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エンシェント・オリジン  作者: ホメオスタシス
第3章 王都動乱
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第37話 生きろ 

オルナーの腰に掴みかかり必死に行かせまいとするアリッサをオルナーが引き離そうとしていた時、どこからともなく重低音の声音が響き渡った。その一声に、オルナーはおろか半泣きでオルナーを揺さぶっていたアリッサさえも涙を垂らすのをやめ声の主を見やる。


 そこにいたのは、所かしこに穴の空いた、ぼろきれのような群青色のトップスに、簡素な胸当てを装着した偉丈夫。凛々しい顔には三日月状の傷が縦断し、独特な紋章が刻まれた眼帯を右目に装着している。よく見れば、服の穴から伺えるがっしりとした腕にも傷跡が残っている。灰色の短髪は後方に小さく纏められ、背中には男の何倍もの大きさのある大剣が背負われている。

 その男を一言で表すなら、歴戦の猛者一択だ。圧倒的すぎる男の貫禄に、エーリカやリリアはおろか、レイズでさえも僅かな汗を垂らし、一歩後退してしまう。

 

「「だ、団長!!」」


 男を一瞥したオルナーとアリッサは、腕の掴み合いも一瞬でやめ、男に深く一礼する。


「お疲れ様です!」

「お疲れ様っす!」


「やめろよ、組長じゃあるまいし」


 息を合わせたように吐き出された二人の言葉に、男はその趣のある風貌をすくめる。だが、二人は礼をしたまま動く気配は一向にない。


「あの、この方は」

「オルナーと一緒にいるっつーことは、お前らがモザ=ドゥーグを倒したガキんちょか?」


 エーリカが俯いたままの二人に尋ねると、代わりに振り向いた男が容貌に似合わぬ軽めな口調で応える。


「応!そうだぜ」

「そうかそうか、俺の名はランバーズ・エディナ。こいつらの上司だ」


 ランバーズと名乗った男はニヤニヤとしながら、礼をしたままのオルナーとアリッサの髪をくしゃくしゃと無造作に掻き分ける。


「や、やめてください団長」

「痛いっす!」

「ははは、やっぱこいつらもガキんちょだな」


 頭を抱ようやく礼を終えた二人を一目見て、ランバーズはカッと高笑いした。


「つーかアリッサ。そんな頭部をまっきんきんにしてどうしたんだ?まさか王都で流行ってるぎゃるってやつになるつもりじゃねえだろうな?」

「違うっすよ!ちょっといろいろあって……王都に戻ったらちゃんと話すっす!」


「お聞きください団長。この愚妹、ダリア・フォールの街で色々やらかしたみたいで……」

「ちょ、今じゃなくていいじゃないっすか!!王都で!!王都に戻ったら話しましょう!!」

「たわけ!どうせ明るみになることだろうが!!」


 再び勃発したオルナーとアリッサの口論を他所に、エーリカはおじおじと二人を見守るランバーズに話しかける。


「ええと、アリッサさんとオルナーさんの騎士団の、団長さん、ですか?」

「ああ、そうだ」


 エーリカの問いかけにランバーズは快活な口調で応える。


「その、なんだ、オルナーが生き延びたのはおめえらのおかげだ。こいつは不運の塊みたいなやつだから、任務中になにか起こると身構えてはいたもんだが、よもや黒葬の魔獣が現れるとは」


「団長、先にこのオルナー・クライメット。騎士の道義に反し、謝罪しなければならないことがあります」

「おう、言ってみろ」


 表情を強張らせ、ずんと俯いたオルナーがランバーズの前に立つ。


「誇り高き王国騎士とあろうものが、よもや黒葬の魔獣モザ=ドゥーグに引けを取られ、一般人と協力を、してしまいました」

「それは仕方ねえだろ。彼らがいなかったら今頃死んでたんだぞ」

「ですが、騎士としてあるまじき行い……!!」

「オルナー、稽古の時、俺がお前に毎回言ってることを忘れたのか?」


 ランバーズにそう尋ねられ、一瞬ぽかんとしてしまったオルナーだが、直ぐに記憶からその言葉を引っ張り出し、


「強くなれ、ですか……?」


「ああ。だが、死んじまえば強くなんてなれねえんだ。強くなるために生きろ。そのために手段は選ぶな。騎士っつー呪縛に憑りつかれて自分を忘れんじゃねえ。お前はただの人間だろ」

