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エンシェント・オリジン  作者: ホメオスタシス
第3章 王都動乱
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第35話 俺は強くなる

最近リアルが忙しくて投稿頻度が減ってきてしまってます。すみません、、、、、

 《召魂死霊術》とは、その名の通り魂を媒介として死者を蘇生させるという死霊術の一種。その職業柄か、《召魂死霊術》を使う死霊術師は術式によって魂に直接干渉することができる。これは依代を失った魂だけでなく、生を受ける魂も同様だ。

 この性質を応用することで、生者の魂に死霊術を駆使して魂に付加効果を与えるという、付与魔法(エンチャント・スペル)のような立ち回りが可能になる。

 しかし、多くの《召魂死霊術》を行使する死霊術師達は、生者の魂に干渉することはない。死者蘇生を行うことが死霊術の生業だというのに、わざわざ生者の魂に干渉して何かを行うことに意義を感じられないからだ。それこそ、よほど生者の魂に興味のある狂科学者マッドサイエンティストや、誰かを憎み、魂に干渉して不利な効果を付与してやろうと考える殺人鬼ぐらい。

 だが、それをもし人のために使おうと考える者がいればどうなるのか。それはまだ、誰にもわからない。


「ふぅ……」


 自分を護ると誓ってくれた少年、レイズ。同じ夢を持った旅の仲間リリア、そして、暫定的とはいえ絶望的な力の差を持つ魔獣にともに立ち向かってくれた騎士、アリッサとオルナー。

 皆が前線で黒鱗の巨体をのうのうと佇ませた魔獣と対峙したことを確認し、エーリカは外界の空気を深く吸い込み、再び外へ還す。そよそよと吹く風がエーリカの火照った体を冷やす。


 人間の魂は、とてつもなく脆い。それは、小指でちょんと突き刺すだけでほろほろと崩れ落ちてしまうくらいに。故に一つの雑念も許されず、その思考を全て術式の構築に寄せなければならない。感覚としては、小指の爪先をそっと魂に添えるくらい鋭敏に。でも、そうまでして術式を魂に載せなければ、人の魂は簡単に崩壊してしまう。


 すっと目を瞑ると、エーリカは自身の思考全てを術式の展開に集中させる。そうして脳内で、眼前で巨獣と魂をぶつけ合う少年少女の姿を思い浮かべ、小さく言葉を紡ぐ。三百年以上前他大陸から流れ着き、レディニアの死霊術師が大成したとされる、その詠唱を。


【イフィル・ネキア・フィブリ】


 ぱあっとエーリカの周囲に淡い紫色の光が漂う。その光は、エーリカが両手を前方に向けるなり瞬く間に飛び散っていく。残滓を立ててパラパラと進んでいくと、前方には魔物と向き合う金髪の少年と白髪の少女の姿。光は少年と少女に霧雨のように降り注ぐと、二人の体内に入り込む。そして──


「すげぇ!なんだこれっ!?」

「体が熱い。なんだか私の意識が、今凄く研ぎ澄まされてる……!」


 魂練成術ソウル・アクティベート。他人の魂に干渉し活性化させることで、その者の能力の上がり幅を急激に増幅させる術。単純に身体能力や魔力の能力値を底上げするのではなく、より底上げさせやすいように魂を奮い立たせる。能力の上がり幅を対象に委ねることにより、魂の干渉度合いが少なく、人によってはその能力を極限まで高められる。これが付与魔法との大きな相違点にして、《召魂死霊術》最大の特徴。


「エーリカもなかなかやるじゃない」


 後方で自分を見つめているはずの茶髪の少女に密かに言葉を漏らしたリリアは、高揚した感情に身を任せるように銀色の長剣を引き抜いた。


 この魔獣に、自分のちっぽけな力が通用しないことくらい十分すぎるほど分かっている。なぜなら、目の前に佇む強敵は、何百人にも及ぶ王国の騎士でさえ敵わなかった相手なのだから。でも、この瞬間だけは──倒せると確信している。リリアはにやりと口を緩ませた。自分でも、こんな表情は過去一度も、そして未来永劫しないだろうと感じるほどに。


