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エンシェント・オリジン  作者: ホメオスタシス
第3章 王都動乱
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第58話 自信

「見ツケた、演者候補。イイや、主演候補」


 レイズ達三人の前に現れた漆黒の異形。

 その者は顔面の包帯が途切れて僅かに伺える漆黒の瞳で三人を見つめている。


「なによ……あいつ」


 リリアはその容貌と声に冷や汗を垂らす。

 レイズも同様だった。しかしエーリカは……


「酷い……どうして……」

「エーリカ!?」


 口を押え身震いしているエーリカの様子を一目見て、リリアは卒倒してエーリカの名を呼ぶ。

 エーリカの揺れる瞳は、眼前の異形に向けられていた。


「あの人の……身体……」


 エーリカは震えながら、その者を指さす。

 レイズとリリアは、咄嗟に男の全身を見やった。


「身体がどうした……って!?」


 瞳の色と同じく、男の筋骨隆々な黒き体躯には接合された跡らしき治療痕があった。まるでいくつもの身体が合わさった様に、


「なんだあれ!?」

「瞳も、腕も、足も、全部……あの身体は……多くの死体が……()()()()に成って……」


「はぁ!?」

「んだと!?」


 エーリカが放った衝撃の事実に、レイズとリリアは揃って驚嘆する。

 そして──


「看破シタか……成程、貴殿ガ、レディニア王国第二王女……」


「「「!?」」」


 ──エーリカの正体を、言い当てたのだ。


「なんで……エーリカの正体を!?」

 

 わなわなと震えたリリアの問いかけも応えることなく、男は装束を振り払って胴体を現し、自らの名を名乗った。


「我ガ名ハ、ネバ……ネバ・ヒルヴァルード(ネザ・シルヴァルード)。帝国ノ意向にヨリ、レディニア王国第二王女奪取ノ任ヲ開始スル」


「帝国!?」


「合ワヘテ、選定ノ、任モ」


 その者の正体を知ったリリア。

 そこに、ほぼ確信とも言い切れる一つの疑惑が浮かび上がる。


「あんた……アヴァロニカのスパイ?」

「こいつが内通者か!!」


 レイズもネザを一目見てリリアに同調する。


「ハぁ、どウハナ」

「シラを切るつもり?」


 リリアが尋問を加えようにも、男は沈黙したまま。

 ならば力ずくで男の正体を暴くのみ。


「エーリカ、下がってろ」

「レイズ……さん」

「此処は俺()()が片付ける。お前を守るって決めたからな」

「……!」


 レイズに頷いたリリアは、共にエーリカの前に立つ。


「どのみち、内通者だとしたら逃がす気はないけどね!!」


 そう言って、リリアは魔剣アダマンテインの鯉口を切った。


「見極メを開始フル……愉快な戦とヒよウ」


 ──その瞬間、戦いの火蓋は切られた。


 リリアはすぐさま剣に飛び乗り空中へ浮遊。

 レイズはそのまま地を突っ走り、地上と空の両攻撃を仕掛ける。

 ネザは鞭を取り出し、二人を迎え撃つ。

 

「来ヒ、主演候補、タチよ」

「何言ってんのか分かんねえな!!!」


 ネザへの初撃は、一瞬で懐に入り込んだレイズからの拳の突き上げだ。


衝撃拡散(ショックウェーブ)《パルス》!!!


 衝撃魔法の衝撃を伴って、

 ネザは鞭を振るうにも、その前に展開され同心円状に空気中を伝った衝撃波により吹っ飛ばされる。

 そこへ間髪入れずにリリアが、


 流星剣(シューティングスター)


 空中から放たれた撒菱状の球体、そして小剣。その数ざっと数百個。

 それらにリリアの魔法が加わり、雪崩のようにネザへ向け落下する。

 リリア自身も飛翔剣を操作し、武器たちの後方を追うように落下。

 それらは本の一秒も満たない出来事。

 レイズのパンチを直に喰らい体勢を崩したネザは、

 降りかかる鉄の雨に対応できず──


「なっ!!」


 ネザは乱れた態勢から鞭をしならせ、あろうことか球体や小剣に振るった。

 その軟鞭に触れた武器の数々は()()()()、重力に反して今まさに此方に落ちてくるリリアへと標的を転換した。

 リリアは咄嗟に両腕に魔力を込めると、顔を覆い隠し武器を防ぐ。

 だが、全ては防御できず服や皮膚を軽く抉り取った。

 ネザも同様に全ては回避できず身体には血が滴っている。

 

