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風砂の王国  作者: 藤木一帆
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第七章 『悪夢は心に影を落とす』

大変遅くなりましたが7章更新しました。暴走回その2です。前にも言いましたが、乗り物はすべからく暴走するのが仕様です。

では、どうぞお楽しみください。

第七章『悪夢は心に影を落とす』


このアガス王国から砂漠にたどり着くまでには、実は大した労力ではない。

伝説の国ドナウブ王国があると言い伝えられているこの砂漠は、アスティナ大陸の実に四分の一を占めている。ほぼ大陸の中心に位置するため、最強三国にほぼ隣接しており、その砂漠と国の境には、奇妙なことだが豊かな森が延々と広がっていた。

砂漠は広がるでもなく、さりとて森になることもなく、もう何千年もその姿を保っていると言われている。

ソナウ教では砂漠は聖域とされ、それゆえこの森に足を踏み入れる者も多い。特にこのアガスは、ソナウ教の総本山もあり、この国から砂漠に旅立つ信者が最も多いのだ。故に街道、ルートも確立され、それで商売が成り立つほどに整備されている。

ちなみに王城のある地域からは、馬車を飛ばせば一日とかからずにたどり着けるほどに、森への入り口は近い。

先を急ぐ一行は、一晩中馬車を走らせ続け、明け方には砂漠との境の森の入り口にまで到達していた。

朝もやに霞む森の前で一旦休憩を挟むと、一行は再び馬車を走らせた。相変わらず、不気味なほどに襲撃は無い。そのまま一気に森の半ばあたりまで進んでから、彼らは遅めの朝食を取った。そして、ここで一旦本格的な休憩を入れることにする。

森が広がっているとはいえ、三国の国境に沿って縦長に広がっているだけなので、横断するだけならば、馬車を使えばわずか一日で抜けられる距離ほどしかない。

といっても、もちろん一筋縄ではいかない。この森は別名『迷いの森』と呼ばれ、『道案内』と呼ばれる人間を先頭に立てないと、永久にさまようと言われている。また、『道案内』を置いたとしても、三日は抜けるのに時間がかかる。

正直、森に突入する前に、『道案内』も立てずに前に進むことに、サラもコルンも大反対したのだが、聞く耳もたずにダリアナが突っ込んだのだ。絶対に道に迷うことはない、と言い放って。

その言葉通り、裏道でも知っているのかという勢いで、一切迷うことなく、ありえないスピードでここまでたどり着いている。

常識の範囲外の出来事にいい加減慣れた一行は、そのまま何も言わずに、こうして事実をあっさり受け入れていたりするのだが。

とにかく、森で迷わないにしろこのまま一気に砂漠に突入するのは、体力的にも心配が残るため、ここで作戦も兼ねて休憩となったのである。

「……気付かれずにここまで来た、ってわけじゃないよな」

近くにあった朽ちかけた切り株に腰をおろしたコルンは、露に濡れる葉から零れ落ちた水滴に、小さく顔をしかめながら一人ごちる。

「ふうむ。それは考えにくいのじゃが……。とはいえ、気配も何も、この『邪気』ではどうしようもないがの」

苦笑交じりのダリアナの言葉に、ウェブも同意を示す。

「ですね。ただ、向こうもこちらの動きを摑みきれてはいないとは思いますよ。有り得ないスピードでここまで来ていますからね」

「だといいんだがな……」

 コルンは小さく呟くと、ふう、と大きくため息を落とした。

「気持ち悪い」

「そりゃそうじゃ。わしも気分が悪い」

ダリアナが、いつになく憮然とした表情でコルンに同意する。

「仕方ないですよ。だんだん、砂漠が近づくにつれて『邪気』が濃くなってきてますからね……。皆さんもいい加減辛いでしょう?」

森をぐるりと見渡すようにしてから、サラがぼそりと尋ねてくる。

「……ああ。俺、こういうの鈍くてな。でも、そんな俺でも分かる。森に入ったあたりから、きっついのなんのって」

そう言って、コルンはげんなりしたように頭を抱えた。

一行が悩まされているのは、この『邪気』である。この気持ち悪さを説明するのは難しい。一番分かりやすくいうならば、重く立ち込めた霧が、湿気と生暖かさとぬめりを持って、全身のみならず体の中にまでまとわりついてくるような気持ち悪い空気、というのが一番近い。

コルンは、こういう『邪気』を感じる能力には長けていない。ウェブやダリアナはそれ相応に感じるらしいが、だからと言ってその出所を探し出せるほどの能力はない。

しかも慣れているわけではないので、先ほどから随分気持ち悪そうに、顔を青ざめさせている。

それに比べ、サラは比較的けろりとした顔をして、用意したパンやスープを平らげていた。

「……なあ、サラ。ひょっとして君が旅に同行した理由って、『邪気』への耐性とか?」

ふと思い当たって、コルンはサラに尋ねた。その言葉に、サラが頷く。

「ええ。……私、戦闘とかはからっきしですが、神聖魔法と、何より『邪気感知』の能力がずば抜けて高いんです」

その言葉に、ようやくコルンは納得がいったように深く頷いた。

そういえば、出会った時から彼女は、西の砂漠から『邪気』が漏れてきている、と言っていた。最初はそれを冗談だと思っていたのだが、砂漠に近づくにつれ、鈍いコルンでもはっきりと分かるほどの『邪気』を感じている。

