始動
25XX年、ついに人類は無数に存在する世界線の中から理想的な世界を探し出し、過去・未来問わずタイムワープする技術を完成させた。
超古代技術研究所はタイムワープの開発において多くの資金と人材を提供したことから多方面からその名を知られることとなった。
未だ被験者が現れなかった過去へとタイムワープする人材までをも提供した彼らを、人々は英雄扱いするようにまでなる。
しかし、彼らの真の目的を知っているものは誰もいなかった…。
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26XX年、超古代技術研究所では極秘にとあるミッションが始動した。それは過去に存在したという超古代技術"魔法"の入手だ。
魔法にはタイムワープの影響で複雑になってしまった世界線や時代の修正点を見つけ出し修復・破壊が可能にするものまであるという
強靭な肉体を持つ人間や、IQ170を超えたもの、各分野においてその名を知らぬという人がいない人間たちから遺伝子を秘密裏に入手し、それらを配合して2人の赤子を"生産"した。遺伝子配合による赤子の生産は、出産によるリスクを一切排除し、生産者の思い通りの子供を生産することが可能な素晴らしいものであると一般的にもその技術を知られており、超高額ではあるが1人まで、理想の人間を作ることが可能であった。
あまりにも高額のため、一般人による生産は、技術完成から100年余りが経過した今でもわずかに2人しかいなかった。
超古代技術研究所で生産された2人の赤子にはそれぞれ指名が与えられた。検査段階では後に生産された側、 便宜上弟となる方が比較的優秀なデータを所持していたことから、研究所は弟を目的遂行のための被験者として選ぶことになる。
「遂に、遂にこの時がきた。長かった。あぁ、私が全ての財を費やして創りあげた最愛の息子よ。我が目的のためとはいえ、暫しの別れとなるが悲しむことはない。お前は英雄となって私の元へと帰ってくるのだ」
2人の赤子の片割れ、選ばれた赤子は生まれたままの姿でタイムワープ装置へと入れられる。彼がのちに、英雄となって帰還する日が来るのを待ちわびて研究所所長、ダーウィン・ホーエンハイムは我が子を見送った。
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8XX年、桜の月。町外れの教会に住むシスターであるラマラシアは日課である森の散歩をしていた。
「今日もいい天気ね。森も綺麗に薄紅に染まってきているわ」
今年もまたこの季節がやってきた。ラマラシアは森全体が薄紅に染まり、祝福の音を響かせるこの季節が好きだ。他の季節にもそれぞれ趣があって好きだが、それでも新たな出会いをも予期させる(もちろん、別れも)今が最も心が躍る季節だ。
「あら…、何かしら。もしかして、子供?」
ラマラシアがいつも通りの道を歩いていると、そこには森の生き物たちに囲まれて小さな赤子が眠っていた。衣服の類は何も身につけておらず、鳴き声もあげずに穏やかに眠っていた。かといって周りに親の姿は見当たらない。そもそもこの森自体、普段は自分以外あまり立ち寄らないのだ。
「綺麗な髪ね」
その子供の髪を見て、ラマラシアは感嘆の声を漏らす。子供の髪は夜空に輝く月のように、全体的に白く透明な薄い金色だった
「捨て子、なのかしら」
とにかくこのまま放っては置けないと、ラマラは赤子を抱え教会へと戻った。道中、赤子を心配するかのように後をついてきた森の動物たちに、大丈夫よ、ありがとうと微笑みかけると動物たちは森へと帰っていった。
教会に着くと、すぐに毛布かけ、ベットの上へと赤子を寝かせた。そのまま寝顔を眺めているうちにラマラも眠気に襲われ、意識を夢の海へと沈めていった。
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どれくらい時間が経ったであろうか、耳に響く赤子の泣き声でラマラシアは目を覚ました。窓の外は綺麗な蜜柑色に染まっていた。
「あら…こんなに眠っちゃったのね、私」
赤子を抱き抱え、ゆりかごのようにゆすり、優しい声音を届けると赤子はくしゃくしゃになった顔に薄紅を咲かせた。
「ふふ、素直でいい子ね。お腹が空いたのかしら?」
教会には離乳食のようなものは置いていなかったので、簡単にパンを温かいスープに浸して飲み込めるようにして食べさせた。
「美味しい?」
先ほどまでは可愛らしい花を咲かせていた笑顔は食欲が満たされて満足したのかその蕾を閉じようとしていた。
「いい子いい子…おねんねしよっか」
再びゆりかごをゆすれば数分も経たぬうちに赤子は眠りについた。
「親族の方が見えるまでは教会で保護しましょうか。こんな小さな子を放ってはおけないものね」
いつになるかは分からないがこの子を産んだ両親が迎えに来るかもしれない。それまではきちんと世話をしなければと子を持ったことはないが元から備わっている母性なのか、もしくは未だ拭い去ることのできない過去の過ちへの贖罪か、なんにせよこの出会いを神に感謝しなければならないと祈りを捧げ、ラマラシアは眠りについた。
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そして、18年の時が経ち
物語は幕を開ける




