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エンシェント・オリジン  作者: ホメオスタシス
第3章 王都動乱
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第39話 リリア・キャンベル 居場所

今回はリリア(がやばい)回です

 チンピラとの一悶着が解決し、裏路地を抜けたレイズ達一行は、チンピラの一人から教えてもらった情報を頼りにお洒落なテラスが併設されたカフェにやってきた。

 到着するなり、香ばしい小麦の匂いが漂ってくる。その匂いに、エーリカはじゅるりとよだれが垂れそうになるのを我慢し、店内に入ろうとするが、


「私、ここで待ってるわね」

「え、なんでですか?」

「だって……」


 何かを言いかけ口をつぐんだリリア。その視線はカフェの店内に向けられている。エーリカはふと店の中を見つめると、そこには溢れんばかりの人でごった返していた。店先の看板から察するに、どうやらこの時間帯はモーニングの時間帯らしい。それにしても人多すぎるなと看板を注視していると、看板にとってつけられた白い紙に目立つ字体でこう書かれていた。


『セントレア食べラン大賞 カフェ・レストラン部門ランキング二位』


 どうやら、この店は王都でも屈指の人気店だったらしい。


「どうしましょう、こんなに混んでたら時間までに食べられるかどうか……」

「は、腹減った……」


 途端、顔をしおらしくしたレイズがその場にドカッと膝立ちになる。


「れ、レイズさん大丈夫ですか?」

「くそ、朝から何も食ってない上にエーリカをおぶって戦いもしたから……もう動けん……」

「どどどどうしましょう!リリアさん」


「どうしましょうって言われても、あんたは此処に行きたかったんでしょう?」

「でもテラスも見たところ満席ですし、中に至っては……」

「テイクアウトすればいいじゃない。それなら買う時にちょっと並ぶだけで済むでしょ」

「そ、そうですね!私、行ってきます!リリアさんは、レイズさんを見ててください!」

「はいはい」


 そう言って颯爽と中に入って行ったエーリカを真顔で見送ったリリアは、遂に店先で倒れ伏してしまったレイズを見下ろす。


(というか邪魔よね。どうしよう)


 一応辺りを確認するも、人、人、人でうっと息が詰まってしまったリリアは、レイズの背中を小指でちょんちょんと摩るが、一向に返事がない。


(何?お腹空くと死ぬのコイツ?)


 リリアはどうしようと考えた末、反応のないレイズの両腕を持ち、ズルズルと人のいない場所まで引きずる。と、そんなシュールな光景に、引きずっているうちにリリアの内側から無意識に笑いがこみあげてきた。

 

(くくっあんだけ無邪気に騒いでた奴が無様に倒れてる姿、なんて滑稽なのかしら。ぷくく)


 そう薄ら笑いを浮かべたリリアの顔はもはや悪人にしか見えない。


(剣で突き刺せば目覚めてくれるかな。いや流石にそれは死んじゃうわよね)


 さりげなくサイコ染みた発想をするリリアだが、流石に良心が残っていたようで数舜で心の奥底にしまう。ひとまず見守ることにしたリリアは、ちょうどいい建物の壁に寄りかかりながら座り、まじまじとレイズの顔を見つめた。


(結構イケメン)


 生まれてこの方、人の顔など気にすることなく生きてきたリリアだが、そんなリリアの眼から見てもレイズの顔は整っているようだ。


(エーリカも傍から見れば美人の部類に入るらしいし、案外お似合いかもねこの二人)


 そんな二人と共に自分は旅をしている。リリアはそんな事実に、口を緩ませる。 


(いざ二人が結ばれたら、私は邪魔になっちゃうのかしら)


 自分は、生まれてから何度も居場所を転々としてきた。故郷を追われ、エルフの里も旅立ち、そうして見つけた新しい居場所。

 だが、もしレイズとエーリカが結ばれたら、自分は出ていかなければいけないのだろうか。二人なら、自分を留めてくれるかもしれない。

 だけど──自分がそれを許さないかもしれない。


(私は、私を同じ人として優しくしてくれた二人が好きだし、感謝もしてる。でもいつか、そんな二人とも別れなければいけない時が来るのかも)