最初に出会った街は、アスティナ大陸の中でもかなり砂漠から離れた地域だった。そこで感じ取るのだから、相当な能力者だと思って間違いない。

ここまで感知出来るということは、そのまま『邪気』に常に晒されているような状態になる。必然的に、耐性がつくのであろう。

そうすると、彼女がソナウ教の偵察部隊の一員に選ばれた理由も理解出来る。

彼女は、『ルナス=ティア』という勇者の剣を持つ者の側で、『邪気感知』の能力を活かし、その『邪気』を発している根源へ向かう予定だった。そこで、『ルナス』が元を断つ、というシナリオだったのだろう。

実際、その話をサラにすると、サラも小さく頷いて、そのとおりだと微笑んだ。

「ええ、そうです。そして、今ならはっきり分かりますよ。この『邪気』が、一体どこから発生しているのかが。だから、きっとそこが神殿の場所なんですよ。これなら砂漠に出ても、迷わずに進めます」

気楽に答えを返してくるサラに、コルンはあいまいな微笑みだけを返した。

「さて、と。そろそろ出発するか。随分休憩出来たし、もうそろそろいいだろう」

コルンはそう言って、少し伸びをしながら立ち上がった。それを合図にしたように、ぞろぞろと皆も立ち上がる。

こうして、一行は再び砂漠を目指して歩き出した。砂漠では馬が役に立たないことと、これ以上目立つのを避けるために、馬車はこの場に置いて、徒歩で森を進んでいく。

「そろそろ、砂漠が近いですね。……熱風が吹いてきました」

どれほど歩いただろうか。太陽もそろそろ西に傾き始めたころ、ウェブが誰にともなく呟く。

森は、終わりに近づいていた。視線の先に、あまり光の射さない森とは明らかに違う、まばゆいばかりの光が見える。

何より、風が変わった。森に立ち込める深いキレのような匂いが消え、かわりに湿気を伴わない、渇いた風が一行の頬を撫で始めている。

「……抜けるぞ」

コルンの言葉と共に。唐突に森が途切れた。青々と茂る木々、わずかな光を求めて伸びる下草。それらを覆うように潤った大地が、そこで空間をぶった切ったような勢いで、ぱったりと途切れていた。

ある意味、そこから全くの別世界に踏み込んだような錯覚さえ感じさせる。それほどに唐突な、砂漠の出現であった。

初めて訪れた者は、大体この光景に圧倒され、呆然と立ち尽くすといわれている。彼らは一応、四人ともこの『砂漠の国境』に訪れた経験があったが、それでもなお、一瞬その場に立ち尽くしてしまうほど、インパクトのある風景である。

背後には深く豊かな森、眼前には水一滴すらない、乾いた灼熱の砂漠。奇妙な、などという言葉一つで片付けるには、あまりにも不自然な光景だった。加えて、建築物や人工的なものが、何一つとしてそこには存在していない。

この世ならざるもの。そんな風景だ。

と、ふいに。ダリアナが何かに気付いたように、視線をふっと遠くへ送る。それにつられるようにして、全員がダリアナの瞳を追った。

「砂漠から……何か来るな」

コルンが呟いて、目を細めた。

実際のところ、砂漠に深く足を踏み入れる者は少ない。というか、皆無に近い。はっきりとした道があるわけでもなく、ささいな風で砂が崩れだし、地形はころころと変わってしまう。昼は熱風が吹きすさび、夜は凍死するほどの寒さになる。命の保障が一切無いのだ。

無謀な冒険者や、行き過ぎた信者が何人も砂漠に入り、帰ってこなかった者も少なくない。そのため、ソナウ教の信者にしろ、観光の客にしろ、砂漠に立ち入ることは敬遠されている。

だから、砂漠から何かがやってくるということは、相当珍しいことだった。魔族かもしれない、という思いが一瞬よぎり、コルンは身構える。

折れた腰の剣は、相変わらず彼の腰に下げられていた。その剣を避けるようにして、背中にかついだロングソードに手をのばす。

砂漠から、だんだんその姿が近づいてきていた。砂によく似た薄肌色の、何か長い物体が徐々に姿を見せ始める。そして、一瞬後。

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

耳をつんざく悲鳴が響き渡った。サラである。いきなり後ろで発せられた悲鳴に、思わずコルンとウェブは耳を塞いだが、実は正直、コルンも同じ勢いで叫びたい気分だった。

砂の彼方から現れたのは、『ミミズ』だった。しかも並大抵の大きさではない。まだ彼らが立っているあたりからは相当距離があるというのに、その姿がはっきりと見える。おおよその見当だけでも、体長は十メートル以上あるだろう。