「自然を、武器に……」


 かつて、大地の巫女セレスから教わった超自然支配術。大地に自然と構築される形の定まっていない術式を、己の魔法術式と同化させる。自然操作ナチュラル・コントロール。リリアは、深く息を吸い込んだとともに、剣先を大きく振り上げる。そして──


術式拡張(スペル・ディレイト)!!!」


 鋭いマリンブルーの瞳をこれでもかと光らせ、リリアはそう叫ぶ。

 術式は父から受け継ぎ、そして何十年も使い続けてきた魔法。拡張対象はリリアの前方、無限に広がる荒野。精神をキリッと研ぎ澄ませ、意識を術式の発動に移行させる。そして、両手をその一点に向け、自身の掌に埋め込まれた術式を送り込む。


 集中しろ……集中しろ。リリアは雑念が飛び出ることのないよう、その文言をひたすらに自分に言い聞かせる。ギリリと歯を食いしばり、首筋から汗がにじみ出る。

 それほどまでに、精神を集中させているには理由がある。自身の身体や武器ならまだしも、術式を自然界に拡張させるなど、並の人間はおろか魔法を極めた魔術師ですら困難な技だ。なぜなら自然という物は、人によって作られた代物ではないから。

 術式は自然とその者との繋がりを好む。繋がりが濃い程、術式は対象との接続がしやすくなり魔法を発動させるための負担が軽減される。


 術式装填(スペル・ローディング)もそうだ。装填先が己の身体だからこそ、術式を埋め込むという高度な技を成し遂げることができる。逆にこの広い大地に装填させようとなると、凄まじい手腕と魔力量が必要となる。それこそ、大地の巫女ほど強大な量でなければ、


 しかし、自分なら。人の中でも自然に近い、エルフの半身を持つ私なら。その特異的で人並外れた魔力で自然を操ることができる。

 

「はあああぁぁぁぁぁ!!!!!」


 リリアは溢れ出る感情を声に変換しながら、自然操作に身を注ぎ込む。するとどうだろう、荒野の一角がガララと轟音を立てて崩れ落ち、やがてそれらが土塊と化して空中に浮遊した。


「す、すごいっす!!」

「大地を動かす……援護があるとはいえ、このような芸当をやってのけるなど……彼女はいったい何者……」


 リリアとレイズのさらに前で魔獣の注意を引き付けていたアリッサとオルナーさえも、一瞬だけ手を休めその光景に魅入ってしまう。


 だが、土塊を空中に浮かせるだけでも一苦労。その証拠に術式を送り続けているリリアの両手がぷるぷると震えている。問題は、これらをどうやって魔獣に投擲するかだ。幸い、魔獣は二人が引き付けてくれているためこちらに気付いていない。しかし、あの優れた動体視力を持つ魔獣なら時期に気付くだろう。そして万が一咆哮(ブレス)など放たれてしまえば、意識がその攻撃を避けるために使われ一巻の終わり。再びこの状態を再現せねばならなくなる。

 

 ならば一瞬で──決める!


 創造しろ。軌道を変えることなく、魔獣へと一直線に飛ばす方法を、

 重力に阻まれる前に、その一秒も満たさない時間のうちに……


「ふっ!!!」


 《操剣魔法》の延長で、土塊を空気抵抗のより少ないフォルムへと研磨。そして、周辺の空気を、風魔法を詠唱し弓矢のようにうねらせる。  

 あとは、土塊達を空気の弓で引いて、離す!!


