは堅牢な防壁を固め、一方向の道を塞ぐ。

 その時、ネザは鞭え空気を引き裂いた。

 攻撃が来る。レイズは咄嗟に身構える。

 だが──


 直前、ネザは二人の眼前で一回転。

 勢いで振るった鞭の命中地点は、レイズとリリアではなく、


「っ!?」


 そこは、地面。


「何っ!?」


 地面との接触点で反射術式が発動し、ネザは吹っ飛ぶ。防壁を超え、その先の街道へと。


「レイズ、追うわよ!!」

「応!!!」


「レイズさん!リリアさん!」


 リリアはすぐさま剣に騎乗し、走り去ったネザを追う。レイズはエーリカを抱え上げ、近くの建物の屋根へ跳躍した。


 *


(これで分かった)


 夕刻と言うのに、人通りの乏しい大通りを駆け抜けながら、ネザは熟考していた。


(彼らには、十分な出演権がある。アヴァロニカ従属軍の配下も撤収したはず、土産話を聞くのが楽しみだ。当日、盛大な祭りとならん……)


 刹那──


 ネザの真正面から、レイズの脚拳が降りかかった。


「もう追いついたか!!!」

「逃がさねぇよ!!」


 咄嗟にネザは鞭を振り、弾き返そうとする。

 しかし、

 その背後には、城を防御する働き蜂のような小剣の群れが。


(どちらを避けるべきか……)


 選択──


(優先すべきは、獣人)


 ネザは吸い寄せられるように、背後に回転した。バチンと、小剣が鞭に吸い寄せられ、弾かれる。


「ちっ!」

 

 リリアは舌打ち、直ぐに真横に退避。

 そして振り返ったネザの腹に、レイズの脚拳が刺さった。


 ゴフッとネザは吐血し、空気の揺らぎと共に激しく吹っ飛ぶ。

 そして、煉瓦造りの建物の外壁に激突した。衝突の影響で外壁は破壊され、ガラガラと瓦礫がネザへと落下する。

 だが、鞭で周りの瓦礫を払い、直ぐに立ち直る。

 その周りには、リリアの武器たちが構えていて、


「やるな」


 リリアの号令と共に、それらが一気に射出される。

 砂埃が天に昇った。しかしそこに、ネザの姿はなく、


 気付くと、リリアの背後にいた。


「君たちの得意技を、少し真似させてもらおう」

「っ!?」


 背中に直に鞭が被弾し、リリアは吹っ飛ばされる。

 そこへ、上空から現れたレイズが固めた両拳を振り下ろしネザの脳天を打撃。

 ネザは半回転で躱し、鞭をしならえレイズの脇腹を標的とす。

 だが、そのタイムラグを利用し、復活したリリアがネザの項を蹴り抜かんとした。


 ネザは身を屈ませそれを回避。

 その時、懐に入り込んだレイズから超至近距離で拳の猛襲が放たれる。ネザは鞭を振る暇もなくひたすらに避け続ける。

 背後から、リリアの一閃が放たれた。

 挟み撃ち。両方から拳の剣の攻撃がネザを襲う。

 取った。そう確信した二人。しかし、

 

 レイズとリリアは吸い寄せられた。ネザではなく、周囲の建物に、

 リリアはシュン治に引き抜いた剣に飛び乗り衝突の寸前で態勢を整える。が、レイズは吸い寄せられた建物と激突する。

 瞬時に立ち直り、地面を勢い良く蹴り上げ逃亡したネザの背後に接近する。

 リリアも同様、ネザの前に立ち塞いだ。


「しつこいな。私を捕えようとする確固たる意志が伺える」


 最終手段と、ネザは集約魔法を発動。周りに存在する物体全てが、ネザに吸い寄せられる。

 だが、ネザの集約魔法は身体の正面にのみ、背後のレイズは射程外。それが、ネザにとっての隙だった。

 

「レイズ!!!」


 剣を操作して集約魔法に抵抗するリリアから名を呼ばれる。


「なにっ!?」


 ネザは首を振り向くが、そこにはすでにレイズの姿が、身体ごと振り返る暇は、既にない。


「この一撃で、お前を倒す!!!!!」


 そして、拳が放たれた。決して、標的を逃がさんと──


 衝撃圧縮(ショックウェーブ)《クラッシュ》!!!!!!


