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エンシェント・オリジン  作者: ホメオスタシス
第3章 王都動乱
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第36話 長き戦いの終わり、そして始まり

 《衝撃魔法》の衝撃波にはある特性が存在する。それは、対象が自身と離れていればいるほどその威力がさらに増すということ。

 そう、上空に浮かぶ魔獣に到達する頃には、その威力は高度に比例して何倍にも膨れ上がり、


「いけえええええええええ!!!!」


 レイズの叫び声と共にブワッと加速した衝撃波は、魔獣に避ける暇も与えることなく直撃した。迎撃する暇すら与えられず、空中でバランスを崩した魔獣は、そのまま地面に真っ逆さまに落ちていく。


 しかし──


咆哮(ブレス)が来るぞ!!!」


 オルナーがそう叫んだ瞬間、落下する魔獣が口腔を開き、最期のあがきと言わんばかりに溜めたパワーを放出する。

 喰らったもの全てを灰と化す、魔獣の咆哮。


「させるかよ!!」


 レイズは勢いよく跳躍し、咆哮を放つ寸前の魔獣に拳を放つ。

 だが、瞬間の差で間に合わず、その攻撃が放たれる。一方ではなく、ありとあらゆる角度へと。


「くっあいつお構いなしに攻撃して……!!避けるわよ!」


 その攻撃を躱すべく、リリアはエーリカの腕を引っ張り銀色の剣を帯剣していた反対の腰に帯剣した剣を無作法に投げつける。

 すると、剣は魔力を帯びてリリアの足元に着地、エーリカの手を握ったままその上に飛び乗った。


「え、ちょ、リリアさん!レイズさんは!?」

「アイツなら大丈夫……だと思う!」


「えっ、うわああああああ!!!!!」


 そして、瞬く間に空中に浮遊し、驚異的な勢いで加速する。

 剣で移動する合間にも、魔獣から放たれた咆哮がリリアとエーリカを襲う。

 リリアはその攻撃を、手慣れた手つきで剣を操作し、ビュンビュンと躱す。その度に、リリアの手で持ち上げられているだけのエーリカは激しく揺れ動きぐるぐると目を回した。


「ちょっとどうなってるんすか!?」

「分からん、だが俺たちは逃げに徹した方がよさそうだ!」


 咆哮を避けながら大地を駆け抜けるオルナーとアリッサ。だが、アリッサの視界にその光景が入ることも時間の問題だった。

 

「れ、レイズ君……!!」

「少年……!!」


 視界の先には、魔獣に向かって跳躍するレイズと、レイズに向かって放たれる咆哮。


「くっ、避けきれねえ。魔法で迎え撃つか!?」


 だが、物理攻撃ではない以上、レイズの《衝撃魔法》で防ぐことが不可能だという事は既に証明されている。

 しかし、空中で魔獣に向け跳躍しているうちは、避けきることはできない。

 くっと歯を食いしばったその時、レイズの耳にビューンという風切り音が聴こえてくる。


「レイズ!!!これ使って」


 目線を中央神殿の方向に移したレイズ。

 すると、剣に乗ってこちらに向かってくるリリアが大声で叫んでいる姿が見えた。

 次の瞬間、リリアは愛剣であるはずの銀色の長剣(アダマンテイン)をレイズに向けて投げつけた。長剣はリリアの魔力を帯びてぐんぐんとレイズに向かう。


「大地に術式装填(スペル・ディレイト)できたんなら、武器にもできるでしょ!!!!」

「当たり前だ!!!!」


 そうすると、リリアは術式装填がかかっている長剣から一瞬だけ自身の魔力を抜いた。魔力の消えた長剣はそのまま無造作に落下するが、


術式装填(スペル・ディレイト)!!!」


 一瞬の隙に、今度はレイズが自身の魔力を装填し、長剣が金色に光を放つ。そして──


衝撃放出(ショックウェーブ)《インパクト》


衝撃反転(ショックウェーブ)《リバーサル》


 レイズは自身の拳から《インパクト》を、そして長剣から《リバーサル》を発動。拳から放たれた衝撃波は剣によって跳ね返され、跳ね返った衝撃波がレイズに放たれる。


「ぐおおおおお!!!!!」


衝撃反転(ショックウェーブ)《リバーサル》!!!