 バシュン!と風切り音を立てて、土塊は魔獣へと突き進む。

 

(これで、ダメージを与えられればいいけど……)


 だが、それがかすり傷程度だったら、自然操作での攻撃法は絶望的となる。

 せめて吹き飛ばすくらいにはと願っていると……


「え……?」


 ──魔獣へと到達した土塊すべてが、パラパラと灰と化し、崩れ落ちた。


「なんで!?自然の産物でも無理だったの!?」



(なんだ、この違和感は……)


 わなわなと体を震わせるリリアを他所に、冷静に一連の光景を見物していたオルナーは顎に手を当てて考え出す。そして、ふぅと空気を吸い。


「そうか、どうやら灰になることなく攻撃を与えられるのは奴の足裏だけのようだな。単純な理屈だった」

「足裏なんて、アイツが地に足をつけている限り攻撃できないっすよ!」

「なんとか奴を飛ばす方法はないか……」

「いや飛ばしたとして、そもそも足の裏なんかに攻撃してどうするんすか」

「そうだな、標的が小さすぎるしなにより現実的ではない。もっと別の方法を……」


 オルナーがそう思考を巡らせる間にも、魔獣はグルルと唸り声を上げて咆哮を吐く。標的は、注意を寄せ付けているオルナーとアリッサではなく、先ほど土塊攻撃を放ったリリア。


「危ない!退避しろ!!」


 オルナーの必死の叫び声も、放心するリリアには聞き取れず。そのまま咆哮はリリアへと、


「ふっ!」

「うわっ!」


 ドゴン!!!


 その直前、レイズがとっさの判断でリリアを抱え込み、寸前で咆哮を避けた。

 反動で、二人はレイズがリリアを抱きかかえたまま地面にどさっと倒れ込む。


「リリア、放心しちまうなんてお前らしくねえぞ?」

「ごめん……」


 レイズが服に着いた土埃を払いながら立ち上がると、地面にへたり込んだリリアは今にも泣きだしそうな顔のまま上目遣いでレイズに詫びる。 

  

「大丈夫ですか!?」


 はあはあと必死の形相で走ってきたエーリカは、そこで沈痛な表情で座り込むリリアを見つける。


「なあ、リリアの奴どうしちまったんだ?」

「すみません。私が使える魂練成術ソウル・アクティベートはまだ未完成で、感情の上がり幅まで増幅させてしまうんです。結果としてそれが能力の向上に影響するのですが、もっと能力だけを変化させられる方法を考えないとですね」

「つまりやべえクスリをキメたのと同じことだな!」

「い、一概に否定できないです……でも、レイズさんはどうしてそんなに平然としていられるんですか?」

「俺か?なんだろうなあ、自分でも分からねえ」


「それってつまり何も考えてないってことでしょ」


 正気に戻ったリリアが、地面に手を突きながら立ち上がる。そしてレイズにそう唇を尖らせた。


「もう大丈夫ですか?」

「大丈夫、少しは落ち着いた」


「俺も考えてるぜ、エーリカを護れるように強くなりてえってな」

「ほんとアンタはいつもエーリカ一心なのね」

「応!」


 迷いなきレイズの返答に呆れて眉根を寄せるリリア。その表情のままエーリカを覗き込むと、エーリカは頬を紅潮させもじもじと足を交差させている。

 リリアは、この状況で何してんのよとため息を吐くと、先ほどまでの落胆の気持ちは全てどこかへ消え去ってしまった。リリアはぐっと拳を握り締め、

 

「こんなことでへこむなんてばか馬鹿しいわ!まだ一回しか攻撃してないじゃない」

「そうだぜ!勝負はまだこれからだ!」

「なにそれ、まさかかっこよく言ってるつもり?」

「いいだろ別に!」


 精一杯の格言をリリアに指摘され顔をしかめるレイズ。そんなやり取りを見て、エーリカは改めて二人の芯の強さを感じ取った。


「とりあえず、アイツの皮膚にはどんな攻撃も聞かないってことが分かったわ」

「空気以外はな」

「そう……って、レイズ何するつもり?」

「リリアだけに目立たせるわけにはいかねえ、ここからは俺の出番だぜ!」

「ちょっと、レイズどこ行くの!ってはや!?」


 リリアの問いかけににやりとした笑みで応えたレイズは、そのままドバっと地面を蹴り魔獣に向け走りだした。


『グオオオオオ!!!!!』


 耳をつんざくような魔獣の絶叫が響き渡り、それによって発生した突風がオルナーとアリッサに押し寄せる。

 しかし、二人は自らの武器を地面に突き刺し何とか持ちこたえると、再び注意を寄せつけるために散開。そこへ、魔獣の中央平原の大木にも勝るような前足がアリッサに降り注がれ、オルナーには近距離で咆哮が放たれる。二人は一度後退し、魔獣の動向を探る。それの繰り返しだ。いくら二人で接近して魔獣を一方に引き付けようにも、その巨躯に見合わぬ反射神経の鋭さで早々に感づかれてしまう。だが、オルナーはその首尾一貫した動きに違和感を覚え、