「ですが、民を護れないようでは騎士失格で」

「だから生きるんだ。お前が生きて民を護れ。民を護ったうえで、お前は強くなれ。もし民と協力すんなら、その民が死なねえように行動しろ。よもや、お前の《《宿命》》を忘れたんじゃないだろうなあ?」

「……っ!!団長のお言葉、しかとこの身に刻みます」


 ランバーズの重低音の声音から放たれる優しい言葉に、オルナーはすっと肩の力を抜き口を緩ませる。

 生きなければ強くはなれない。妹のアリッサにも、そのような言葉をかけられた。だが、厳格な騎士道に縛りつけられていたオルナーは、その言葉を無下に単身で黒葬の魔獣に乗り込もうとしていた。そんな自分に悔恨の念を抱いたオルナー。

 

 ──生きよう、これからは、妹のために、強くなるために。


 そう、密かに心に誓った。


 オルナーの決意を見届けたランバーズは、うなじに手を添えて渋々と文句を垂れる。


「だが、一騎士団長として、王国に仕える身として処分を下さないといけねえのも事実。ほんと硬っくるしいよなぁ騎士っつー職は」

「覚悟しております。不肖、このオルナー・クライメットはいかなる罰も受け入れ……」

「だから、明日から俺との剣術稽古二倍だ。分かったな?」

「……は、はい!了解しました!」


 ランバーズの寛大な処置にはっと驚きながらも、オルナーはかけ声を上げる。

 ランバーズは、その横でそわそわと動向を探っていたアリッサにも、


「お前もなアリッサ」

「あ、アタシもっすか……」


 やはり見抜かれていたと、心の中で無言の悲鳴を上げるアリッサ。

 そんな二人にはははっと微笑すると、今度は口をつぐんでいた三人の方を振り向き、語りかける。


「ま、ありがとな。お前さんたちがいたから、オルナーは生き残れた。団長として感謝する」

「応!」


 ランバーズがレイズ達に深くお辞儀をすると、快い返事でランバーズに言葉を返したレイズ。

 それを見たランバーズはぐるりと振り返り、オルナーとアリッサに向けて盛大に声を上げる。


「つーわけで、ごたごたしい任務を片付けるとすっか。いくぞオルナー、アリッサ。他の団員も一緒に来てる」

「「御意!!」御意っす!」


「あの、私たちはどうすれば?」

「この後、事後調査の騎士が現れいろいろ聞き取りをされる。それが終わり次第解放されるが、申し訳ないがそれまで待っていてくれ」

「分かりました」


 オルナーの言葉に、エーリカは少し不貞腐れた声で返事する。

 どうやら、自分たちはまだ解放させてくれないらしいと、エーリカは微かなため息を吐いた。


「じゃ、三人とも王都でまた会いましょう!」

「アリッサも任務でヘマしないでね」

「侮辱っす!アタシはちゃんと……」


「できていないだろう!」


 オルナーに再び手刀を振り下ろされ頭を抱えるアリッサ。そうして去って行く騎士三人を、エーリカとリリアは感慨深い表情で見届けていた。そんな時である、


「あ、あぁぁぁぁ……」


 リリアとエーリカの後ろで黙り込んでいたレイズが、アリッサのように急に頭を抱えだしたと思えば唸り始めた。


「どうしたのよレイズ、そんないつにもまして血相の変えた顔して」

「俺としたことが、俺としたことが……」


「「……?」」


 リリアとエーリカが、きょとんとした表情でレイズを覗き込むと、


「あのおっちゃんに戦い挑むの忘れちまったー!!!」


「あんた……」

「ははは」


 変わることのないレイズの思考に心配して損したと心中で呟いた二人、

 それと同時に、いつものレイズでよかったと安堵の息を吐く。


「くそ、あのおっちゃん絶対強ええから隙を見て挑もうと思ってたのによ……」


「まあ、あの話の中に割り入って決闘申し込むなんてできないですよね」

「なんだ、あんたも空気読めるようになったじゃない」


「あああああああぁぁぁ!!!」


 レイズの甲高い悲鳴が、平原中に響き渡った。

 