 瞬間、レイズの地面に向けて放たれた拳が、ネザの身体に大量の圧力を負荷させる。


「んぐっ!?」


 その圧力に耐えきれず、ネザはうつ伏せに倒れた。


「今度こそ、追い詰めたわよ」


 倒れ伏すネザに、リリアは剣先を向けた。


「見事……」

「亜人を弄んだ代償を、払ってもらう」


 言い終える間もなくリリアはネザにまたがり、スパンと剣を振り上げた。


「これは……使いたくはなかったが……やむを得ん」

「っ!?」


 倒れたネザの背中に、大柄な穴が開く。


「何が……くっ!!!」


 同様に眉を歪ませるリリア。だが、その直後、

 プツンと、意識が途切れた──


「リリア!!!」


 その変化を察し、立ち上がったまま俯いたリリアを凝視するレイズ。

 だが、次の瞬間、

 リリアは剣を振った。


「なっ!?」


 レイズへと──


 咄嗟に魔力を張った両腕をクロスさせ、リリアの剣をガードするレイズ。


「てめぇ、リリアに何をした!!!」


 倒れているはずのネザに声を荒げて叫ぶレイズ。

 だが、そこにネザの姿はなく、


「さラバダ」


 その声だけが、レイズの脳内に響いた。

 ギリギリと、火花が散る。それと同時に、剣の重みが増していく。


「亜人を……殺す……!」

「リリアしっかりしろ!!自分を取り戻せ!!!」


 レイズはそう訴えかけるが、リリアは剣を離し、横薙ぎに一閃する。

 レイズはすっと回避し脚拳でリリアの脇腹を差す。

 その攻撃を直に喰らいリリアは吹き飛ぶ。


「ちっ、どうなってやがる!!」

「レイズさん!!リリアさんは操られてます!!!」

「操られ……っ!?」


「お願い……私を殺して……意識を乗っ取られる前に……早く……!!」


 痛んだ脇腹を押さえつけ、舌を噛み、自我を取り戻しながらリリアはそう呟いた。

 その時、レイズの脳裏に浮かび上がった光景。冷徹な瞳でリリア達を殺そうとした、エルフの森の長老。エリオーン。


「亜人を殺す!!!」


 再び意識を失い、言わされるままに剣を振りレイズに突撃したリリア。 


「どうすれば!?」


 レイズが構えた、その時──


「なにしてるっすかああ!!」


 二人の間から、銀色の光が注がれた。


 ブワンと空気がしなり、レイズとリリアの間に槍が振り下ろされる。


「アリッサ!!!」


 咄嗟にレイズがその少女の名を叫んだ。

 

「何をしてるって……っえ!?」


 レイズを振り向いたアリッサの背後には、剣を振るうリリアが……


「亜人を……殺す!!!」

「っ!?」


「《命じる!その事象を駆逐せよ》!!!全て一(オールワン)!!!」


 とっさの判断でアリッサが発動した魔法で、リリアはすっと息が抜けたようにばたっと倒れた。


「ダイジョブっすか!?」

「リリア!!」

「リリアさん!!!」


「一体どうなってん……」


 後から駆け付けたミレーユも、リリアのげっそりとした表情を伺う。


「ごめん、私のせいで、逃がしちゃった」


 むぐっと立ち上がり、後悔の念を吐いたリリア。


「そんなことどうでもいい!何があった!!」

「分かんない。いきなり、意識が途切れた。それで、変な思想が入り込んできて」

 

 レイズとエーリカは、互いに目を見合わせた。


(さて、何とか逃げ切った)


 夜の帳が王都中を覆ったなか、建物の屋根を伝うように移動するネザ。

 

(部下は何匹か捕縛されたか。どれ、その者たちには記憶消去でも施しておこう)


 王都の壁の外を見つめる。


(あとは、場外だけか)



 *


 時は戻り、昼過ぎごろ。

 宮廷魔術師のクルーガーは、とある豪邸の正門前で腕時計をずっと凝視していた。

 眺め始めてはや二時間、いい加減うんざりしてきたクルーガーの前に現れたのは、


「遅いですよ。ヴィカトリアさん。今何時だと思ってるんですか?」

「すみません、商談が思ったより長引いてしまって」


 気だる気な目をしたアッシュブラウンの髪の少女、ヴィカトリア。今日はいつもの路地裏のような服装とは違い、白いワンピースを着こなしている。その上には何故だがスタジャンを羽織っており、清楚なワンピースの雰囲気を台無しにしてしまっている。


「だとすれば事前に言伝してくれればいいじゃないですか。脳内会話の方法はお伝えしたんですから。早朝から待ってたんですよ僕。周りに怪しまれながら」

「そりゃ日傘差しながら何時間も突っ立ってるからでしょう」

「なんですか?」

「いやなんでも」


 カラッとしたヴィカトリアの言葉に少々不貞腐れながらも、クルーガーは本題に入る。


「で、僕を此処へ呼んだ理由は?」

「えぇ、ちょっとヤバイモノを見つけてしまいまして」

「ヤバイモノ?」


 抽象的な物言いに困惑するがクルーガー。クルーガーの疑問も他所に、ヴィカトリアは屋敷の守衛に話しかけ、戻ってきた。


「まあまあ、それは入ってからのお楽しみです」

「はぁ」

「家主に許可は取りました。さぁ、入りましょうか」


 そう言って、ヴィカトリアはクルーガーを中へ促した。

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