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雪の華  作者: 遊々
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05 鈍感と白い花の謎

 馬車が止まり、家に着く。

 家の中に入ると執事や侍女達が「おかえりなさいませ」と迎え出てくれていた。


「ただいま、ところでリアムは今どこにいるか分かるかしら?」

「ここにいるよ、カミーユ。おかえり」

「ただいま、リアム」


 いつの間にかリアムが目の前にいた。

 おかえり、と言いながら私を優しく抱きしめる。私もただいま、と言って彼を抱きしめる。

 私はこれをリアムと契約した時からずっと続けている。ただいまのハグである。ちなみにいってきますのハグもある。これをしないと彼は不機嫌になるので忘れずに行っている。


でも何年か前からのハグは少し以前とは違う気がする。なんだか蕩けるような気持にさせるのだ。以前は家族で抱き合うようなサラッとしたハグだった。今は抱きしめるたびにギュッと一度強く抱きしめ体を離すときはゆっくりと、名残惜しそうに離すのだ。恋愛小説で読んだことのあるような、まるで恋人とするようなハグをするのだ。人恋しいのだろうか。


 そして自室に向かいながら馬車の中でずっと考えていたことをリアムに投げかける。


「ねえリアム、白で思いつく私の知り合いって誰かいたかしら?」

「どうしたんだ?急に」


 前を歩いていたリアムが不思議そうにこちらを振り返る。


「頑張って考えてみたんだけど、白っぽいイメージの知り合いが思いつかないのよ」

「そうだな…カミーユの知り合いで白を思い浮かべる人物は確かにいないな」


 手詰まりである。


 私は馬車の中でユーゴへの気持ちに気付き、その想いを終わらせてさて次の恋と思ってまず、思い浮かべたのがあの夢の白い花である。

 私は知らぬ間に婚約解消後から白を思わせる誰かに想いを募らせているようなのだ。ユーゴの時も思ったが私は自分で思っている以上に色恋沙汰に疎いらしい。

 それでまず、白を連想させる男性を思い浮かべようとしたのだが、誰もいない。恋ではない想いなのかもしれないと家族や友人を思い浮かべてみたが誰も白で思い浮かぶ人物がいないのだ。

 皆誰かしら色を持ってはいるのだが白ではない。一体誰なんだ。


「どうして急にそんな話に?」


 リアムは早く教えろと言わんばかりの表情でこちらを見つめてくる。


「今日ね、精霊学の授業の中で夢の話になったの。私たち契約者は夢の中で自分の深層心理を覗けるらしいのよ。それで誰かに対する『想い』が分かるんですって!私は今日の授業で今まで見ていた夢の謎が解けたのよ!」

「前に言ってた雪原と花のことだよね?」

「ええ」

「…それで黄色い花は誰への想いだったの?」

「まさかのユーゴだったのよ!」


 私が驚いたでしょう!とリアムの顔を見れば彼の表情はあまり驚いたという感じではない。寧ろ「やっぱり」といった表情をしている、何故。


「な、なんで驚いていないの?私は凄く驚いたのに」

「いや、何となくわかっていたからね…」


 何とも言えない表情で苦く笑うリアム。珍しい表情だ。彼は基本的に優しく笑っている。たまに不機嫌になっているか、拗ねたような顔をするかといった感じであまりこういう笑い方をしない。

 彼のいつもと違う一面が見れて少し嬉しいような、だけど胸がチクリとするような気持ちになる。


「珍しい顔をしているわよ、リアム。私何か変なことを言ってしまったかしら?」

「いや、カミーユの鈍感さに驚いただけだよ」


 何てこと。彼にあんな顔をさせる程に私の鈍感さは酷いのだろうか。自分のことながら情けない。

 部屋についたので椅子に浅く座る。自分の情けなさにガッカリして下を向いていれば、リアムは頭を優しく撫でる。


「私ってそんなに鈍感なのかしら…自分の気持ちに対して」

「自分の気持ちをわざわざ意識するほどの燃え上がるような気持ちではなかったから気付かなかっただけだよ。でも別にそれは悪いことじゃないよ?きっと降り積もる雪のような優しい想いだったから気付かなかったんじゃなくて、気付けなかったんだよ」

「そうなのかしら?」

「カミーユは幼い頃から漠然とユーゴと結婚するんだと思いながら過ごしてたんだろう?」

「ええ」

「だからユーゴを想うのが当たり前になっていて気付かなかったんだ。それも恋だけではなく親愛も一緒に育んでいたからよく分からなかったんだよ。君たちは兄弟みたいに育っていたからね」

「そう…そうね、確かに2つの気持ちを混同してしまっていたのは確かよ。そうね、ならしょうがないわね。新しい恋ではそこを混同しないように気を付けるわ!」

「新しい恋……?」


 私が自分の鈍感さに納得していたら、リアムは掠れるような声で呟いた。


「ええ、新しい恋よ。さっきの話に戻るけど、黄色い花がユーゴへの想いだったでしょう?でもあの花は婚約を解消した日に枯れてしまったの。多分ユーゴに好きな人がいるから婚約を解消したいと言われた時点で、自分で叶わぬ想いだと分かっていたのでしょうね」

「そう、なのか」

「そして黄色い花が枯れた後に辺りを見回したら白い花があったの。これって新しい想いよね?」

「カミーユはユーゴと婚約を解消した後に好きな人が出来たの?」

「それが…分からないのよ」

「分からない?」

「そう、分からないのよ。そこで最初の質問に戻るのよ」

「白で思いつく人物…成程ね」


 リアムは眉間に皺を寄せながら一人納得したようだった。


「その花はいつから雪原にあったか分かる?」

「うーん…周りを見渡そうと思ったのが黄色い花が枯れたときが初めてだっから、実はいつからあったのか分からないのよね…白で思いつく知り合いもいないし…困ったわ」

「別に困りはしないでしょ。誰だかわからないなら想いが恋とは限らないだろう?」

「確かにそうね…」

「帰って来たばかりだし、ゆっくり休んでからまた考えたらいいよ」

「それもそうね、ここで少し休むわ」


 浅く座っていた椅子に深く座りなおす。確かに色々考えることが沢山あって疲れた。なんという軟弱な頭なのか。学園での成績は中の上と悪くはないが、あまり良いともいえない。

 だからこんなにも考え事をしただけで疲れてしまうのだろうか。ああ、情けない。


「そうしなよ。私は少し用事があるから出掛けてくるけど、ちゃんとゆっくり休むんだよ」

「あら珍しいわね。分かったわ、ゆっくり休んで待っているわ」

「いってきます、カミーユ」

「いってらっしゃい、リアム」


 そう言って互いを抱きしめる。私は椅子に座ったままなので彼が体を屈める。体を離した後はリアムが私の頭を撫でて額にキスを落とした。そして名残惜しそうに私の部屋を出ていった。

 リアムに抱きしめられ、撫でられ、キスをされると最近、その感覚がとても離れ難くなる。昔はそんな風に思ったことなどあっただろうか?いや、なかった気がする。この感覚はここ近年に覚えたものだ。

 私の中で何かがゆっくり気付かぬうちに変化しているのだろうか?

 この気持ちは何なのだろう?


 だが私だけでなく、彼も少し変わったように思う。あれはいつからだったのか。そういえばその頃からだったかもしれない、私が今のような気持ちを覚えたのは。

 私はこの気持ちを今日知ったはず。眠くて微睡む頭を必死に働かせて、私は今日の記憶を手繰り寄せた。




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