始動
「愛してるぜ、隼人。」
僕はいつもと変わらない会話の一コマのように、長年連れ添った親友に告白をした。
してしまっていた。
この気持ちは絶対に隠して生きていこうと思っていたのに。
知られたら絶対に縁を切られるから。
そんな事は分かっていたはずなのに、気が付いたら衝動的に打ち明けてしまっていた。
直前まで自分の体をコントロール出来ない程緊張していたのに、人間というものは山を越えたら冷静になるらしい。
処女雪の様にただただ真っ白だった僕の頭に、この現実がずかずかと、深く刻み込む様に足跡を残していった。
無情にも、僕の頭が理解するのにそう時間はかからなかった。
嫌われる。
この言葉が体を埋め尽くす。
同時に、つま先立ちで崖っぷちを立たされている様な得体の知れない恐怖と焦燥感に体を支配された。
逃げようぜ。
悪魔の甘美な囁きに身を任せ震える脚に力を入れて走りだそうとしたその時、腕をがっと誰かに掴まれた感触がした。
どうも世界は都合のいい様には回っていなくて、様々な感情に押し潰されそうになりながら逃走を決心した時点でもうタイムオーバーだったらしい。
終わった。
この確信は根拠など無かったが、確かなものだった。
神様仏様どうか助けてください、なんでもしますから!
信じている神などいないのに、日本人らしく困った時だけ神頼みをする。
神の救いか、悪魔の罠かはわからないが願いは聞き届けられた。
「まあ、少しだけなら…ね?」
そう冗談交じりに言った隼人の顔は、茹でダコの様に赤く染まっていた。