07 白い花の推察と結論 ※リアム視点
「私もずっと気付かなかったのに、なんでお前は気付いたんだ?」
「あたしが人間と契約している理由の一つに、心の移ろいの儚さと変わらぬ美しさがあるからよ」
そういってアディールは少し静かなトーンで理由を話し始めた。
「人間ってさ、あたしたちより心がよく泳ぐのよ。ふらふら、ふらふらとね。例えばさ、ずっと想い合っていた男女がいたとするでしょ?それがさ、ちょっとした切っ掛けで男の方が別の女の子にあっさり心を移したりするの。逆もしかりよ」
「…それはカミーユとユーゴのことか?」
「あの二人はちょっと違うような…どちらかというと親愛の割合が大きい二人だったからね…まあでも同じようなものね」
少し悩まし気に首をかしげるその精霊は、太陽光を反射してより一層輝く波打った長い金髪を邪魔そうに耳にかける。澄んだ緑の目は少しの暗闇を灯していた。
「そういう心ってあたしは正直好きじゃないわ。ユーゴのことも、正直ガッカリしたもの。私の望む心を見せれくれそうだと期待していたから。まあ別にそれだけで契約しようと思った訳じゃないから契約は破棄しないけどね!」
そう明るく話すアディールに、先ほどの暗闇はもう感じられなくなっていた。
「…ではお前の望む心というのは?」
「よくぞ聞いてくれたわ!」
胸を反らして待ってましたと言わんばかりに喜々として口を開く。
「人間はそうやってすぐ心を移ろわせるわよね?でも中には移ろわず、変わらず在る心を持つ人間もいるのよ。すぐに移ろう儚き心を持ちながら、ずっと変わらぬ心を持ち続ける。初めて見たときはなんて美しい心なのかしらと思ったのよ!それが私の望む心よ。でも必ずそういう心を持ってくれるわけじゃないから、契約するときはそうなりそうな心を持っていそうな人間を選んでいるわ。今回は失敗しちゃったけどね」
ごほん、とひとつ咳払いをする。
「ともかく、それ以来私は人間の心に関してちょこっと研究しているのよ。その時に人間には私たち精霊とは違う愛情の持ち方をすることもあるのだと知ったわ。精霊でもごく稀にあるけどね、あんたみたいに。でも正直未だに掴めないところもあるけどね…カミーユみたいなタイプとかね。恋情と親愛の混同だなんてあんたよく気付いたわね」
「カミーユのことは彼女と出会ってからずっと見てきたからな。しかし成程、それがお前が人間の心の機微に気付ける訳なのだな」
「そうよ!だからあんたがカミーユと過ごす姿とカミーユを見つめるその目を初めて見たときに思ったのよ!精霊らしくない、今まで契約してきた人間のような心をしている奴だわって!」
「それが何故すぐ恋に繋がるんだ?」
「そんなの決まってるでしょ!私たちとは違う愛情の持ち方をしているのよ?これは愛情というよりは恋情だと思ったわ。それからあんたからカミーユが恋しくて仕方がない!みたいなオーラダダ漏れだったもの。面白いからあの二人のついでにあんたもこっそり観察してたわ。良いデータが取れた、ありがとう!」
「…そうか」
色々と聞き捨てられない言葉が聞こえた気がしたが、まあ良しとしよう。
「それで?その気持ち、カミーユに伝えるの?」
どきり、と胸で嫌な音が鳴る。
「実は、カミーユが夢を見ているんだ。精霊と契約した人間が見るあの夢を」
「それが今回あたしに会いに来た原因かしら?」
「ああ…以前は黄色い花が蕾をつけていたそうだ。花が咲く前に枯れてしまったが。それはユーゴに対する気持ちだと自分で思い至ったらしい」
「ついに気付いたのね。あの鈍感令嬢のカミーユにしては凄いじゃない!それっぽいこと言って私がその気持ちは恋情だよって誘導しても気付かなかったのに!」
「お前そんなことしてたのか!?」
「大丈夫よ、結局あの子全く気付かなかったもの」
「お前は…余計なことを…」
いつの間にそんなことを吹き込んでいたのか。カミーユが鈍感で助かった。
「で、で?」
「ああ、それで黄色い花の件は終わったんだが…その花が枯れたときに、白い花を見つけたみたいなんだ。いつからそこにあったかは分からないらしい。つまり彼女はいつの間にか好きな奴がいたみたいなんだ…無自覚で」
「白で思い浮かんだ友人とか知り合いとかいなかったの?」
「カミーユは思いつかなかったようだった。私も彼女の交友関係を思い出してみたが、それらしい人間はいなかったな」
「ふーん…これは灯台下暗しってやつね。それに思い出すのが人間じゃ、答えには辿り着かないでしょうよ」
「何の話だ?…もしかして思い当たる奴がいるのか!?」
アディールは何故気付かないのか、といった顔で私を見ている。
一体誰なんだ!
「あんたよ、あんた」
一瞬、私の周りからまるで音が全て消えてしまったようになった。何を言っているのだろう。
今さっきアディールの口から聞いた言葉が頭に届かない。
アディールは何と言った?
「呆けてるわね、全く。まぁあんた結構卑屈なとこあるし、自分じゃ辿り着けない答えだったでしょうね。あんた自分の髪の色は?」
「銀色だが…銀は白ではないぞ?」
「あんた最初、あの子にその髪の色、なんて言われたのよ?」
『あなたの髪は白髪なの?』
手が震えた。それが体に徐々に伝っていき、身体全体に広がる。心臓が激しく音を立てて私に呼吸をしにくくさせた。何かを口から発しようにも、何も浮かばないし言葉を紡げない。身体全体がマヒしてしまったようだ。
「答えは出たわよ、さてどうする?」
アディールは人の悪そうな笑みを浮かべて私を見ている。
信じられない。彼女の口からその想いを伝え聞くまでは。
あぁ、今すぐにでも、君に会いたい。
私は返事もせずに、彼女のもとへと足を向かわせていた。