 そしたら自分は、再び一人ぼっちになってしまうのかな。また、あの時みたいに、


 私を、一人にしないで──


「どうしたんですか?リリアさん」


 気が付くと、エーリカがぽかんとした目で自分を見下ろしていた。どうやら、座ったまま俯いていたらしい。


「随分と早いわね」

「それがですね!お会計がイートインとテイクアウトに分かれてたんです!流石は人気店!混雑することも視野に入れてたんですね」

「よかったわね、早く買えて」

「リリアさんどうしたんですか?元気ないですよ?」

「な、何でもないわ。それよりそこで生き倒れてる情けない男に食料を与えてやんなさい」

「そ、そうですね!」


 エーリカはそう言うと、うつ伏せで倒れているレイズの背中をパンパンと叩く。


「買ってきましたよ!起きてください」

「は、早く食わせてくれぇ」


 片手をプルプルと上げながらエーリカに命乞いするレイズに、慌てて茶色い紙袋からロールパンを取り出すエーリカ。


(私には反応しないのにエーリカには反応するのね)


 リリアはそんな考えをしてしまった自分に驚く。嫉妬なのか。いや嫉妬かもわからない。とにかく、二人の仲睦まじい様子に、胸の奥がズキズキと音を立てるのだ。


 ──疎外感だ。


 ああそうか、自分は、二人とは別の次元にいるんだ。そういう感覚に、リリアは苛まれてしまう。 


(やっぱり、あの二人は……)


「リリアさん……どうして泣いてるんですか?」

「え?」


 ふと目線を上げると、エーリカが呆然とした表情で自分を見ている。力を取り戻し地面に胡坐を掻きながら口をもぐもぐさせているレイズも、ただ事ではないという目でリリアを凝視していた。


「何かあるなら私に話してください」

「何もないわよ」

「泣いてたんですよ!ないわけないでしょ!」

「……!!」


 エーリカが声を荒げたことに、リリアは目を丸くする。


 こんな表情のエーリカ、見たことない。


「話してください。私たちはお友達じゃないですか」

「あ、あなたと友達になったわけでは……」

「じゃあなんで泣いてたんですか?」

「え?」


「その涙は、心を開いた人の前でしか流さないんですよ」


 死霊術師のエーリカだからこそ分かる、リリアの内にある哀しき心情。

 その言葉に、リリアははっと胸を押さえつけた。

 そんなリリアにエーリカは身を寄せ、視線をエーリカに合わせて跪いた。


「話してください。私に」

「……」

「リリアさん」


 エーリカ勢いに呑まれたリリアは、掠れた声で口を開く。


「私が、二人に置いてけぼりにされるんじゃないかって、ふと思っちゃって。あなたたちすごく仲いいでしょ。だから」

「な、なんでそんなことすると思ったんですか」

「だって!二人は私よりも出会ったのは前だろうし、二人の関係は私にでも分かるくらい深いじゃない!そんな二人に、ぱっと出の、ましてや種族の違う私がいても、いつか別れちゃうかもしれないって……あなたもそう思うでしょ!?」

「リリアさん……」


 エーリカが見たリリアの表情は酷く険しい。マリンブルーの瞳からは涙がこぼれていた。


「お願い……私を一人にしないで……」


 掠れ声で、リリアはエーリカの裾を掴み懇願する。

 

 もう一人ぼっちは嫌だ。家族を焼き殺されたあの日みたいに。

 また復讐心に呑まれ、自分を見失いたくない。ただそれだけ。


「分かった」


 突然、エーリカの後方から声が聞こえる。

 その声はレイズだ。立ち上がり、涙ぐむリリアにゆっくりと近づく。そして、


「だったら、これからはリリアも守ってやる」


「え……?」

「エーリカとリリア。纏めて俺が守る」


 強張った表情から放たれたその言葉。しかしその優しい言葉は、リリアの心の内から、温かい何かが溢れ出た。

 人目も気にせず、子供のように泣きじゃくるリリア。そんな小さな体を、エーリカがぎゅっと抑えた。

 