「だ、ダリアナさん……。あれは、あれはなんですかなんなんですか魔物か何かで、私たちはあれを倒さなきゃならないんですか!?」

絶叫した勢いのまま、いささか青くなりながら、ずんずんこちらへ近づいてくる巨大ミミズを指差して、サラがダリアナに叫ぶようにして尋ねる。

「何を言うておる。あれじゃあれじゃ。ダーレンめ。これまた、恐ろしく巨大な乗り物をよこしたものじゃな……」

ダリアナの言葉に。再びサラが悲鳴をあげて、あれに乗るんですか!? などと喚きたてる。コルンは無言でサラをはたき倒して黙らせてから、大きく一つため息をついた。

「『砂ミミズ』じゃねえか、あれ!?」

「そうじゃよ。……普通よりも三倍ほど大きいようじゃがの」

さすがにダリアナも呆れたように呟く。

一応、コルンも知識としてこの砂ミミズを知っていた。

それは名のとおり、砂漠に住む、体長三メートルほどの大きさの『ミミズ』である。人に慣れ、性格は穏やか。この厳しい環境において、物好きにも砂漠に住みついた遊牧民の一族が居て、その一族がこれらを育てている。元々は彼らが砂漠を移動する手段として用いていたのだが、ソナウ教の行き過ぎた信者たちや、物好きな冒険者たちの足としての商売もしているのだ。

昔読んだ書物でそのような記述があったことを思い出してから、しかしその巨大さに、コルンは寒気を覚えずにはいられなかった。

「まあ、人を食うわけでもなし、大きさに慣れればたいしたことはなかろう。わしも何度か『砂ミミズ』は見たが、これほどの大きさのものは初めてじゃ」

二人がぼそぼそと話をしているうちに、砂ミミズはコルンたちの目の前まで来ていた。

「お待たせしました~!」

思いもよらぬかわいらしい声に、思わずコルンが振り仰ぐ。よく見えはしなかったが、どうやら小さな子供が乗っているようだった。その子供は、コルンたちの目の前で砂ミミズを止めると、身軽にその頭の上から、とんとんと背中をつたって降りてくる。

これまた、小さな少年だった。背の低いウェブよりさらに低い。頭にターバンを巻き、熱風吹きすさぶ砂漠だというのに、肌の一切出ない厚手の服を着込んでいる。……砂漠に住む民の、伝統的な服装だということは、一目で明らかだった。

「どおも~。コルンさんダリアナさんサラさん、そしてウェブさんだね? アガス国王からのご命令で、この砂漠で一番の砂ミミズを連れてきたよ~」

一気にそれだけまくしたてると、少年は陽気に笑った。

「国王の使者から事情は聞いてるからさ。ダリアナってお姉さんはどなた?」

「ふむ。わしじゃが」

少年の言葉に、あっさりダリアナが名乗りでる。

「お姉さん、『砂ミミズ』を扱えるんだよね? 危険なところに出向く一行だから、僕は行かずに、そのお姉さんに運転させろっていう命令なんだけど?」

大体予想していた言葉であれ、コルンは思わず胸の前で聖印を結んだ。横を見ると、依然昏倒したままのサラを、またうちわのようなもので扇ぎながら、ウェブががっくりと肩を落としている。

それにしても、サラも弱過ぎである。何度倒れるのか、と自分の暴挙を差し置いてコルンがため息をついた。

「了解した。砂ミミズは昔、ここで何度か乗って競争までしておったくらいじゃからの。扱いならまかせておくがよい」

上機嫌のダリアナに向かって、もはやコルンは何もいう気にはなれなかった。とりあえず自分たちの命というものが、運命に酷くぞんざいに扱われているということだけは、はっきりと分かる。

「じゃ。そういうことで。確かにこの砂ミミズ、皆さんに渡したからね。あと、はいこれ」

そういって、少年はそれなりに大きな包みを砂ミミズの背中からおろしてくる。

「はいこれ、砂漠での装備だよ。マントとターバン、あと砂ウサギの皮を鞣した手袋。砂漠は日差しが強いから、砂よけのレンズも人数分入ってる。このターバンで目元付近に固定していってね」

少年はぽいぽいと包みから装備を出して説明していく。

「大サービスじゃな?」

ダリアナの言葉に、少年は、そりゃ王様からの勅令だからねーと気楽に笑う。

「装備のつけ方は大丈夫だね。それじゃ僕は行くけど、方向とかわかる? あ、分かるんだ。でも、僕はこの砂漠に何年も住んでるけど、未だにちょっと迷う時があるから気をつけてね」

そう言って、少年はぴゅうっ、と思い切り口笛を吹いた。おそらく影に隠れていたのであろう、巨大ミミズの後ろから、二回りほど小さい『砂ミミズ』がひょっこりと姿を現した。少年はそれに飛び乗ると、にっこりと笑う。

