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エンシェント・オリジン  作者: ホメオスタシス
第1章 旅立ちは必然に
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第11話 誓う

そこにいたのは、死んだはずのステラだ。


「母上!!」


 ネヴァンが我を忘れたように壇上へ駆け寄る。

 しかしその直前、神父によってその身を取り押さえられた。


「放せ……!僕は母上に……!!」

「ネヴァン」

「はっ……!」


 ネヴァンは自分の名を呼ばれて思わず壇上を見上げる。

 その声の主はエーリカだ。しかしその声音と表情から、ネヴァンにはそれが誰なのかが一目で分かった。


「あんたはいつも落ち着かないねえ。もう立派な大人じゃないか」

「母上……っ!ぼ、僕はあなたが殺された理由が分かりません。なぜ、あなたは殺されなければならなかったのですか!?」


 ネヴァンはボロボロの涙のままエーリカの声を借りたステラに話しかける。

 

「これは、私の交渉の結果だ。当然、こうなることは分かっていたよ」

「……っ!?」

「だけど、いざ殺されると情けないものだねえ。私がもっとしっかりしていれば、皆が助かる方法があったかもしれないのに」

「なら、蘇生の儀をいたしましょう!母上にはまだ未練あるはずで……」

「それはしないよ」

「なぜ!?」

「託したからね。この娘に」


 ステラの言葉に、ネヴァンは目を瞬かせる。

 その時、一瞬だけステラだった人物がエーリカという少女に戻った。

 また目を瞬かせると、元通りのステラに戻る。


「この娘は泣き虫でねえ。何か起こるとすぐに自分のせいにしてしまう娘なんだよ。でもね。そんな娘が私に約束してくれたんだ。いつか必ず、自分の夢を叶えると。だから、私は託すことを決めたんだよ」

「う、うぅ……」

「ネヴァン、あんたは死霊術差別を無くすためにハインゲアに旅立ったんだろう?ならば絶対に叶えなさい。こんなエーリカが自分の夢を叶えると言ってるんだ。できないはずはないだろう?」

「分かりました……僕は絶対……」

「ならイルドーザの元で、もうちょっと見守ってようかねえ」


 その瞬間、エーリカの周辺が一層眩しく光り輝く。


「母上……!母上……!!」


 その光に飲み込まれないよう、ネヴァンは必死にステラの名を呼ぶ。

 しかし、それが叶うことはなかった。


《エーリカ》

「はい」

《自分のせいだと豪語するのはいい。でもね、そこで立ち止まってはいけないよ。それは自分の夢を卑下するようなことだからね。いいかい、もし辛くなった時は大声で自分の夢を叫びなさい。そしてそれを誇りなさい。貴方の夢は、立派なのだから》

「はい……お元気で……」

《じゃあね、まだどこかで……》

 

 刹那──ステラの魂は、ゆっくりと天へ昇って行った。

 エーリカは数舜の間、その場に座りつくす。

 その後、頬を伝う涙を拭き、壇上を見つめる参列者の元に立った。


「もう、この儀を行えるのもこれで終わりかもしれません」


 その時、会場の空気が変わった。


「なので、今日この場を持って、私は誓います。レディニア王国第二王女、エーリカ・ディル・レディニアは、必ずやこの国を取り戻します」


 その声に、ネヴァンや参列者の面々は目を丸くしながらエーリカを見つめていた。


 そんなの無理だ。あの王女では叶えられない。相手がアヴァロニカではなければ。

 口々にそのような声が聞こえてくる。

 無論、エーリカにもその声が聞こえているだろう。


 だが──エーリカの濁りない純粋な瞳の輝きが、そんな考えを持った者たちの心を圧倒した。


「何年かかるか分かりません。もしかしたら、何十年も先かも……ですが、私は絶対に諦めません!ステラ様に託されましたから!なので皆さんもどうかその日まで、ご健在でいてくださいね」


