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偽善

「ねえ、ピアス開けていい?」

俺は彼女にそう問いかけた。

「いやだ。私がピアス嫌いなの知ってるでしょ?」

そう言ってキッと睨む彼女と目が合うと、俺は下手くそな苦笑いで顔を覆い目を逸らした。

ピアスは密かに憧れていたのだが、付き合っている以上相手に嫌な思いはさせたくない。

ピアスは好きだが彼女の方が上だったのだろう。

残念だがピアスは来世に期待しようじゃないか。

どこか他人事の自分を鼻で笑い、少し先を歩いている彼女の後を追いかけた。


彼女が理由でやれないこと、最近増えたなあ。

彼女の後を追う最中、不意にそう思ってしまった。

一度回り出した思考は簡単には止まらないのか、次々に気になる点が湧いてくる。

最後にありがとうと言われたのはいつだったかな。

最後に好きと言われたのは?

最後に手を握り返してくれたのはいつだったか…。

最後に、最後に、最後に……。

不安と焦燥感にじわじわと体が奪われていく。

それと同時に、溶けた鉛のようなドロドロとした狂気に精神が犯されていくのを感じた。

足を止めている俺を不審がりながら、彼女は「どうしたの?はやく行こ」と声をかけた。

だが、返事をしようとした俺を尻目に心は勝手に喋り出す。


「まだ俺のこと、好き?」


泣きそうに震える声に反して、表情は石のように固い。

「なに言ってるの?当たり前でしょ。馬鹿なこと言ってないではやく行こうよ。」

そう言いながら微笑んだ彼女の顔は、やけに完成されていた。


ああ、なにをやっているんだろう俺は。彼女を一瞬でも疑った自分に腹が立つ。

せめてものお詫びに、今日は最高のデートにしよう。

そう心に誓い、俺は彼女の手を取った。

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