「おお、そうじゃ。砂漠を知るなら、お主、最近奇妙な神殿を見なかったか?」

ふと思い出したように、ダリアナが少年を呼び止めた。その言葉に、彼は小さく顔をしかめてから、すっとある方角を指差した。

「方向をしっかり見てね。朝なら太陽を背中にして十時の方向に向かってね。まっすぐに行けば、神殿が見つかるから」

少し厳しい表情で、少年は呟くようにそう言った。そして、すぐにまた屈託の無い明るい笑顔に戻ると、小さな砂ミミズと共に、少年は元来た方向へと手を振りながら帰っていった。

「で。どうするよ。これ」

微妙に置き去りにされてしまったような形で、巨大な砂ミミズを見上げながら、コルンは呟いた。確かに急いでいる。大きければ大きいほど、移動距離も稼げるだろう。早く目的の場所へつくには最善の方法だと思われる。だがしかし……。

「目立つ! めちゃくちゃに目立つ! 俺達は偵察じゃなかったのか!?」

あまりにも本末転倒なその生き物に対して、思わずコルンが叫ぶ。大体砂漠を移動するのには、ラクダとか、『砂鳥』というダチョウのような生き物とか、他にも色々いる。機動力を考えれば、はるかにそちらのほうが適しているのだが……。

「まあ、あのダーレンのすることじゃからの……。あやつは昔から少し抜けておる」

ダリアナに言われてはおしまいである。とりあえずこれしか方法がないのなら、行くしかない。まあ神殿に近づいた時点で歩けばいいだけだ、と気を取りなおしてから。

とりあえず起こすとやっかいそうなサラに、ダリアナが装備を手早く着せると、そのままスリープの魔法をかけ、浮遊の魔法で全員を砂ミミズの頭に乗せる。

「うわー。落ちたら死ぬな、こりゃ」

コルンがおそるおそる、砂ミミズの頭の上から下を覗き込んで呟く。蛇が鎌首をもたげたような格好のまま静止しているため、かなり高い位置に乗ることになるのだ。

大体どこが頭でどこが顔なのかすら怪しいのだが、とりあえず胴体部分に巻きつけられたロープが、手綱になっているようだった。

「さて、それでは出発するかの」

ダリアナが陽気に言葉を発して、手綱をひょい、と引いた。途端に、ずずず……という砂がすれる音と共に、静かに動き出す。

見た目のグロテスクさに比べ、乗った心地は悪くなかった。

どういう構造になっているのか知らないが、まるで砂の上をすべるように、全く上下に揺れることがなく走っていく。しかも静かで早い。ダリアナの操縦というのが大いに気になったが、コルンは多少、冷静さを取り戻していた。

同時に余裕のようなものができ、およそ現実とは思えない、幻想的な砂の風景を、のんびりと眺めてみる。進む風の勢いで、邪気の気持ち悪さはほとんど消え失せていた。

「おい、サラ。邪気の発生している方向ってのは分かるのか?」

コルンはそう声をかけてから、未だサラが倒れて起きていないことに、ようやく気が付いた。

「って、まだ寝てるのかよそいつ!」

コルンの言葉に、ウェブが苦笑する。

「当たり前ですよ。ダリアナ様が、先ほど『スリープ』の魔法をかけていたじゃないですか」

その言葉に、コルンはああそうか、と頷きかけて、はたと動きを止めた。

「……ちょっと待て。ということは、俺たちは今一体どこを目指して走っているんだ? サラが邪気を感知しないと、方向もへったくれもないだろ?」

その言葉に。小さな沈黙が訪れた。

「大丈夫じゃよ。先ほどの子供が、太陽を背中にして十時の方向に行け、と言っておったじゃろ? そっちに向かっておるよ」

ダリアナが、心配無用、とばかりに答える。

「いえあの、ダリアナ様。先ほどの少年は、朝ならば、と言いましたよ。今は夕方ですので、太陽の位置が間違っています」

ウェブの言葉に。今度こそその場が凍りついた。

「砂漠に入って速攻で迷ってんじゃねーか!!」

コルンの絶叫にしかし、ダリアナはからからと豪快に笑い飛ばす。

「あっはっはっは! まあ待てコルン。たとえ方向が分かっていたにしろ、どのみちわしらは道に迷う運命にあったのじゃ」

「やかましい。いいからサラを起こして、さっさと方向転換しやがれ」

どすのきいた声でコルンが言い返すが、ダリアナはにこにこと笑ったまま、静かに後ろを指さした。「その時間も無いんじゃて。ほれやばいぞ。後ろを見てみるがよい」

その言葉に、コルンは慌てて後ろを振り返った。そして、絶望的な気分になる。

「ざっと三百ってところですかね……」

ウェブがコルンの隣りに移動して、一緒に眺めながら呟く。

これまた、なんとも気味の悪い光景であった。この高さからもはっきりと見えるほどの巨大なサソリが、何百匹も砂ミミズの後を追って走っているのである。砂漠地帯にのみ生息すると言われている、『ビッグスコーピオン』だ。

