死別
学校の屋上。とある昼下がり、屋上で寝転び授業をサボる不届きな影があった。
携帯をいじり眠たげな目でスレッドの文字を流し見ていると、こちらへ近寄る様な気配がした。
いつも感じる様な、またうるさいのが来たなと思う様な、そんな雰囲気を察して立ち上がる。
──── 神谷以蔵。趣味は昼寝とネットサーフィン。そんな男が、突如異世界へと転生し、その世界の戦争を止める冒険譚である。
カン、カン、と、鉄の梯子を登る様な音がする。結果、神谷は呆気なく幼馴染の「桐生茜」に見つかり、携帯を没収された。
「もうっ!また授業サボってこんな所で寝て。今月で何回目よ!」
「チッ、うっせーな……胸は小せぇのに声だけはデケェよなお前、大体何でそんなに俺に構うんだよ。」
「なっ!そ、それは…その……ッ!あーもう、いいでしょそんな事!!と・に・か・く!今から授業に出なさい!体育でしょ?早く!」
「あー、ったく、うっせえうっせえ。わかったよ……は〜………」
渋々、茜に促され、叱られ、携帯を人質に取られてしまい、不本意ながら午後の体育に参加した。
──────── 6月の気候の中、夏の近づく音を、気の幹から感じた。
日陰で座り込み、生徒達のはしゃぐ様を冷めた眼差しで眺めている神谷。運動の出来ない様な自分が何故こんな所にいるのか理解の及ばないまま溜息ばかりを溢している。
その様を見兼ね、ある男が近付いてきた。体育教師の飯田だ。顔立ちは勇ましく、筋骨隆々な肢体に生徒への暖かな対応、正に、全生徒の憧れの様な男だった。
陽の当たる所ばかりを歩いて来た男が今更何の嫌味だと、神谷の鋭い目付きが飯田を貫いた。
「神谷、お前またそんな所で座り込んでるな。調子でも悪いのか?保健室にでも行くか?」
無論善意で聞いているのは此方とて百も承知だ、だが、だからこそその優しさが神谷の劣等感を際立たせ胸に釘を打ち付けた。
「いえ、別に…。飯田先生は、みんなを見てなくていいんですか…。彼奴等、こっち見てますよ。」
腫れ物と壊れ物を見る様な眼差しが神谷へ刺さる。飯田への最大限の嫌味だった言葉は、どうやら届かなかったらしい。
彼は神谷の嫉妬を見透かしもせず、察せずに和の中へと放り込んだ。
「何言ってるんだ、みんなお前とやりたいんだよ。ほら、行ってこい!」
手を引かれ、立たされ、無情にも青空の下に立たされた。
──── 怖い。陰を失った彼の表情が強張る。
何も出来ない自分が怖いのじゃなく、何をしてくるかわからない皆が怖い。
普段から会話など茜とばかり、その茜も学校では人気者。対して此方は落ちこぼれの嫌われ者だ。いつからか差別化され、独りぼっちとなってしまった神谷は誰とも絡まずにいた。
──── それが今になって、何もない、特別でもない彼の日常を飯田の暴挙により非日常へと変えられた。
「あ…ッ、ぇ………ッ」
脚が竦む、他人の視線とはこんなに痛いものだったのだろうか。
すると、突如再開のホイッスルが響いた。
皆神谷を避ける様に、パスを回していく。その中で神谷はただついていく様に走るだけ、勿論パスを貰える訳でもない。
活躍しているのはクラス内でも人気のイケメン、サッカー部の面子。
ベンチからの女子の声援は皆彼等を放たれていた。
するとどうだろうか、日和った神谷の足は覚束なくなり、バランスを崩す。
倒れ込みそうになった刹那隣へ走りに来た生徒にぶつかった。回されたパスを受け取りに上がって来たのが運のツキだろう、彼の活躍は神谷により阻止され、攻撃の手も休まる。