「気を張らなくていいんです。遠慮しなくてもいいんです」

「うぅ……」

「一人ぼっちになるって心配しなくたっていいんですよ。だって私たちはお友達じゃないですか」

「二人とも……大好き……」


 リリアの真っ白な髪を優しく摩るエーリカに、リリアは嗚咽しながらそう言い漏らした。


「ごめんなさい、私」

「いいんですよ。わだかまりは取れましたか?」

「うん。ありがとう」


 晴れた表情でそう言葉を漏らすリリアに、エーリカは紙袋の中からパンを取り出した。


「ちょっと冷めちゃったかもしれないですけど。食べてください」

「いただくわ」


 そう言って小麦色のロールパンを一口かじる。いっぱい泣いてしまったのか、ほのかに塩の味がしたそのパンは口の中に入れるとほろほろととろけ、潤った喉に送られる。


「そうだ、レイズ。さっきあなたが言ったこと訂正させて」

「なんだよ?」

「私、自分で言うのもなんだけど強いから。あなたに守られなくてもやっていけるわ」

「あ?」


 挑発的にそう応えたリリアに、レイズは口を尖らせる。その後、リリアはにんまりと口を開き、


「だから、あなたと一緒にエーリカを護らせて」


 きりっとした瞳で立ち上がり、レイズに拳をかざした。


「んだと!?だったらどっちがエーリカを守り切れるか勝負だ!」

「なんでそうやってすぐ勝負事に持ってくのよ」


「わ、私もお二人を護りますよ!」

「あんたはもっと強くなってから出直してきなさい」

「ひどいです~!」

「ふふっ、ほれにひても、ほのパン美味ひいはね」

「もっとありますよ。食べますか?」

「頂戴」


「おいまだ俺一つしか食ってねえぞ!これじゃあ腹満たされねぇ!!」

「残念ながら残り一個みたいです」

「悪いわね。最後の一個は頂くわ」

「くそ、腹減った、死ぬ」


 次の瞬間、レイズは再び地面に仰向けに倒れた。


「ふふっ無様ね。そのまま野垂れ死ぬがいいわ」

「それ物語で言うと完全に悪役のセリフですよ」

「悪にだってなれるわよ。三人でいつまでも一緒にいられるなら」

「情緒どうなってるんですか?」


 リリアにできた、新しい居場所。そして永遠の居場所。

 この居場所を護るためなら、自分は悪にだってなってみせる。

  

 ──もう絶対に、一人ぼっちにはならない


 リリアはそう、硬く胸に誓った。


 *


 ハインゲア王国セントレア王城正門前。レマバーグの街と同じく、セントレアの壁門から延びる大通りの先にその巨大な門が存在するが、その規模はレマバーグとは天と地の差だ。正門前の大通りには今日も多くの人や馬車が行きかい、活気さにあふれている。


「レイズ君たち、遅いっすねぇ……」


 二人の守衛が警備する正門の前に、鎧姿の少女がしきりに腕に着いた腕時計を見つめながら立っている。

 アリッサ・クライメット。ハインゲア王国騎士団第二叙勲、キュオレ騎士に所属する小柄な少女だ。

 アリッサは片足を地面にバタバタと踏みつけながら、不機嫌そうに人の群れが途切れることなく通り過ぎる目の前の大通りを眺めていた。そこに、


「すみませーん。遅れました!」


 大通りの左側から、腰まで伸びた茶色の長髪を揺らしながら、手を振って此方に走って来る少女、エーリカが視界に入り込んでいた。

 と、その後ろにはリリアに背負われながらぐったりとしているレイズが見て取れる。


「え、レイズ君、どうしたんすか?」

「えっと、お腹空いてたのでレストランに寄ったんですけど……いっぱい食べすぎちゃったみたいです」

「なんすかそれ……」


 てへへと苦笑しながらそう応えるエーリカに、アリッサは細い目で指摘する。

 エーリカが買ってきたパンの最後の一個をリリアに食べられ、空腹で気絶しまったレイズ。そのため、エーリカは近くの手ごろなレストランを探し出し、リリアがレイズを背負ってそこに駆け込んだ。だが、メニュー表を開いて店員を呼んだ途端、レイズのためを思ってエーリカが料理をこれでもかと注文してしまう。そのせいで、やって来たのはテーブル一台には収まりきらないほどの料理の数々。エーリカとリリアも仕方なくその料理に手を付けるも早々でリタイアしてしまい、レイズもエーリカが頼んだものだから残せるわけないと残りを一人で平らげる。しかし、案の定食べ過ぎで胃がオーバーフローを起こし今に至るのだった。