「走り始めてすぐくらいから、集まりはじめての。砂漠は無法地帯じゃからな。モンスターも多いし、何より今は、この邪気で凶暴化しておるようじゃな。あれよあれよという間に数が増えて、この状況じゃ。おまけにこのビッグスコーピオン共は、この砂ミミズが大好物でのう。当然おびえたこの砂ミミズ、実は随分前から操縦不能状態じゃ」

「そういう! 大事な! ことは! 判明した時点でさっさと言ってください!」

さすがにウェブが耐えかねて、大きな声を上げる。

「そうは言ってものう。ちょっと頑張って、わし一人でなんとかしてみようと思ったのじゃがな」

「もういい分かった黙れうるさい。いらんところで無意味に頑張るな。お前は、本っっ当にトラブルばっかり持ってきやがるな!!」

真剣に怒鳴りつけておいてから、コルンはため息をついた。もうここまで来ると、もはやこれはダリアナの嫌がらせではないかとコルンは本気で思い出していた。

「なんだか乗り物に乗るたびに、操縦不能状態に陥っている気がする……」

げんなりと呟いてから、コルンはもう一度後ろを振り返った。とりあえず、砂ミミズを落ち着かせないことには話にならない。ということは、まずはこのビッグスコーピオンを何とかしなければならない、ということになるのだが。

これだけスピードの出ている状態では、弓で狙い撃ちするか、魔法を細かく放っていくより他ない。それである程度、向こうの統率が乱れれば、振り切れるかもしれない。

そこまで考えてから、コルンは『旅珠』から弓を二組と矢を取り出した。その様子をみていたウェブが無言でコルンの隣に立つ。

二人はそのまま、黙ってビッグスコーピオンを一体ずつ打ち倒しはじめた。

「ダリアナ! 一応弓矢で応戦していく。でも矢の数はそんなに多くないし、何より俺たちの腕じゃ、百発百中なんて芸当はできない! もう今更起こったことで怒鳴ってても仕方ないから、とにかくなんとか振り切ってくれ!」

「言われなくても、さっきからずっとやっておるのじゃがな。まあ、お主らは振り落とされぬよう、しっかり掴まっておるのじゃぞ! 今からがんがん飛ばすからのう」

 そう言うやいなや、ダリアナは砂ミミズを巧みに操りながら、ぐんとスピードを上げた。なんとかビッグスコーピオンを振り切ろうと、大きく右に左に旋回するのだが、体が大きい分小回りがきかないので、なんとも要領を得ないようだった。

加えて、ビッグスコーピオンは小回りが利く。しかもやつらの方がスピードは遥かに早い。ある程度距離を保って追ってきていたのだが、こちらがスピードを上げたことを受けて、目に見えて距離を縮めてきている。

また、コルンの予想に反して、矢もたいして効果を得ず、数は一向に減っていかない。これでは、いずれ追いつかれてしまう。この数を素手で相手するのは、ぞっとしない話だった。

「コルン。おぬし、ちっと操縦を変われ」

唐突なダリアナの言葉に、コルンは思わず叫んでいた。

「馬鹿言うな! 俺は操縦なんてできないぞ!?」

「ええい、ごちゃごちゃ言うでない。助かりたかったら、いいからこの手綱をしっかり握っておれ。よいな。なに、馬を操るのとそう大差ない。大体こいつは操縦不能だから、上手いも下手もあるか」

もはや無茶苦茶である。

「ていうか、お前さっき操ってただろ!?」

それでも泣きそうな声でコルンが叫び返すが、ダリアナは聞く耳持たない。

「左右にぐらいなら動くんじゃよ。ただ止まらないだけじゃ。いいからさっさと手綱を取れ」

とんでもないことをぴしゃりとコルンに言い放つと、ダリアナは手綱を無理やり押し付けて、すっくと立ち上がった。

猛烈な風の勢いで、ダリアナの体が不安定に揺れる。思わず悲鳴をあげて、ウェブがダリアナを抱えるようにして支える。

「ダリアナ様、危ないですから無茶しないでください! 落ちたらどうするんですか!」

「何をする気だダリアナ!」

とりあえず、そのまままっすぐ暴走されてもたまらないので、必死で砂ミミズを操りながら、コルンが叫ぶ。しかし、ダリアナはそれには答えずに、ウェブに叫んでいた。

「よし、ウェブ。そのままわしを支えておるのじゃぞ!」

そうして、ダリアナは何事か口の中で呪文を唱え始めた。風を切る音でよく聞こえないが、どうやら例の『魔族の呪文』では無いらしかった。かといって、人間の言葉では決してない。ただ、ダリアナが言葉を発するたびに、周囲に魔力が増幅していくのが分かる。

「ダリアナ?」

思った以上に長い詠唱に、コルンは思わず声をかけた。だが、ダリアナは詠唱をやめることなく、朗々と続けていく。コルンの知る限り、これほどに長い詠唱の魔法は存在しないはずだった。同時に、凄まじい悪寒が背中を駆け抜ける。

知らない言葉。知らない魔法。……当然、普通の威力のはずがない!