 *


「さて、モザ=ドゥーグとの戦いを通して、お前は自分をどう分析した」


 三人との別れ際、ランバーズは隣を歩くオルナーにそう質問した。


「正直、今回は俺の状況判断が甘かったです。もっと早期に金髪の少年の魔法に気付いてさえいれば、事態が長引くことはなかったと」

「でも仕方なくないっすか?レイズ君がモザ=ドゥーグを倒せるほどの力を持ってるなんてあの時誰も思ってなかったっすもん」


「お前はそもそもモザ=ドゥーグ自体を忘れていただろ」


 オルナーに鋭い目つきで言葉を返され、すっと委縮してしまうアリッサ。


「だが、アリッサの指摘も間違っちゃいねえ。モザ=ドゥーグを倒す、これがどれほど大きな意味を持つかお前にも分かるだろう?今まで王国騎士(俺たち)の誰にも敵わなかったんだ。それを、協力がありながらも、あの少年一人の手で倒しちまうなんて」

「それと思い出したことが一つ、モザ=ドゥーグはあの時、いつもとは妙に異なる挙動をしておりました」

「なんだと?」

「はい、もしかしたら、少年があの魔獣を倒せたのも、それが原因だったかもしれません」

「そうか、分かった。だがひとまずは、難攻不落の巨獣を倒せた余韻に浸ろうじゃねえか」


 そうヘラヘラと言い切るランバーズに、便乗するアリッサと顔をしかめるオルナー。


「そうっすね!」

「あなたって人は……」


「宴だ宴!騎士全員でな!」

「そんな大人数が入る酒場は王都にも存在しません」

「じゃあ俺たちの騎士団だけでもどうだ……!」

「はぁ……とりあえず今日は、王都に戻ったら寝させてください」


 ぐったりとして言葉を返すオルナー。そんなオルナーを横目に、ランバーズは微かにオレンジ色に染まった空を見上げ、おもむろに呟く。


「もしかしたら、すぐそこまで迫ってんのかもなあ……」

「どうしました?」

「いや、なんでもねえ」

 

 ランバーズは澄ました顔で、そう言葉を返した。


 *


 夕暮れ時、中央神殿に集まっていた王国騎士の一軍も徐々に王都へと帰還し、ここにいる騎士の数はまばらだ。

 辺りが暗くなり、平原を吹く風も冷えて来た時、多くの騎士に遅れてその男はやって来た。


 灰色の髪を無造作に掻き分け、細身の身体に似合わぬ大きめの外套を羽織った男。


「お待ちしておりました、宮廷魔術師様。私は第四叙勲カリザ騎士団副団長のミターネ・スワンです」

「いえいえ、僕は先程仕事が一段落して急いで駆けつけた次第ですから」


 ハインゲア王国最高位の魔術師とされる《宮廷魔術師》の称号を持つ男。クルーガー・ホルスマン。


「ですが、僕連勤で今猛烈に疲れているので、手短にお願いしますね」

「りょ、了解しました」


 出迎えた騎士ミターネは、クルーガーの多少やつれた表情に驚嘆しながらも、クルーガーをその場所に連れていく。

 中央神殿(セントラル・ドグマ)から少し離れた、平原の一帯。薄暗くてよく見えないが、黒くて悍ましい山のような物体が鎮座しているのはクルーガーの眼でもよくわかる。クルーガーを先導していたミターネは、魔法を唱え光源を発生させる。そうすると、辺りが明るく照らされその輪郭がくっきりと見えてきた。


