続×2・魔法主体のゲーム世界で魔力0 〜心なしかエタりそうな感じになってきたけど短編だから関係ない〜
「魔法主体のゲーム世界で魔力0 〜拳ひとつで生きていきます〜」の続編の続編です。
「嫁以外の女を寝室に連れ込むんじゃねーっ!!」
「うぼぶばぁ!?」
ここは剣と魔法と冒険の世界。
今日は突如王城を襲ったドラゴンの暴走を止めた冒険者ティナに対して勲章の授与式が行われた。
「ねえ、シュティーナ…いえ、ティナを見なかった?」
王宮の廊下でたまたま居合わせたメイドに尋ねる第三王女ケルスティン。
嫌がるティナを無理やり晩餐に誘い、今夜は泊まっていくように仕向けたのだが何処かへ行ってしまったのだった。
「いえ、私は存じ上げませんが…」
「そう、どこへ行ってしまったのかしら…」
メイドはわずかに顔を硬らせながら答えたが王女は気がつかなかった。
ケルスティンはまだ10歳、あまりそう言うことには目敏くないのだ。
その頃ティナは騙されてスヴェン王子の寝室に閉じ込められていた。
迫ってきたスヴェンは顔面で何かが炸裂して吹き飛ばされたが、防音なのか、お楽しみ中の音と勘違いしたのか誰かが来る気配はなかった。
前歯が3本ほど折れた王子が何か喚いている。
「悪いけど私は帰らせてもらうわ」
バルコニーに続くガラス張りのドアに向かうティナにスヴェンが何か叫ぶ。
おそらく、結界が張ってあるから開けることは出来ないぞ、みたいな事を言っているのだろうがティナは気にせず普通にドアを開けて外に出るのだった。
この世界は全て魔法が前提、何をするにも魔力が作用することが当たり前の世界だ。
だから、結界の類は魔力を持ったものが触れることで作用する。
そんな中、ティナは魔力を一切持たない唯一の存在だった。
「帰るは良いけど着替えたいなぁ」
ティナは晩餐に付き合わされたせいでドレスを着ている。
王家で用意した物だ。
現在はティナと名乗り平民として冒険者をしているが、元の彼女はシュティーナ・ルーマン伯爵令嬢、成人と同時に家を出たのでそれほど経験はないがドレスの着こなしもマナーもそれなりに身につけていたため、晩餐自体は滞りなく済ますことができた。
肩を出したドレスで髪を上げて編み込んでいるので首元がちょっと心許ない。
「やっぱ服を返してもらいに行かないと…」
独言ながらなんとなく見渡した景色に違和感を覚える。
「…ドラゴンどこ行った?」
王宮は王城内でも高台にある。
ティナが居るのは王宮の前の庭園で、ドラゴンが暴れた区画が良く見える。
ドラゴンが居座った宮殿跡も見えるがそこにドラゴンの姿は見えなかった。
暗いせいで見えない、と言うわけでも無さそうだ。
「ティーナー見つけたっ!!」
「おわあああっ!?」
突然飛びつかれて驚くティナ。
ひっぺがして距離を置いたら魔力がないため鑑定力が低いティナでもすぐに分かった。
「ど、ドラゴン?」
「そう。ティーナーに会うため魔具を作ったら盗まれた。奪い返しに来たらティーナーが来た。幸運」
「魔具って、あの卵のこと?」
「ドラゴン、繁殖しない。転生する」
「あー、そう言う…」
「私、ティーナーと冒険する。来た」
「冒険ねぇ。とりあえず城の敷地内に突然現れたらマズいよね…。こんな感じの服に出来る?」
今のドラゴンの格好は騎士の訓練服っぽい衣装だ。
おそらく先日の戦いの際のティナを見て真似たのだろう。
ドラゴン本人の姿はスレンダーな大人の女性だ。
髪は緑がかった黒髪で、瞳はティナ同様アンバー系だ。
訓練服がブワッと盛り上がったかと思ったら、グルグルと巻きついてドレスになった。
やはり魔法か何かで再現しているようだ。
「後は、他の人に魔力が人並みだと思わせることは出来る?」
「それは無理」
「って言うか、そう言えばなんで私がすぐに分かったの?」
ティナの魔力は0なので、魔力で探知したりする事は出来ないはず。
そう思っていた。
「ティーナーの周りだけあるはずの物が何もない。穴が空いているように感じる」
「まじかー」
ティナは素質として魔力が無いわけではない。
魔法関係のステータスが全て打撃力に変換されるスキルがあるのだ。
自分の意思で解除できるスキルだったら、一般的な魔法職の30倍はあるだろう。
そのスキルが体内に留まらず周辺の魔力まで吸い取って変換しているらしい。
人間は大気中の魔力まで細かく感じ取ることは出来ないため、人には分からないらしい。
「グレタ」