本能が、告げていた。この魔法は、やばい。

「ウェブ! 止めさせろ! ダリアナから手を離すんだ! その魔法だけは絶対に唱えちゃいけない気がする!」

「もう遅い!」

返事をしたのは、当のダリアナだった。きょとんとするウェブを振り払うようにして、ダリアナはいきなり砂ミミズの胴体の部分へ走り出す。

「ダリアナ様!?」

ウェブが声を上げた時には、ダリアナの姿はすでに砂ミミズの上にはなかった。そして、一瞬後。

追いすがるビッグスコーピオンの集団の、丁度真ん中あたりで、閃光がほとばしった。

同時に爆音なき爆発が巻き起こり、おもちゃでも蹴散らすかのように、ビッグスコーピオンたちが次々と空へと吹っ飛ばされていく。中心から広がった閃光は、やがてモンスターの群れ全てを飲み込み、砂と共に舞い上がっていく。そして、最後に。再び大爆発が巻き起こった。今度は耳をつんざく爆音が響き渡る。それも一度や二度ではない。何度も何度も、数え切れないほどの爆音が、連続して響き渡っていた。

「こ、これは一体何事ですか……?」

さすがに爆音で目が覚めたのであろう。のろのろと起き上がりながら、そのまま呆然とした様子で、サラが二人に尋ねてくる。しかし、二人とも、黙りこくったまま、爆発を見つめているだけだった。

爆発地点は、かなり遠くへと遠ざかっていた。『砂ミミズ』はいまだ全力で走りつづけている。爆発でビッグスコーピオンはほぼ全滅したのであろう。追いかけてくる影は最早無かった。……彼らが望む姿さえも。

「ダリアナ様……まさか……」

自爆、という言葉を、ウェブはかろうじて飲み込んだ。そしてコルンを見やる。彼も同じようにこちらを見ていた。いささか、顔色が青白い。

「ダリアナさんでしょう? あの威力。えっと、ご本人はどうされたんですか?」

ただならぬ気配を感じ取ったのであろう。サラが真っ青になりながら、悲鳴に近い声で二人にさらに問いかけてくる。

「ここ、考えたくないですけど。あの巨大なミミズの上ですよね? 経緯はわかりませんが、これで移動しているんですよね? ダリアナさんはどこへ行ったんですか!?」

「うるせえよ!」

思わず声を荒げて、コルンが叫んだ。びくっとして、サラが黙る。

「静かにしてろよ。いいか、あれはダリアナだぞ? たかだか三百ばかのビッグスコーピオンの群れのど真ん中に飛び込んだくらいで、あっさり死んでもらってたまるか!」

「いえ、普通は死にます……。大体、まずこの高さから落ちた時点で」

小さなウェブの突っ込みを、コルンはあっさりと無視した。そして、ほとんどやけくそ気味に、わめき散らす。

「出て来いダリアナ! どうせ隠れてるんだろ?」

声だけが、虚しく響く。返事は無かった。そして、姿もどこにも見えない。痛々しい沈黙だけが、周囲を支配した。

本当は、分かっていた。このスピードで移動する砂ミミズから落ちたというだけで、普通なら命は無い。例え下が砂であれ、叩きつけられて全身がばらばらになってしまう。あの魔法はすでに完成していた。術師がど真ん中に舞い降りた瞬間に、発動していたのだろう。

あの爆発にも巻き込まれているはずなのだ。どう考えても、無事ではすまないだろう。

コルンはがっくりと膝をついた。実感が湧かず、涙すらも出てこない。

「コルン様……お取り込み中すいませんが……」

何故か、酷く冷静な声で、ウェブがコルンに声をかけた。

「なんだ、ウェブ」

「ダリアナ様です」

まるで感情のこもっていない声で、ウェブが呟いて、指を指す。コルンが慌てて指の先を目で追った。それは、随分と下を指していた。……そして、その姿を認めて絶句する。

「おーい。砂ミミズを止めて、わしを乗せてくれぬかー?」

そこには、間延びした声で叫んでくるダリアナがいた。

彼女は、砂の上を疾走していた。いや、正確にいうと、ビッグスコーピオンに乗って移動していた。察するに、飛び降りた瞬間に一匹捕まえて、それを操ったらしい。『モンスターコントロール』という魔法があるのだが、それはダリアナが最も得意とする魔法の一つなのである。

