俺がオヤジの後を継いでダンジョン経営するなんて…
西陽が差し込む古びた喫茶店では、そこが『東京』である事を忘れるほど、静寂が支配していた。
「ミッちゃん。今日も客は俺だけかい?」
「うるせぇ!クソじじぃ!」
東京の外れで喫茶店の雇われ店長をして10年。何も変わらない日常が過ぎていた…
その日、珍しく携帯の電話が鳴った。相手は田舎にいる3つ年下の従姉妹の由香だった。
「ミッ、ミッちゃん…健二おじさんと、アキちゃんが…交通事故で…」
「親父とお袋が?」
田舎の駅に戻って来たのは、高校卒業以来20年振りだった。
子供の頃から親の後を継ぐのが嫌だった。こんな田舎で一生を終わらせたくなかった。自分の可能性を信じていた。その時は、まだ…
親父の反対を押し切り東京に出てきた。会社は直ぐに決まったが、『自分の事を認めてくれない』と言っては、直ぐに会社を辞めた。そんな事を10年繰り返していたある時、通っていた喫茶店のオーナーが身体を崩したのを機に雇われ店長になった。オーナーからは「いつでも辞めていい。その時は店を畳むから。」と言われていたが、何となく続けていた。
由香は、俺が東京に出てからも唯一連絡を取り続けていた親族だった。「東京の友達に会いに行く」と言って、時々俺に会いに来ては両親の様子を教えてくれた。由香は、二つの家族の娘だった。由香にだけは頭が上がらない…
陽も暮れた頃、由香から教えて貰った市民病院に着いた。
「ミッちゃん…」
霊安室には20年振りに会う親族と、冷たくなった両親が俺を待っていた。
「ミッちゃん…実はおじさんとおばさん、ミッちゃんに逢いに東京に行く所だったの…」
「えっ?」
「おじさんも、ずっと悩んでたの。私も二人が早く仲直りして欲しくて『早く逢いに行ってあげて』って、ずっとお願いしてたの…そしたら…そしたら…私のせい…」
「違う!違う!由香のせいじゃない!」
もう話す事が出来ない二つの亡骸に、俺は何度も何度も繰り返し話しかけた。
「ごめん。ごめん…俺が…」
20年間言えなかった想いと言葉を…
俺は、あれだけ嫌っていた親父の店を継いだ。
開店前、店先に立ち、20年前と変わらない看板を見上げていた。
[喫茶 ダンジョン]
♪カランコロン
扉が開いて由香が顔を出した。
「オーナー。開店しますよ!」
「ヤメろよ。その言い方!」
今日も変わらない日常が始まる。
…でも、今までの日常とは違う。
ここが、人生に『迷った』人達の拠り所になれればいい…
そうだろ?オヤジ!
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『なろうラジオ大賞』投稿3作目
①タイムスリップRadio
②『トカゲ』と『おっさん』。時々『彼女』
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