ティナが呼ぶとワンピースにエプロン姿のブロンド美人が現れた。珍しく眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をしている。
「ゲっ?!」
ドラゴンがシャーっと言う威嚇音を上げた。
どうやらドラゴンとグレタは相性が悪いようだ。
「私のパートナーを威嚇しない」
「え、でも、コレ」
「コレとか言わない」
「ううう」
いじけるドラゴンに対してパートナーと言われたグレタはドヤ顔を隠そうとしているのが分かる。
つまり隠れてない。
「えっと、この子の魔力を偽装出来る?」
「多少は」
「まあ、とりあえずそれで妥協しましょうか」
「見つけたぞ」
「うわあああああっ!?」
近衛騎士団副団長ジークフリート・ニーベリだ。
「なぜ貴方がっ」
突然バックを取られて狼狽する。
先日の意趣返しだろうか、ティナでも気がつかないとはなかなかの隠密能力だ。とは言え、よくよく考えればティナは探索魔法などが使えないのだから、魔法の使い方が上手い上に体術に優れた者が相手の場合、かなり不利になる事が分かった。今後はなんらかの解決手段を考えるべきかもしれない。
「ティナが居なくなったと王宮は大騒ぎだ」
「あ、それはそうか」
「ところで、このご婦人は?」
「ああ、ドラゴン、って名前は?」
「名前? ティーナーが付けて?」
「ティーナーじゃなくて、ティナね」
「ティーナ?」
「うんまあ、良いか。えーと、シェスティンとかどうかな?」
「わかった。私はシェスティン」
「と言うことよ?」
「どう言うことだ?」
その後2人は王宮に連行された。
グレタは既に居ない。
途中、知らない女が居ると言う不信感を持った視線は感じたが、ドラゴンがウロウロしている事に気がついた様子はなかった。さすがグレタ。万能メイドである。
「メイドの何のスキルを使ったのかしら…」
王宮に戻るとケルスティン王女とスヴェン王子が待ち構えていた。
「貴様、この私の歯を折って生きて帰れると思うなよ!!」
前歯が3本無くなった元美青年が顔を歪めて怒鳴る。
心なしか鼻も曲がっている気がする。
「えっと、私が何故、王子の歯を折るんです?」
「貴様が何かよくわからん力を使ったのだろうが!!」
「何のために?」
「あくまでシラを切るか。こちらには証拠もあるのだぞ」
そう言うと王子は記録魔道具を取り出して、その時の様子を空中に表示して見せるが、ティナの姿はない。部屋全体を映す物だったら映っていたかもしれないが、人を追尾する仕組みが仇となって王子しか映っていなかった。
「えーっと、どの辺が証拠なのか分かりませんが、寝室と私に何の関係が?」
「うぐっ、な、どう言う事だ…」
「いえ、私が聞きたいのですが」
話している間に、ぱきゅんぱきゅんと言う音とともに残っていた王子の前歯が弾き飛ぶ。
誰の目にも何が起こっているのか分からなかった。
王女に至ってはその現象が起こっていることすら気がついていなかった。
ティナが目視不可の裏拳で砕いたのだが。
魔力0を見分けられるシェスティン以外にはティナが動いた可能性を観測することすら出来なかった。
その後、王子が寝室でティナに何かをしようとしたのではないかと感じたジークフリートに王子は連行されていった。その後どうなったのか分からない。
その晩はとりあえず王城に泊まり、翌日ティナはなんだかんだと引き止めるケルスティン王女を何とかなだめて帰ることにした。
「えーっと冒険者って、分かる」
「分かる」
「じゃあ、今度は冒険者っぽい格好ね」
「こんな感じ?」
シェスティンのドレスが身体に巻きついて、ぴったりした感じのインナーに短めのジャケット、ショートパンツに膝当て付きのロングブーツ姿になった。
「うん、なんか一番冒険者っぽい」
苦笑するティナ。ティナは庶民っぽいワンピースにショートブーツ、グレタは平民と言ってもなんとか通るくらいのメイドっぽい格好だ。正直冒険者の服ではなかった。
その後、ティナはジークフリートに書いてもらった推薦書を冒険者ギルドに持って行くことで中堅冒険者になることが出来た。騎士団員ではあるが、冒険者にも一目置かれているそうで、彼の推薦なら、と言うことだった。
「さーて、なんだかんだ面倒な事もあったけど、これで冒険者として活動できるね」
「冒険、する」
「ご随意に」
彼女たちの冒険はまだ始まったばかりだ。完
いや、まだ続き書くかもしれないけど