「やはり、奴の動きがいつもより鈍い。一人では見抜けなかったな」

「この挙動でっすか!?」

「一つ一つの挙動ではなく全体の動きだ。奴は普段、飢えを満たすために人の里に飛来すると、見境なくその町の人間を襲撃する。だが、今は冷静に攻撃を見極め、迎撃しているように見える」

「確かにそうっすけど……」

「あなたはその鎧からして王都の騎士なのだろう?ならばそれくらい分かっているはずだが」

「……っ!」


 オルナーがむっとした顔つきでアリッサを睨みつけると、アリッサはその眼光に威圧感を覚え、口が固まってしまう。

 と、オルナーは一瞬で表情を変えると、今度はぐんぐんとアリッサに顔を近づけておもむろに呟く。


「やはり、あなたはどこかで見たことがあるような……」

「こ、この期に及んで……!」

「なんだと?」


 アリッサが語気を強めて言葉を漏らしたことにオルナーがむっと眉をひそめると、憤慨したアリッサは魔獣の危機が迫っていることも忘れオルナーに掴みかかる。


「何をする!?」

「見てわからないんすか!?あなたの妹っすよ!!!」

「はっ!?」


 ぐっと顔を狭め、オルナーに自分の顔を見せつけるアリッサ。

 そんなアリッサを何とも言えない表情で眺めるオルナー。アリッサは呆れ果て渋々とオルナーを引き離す。


「兄貴は異性の顔覚えていなさすぎっす……仮にも妹なんすよ……」

「はい……?」


 不貞腐れてそう言葉を吐いたアリッサ。大してオルナーは未だに唖然としてアリッサを見つめている。


「兄貴は馬鹿すぎっす!真面目馬鹿っす!!」


「すまない、がんばってと言ってくれないか?」

「へ?」

「頼む」


 オルナーの言葉に真意が読み取れずに立ちすくんでしまったアリッサは、ぽつりとその言葉を紡いだ。


「が、がんばって……」

「やはり、お前は自慢の我が妹だ」

「……っ!?!?」


 途端、がばっとアリッサを抱きしめたオルナー。


「なんすかこれ……」

「させてくれ。自分でもよく分からん」

「兄貴は、アタシが何でこんな姿になったのか問いたださないんすか?」

「空気を読め。今は、兄と妹の久方ぶりの再会なのだぞ」


 オルナーのその発言に、アリッサは拍子抜けしてその身を任せてしまった。だが、その呆れは決して嫌悪ではない。自分の兄を慕う妹としての想い。


「言葉で人を見分けるなんて、兄貴はやっぱり馬鹿っす」

「言ってくれるな。俺も痛い程よくわかっている」


 ふっと笑みを浮かべアリッサを離したオルナーは、再び強張った顔つきで魔獣を見つめる。


「さて、今のやり取りをあの黒葬の魔獣モザ=ドゥーグがご丁寧に傍観してくれるとは思えん。やはり何かあるようだ」

「でもそれってこの魔獣を倒すチャンスでもあるってことっすよね?」

「前向きに考えるとな。だが、今のままではそのチャンスを形に変える方法はない」

「もしかしたら!こちらが手出ししなければ、あの魔獣も無理やりは攻撃してこないかもっす!そのまま援軍が来るまで待ち続ければ……!」

「それもアリかもしれないが、俺たちの目的は中央神殿(セントラル・ドグマ)の死守だ。奴が中央神殿に向けて攻撃を開始すれば、俺たちは応戦しなければならない。それに、あの三人がモザ=ドゥーグ相手に果たして()()()()()と思うか?」