「やっぱり生きておいででしたね」

ウェブの言葉に、コルンは乾いた笑いをもらした。安堵の笑みではない。一瞬でも、本気で心配しかけた自分への自嘲の笑みである。

「お前はバカだ! 何かやるなら、そうと言え! びっくりするだろ!」

大声で叫び返しながら、それでも内心心底ほっとしながら、コルンは砂ミミズの手綱を握りなおした。

最早追ってくるモノもいないので、砂ミミズの暴走も止まっているはずである。馬と扱いが大差ないとダリアナが言っていたとおりならば、手綱を大きく引けば、砂ミミズは止まるはずだ。だが。

「おーい、コルン! お主がとても怒っているのはよう分かったから、さっさとその砂ミミズを止めるのじゃー」

ダリアナの間延びした叫び声が聞こえてくる。

「うるせえな黙ってろ! なんだか知らないけど、こいつ止まらないんだよ! おいダリアナ! 手綱引いても止まらないぞ!」

力いっぱい叫びながら、コルンは必死に砂ミミズを止めようと努力していた。だが、どうやっても止まらない。スピードは上がらないが、落ちることもない。左右へ動く命令はきくのに、それ以外の命令が一切効かないのだ。

「……さっきの爆発で、また暴走してるんじゃないですか?」

サラが、おそるおそるといった様子で、コルンに告げた。一瞬、場が凍りつく。

「そ、それっぽい……」

呟いて、そのまま思い切り叫ぶ。

「ばかやろおおおおおお! 結局お前のせいで砂ミミズがさらに暴走して止まらないんだどうしてくれるうううううううう!!」

「なんだかよう分からぬがそれはすまんーーー」

叫びながらの会話である。どうにも間抜けになりがちな言葉をかわしながら、それでも状況が好転するわけがなく。

かくして、奇妙な生物二匹が砂漠を爆走するという、緊張感もへったくれもない状況が出来上がったのである。


そして、半日が経ち、夜が更けて、再び空が白み始めたころ。

砂ミミズとビッグスコーピオンは、まだ砂漠を爆走していた。疲れを知らぬように、ずっとずっと走りつづけている。方向は、完全に見失っていた。朝日の出る方向を知りたくとも、何故かこういう時に限って、空一面に酷く重たい雲が立ち込めており、分かりそうもない。

邪気を辿るにも、砂漠をこれだけ縦横無尽に走られたため、サラの能力も狂ってしまっていた。砂漠全体から邪気が発せられているらしく、その中心部を特定できないと言うのである。

もはや打つ手は無かった。必死に、ウェブとコルンが交代で砂ミミズを操縦しようと努力してみるが、どうしても止まらない。

挙句には、ダリアナがスリープの魔法をかけてみたり、コルンが上から攻撃魔法をぶっぱなしてみたりしたのだが、頑丈なのがとりえの砂ミミズ、こんなことではびくともしない。

あまり無茶をするとこちらが振り落されるので、無茶もできず、打つ手のないままこうして夜明けを迎えているのだ。

そんなこんなで、成す術もないまま、さらに半日ほどが過ぎていた。奴らのスピードは未だ落ちる気配がない。砂漠を生きる生物は大体得てしてとんでもない体力を有するものが多いのだが、それにしたってどんな体力をしてんだ、などと一人ごちながら、半ば諦めの気分で、コルンはげんなりと砂ミミズの上からそっと下を覗き込んだ。

ぐるりと辺り一面、呆れるほどに砂だった。他に見えるのは、空と地平線ぐらいである。その空は相変わらずどんよりと雲っており、太陽の位置ははっきりとわからない。

コルンはそのまま、首を巡らせた。暴走する砂ミミズにつかず離れず、併走しているダリアナが見える。どうやら半分眠っているらしく、時折落ちそうになりながら、しかしそれでも器用にビッグスコーピオンを操っていた。

コルンは大きくため息をついて、前を向き直した。ウェブがコルンの隣りに座って、特に何をするでもなく、ただぼんやりとしている。

「で。どうしような、これ」

何気なく呟いたコルンの言葉に。

「……方向も何も分かったものじゃないですからね……平たく言えば遭難してますから」

ウェブが呟く。

「おい、サラ。邪気の出所はまだ分からないのか?」

ウェブの言葉を肯定するのも面倒だったのか、あっさり無視してサラに尋ねる。

「うーん……駄目ですね。さっぱり分かりません。砂漠全体にすさまじい邪気が渦巻いていて、この調子ではとても分かりそうもないです……」

申し訳なさそうに、サラが頭を下げる。

役立たず、という言葉をかろうじて飲み込むが、それでも微妙に納得いかず、コルンは小さくため息を落とした。

「お前、森の中で邪気がどこから発せられてるか、特定できるって言ったじゃないか……」

その言葉に、サラもため息を落とす。

「そりゃまあええと、そのはずだったんですけど。砂漠全体からとんでもない邪気を感知できるんですもの。こんなの、予想外も外です」

まとわりつく邪気を振り払うように片手をひらひらさせながら、サラはそれでも周囲を伺うように、必死に目を凝らしている。

まあ、大体こんなことになるだろう、というのはコルンも予想していた。していたが、それでも実際目の前でこうもあっさりその通りどころか、それ以上に悪化した事態になると、さすがに泣きたくなってくる。