「本当にこの山のような死体がモザ=ドゥーグなのですか?」

「はい、間違いありません」

「ふむ、そのようですね、僕が今まで対峙してきたモザ=ドゥーグと術式痕が同一……」


 術式痕とは、魔法の発動者が術式を使用した後に、一定期間滞留する残留痕のこと。モザ=ドゥーグほどの巨体で、しかも常時術式を発動していた個体は、それが一定時間以上残り続ける。


「なるほど、それを倒したものというのは」

「ええ、二十歳にも満たぬ若者、そして同年代の仲間二人、そこに居合わせた騎士二人の合計五人です」

「ほほぅ五人!今まで毎年百人以上の騎士を動員しても倒せなかった魔獣をたった五人で!これは面白い皮肉が思いつきそうです」

「は、はあ……相当お疲れのようで……」

「疲れていても任務はきっちりとこなすのが宮廷魔術師の役目です。ご心配なく」

 

 ミターネの労りにニコリと笑みで応じたクルーガー。


「それで、その少年というのはどのような魔法を?」

「実は、少年に何度も実演させたのですが、私どもも何の魔法かさっぱりわからなくて、宮廷魔術師様がその場にいらっしゃれば……と思いましたが、確か少年の仲間が言っていたのは、古代魔法(エンシェント・スぺル)……というものらしいです」

「古代魔法……ふむふむなかなかに興味深い」

「知っておられるのですか?」


 きょとんとしたミターネの問いかけに、クルーガーは人差し指を掲げ、笑みを保ちながら応える。


「もちろん、私の古くからの友人にも一人、使い手がおりましてね。その強大さゆえに三百年前に魔導書を全て焼失させられたという幻の魔法群で、全部で十二種あると言われています」

「焼失したのでは?」

「魔導書を燃やされたくらいで魔法が廃れることはありませんよ。その者が使う古代魔法も密かに継承され今日まで生きながらえてきたのでしょう。ですが、確かに古代魔法ほどの常軌を逸脱した魔法ならモザ=ドゥーグを倒すという所業ができそうな気がしますね。一応、魔獣の魔法痕を調べてみましょう」

「魔法痕?」

「モザ=ドゥーグがその身に受けた魔法の残滓です。術式痕と同じく一定期間居残り続けるので、どんな魔法を受けただとか、何らかの効果を付与された、とかを一瞬で調べることができます」


 そう言って、クルーガーは外套を脱ぎ、ミターネに放り投げる。


「少し、この外套を持っていてくれますか?邪魔なので」

「分かりました」


 外套を受け取ったミターネを見やると、クルーガーはそのままずんずんと死体の近くにまで歩みを進める。

 そうして小高い山のような死体をその双眼で見上げるなり、腰に携えていた魔杖を取り出して構える。

 クルーガーは小さく息を吸うと、

 

知れ(アナライズ)──」


 杖先から放たれた白き光は、上空に飛翔して死体の頂点から雨のように降り注ぐ。クルーガーは藍色の瞳を一層鋭くして、死体から泡のように浮き出た光を凝視し続ける。そうして数分後、クルーガーは背後に近づいてきたミターネを振り返り、

 

「何か大きな塊を投げつけられた、しかし物体ではないようだ。モザ=ドゥーグは物体や現象を根こそぎ灰と化してしまいますが、この魔法は何故か塊のまま直撃している」

「はあ、たしかその者が言うには、空気をぶつけたとか……」

「空気……!!それは盲点でした。いやはやそんな倒し方があったなんて、ですが理屈ではまかり通る。どうやら我々は魔法討伐にとらわれすぎていたようですね」


 へらへらとそう言い切るクルーガーに、ミターネは眉間にしわを寄せる。


「ですが、調べる限り空気の塊を当てたられたのは二回だけのようです、それだけでモザ=ドゥーグを倒せるとは思い難い……」


 すると、クルーガーは再びモザ=ドゥーグの死体を振り向き、


「おっと、おやおや~?」

「どうしました!?」

「謎の正体、分かっちゃいました」


 きっぱりとそう言い放つクルーガーに、ミターネはその目を一層光らせて尋ねる。


「それは……!?」

「簡単に言うと、酷い付与魔法をかけられています。いや、付与魔法とも違う何か……」

「付与魔法!?」

「いくらその少年一人が古代魔法のような驚異的な魔法の使い手だったとはいえ、少年一人、いやその場にいた五人だけで何百人の王国騎士でも敵わなかった魔獣を倒せるはずがないというわけです」