「っ!!」


 その隙を突き、ネザの背後からレイズが蹴りの一撃を放つ。


「おらあああああああ」


 ネザは瞬時に転回し、放たれたレイズの右足に鞭を振るった。

 そして、レイズの足と接触した瞬間──


「なっぐわあああああ!!!!!」


 謎の衝撃がレイズを揺さぶり、その後レイズは勢いよく宙に吹っ飛んだ。

 

「ぐっ!!!」


 レイズは空中で待ち構えていたリリアにキャッチされ、地上に着地する。

 その時にはすでにネザが待ち構えていて──


「なにっ!!」


 今度はネザがレイズの胴体に鞭を振るったことで、レイズは空気中に人型の残滓を残して後方へ吹っ飛ばされる。

 地面を抉り取り、数メートル吹き飛んで倒れ伏したレイズ。

 身体の所々にできた傷を押さえ立ち上がる。

 そこへ、剣に飛び乗ったままのリリアが空中から降下してきた。


「くそ、なんだありゃ」

「多分、アイツの鞭には反射術式が掛けられてる。気を付けて」


 反射術式。

 それは、術式に接触した物体が跳ね返るという趣旨の単純な魔法術式。

 しかしあの異形がそんな簡単な術式のみを行使するとは考えられず、リリアは数舜思索する。

 その間にも、ネザは此方に接近してくる。


「んじゃ、要はあの鞭に当たらなきゃいいんだろ!!」

「そういうことね」


 互いに頷くと散開。レイズは激しく跳躍し、エーリカのいる地点に戻る。

 リリアは再び空中に浮遊すると、スッと魔剣を構えた。


(単純だけど、なかなか一筋縄ではいかない術式。それがあの鞭に装填されている。まさに高相性)


 リリアはマリンブルーの双眼でネザを見つめ、静かに思考する。

 

(そしてレイズにも勝るあの俊敏さ)


 ネザは圧倒的な俊敏さを誇るレイズの背後からの攻撃に即座に対応し、二度のダメージを与えた。

 それははっきり言えば異様。地上戦ではリリアのスピードにすら追いついてくるかもしれない。


(ならば空中から、アイツよりも格段に速いスピードで早々に決着をつけるのみ)


 ネザが他にどのような魔法を隠し持っているのか、リリアには分かり切れない。

 だからこそ早期決着を選ぶ。

 それは傲慢とも言える、リリアの圧倒的な自信の表れでもある。


 リリアになら可能。

 エルフとしての、獣人としての矜持が、あの異形よりも勝っていると。

 魔力は先程の戦いよりもほんの少しは回復したが、まだ僅か。

 最早《操剣魔法》以外の魔法を放つ余力はない。

 否、極端に魔力消費の低い《操剣魔法》なら何発でも放つことが可能。


 リリアはポーチに収納された全ての武器をばら撒き、そこへ自身の魔力を加える。


 流星剣(シューティングスター) 


 武器たちはリリアの魔力を帯び、術式に従い再びネザへ向け射出される。

 そして──


追尾モード(ホーミング)!!!)


 追尾性を持たせた武器たちは真っ逆さまにネザに落下したのち、地上すれすれで軌道を変え真正面からネザへと降りかかる。

 ネザは案の定鞭を振るい、それらを跳ね返そうとするが。

 

「ホう」


 ネザが鞭をしならせる寸前に、一時的に高度を急激に下げたリリアが剣の一薙ぎで牽制する。

 ネザは態勢を乱し、再び上空へ舞い上がったリリアの背後から──


「っ!!」


 武器の大群がネザを襲う。


 応戦(リアクション)も敵わず、ネザは武器たちに吹き飛ばされ宙を突き進んだ。

 その武器をリリアが操作し、ネザは空中でなす術もなく武器の圧力に身を委ねたまま空中を泳ぐ。

 その後ある一点に落下した。

 そこは、王都の花の形の一環となった小広場。


 リリアが腕の動作で武器たちの軌道を変えると、ネザは破竹の勢いで広場に落ちる。

 ネザはその広場の中心に地面を抉って仰向けのまま落下した。

 すぐさま立ち上がり態勢を整えるが、


(ここでなら、あれができる)