さらに、自身の両腕にも《リバーサル》を展開し、衝撃を反射。その反動で、レイズは吹き飛ばされ、なんとか咆哮を交わす。

 一瞬の速さでレイズの残像を咆哮が通り抜ける。だが、間髪入れずに次に放たれた咆哮がレイズを襲い、


「これ使って!!!」


 リリアが自身の乗っていた剣から飛び降りると、それがぐんぐんとレイズに向かってくる。

 代わりに、銀色の長剣に再びリリアの魔力が掛けられ、リリアは長剣の柄を握ったままもう片方の手でエーリカの腕を握り、ぶら下がるように浮遊する。


「大丈夫でしょうか……」

「できるわよ、あいつならね……私に勝った、あいつなら」

 

 そう呟いたリリアは、剣に乗ったレイズに叫び声をあげる。


「剣は私が操作するから、あんたは自分の魔法に集中しなさい!!」

「おっけ!頼んだ!!!」


 多少バランスを乱しながらも、剣に騎乗したレイズ。すると、剣は一気に加速し魔獣へと接近する。

 その間にも放たれた咆哮を振り切りながら、至近距離まで接近したレイズ。そこは、魔獣の背中付近。


『グアアアアア!!!』

「待ってろ、今楽にしてやるからよ」


 レイズはその一点に向けて、一気に拳を振り上げる。


「うおらああああああああ!!!!!!」


 そして、突き上げた拳から放たれた神の鉄槌。


衝撃放出(ショックウェーブ)《インパクト》!!!!!


『ガアアアアア!!!』


 魔獣は衝撃波と衝突し、空気を揺るがすほどの金切り声を轟かせ一気に落下する。

 そして地上に激突し、凄まじい砂埃が吹きあがった。


「倒したのか、あの、モザ=ドゥーグを……」

「そうみたいっすよ」


 その光景を唖然として眺めていたオルナーは瞳から僅かな涙をこぼす。


「何十年も、我々が挑み続け、そして何人もの仲間を失った、あの魔獣を」

「よかったっすね、兄貴」

「これは夢か、そうだ、でなければたった五人であの魔獣を倒せたという示しがつかん」

「現実っすよしっかりしてください!」


 目の前の状況を直視できなくなり呆然としたオルナーをアリッサがバサバサと揺さぶる。


「すまない、気を乱してしまった」

「まあ、気持ちはわかるっす。なにせ難攻不落ってまでいわれてたんっすよね。そんな魔獣を倒してしまうなんて、あの三人はやっぱり強いっす」

「ところで、お前は何故モザ=ドゥーグのことを知らなかったんだ?騎士訓練の際に習ったはずだろ」

「ギクッ!?それはっすね……」


 口を尖らせたオルナーに汗をにじませたアリッサは、興味がなくて忘れていたなどと言えるはずがなかった。


 地上に舞い降りたリリアは、レイズの乗っていた剣を操作して回収する。しかしそこに現れたのは、剣の柄を握ったままぐったりとしたレイズ。

 