 エーリカが微笑みながらそう宣言すると。厳かだった教会から熱気が立つ。

 同時に拍手が聞こえてきた。その主は神父だ。

 その後、会場からも盛大な拍手がエーリカに送られた。

 その暖かく熱気にあふれた教会内に、エーリカは涙ぐんでしまう。


「よかったな、エーリカ」


 大勢の拍手の中。エーリカに聞こえるはずもない言葉を、レイズが静かに呟いた。


 * 


「エーリカ王女」

「あなたは……ネヴァンさん」


 葬礼が終わり、一同がそれぞれの話の花を咲かせていた時、エーリカとレイズの元に一人の男がやってきた。

 ネヴァンだ。ビシッと決めていたタキシードを若干着崩し、目頭が赤く腫れていた。


「すみません。このような醜態をさらしてしまって」

「い、いいえ!そんなことありません!」

「先程の宣言、ご立派でした。僕も痺れてしまいましたよ」

「あ、ありがとうございます」


 ネヴァンの純粋な賛辞に、エーリカは顔を赤らめてしまう。


「もうさっきまでの威勢はどっか行っちまったな!」

「もー!やめてください!レイズさん」


 すかさずレイズが突っ込むと、その場に和やかな雰囲気が流れネヴァンは思わず微笑んだ。


「悼辞、あなたに任せてよかったと思います」

「え?」


 突然のネヴァンの告白に、エーリカは目を丸くした。


「正直、最初にあなたに悼辞をやらせてほしいと言われた時、正気かと思いました」


 ネヴァンの話を、エーリカは沈黙したまま聞いている。


 自分に何ができるのか。

 最初に出た答えはステラへの悼辞だ。

 それは、自分が変わろうと思うきっかけを作ってくれたステラへのお礼でもあった。

 しかし、それをネヴァンに話すと、ネヴァンには最初激しく断られてしまう。

 その後、何度もの説得でようやく悼辞の機会を得たのだが、その時の感情をネヴァンは克明に覚えていた。 


「ただでさえ状況が最悪なのに、あなたが居合わせたことで、当時の僕は母が殺された原因はあなたなのだと思ってしまいました。すみません」

「いえ……そんな!」

「ですが、悼辞を述べるのがもし僕だったら、あの時の複雑な気持ちの中言葉など言えなかったかもしれません」

「えっ……」

「改めて、ありがとうございます。レディニア王国、必ず復興させてください。僕もお手伝いすることがあれば喜んでいたいたしますので」


 そう言って、ネヴァンはエーリカに手を差し伸べた。

 エーリカもそれに応じ、お互いに固い握手を交わす。


「わかりました。ネヴァンさんも頑張ってください」

「はい。それでは」


 その言葉を残し、ネヴァンは手を振りながら去っていった。


「いいやつだったな!」

「はい」


「おっと、ここにいましたか」


 ネヴァンが去ってすぐに、アッシュブロンドの髪の少女、ヴィカトリアがエーリカの元にやってきた。

 ヴィカトリカは先ほどまでの黒いドレスとは違い、ここへ来た時にも着ていた謎の龍の模様が描かれた長袖を着用している。


(改めて見て思うけど……ヴィカトリアさんの服のセンス……)

「エーリカ王女今私のことを馬鹿にしましたね」

「そ、そんなことは!!」


「してたな」


 ヴィカトリアに心を読まれてエーリカが慌てて否定するが、レイズとヴィカトリアに不審な目で見られてしまう。


「これはハインゲアのダウンタウンという街で買ったスタジャンと呼ばれる服です。今ダウンタウンで作られた服が若者に人気なんですよ」

「そ、そうなんですかぁ……」


 自分で着用する服はすべて侍女に揃えてもらっていたエーリカにとって、流行の服など一切知るはずもなく、

 エーリカは頷くふりをして適当に話を流した。


「そんなことはどうでもいいです。エーリカ王女、昨日私が言ったことを覚えていますね?」

「えっとたしか、私の夢を手伝うって……」

「はい。もともとステラ様との対話の他に、これも話そうかと思いやってきたんです」

「やっぱりヴィカトリアさん。私がここに亡命したとも分かって……」

「何のことですか?」


「お?」


 二人の会話に理解が追い付かなかったのか、脇で傍観していたレイズが首をかしげる。


「それで、今日はその具体的な事についての会談をしようかと思っています。既にイシュタリア家の方に場所は用意して貰いました。早速行きましょう」


「おぉ!行こうぜエーリカ!」

「は、はぁ……」


 * 


 ヴィカトリアに案内されるまま、レイズとエーリカは屋敷二階の応接間にやってくる。

 エーリカとレイズが寝泊りに使っていた部屋よりは僅かに小さく、その代わりに大きなテーブルと向かい合わせに金の装飾が施されたソファーが置いてある。

 応接間に着くなり、ヴィカトリアはソファに座りそれに続いてレイズとエーリカもテーブルを挟んだ向かい側のソファに座った。


「さて、具体的な話なのですが」

「は、はい!」


 話始めた途端、ヴィカトリアが急に厳格になったことにエーリカは驚き、顔を引きつらせる。

 これがエーリカにとって、スカンジア大陸一の豪商を取り纏める商会長との初めての商談。

 エーリカは改めてそれを実感し、若干の緊張で手を握りしめた。


「実は我がカルテット商会、エーリカ様のレディニア王国を再興させるための資金援助をさせていただこうと思いまして」

「資金援助、資金援助ですねえ……えぇ!?」


「どういうことだ?」


 ヴィカトリアの突拍子もない提案にエーリカの叫き声が応接室内に響きわたる中、相も変わらず理解のできなかったレイズが静かに疑問を投げかけた。

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