「では、何者かがモザ=ドゥーグを極限まで弱体化させてたという事ですか?」

「ええ、そういうことです。しかも、モザ=ドゥーグほどの巨獣を弱体化させる付与魔法を行使する事は僕ですら困難です。たとえそれがエルフでも、それこそヴィカトリアさんや大地の巫女辺りでなければ、ね」


 言い換えれば、黒葬の魔獣モザ=ドゥーグとはそれほどまでに並外れた化け物なのだ。一部では、人類がその魔獣を倒すには何百年の歳月が必要とまで囁かれていた。クルーガーはそれを鑑みて、並大抵の付与魔法ではモザ=ドゥーグを弱体化させることは不可能だという考えに行き着く。


「そして見る限り、弱体化させるだけでなく、その行動までを変貌させる術式のようですね。現代の付与魔法では生物の心理を操るまでは不可能です」

「では、付与魔法以外では拘束魔法や、心操魔法のような《黒魔術》」


 ミターネが数舜の思考後にそう呟くと、クルーガーは密かに鋭い双眼を向ける。


「そうなりますね、ですが、そのような魔法の魔法痕は一切出ていません。どうやら一つの魔法で二つの効果を付与しているらしい」


 クルーガーはううんと唸り声を上げながら顎に手を当てて考え込む。

 その様子を、ミターネは呆然と見つめていた。

 そして、クルーガーはたどり着いた答えは──


「付与魔法以外で対象に何らかの事象を付与できる魔法……死霊術、ですか」

「死霊術?」

「ええ、死霊術の中でも《召魂死霊術》と呼ばれる魔法は、生き死に関わらず魂に干渉し、何らかの能力を付与させることができます。そして、一部では対象の心理操作も可能と聞いたことがあります」

「死霊術といえば、真っ先に思い浮かぶのが滅亡したレディニア王国です」

「そうですね、何かの因果関係があるのかは計り知れませんが」


 話し終えると、クルーガーはふっと息を呑み、モーガンの死体を見つめて口を開く。


「もしその者が、黒葬の魔獣モザ=ドゥーグを倒すために行使したのだったら、許容できるでしょう。ですが、それ以外であれば……」


『ハインゲア王国は……アヴァロニカ帝国に与する内通者によって終焉を迎える』


「……!?」


 突然、クルーガーの耳に聞こえてきた、無感情な声で放たれたその言葉。

 クルーガーはミターネを振り向き、首を傾げて問い詰めるが、


「……?何か言いました?」

「……え?いや特に何も言っていませんが」

「そうですか」


 そう言って死体に目を向けたのも束の間、再びばっとミターネに振り向く。クルーガーの意味不明な挙動に、ミターネは足がすくんでしまい、


「やっぱり言いましたよね。我が国終焉迎えちゃうんですか?」

「終焉!?まさか、レディニアに続き我が国までも!?」

「いえ、特にそうはいっていません。フェイントかけただけです」

「ふぇ、フェイント……?」

 

 クルーガーの謎の言動の数々を呑み込めず、ほかんとするミターネ。その仕草を一目見て、クルーガーは熟考する。


(偽りなき素の反応、空耳でしょうか。いや……)


 クルーガー口を緩め、空を見上げる。辺りはすっかり暗くなり、光源もミターネの放つ魔法以外何もなく、満天の星が輝く天空。

 無言でそれを見つめていたクルーガーは、おもむろにこう呟いた。 


「分かりやすすぎですよ、内通者さん」

「何か言いました?」

「いいえ、なにも」


 


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