「流石のレイズも魔力が尽きちゃったみたいね」

「お疲れ様です。レイズさん」


「ああ、ちょっとばかし横にならせてくれ」


 そうして、レイズを地上に卸すと、バタっと力なく雑草の生えた地面に倒れる。

 活力をなくしそのまま眠りこけてしまったレイズに、二人は目を合わせて微笑む。


「まさか、レイズのこんな情けない姿見れちゃうとはね」

「でも、レイズさんらしいです」

「どうしたの、エーリカ?」


 寝ているレイズの隣で正座になり、じっとその姿を見つめているエーリカ。


「また、護られちゃったなって」

「でも、それがレイズのやりたいことなんでしょ?」

「はい、ですが今回、一つの魔法でしかレイズさんを援護できませんでした」

「俯かないで、結果としてそれで、レイズはモザ=ドゥーグを倒せたんでしょ」

「そうですけど……」

「悲観的に捉えちゃダメよ、例え一つだけだとしても、レイズを助けられたのは事実でしょ。それを誇りに思いなさい」

「ありがとうございます。リリアさん」


 リリアの言葉に、エーリカはふっと微笑んだ。


 *


「本当に死んでいるんですか?」

「動かない以上、こちらとしても何もしないわけにはいきません」

「とりあえず、魔力検査と解剖が終わるまで、モザ=ドゥーグはここに安置しておいた方がよさそうだ」


 中央平原にオレンジ色の陽が沈むころ、王都から派遣された騎士の一団がやって来た。その数、ざっと百人以上。黒葬の魔獣モーガンという大魔獣には当然の数ともいえる。しかし、その大所帯さにエーリカは目をやられ口をだらんと開けていた。


