03 気付き
雪が降っている。あの白い花を見つけてから雪はまた降り始めた。
空はまだ暗く、暗雲が立ち込めている。
黄色い花はもう雪に埋もれてしまってどこにあったかさえ、分からない。
黄色い花の時と同じく、初めは雪は少しずつ降り積もっていた。
いつの間にか少しずつ、降り積もる雪は大きく、そして量を増していた。
それなのにその雪は白い花に優しく優しく、花を潰してしまわぬように降り積もる。まるで重く積もったら花が潰れてしまうというように。
黄色い花の時は思わなかったのに、何故そんな風に思うのだろうか。
雪が降るのを当たり前のように受け入れていたのに。雪が降ってもなんとも思わなかったのに。
何が違うのだろうか。
この夢にはどんな意味があるのだろうか。
私はそんな風に夢の中で考えるようになっていた。
そんな頃だった。それは学園で精霊についての授業を受けている日だった。
精霊学の先生が今日は夢の話をしましょう、と言った。
「精霊と契約していると、契約者は皆時折変わった夢を見ます。可笑しな夢でも、普段見るような夢とは違う夢です。その夢はいつも同じような風景と『何か』があります。その『何か』は人によります。食べ物だったり、置物だったり、植物だったりと何かしらのものがそこにはあります」
ビクッと体が少しだけ跳ねた。同じ景色に植物、心当たりがある。
「では実際に精霊に契約している方…そうですね、まずはユーゴさんに聞いてみましょう」
同じクラスに在籍している同じく精霊と契約しているユーゴが指されたようだ。
彼とは偶然、クラスが同じだった。
精霊と契約している人は珍しく、あまりクラスが被らないようにされるのだが(教育上、今回のように参考に話を聞かせてもらうことがあるからだ)私達の学年は契約者が多かったらしく、一クラスに2、3人はいる。このクラスにも私含め3人の契約者がいる。
契約者が少ない年はクラスに一人しか契約者がいないこともあるらしい。
得られる情報が沢山ある、良かったね先生!
「はい。僕はいつも森の中にいる夢を見ます。そしていつも何かの動物の卵が巣の中にある夢を見ます」
「ありがとう、ユーゴさん。森の中なのはユーゴさんが土の精霊と契約しているからかもしれませんね。精霊と契約して見る夢は精霊の属性に関連したものだと言われています。卵なのはユーゴさんの想いの形のイメージに一番近いのが卵だったからでしょう。風景以外の『何か』は、契約者の想いの形に近いものであることが多いと言われています」
「想いの形、ですか?」
ユーゴは不思議そうに先生に問う。私も非常に気になる。風景は分かる。だが想いの形とはどういうことなのだろうか?
「精霊と契約すると、契約者は自分の深層心理を夢に見るようになります。その夢の中では自分の様々な『気持ち』を覗けるそうです。その気持ちで最も多いのが人間関係に対する気持ち、即ち誰かに対する『想い』です。例えば誰かを想っている場合などに夢で見るそうです。。家族に対してだったり、友人に対してだったり、異性に対してだったり。人によりますが、一番多いのはやっぱり異性に対するもののようです」
先生は茶目っ気たっぷりに微笑む。
「そして想いの形は想う相手に関連するような色彩や匂いであることが多いと言われています。ユーゴさんは何か心当たりはありますか?」
「…あります」
ユーゴはそう恥ずかしそうに言って席に座った。きっと例の子爵令嬢のことを思い出しているのだろう。兄の様ではあったが可愛らしい一面も持った人だったのを思い出した。最近彼はやっと子爵令嬢との婚約を認めてもらえたらしい。3年近くもよく頑張ったものだ。おめでとう!
「では次は…ルイーズさん、お願いします」
「はい、先生」
ルイーズさんは火の精霊と契約しているからか、風景は火山の様なところだと言う。そして『何か』は宝石だそうだ。人によってこうも違うのかと楽しく聞いた。
私も指されたので雪原と花のことを答え、そこで授業は終わった。
今までの疑問が解消された、非常に実のある授業だった。
今日の授業が全て終わり、私は家に向かう馬車の中で今日の精霊の授業の中の話を思い出していた。
夢で見るあの景色や花は、私の深層心理だったのだ。私の気付かなかった気持ちなのである。やはりあの夢には意味があったのだ。
雪原は氷の精霊のリアムと契約しているからだろう。『何か』は花だ。
ではあの黄色い花は誰への想いなのだろうか?先生は想う相手に関連するような色彩や匂いだと言っていた。匂いは夢の中で感じたことはなかった。では色彩?
黄色といえば…
「もしかして、ユーゴ?」
黄色で思い出すのはユーゴの濃い美しい金髪。他にも思い出せる人はいなくはないが、強く想うほど親しい人はいない。
「親愛の情であっても、夢で見るのね…でもそれなら何故花は咲かなかったのかしら?」
咲かなかった小さな蕾。どんなに成長しても結局蕾の中は見れなかった。
何故なのだろうか。親愛の情以外に何が…?
彼は家族のようであり、兄のように慕っていた。家族愛でも親愛でもない。では…?
その時初めて私は気付いた。家族として過ごしていた期間が長すぎて、自分でも気付かずに見過ごしていたのかもしれない。
私は彼を、異性として好きだった部分もあったのだ。