第7話 廻夢のお話
俺は裕福な家庭に生まれた。母も父も大貴族、年が十個離れた兄貴は生まれつきの超天才でエリート道まっしぐら。次男の俺は幼くして(4歳)人類史上最高峰の魔術、剣術、格闘術を完璧に身に付ける。ただ問題があったとすれば少々暗かったぐらい。
俺は魔術、剣術、格闘術を身に付けるとなにもすることがなくなり、学校に行って宿題は学校で終わらせ、家に帰るといつも森のてっぺんに行き一人でいた。家にいると母やメイドが煩い。静かに居られるのは、一人でゆっくり過ごせるのはここだけだった。
そんな日常が続いていたある日、俺はある少年と出会った。その少年はこの世界で生活することが楽しそうで、心底羨ましかった。俺は彼と仲良くなって、毎日遊んだ。彼と遊んでいる間だけが生きている心地がした。学校も家にいるときもずっと楽しくない。
そうやって半年が過ぎたある日に俺は彼の素性を知ってしまった。彼は人に化けた魔族だったんだ。名前をハリー・シフル・カルトニーと言った。だが、魔族であろうが俺は彼と一緒に遊んでいたかった。そして彼は色々話してくれた。故郷のこと、仲の良い友達のこと、そしてフォールノと言う人間の世界に興味を持つ者がいること。
素性を知って8日ほどが過ぎた日、待ち合わせの場所に彼が居なかった。いつも先に来て待っているのに。俺は龍脈式魔術を使い、ハリーの居場所を探る。そして見つけたのはハリーだったと思われるぐちゃぐちゃなものと、服と手に持っているものが血まみれの大人だった。
「あ、あ、あ、」
「お前が綱明の次男か?大丈夫だったか?この魔族にそそのかされてたんだろ?」
「…え?」
「そう聞いたぞ。全く魔族のやつらは!こんな小さな子供まで戦争に巻き込む気か!」
そんなやつじゃない。ハリーはそんなことしない。純粋に、ただ人間が好きだったんだ。なんで、なんでこんなことに。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
俺は泣き崩れた。バカみたいに。
「どうしたんだ!?なんで泣くんだ?このゴミの魔族が死ぬのが嫌だったのか?」
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起きたらそこは暗い部屋で、両手は頑丈な手錠で縛られていて両足には足枷がついている。ここにあるのは布一枚。他は壁と鉄格子。聞いたことある。牢屋だな。あの言葉を聞いてから記憶がない。何で捕まったんだ?それを考えていると看守が俺の牢屋の前に来た。
「出ろ」
俺は看守の言われるまま、外に出る。
「着いてこい」
着いていくと、明るい場所に出る。看守は前にある階段を登っていったので俺も登る。登りきるとそこは処刑台だった。当時は今みたいにギロチンではなく、処刑人が薙刀で首を落とすようになっていた。俺は理由もわからないまま処刑場所に着く。この処刑台の周りにはとてつもない量の人が集まっていた。二人の処刑人は俺に声をかける。
「「あなたは犯した罪を懺悔しなさい」」
処刑人は薙刀を上げる。すると奥の方から何か叫び声が聞こえた。処刑人も手を止め、そっちを見る。俺も見た。どうやら奥の方から魔族が攻めてきたらしい。すでに数十人犠牲になっている。
「野郎共!皆殺しだ!!」
≪おーーーー!!!≫
「きゃー!」
「うわぁぁぁぁあ゛あ゛!」
次々と人が殺されていく。処刑人もどうやら俺の処刑をしている場合ではないようで、処刑台から飛び降りて交戦しに行った。
殺されていく人々、その姿がぐちゃぐちゃになったハリーの姿と重なって見えた。見るに耐えなかった。俺は手錠を割って一跳びで最前線に向かう。処刑人達はまだ来てないようだ。
「死ねぇ!人間がぁ!」
「呀蓮流拳法其の三、螺旋鎧傷」
剣で俺を切ろうとする魔族の懐に潜り込み、腕を回し殴る。
「がはぁ!」
殴って倒れた魔族のもつ剣を奪う。そもそも螺旋鎧傷は硬い鎧を壊すための技なんだが、たまに力み過ぎて敵が気絶するのが難点なんだよな。
「龍脈式魔術、龍脈暴発」
魔族が大量にいる所の龍脈を暴れさせる。これで相手の戦力は10分の1位にまで減っただろう。あっちは魔力の感知に長けているから俺が魔術を使ったって瞬時に理解する。一般市民を殺していっていたやつらが全員俺に向かってきた。
「零神流剣術、超斬擊×剣舞"絶煌"」
絶対的な煌めきを思わせるように剣を舞いながら振るう。斬擊は魔族達を一掃する。
「撤退!撤退ィィ!!」
ぞろぞろと魔族は逃げていく。司令官が馬鹿じゃなくて良かった。
「お、お前…!」
「………」
俺はまた一跳びで処刑台に戻る。そして処刑される格好をする。処刑するのを決めるのは国王だ。どういう理由であれ、今の国王であり、賢王と呼ばれるアセフ王が俺を処刑すると決めたのだから仕方ない。彼は素晴らしい。人類のために正しいことをする男だ。
「ハハハ、素晴らしいな。我が軍に匹敵するんじゃないか?」
そ、その声は!一度だけ演説で聞いたことがある!忘れるわけがない。あんたは、第52代国王アセフじゃないか!!