「確かに、少なくともレイズ君は……レイズ君?」


 そう言いかけアリッサがちらりと背後を振り向く。そこには驚異的な速さでこちらに向かってくるレイズの姿が。


 レイズは、今までの攻撃全てを鑑みて一つの結論にたどり着いた。魔獣の皮膚の前には、どのような攻撃も無残に灰と化してしまう。ただひとつ、魔獣の周囲を覆う気体を除いて……


「要は、空気ならダメージ通るんだろ!!!」


 レイズは魔獣の近くにまで移動すると、そこにいたオルナーとアリッサにありったけの声で呼びかける。


「二人ともそこから逃げろぉぉぉ!!!」

「へ!?」

「なんだと!?」


 二人はレイズの動向にぽかんとしながらも、いそいそとその場を立ち去る。

 魔獣はギロリとレイズを覗くと、グルルルと唸り声を上げた。


自然操作ナチュラル・コントロール……わかんねえ。リリアはどうやって発動してたっけな……」


 レイズはリリアが自然操作を行っていた瞬間を思い出す。確か、剣を天空に掲げ、ある文言を口にしていたような気が、


「こうだ!」


 はっとその言葉を思い出したレイズは、ぐっと息を吸い上げ──


術式拡張(スペル・ディレイト)!!!」


 術式を対象へと拡張させるその台詞。その対象は、魔獣が佇む真下の地面。


「おらああああああああ!!!!!!」


 衝撃共鳴(ショックウェーブ)《ハウリング》!!!!!


 そのままレイズが引き締まった両腕を向けると、大地が鳴動しやがて地鳴りを立てて崩壊する。


「すご!?」

「レイズさん……!!!」


 遠くからその様子を眺めていたエーリカとリリアも、あっけにとられを目を見張る。

 

 レイズがやってのけたこと、それは大地の術式一つ一つを《衝撃魔法》と同化させ、互いに地面に衝撃を与えその形を崩させたのだ。 


 自然操作などという芸当は、エルフにしか行えない代物だとずっと確信していたのに。それをもはや、自分が憎んでいた人間がやってのけるなど思いもしなかったと、

 リリアは遠目からレイズを見つめ、自分の認識の愚かさを痛感した。


 そして魔獣は──


『グアアアアアア!!!!!!』


 自身が立っていた地面が軒並み崩壊したことで、魔獣はグラグラとバランスを乱す。その後、地面に立つことが困難だと悟った魔獣は、どばっと漆黒の翼を広げ飛翔する。


「飛んだっす!!!」

「一体……何を……?」


 上空に青空に浮かぶ黒翼の巨体を見上げ、レイズはふっと身を引き締める。


 全ては強くなるため、強くなってエーリカを護るため。

 もう失敗は許さない。ダリア・フォールでエーリカが連れ去られたその時から、レイズは心の中で誓っていた。

 もう二度と、あの哀し気な顔をさせないため。エーリカの前で、大切な人を失わせないため。


 ──俺は強くなる


 全ての一撃を拳に込め、狙うは黒葬の魔獣モザ=ドゥーグ。

 王国騎士総出ですら敵わなかった漆黒の巨獣ですら、自身が成長するための踏み台に過ぎない。

 この魔獣を倒せないようでは、俺はエーリカを護れない。

 平原に吹き込む風が、レイズの金色の髪を揺らす。きっとその風は、この広い大地を遠くから渡ってきたのだろう。

 レイズは体をうねらせ、左腕を後方に下げる。そして、


五重・衝撃放出(ショックウェーブ)《クランティブルインパクト》!!!


 勢いよく左腕を振りかざし放たれた衝撃波は、そのまま空気を押し上げ巨大な塊となる。その後ろから衝撃波が続き、二重の砲弾となって魔獣に突き進んだ。


「いっけえええぇぇぇぇ!!!」


 レイズの叫び声と共にブワッと加速した衝撃波は、魔獣に裂ける暇も与えず──直撃した。

 

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