「すまない、君たちには事情聴取をせねばならなくてな、王都へ行くのはもう少し待ってくれないか」

「応!別にかまわないぜ!」


 中央神殿(セントラル・ドグマ)正殿の前の階段脇で座り込む三人に、深々と頭を下げるオルナー。


「だが、本当にあの魔獣を討伐できてしまうとは、王国民として、騎士の一人として最上の感謝をここに」

「そんな!私たちは当然のことをしたまでですよ!……倒したのはレイズさんですけど」

「いや、あんたも加担したでしょうが」


 リリアの指摘に、そうでしたと顔を赤らめるエーリカ。そこに、金色の髪をゆさゆさと揺らした少女が現れる。


「ただいまっすー!状況説明終わらせてきましたー」

「ああ、ご苦労だった、アリッサ」


「ねえ改めて聞くけど、二人って兄妹なの?」


「ああ」

「そうっすよ」


 きっぱりと言い切るオルナーとアリッサに、リリアは口を尖らせる。


「じゃあなんで最初隠れるような真似してたのよ」

「いや、こんな姿見せたら、兄貴に何言われるか……」

「どの道わかることでしょうに。というかお兄さんも良く気付かなかったわね」


「女性恐怖症でな……最近やっと改善してきたんだが」

「兄貴の眼には女性(アタシたち)が同じ顔にしか見えてないっす」


「うそでしょ!?」


 アリッサの衝撃的な発言に目を丸くしてそう叫ぶリリア。渦中の兄はおいそれを言うなとアリッサに一喝する。そして、無理やり作った笑みでリリアに弁解しようとするが、


「そんなことはない!例えばそこに座る茶髪のあなたとか……」

「ん?私ですか?」


 と、ぼうっとしていたところを、話を振られたオルナーに振り向くエーリカ。そんなエーリカの何気ない動作にオルナーは頬を紅潮させて、


「その、姫のように美しい容姿をしていて……」

「あっ、姫も何も私はレディニア王国の第……」


「あーあー確かに言われてみれば、エーリカってそれくらい美しいわよね」


 危うく自分の正体を明かそうとしたエーリカの声を遮るようにリリアが甲高い声を上げる。そんなリリアに首をかしげるオルナーに、リリアは慌てて話題を逸らそうとする。


「で、でも、エーリカ以外はみんな同じ顔に見えるってすっごい侮辱なんだけど」

「すまない!まずは女性を直視できるように努めるつもりだ!」


「そう言いながらことさらにリリアさんから目を背けるのは何故っすか?」

「ねえ、本当は同じ顔に見えるんじゃなくて単純に女性の顔を見れないだけなんじゃないかしら?」


 リリアに図星を突かれハッと気づくオルナー。そんな情けない男騎士を横目で睨むリリアに、オルナーはすまないと頭を下げた。


「ところで、アリッサはどうやってこの三人に出会ったんだ?」

「え、それは……」

「お前のことだ、民衆に任務を協力させているか心配でな。まあ流石に成長してもうそのような愚行はしていないと思うが」

「そ、そっすね……」


 不自然にオルナーから目を逸らすアリッサに、さらに顔を近づけて追及しようとするオルナー。

 そんな二人に、エーリカとリリアはあははと苦笑する。


「そんな姿になった理由と共に詳しく聞きたいのだが?」

「ひぃ!?」


「アリッサさんが話せないなら私から話しましょうか?」

「そ、それだけはやめてくださいエーリカさん!!!」


「よし話してくれ、俺がこの愚妹の口を塞いでいる間に」


「分かりました、ではダリア・フォールでアリッサさんと初めて出会ったところから話しますね」

「ちょっとまって!アタシが話しますから、待ってくださいっすー!!!」 


 アリッサの制止も聞かずにダリア・フォールでの一件を語りだしたエーリカ。オルナーは隣で半泣きになりながらエーリカの話を止めようとするアリッサを羽交い絞めにして話に耳をそばだてるが、やがてその表情が徐々に険しくなる。それを見たアリッサも顔を青白くし、全ての話を終えた頃には二人はいろんな意味で疲れ果てていた。オルナーはへなへなと座り込んだアリッサを無理やり立たせて金色の頭部をやや強めに掴み、ほぼ直角に腰を曲げる。


「妹がすいませんでした!!!」


「いえ、別に平気ですよ……」


 エーリカは苦笑いのまま首を振るが、オルナーは数舜の間頭を下げ続け、アリッサもオルナーに掴まれ同じ状態でひぃと呟いていた。


「だからあんなに一般人を巻き込むなと何度も釘を刺したにもかかわらず……!!!」

「ご、ごめんっすぅぅぅ」

「第一、ダリア・フォールの騎士と同行して穏便に事態を収拾させていれば、お前がエルフの魔力と同化するなんて阿保みたいな惨事にもならなかっただろうに!!!」

「だって、騎士はどことなく硬いんすもん」

「そんなくだらぬ理由で一般人に協力させてたまるか馬鹿たれが!!!」

「ひいいいいい!!!」


 ようやく顔を上げたオルナーに大声で怒鳴られアリッサは頭を抱えてへたり込む。

 そんなアリッサを宥めるかのようにレイズが口を開く。


「でもまあ解決したんだからいいじゃねえか」

「そうねレイズ達がいたから私も改心できたと思うし、別に許してあげてもいいんじゃない……?」


 続けざまにそう話すリリアだが、オルナーはアリッサを叱っていた時と同じように強張った表情のままリリアを振り向き、その顔つきにリリアはビクッと肩を震わせ尻尾を直立させる。


「あなたはまず自分の罪を償うのが先では?」

「わ、分かってるわよ……王都に行ったらちゃんと罰を受けるつもり……」


「ね、レイズ君とリリアさんもこう言ってんだし……」

「お前も自分の罪をしっかり悔い改めろ」

「ぐへっ……!」


 反省の色もないアリッサに手刀で制裁を下したオルナーは改めてレイズ達に謝罪する。


「本当にすまなかった。表彰を受ける前に王国騎士として正式に謝罪する」

「そんな、謝罪なんてしなくても……」


「とにかく、このことは俺から団長に報告しておくからな」

「団長にチクるのだけはやめて欲しいっす!!!」

「どこでそんな言葉覚えた!団長も到着されているだろうし、ひとまず合流を……」


「おっここにいたかオルナー」

「……!?」


 オルナーの腰に掴みかかり必死に行かせまいとするアリッサを引き離そうとしていた時、どこからともなく重低音の声音が響き渡った。

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