 

「それで、レイズがその後何時間もトイレに籠っちゃって」

「早めに入れてよかったですね……集合時間にちょっと遅れたくらいで」

「いや、その前にエーリカが頼みすぎなければこんなことにならなかったでしょうが」


 そう二人の会話を細い目で見つめていたアリッサだが、ふとリリアの顔色を見て口を開く。


「なんかリリアさん、顔変わりました?」

「え、そう?」

「なんか、以前は死んだ魚のような目をしてたっすけど、今はどことなく明るいっす」

「何それ初耳なんだけど」


 真顔でそんなことを言い漏らすアリッサに、リリアの眼が再び死んだ魚のようになる。


「な、何かあったんすか?」

「ちょっと、私の居場所を見つけてね」

「居場所?王都にっすか?よく見つけましたね。王都は貸し物件でも家賃バチクソ高いっすよ」

「もういいわ。それより早く案内しなさい」

「なんでそんな不機嫌になるんすか!?」


 一瞬で以前の暗い表情に変貌したリリアをアリッサが追求しようとするが、突如発生したリリアの殺気に委縮してしまう。

 と、リリアの背中で同じく殺気を感じ取ったレイズが、苦し紛れに小さく呟く。


「はっ……腹が……苦……しい……」

「じゃ、じゃあさっそく案内するっす。アタシについてきてください」


「お願いします!アリッサさん」


 エーリカの言葉に、アリッサがはーいと返答し守衛に声を掛ける。すると、大門はガタンと鈍い音を立て、徐々に開いていく。すると、門が開くにつれ、中の景色がだんだんと見えて来た。


 門の先にあったのは、城壁すべてが純白に染まった白き巨城。ハインゲア王国、王城セントレア。


「き、綺麗……」


 その美しさに、エーリカは思わず感嘆の息を漏らす。


「さ、こっちっすよー」


 美しい王城の外観を見慣れているような口調のアリッサは、軽い口調でエーリカとレイズを背負ったリリアを促す。

 四人はイシュタリア邸の二倍以上面積のある王城の庭園を抜け、庭園でもひときわ目立つ噴水の傍にある騎士用の出入り口から城の中に入って行く。

 城の内装も、白を基調に豪勢な装飾が施され、壁の所々には花の紋様が彩られている。

 そんな城内の廊下を、エーリカを目を輝かせながら移動する。一方のリリアは途中に通り過ぎる騎士に身の毛のよだつような思いをしながらも、なんとか気を紛らわせるために視点をあちこちに移した。その結果、横を通る騎士に挙動不審に見られてしまう始末。すると、


「ん……ここは……どこだぁ……」

「王城の中よ。気分はどう?」

「少しは、落ち着いた……げふ……」

「全然落ち着いてないじゃない。まだ休んでたら?」

「そうするわ……ぐが」


「あらら、寝ちゃいましたね」

「ま、こいつらしいんじゃない?」


(なんか、知らない間に三人の距離がめっちゃ近くなってる気がするっす……!!)


 自身の背後で仲睦まじく会話する二人に、前を行くアリッサは心の中でそう呟いた。

 しばらくして、アリッサは廊下の一角にある大扉の前で立ち止まる。

 銀色の扉の中心には、剣と槍が型どられた独特の紋章が付けられていた。


「団長がいる部屋はここっす」

「は、はい」


 アリッサがそう言って扉を開けようとした途端、エーリカに激しい緊張感が襲ってくる。

 

(こ、これから表彰を……)


 団長と言ったか、よもや国王クラスが自身を表彰することはありえないとは分かっていたが、あの貫禄の塊のような偉丈夫に表彰されるとなると、途中で胸が張り裂けて気絶してしまうかもしれない。エーリカはそんな焦燥感に苛まれぶるぶると身震いする。