「ッ、おい!テメェ突っ立ってんなら出てけよ!!邪魔なんだよオタク野郎が。…マジでうぜーな…」
邪険に扱われ、肩を押され地に尻餅を突いた。
青褪め、息も浅くなり、空ばかりを見つめる。
「…はぁ…ッ、…はぁッ………!」
この場にいる事への焦燥、せめてクラスに馴染まなければと言う焦り、この恥態を茜に見られた恐怖。
それらが入り混じった神谷の感情は定かではない。
視界は歪み肩の力は抜け全身を痙攣させていく。処理の追い付かない脳味噌は頭痛さえ引き起こし吐き気を催した。
胃の中身が脈打ち、便意を加速させる。
「ねぇ…アレやばくない…?」
「うわ、やっば……泡出てるよ、気持ちわる…ッ」
「……なにあれ…え、嘘…」
「…ねぇ、なんか怖いよ……!」
「………以蔵…!」
誰よりも先に飛び出し、神谷の元へと駆け寄る影があった。
茜は自身を制止させる声も聞かず一目散に彼の元へ駆け寄り抱き上げた。
「以蔵!ねぇ以蔵!!大丈夫!?ねぇ、ねぇ!」
「ぁ…ッ、…ぅ……ぅ……」
神谷は痙攣を繰り返したまま、茜の顔と地面とを交互に見つめるばかり。
言語も覚束なくなり、ついにその視界は闇に葬られた。
──────── 見覚えのある天井。授業をサボり、週に3回は見ている光景だ。保健室に運ばれた事を悟り、重たい身体を徐に起き上がらせた。
看病をしてくれた保険医の先生にお礼をして、傍らに纏められた荷物を担ぎ、帰路へとつく。
正門にて待ち、凭れ掛かる影が見えた。茜が、神谷に気付くなり駆け寄った。
「以蔵ッ!大丈夫なの、動いて平気?まだフラフラしたりするんじゃないの…?」
「…あぁ…?別にしねぇよ……」
────妬ましい。自身と違い人望もある、且つ面倒見の良い、よく出来た人間だ。そんな茜が何の悪気もなく心配してくるのは、神谷にとってこれ以上ない程の皮肉だった。
怒気を込めた声音で、枷が外れた様に声を荒げた。
「茜ェ!いいよなお前はァ!俺なんかと違って人気があってみんなから慕われて……今日の見たろ!?アレだよアレ、彼奴等、あの態度!!わかったろ!!少なくとも俺は、お前に気にしてもらえる様な、そんな人間じゃねェんだよォ!!!」
自分でも、喉が灼ける程、脳味噌が震える程のものだった。こんなに大きな声は出した事もない。
心にもない事ばかりを並べた事に漸く思い至り、茜へ視線を向けた。
少女は、大粒の涙を溜めて、微笑んだ。
「そっ……か…。ごめん、ね……?今まで気付かなかった……あはは…ッ。………暫く、話し、かけない方が、いいね。」
そう告げて、茜は足早に夕暮れへと消えた。
少年は一人、後悔を背負った侭帰路を往き────悔しそうに空に呟いた。
「…やっちまったな……」
のらりくらり、力なく歩く彼の表情は暗く、端的に言えば絶望していた。
注意力もさる事ながら、周りの音が遠く聞こえる。
人通りも多く、閑散とした風景に似合わない、田舎の喧騒が響く中少年は青い信号の下を歩く。
────時は既に遅く、その肢体は砕けた様に遥か彼方へ吹き飛ばされ、心音は宵の帳を迎える頃に、見知らぬ天井を最後に、両親の嗚咽を鼓膜に焼き付け、目覚める事のない幻想の果へと魂が天へと溶けた。
くっさい転生物って見てると不快だけど自分で書くと楽しいね。
後で自分で読み返してガバガバの文章力とガバガバなシナリオとガバガバな構成に顔真っ赤にするの目に見えてるけどストレス発散出来るからこりゃあいい。
クソみたいなやつ連載させてくけど無理やりでも褒めて伸ばして。