 リリアは上空からネザを眺め、背後に大量の武器を備える。


「アンタのしたいことが何事か、私には何ら見当もつかないけど」


 全ては自分を支えてくれる仲間たちのために、


「私は私の、責務を果たすのみ」


 すっと、リリアは立ち尽くすネザに向け片手を広げた。

 そして──


「《操剣魔法》我流奥義──」


星屑剣舞(スターダスト・バレル)!!!


 瞬間、リリアの背後の武器が一斉に魔力を帯びる。

 それらはまるで、地上に降り注ぐ星屑のようにネザに落下し、


 ネザは迎え撃つも、なんと武器たちはすれすれで()()


「っ!?」


 一斉に広場の周囲へと軌道を変えた武器たちは地面や建物に当たると、接触した物体を跳ね返り、ネザに──

 四方八方から、ネザに放たれる武器たち。


流星剣(シューティングスター)+反射術式+追尾術式。私が編み出した《操剣魔法》の応用技よ」


 ネザは俊敏な動作でそれらを避け、時には鞭で弾く。

 が避けたところで、弾いたところで武器は再び跳ね返りネザへと向かう。

 天空に弾こうとも、リリアに剣で弾かれ再び地上へ落ちる。


 リリアは剣を構えてネザの隙を突く。

 武器の目から逃れるのに必死だったネザは、瞬間に現れたリリアの一撃に対応できず、


「ぐっ!!!」


 胴体を剣で抉られる。


 リリアは再び上空に舞い上がった。

 それの繰り返し。

 リリアは空中で待機する。

 必殺の一撃が到着するまで。

 ネザは武器への対応で精いっぱい。

 捉え逃した武器やリリアの一薙ぎによりダメージを受ける。

 その間もネザの口元は緩んでいた。

 その時、


「リリア、エーリカを頼む!!!」


 建物の屋根から、エーリカを抱えたレイズが飛び降りてくる。

 投げ上げたエーリカをリリアが抱えると、レイズはネザに急降下。


「最後の一撃は任せたわ」

「おう!!!」


 空中で拳を突き上げ、金色の光を灯す。

 そして──


 衝撃放出(インパクト)!!!!!! 


 ネザの上空から放たれたレイズの巨大な一撃は、急激に加わった圧力により、大量の血潮が噴き出た。

 がららと、ぽたぽたと流血したネザがぽつりと呟く。


「やるデハナイか」


 そして、着地した三人に一言。


「見極メは合格ダ」


「もう諦めたらどう?あなたはここで終わりよ」


「終ワらんヨ」


 ふっと、ネザが包帯の中で笑みを漏らす。

 そして、ふっと肩の力を抜いた、その時──


「「「──っ!?」」」


 立ち尽くす三人に突如謎の力が働き、身体がネザに引き寄せられた。


「なんだこれ!?」

「吸い込まれる……!」


 三人はなんとか必死に抗うように地を蹴るが、身体はそれを許さず。

 遂にレイズとリリアは地面から離れ男に吸い寄せられた。

 そこにはネザの鞭が、


「ぐぁ!!!」

「あぁっ!!」


 それを直に喰らい、二人は吹き飛ばされ建物の外壁に突っ込んだ。


「ぐっ!!」

「なによこれ……」


「レイズさん!!リリアさん!!!」


 魔法が解除され、その場で大仰に二人の名を呼ぶエーリカ。

 しかし、その前にはネザの姿が……


「エーリカ……」


 エーリカは立ち尽くすが、ネザの体躯に圧倒されしり込みする。

 だがネザは──


「なアに、たダでは連れ去らンよ」

「え?」

「楽シくなってきた」


 瞬間、ネザはその身体を天に掲げるように、ぶわっと両腕を広げた。

 そして、エーリカ、リリアとレイズに一言。


「ここからは、(オレ)矜持(プライド)で行かせてもらう」

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