 そんなエーリカに、リリアは後ろから声をかける。


「エーリカ、顔が怖いわよ」

「すいません、ちょっと緊張してしまって」


「たかが団長なんすから、もっとラフにしてていいんすよ」

「む、無理です~!!!」


 ぶんぶんと首を横に振るエーリカに、アリッサは微笑を浮かべながら扉を開くと──


「だーれが、たかが団長だって?」


 扉の前には、いかつい顔をした巨漢が仁王立ちしており、その後ろには顔をしかめたオルナーと、手を口に当てて苦笑している桃色の髪の少女。どうやら、アリッサの声は扉の中に筒抜けだったらしい。


「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!」

「くくくっ!お前もラフにできてねえじゃねえか」

「だって無理っすよ~」


 そんなアリッサの後頭部を大ぶりの手でわしわしと撫でながら、キュオレ騎士団団長、ランバーズ・エディナは後ろにいるエーリカとリリアに軽い口調で声をかける。今日は中央神殿で出会った時のような軽装備は着用しておらず、体のラインが浮き出た乳白色のTシャツとジーパンをはいたラフな格好だ。


「お、来たか!ん?そのガキんちょはどうしたんだ?」

「すいません。ちょっと体調悪いみたいで」

「そうかそうか、ミレーユ、ちょっと面倒見てやってくれ」

「はーい」


 ランバーズに呼ばれた修道服姿の桃髪のおさげの少女、ミレーユは、レイズを背負ったリリアにこっちこっちと手招きで促す。リリアは初めて出会ったミレーユに怯えつつも、ミレーユの後について部屋の中央に設置された大きなテーブルとソファーを通り抜け、その奥にあった簡易ベットにレイズを乗せる。


「食べ過ぎなので、少し寝かせるだけでいいかと」

「何があったん?」

「え、いや……そんなに言うほどでもないです」

「なんやそれ、まあええわ~」


 と、ミレーユが傍に置いてあったタオルケットをかけると、ピンク色のカーテンをシャっと閉めた。

 リリアはカーテンを少し開けて中でぐぅすぅと寝ているレイズを見届ける。その後くるりと振り向くと、既に部屋の中央のソファーでエーリカ、テーブルをはさんだ向かい側にランバーズが腰かけていた。


「ま、獣人の嬢ちゃんも座ってくれ」

「失礼します」


 リリアはそう言われると、一礼して、エーリカの隣にちょこんと座る。

 リリアが座ったことを確認すると、ランバーズが前傾姿勢で話を切り出した。


「つーわけで、ろくに表彰式の会場も用意せず、こんなちっちゃな部屋で式を執り行うわけだが」

「べ、別に大丈夫ですよ!」

「わりぃな、表彰っつうのは本来ならば騎士長様の仕事なんだが、生憎任務に出かけてて不在でな、代わりと言っちゃなんだが、俺で我慢してくれ」

「いえいえ!」

「それに式っつっても俺はお堅い行事はあんまりいけ好かなくてなあ、まあ自由にしててくれよ」

「はぁ……」


 平然とそう口にするランバーズだが、エーリカは未だに肩の力が抜けず、背筋をピンと伸ばしてしていた。

 そんな間に、五人分のティーカップを乗せたお盆を持ったミレーユがやってくる。

 ミレーユは三人の前のテーブルに、湯気の立ったティーカップを置いた。


「紅茶です~」

「お、さんきゅな」


「ど、どうも」

「……」


 レイズと同様にエーリカの前にも紅茶を差し出すミレーユだが、テーブルに乗せたところでその手が止まる。

 不思議に思ったエーリカがミレーユの顔を向くと、ミレーユは真顔でエーリカを凝視していた。


「どうなさったんですか……?」

「アンタ、コーヒーの方がええか?」


 ぬっと自分に顔を近づけてくるミレーユに、エーリカは咄嗟に首を振った。


「いえいえ!紅茶で大丈夫ですよ!!」

「そうか。邪魔して悪かったなぁ~」

「は、はぁ……」


 そう言って、ほんわかとした笑みでその場を立ち去るミレーユに、エーリカはきょとんと首を傾げた。

 その後、ランバーズの後方で棒立ちになっていたアリッサとオルナーにもカップを渡す。

 それを受け取ったオルナーがタイミングを見計らい、口を開いた。


「と、というわけで。一名不在ですが、ただいまより王国騎士の任務に多大なる貢献をした二名に王国からの表彰状を授与します」


 その瞬間、エーリカの背筋がピリッと凍り付いた。


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