未熟者2
「いつか俺も死ぬのだろうな」
天井に広げた指先の隙間から光が溢れていた。また眠れない日が続いている。気づけば日付も変わっていた。もう5月だ。俺が生徒会長の選挙に落選して1週間が経つ。
「まあ当選するとは思ってなかったけどな」
いつもの様にネガティヴ思考に陥っていた。
「誰も俺の事何か見てくれない。まあ仕方ないよな、俺には誇れるものなんか何もないんだから。部活もボランティア部だし、メガネ掛けているし、そりゃモテねえよな。」
昨日友達と話していた時に放った自虐ネタが少しの時を超えて、自分の体を通過した。痛みなんかない。ただ高2の俺からしたら少々ダメージはあった。人間は尽きない欲望の中で生きている。それはお金持ちも、貧乏な奴も、天才も、ばかもそうである。未熟者の俺はそう信じていた。でも、それって本当だろうか。また自分の都合のいい様に書き換えているのではないか。ただ、ただ、羨ましいの一言がいえなかったのだ。自分がばかで未熟者なのを、認めたくなかったのだ。
「はーめんどくせー、グジグジ悩んで。」
カーテンには窓ガラスの水滴が反射していた。雨音の一定のリズムが脳を刺激した。気がついた次の瞬間、俺は部屋を飛び出していた。勢いよく外に出た俺はただ何かが欲しくて、自分を変えたくてひたすら夜の街を裸足で走っていた。雨で濡れた地面の感じが気持ち悪かった。でも俺は走り続けた。言葉にできない感情が脳内を巡り、気が付いたら涙を流していた。涙は頬を流れて、雨と同化していった。その日は帰るつもりはなかった。星も月も見えない空を見上げて、また涙を流した。感情が形にならないまま、ただ溢れていた。夜はこれからだ。そして、君の人生もこれからだ。少年よ泣くな、顔を上げろ。僕らはいつだってそうやって生きているだろう。あの時の自分にそう伝えたい。夢も希望もない少年は、その後の人生をどう歩んだのだろうか。雨は止み、涙は止まり、雲間から月が顔を出していた。明けない夜はない。これは未熟者の話である。