コルンは、再びくるりと後ろを振り向くと、投げやりに体をどっと後ろに投げ出して横になった。こうなると、世界の危機などと言われても、本気でどうでもよくなってくる。

とりあえずは、そんな大それた話よりも、今そこにある問題の方が大切だ。自分たちが、生きて目的地にたどり着けるか、という。それにはまずとにかく、この砂ミミズをなんとかしないことには話にならない。

とてつもなく、静かな時が流れていた。走り疲れたのは、乗っている人間の方である。いつしかコルンは、うとうとしていた。まどろみの中で、同じくうつらうつらとしているウェブの姿と、完全に諦めて眠りこけているサラの姿が目に止まる。

が、それも一瞬のことで、その麻薬的に心地よい感覚に身を委ねながら、コルンは深い眠りに落ちようとしていた。

……と、その時。ふいにコルンの頭の中に、ある考えが閃いた。そして、同時に。

「ああああああああああああああああああ!!!」

絶叫して、跳ね起きる。その声に驚いて、ウェブとサラが慌てて跳ね起きると、きょろきょろと辺りを見回した。そして、何の異常も無いことにかなりの時間をかけて気付き、嘆息する。

「な、なんですかコルン君、いきなり大声なんかだして……」

サラが、迷惑そうに大きなあくびを一つしてから、コルンに聞いてくる。

「なんですか? どうかなさいました? ……あの、コルン様?」

サラの問いにまるっきり反応しないコルンの顔を、ウェブが怪訝そうに覗き込む。そこには、微妙に焦点の合わない瞳をして、わなわなと肩を震わせているコルンの姿があった。

「えっと……」

予想外の反応に、ウェブが困惑する。と、ふいにコルンの瞳に光が宿った。そして、ウェブの肩をがばっと掴まえる。

「おい、ウェブ。弓持って来い。矢も」

「……はい?」

唐突なコルンの言葉に、ウェブが一瞬言葉に詰まる。

「ええい、いいから早く持ってこいって! まだ余ってんだろ!?」

「は、はい! ただいま!」

勢いに気圧されて、ウェブが慌てて旅珠から弓と矢を取り出す。

コルンは無言でウェブからそれを受け取ると、矢の先の刃を取り外して、代わりに食料として持ってきていた、大きなオレンジを取り付ける。

そして、やにわにそれを弓につがえると、ある一点に狙いを定めた。そして、躊躇無くそれを放つ。

矢は、正確にコルンの狙った的に命中した。うつらうつらと、ビッグスコーピオンの上でうたたねをしている、ダリアナの頭に。

すこん、という間抜けな音とは裏腹に、その衝撃で、ダリアナがバランスを崩した。そして、べしょ、という小さな音と共に、砂の上に落下する。主を失ったビッグスコーピオンが、かさかさと音を立てながら、遠くへ逃げていくのが見えた。そして、あっという間にダリアナの姿が遠ざかって見えなくなる。

「何やってんですかああああああああ!!!」

一連の光景を静かに見守ってから、唐突にサラとウェブが同時に絶叫する。が、コルンはおかまいなしにくるりと二人に背を向けると、今度はほったらかしにしてあった『砂ミミズ』の手綱を手に取った。

そして、それをぐうっと引く。

砂ミミズが、静かに止まった。あまりのことに、ウェブもサラも、言葉が無い。

「あのさ。最初さ、砂ミミズはビッグスコーピオンの群れから逃げてたんだよな。でさ、ダリアナが乗っていたものって、なんだった?」

静かなコルンの言葉に。コルンの言わんとすることに気が付いたのであろう。ウェブが、かたかたと小さく震えながら答えた。

「……ビッグスコーピオンでしたね、そういえば」

「ああ、つまりはだ」

コルンは、そこで一拍置いた。あまりにもあまりな事実に、サラもウェブも呆然とした顔でコルンを見つめている。

「ダリアナが、ビッグスコーピオンで追っかけてきている限り、砂ミミズが止まるわけが無かったんだよ。……なあウェブ。俺は、あのままダリアナが砂に埋もれても、きっと後悔しないよ。というか、それを本気で願うよ」

静かだった。砂を渡る風の音が、そよそよと凪いで三人の間を流れていく。最早、誰も言葉を発する気力も体力も無い。

そこにはただ、遠くで砂に埋もれていつまでも動かないダリアナと、くたくたに疲れ果てて一歩も動けない砂ミミズと、そして語る言葉を失い、茫然自失に陥る、今更そんな根本的間違いに気が付いたバカ三人の姿があるだけであった。

緊張感もへったくれもない、ただの暴走回でした。書いててとても楽しかった記憶がありますw

表記ゆれなどを訂正しましたが、概ねそれほどの変更は加えていません。

では、また明日。いよいよ佳境に突入して……いくはずなんですけどねえ。

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