02 3年後
最後まで書き終わりましたので最終話まで毎日0時に投稿予定です。全8話となっております。
拙い未熟な部分も多々あるとは思いますが、よろしければ最後までお付き合いください。
また夢を見た。いつも降り積もっていたはずの雪は今日は降っていなかった。
雪景色なのは変わらないが、なんだか雪が少し少なくなっていたように思う。それに空も暗い。太陽が沈んで夜になったのだろうか。
花は枯れていた。
あの花は本当に雪が降ることで成長していたようだ。蕾が花開く前に枯れてしまった。
もっと沢山降っていたらあの花は咲いていたのだろうか。変わらずに蕾のままだったのだろうか。それともやっぱり、枯れていたのだろうか。
花開いていたらどんな風に咲いていたのだろうか。小さい花だったからひっそりと咲いたのだろうか。小さくとも凛々しく咲いたのだろうか。それとも蕾の中は沢山の色に溢れた鮮やかな花だったのだろうか。
どちらにしても、もう枯れてしまった。
どんな花だったのだろう。それだけが心残りだ。
目の前の花が枯れて、私は初めて周りを見渡した。この枯れた花と雪景色以外にもここには何かあるのだろうか。夢の中で出た、初めての興味。雪景色と目の前の花を見ることが当たり前になっていて、他の所に目を向けようだなんて今まで思いつかなかった。何故だろう。
正面から右へ向くと変わらぬ一面の雪。左も同じだった。ここは雪原なのだろうか。後ろを向いた。
そこには白い花が小さく蕾をつけていた。
婚約を解消してから3年が経った。私は17歳になっていた。
3年前、両親は私とユーゴが婚約を解消することは残念そうにしていたが、私が彼の気持ちを大事にしてあげよう、私は平気だと言ったら分かったよ、と少し困ったような顔で笑っていた。ロレーヌ侯爵家でも同じように婚約解消の話がユーゴから伝えられたようで、彼の両親は残念がったようだが結局解消に至った。息子の初恋を応援することにしたのだろう。
そんな訳で婚約をめでたく解消することに成功した。
ユーゴは好きになった女性と婚約を結びたかったようだが、相手が子爵の令嬢だったらしく、両親があまり良い顔をしていないようで未だに婚約には至っていないという。彼はロレーヌ家の三男で、私との婚約でも婿で来る予定だったのだが、彼の両親の最低限のラインは伯爵だったようで子爵令嬢の彼女は好ましくないらしい。話し合いで婚約にとユーゴは頑張っているようだがなかなか彼の両親は首を縦に振ってはくれないそうだ。頑張れ、ユーゴ。
私は彼と婚約を解消してからは夢の内容が変わったり、ユーゴとは以前ほど交流を持たなくなったくらいで、あとは変わらぬ日々を過ごしていた。
新しい婚約者に関しては、未だにいない。私の家は伯爵家で、両親ともに相手の爵位に関してあまり拘りはない。私は一人娘なので婿をとることになるのだが、長男以外の貴族ならいいよ、という感じである。
精霊と契約するというのは一種のステータスらしく、非常に好まれる。その為是非にと婚約の話が沢山持ち上がっているらしいのだが、そうそう上手くはいかないようだ。
リアムが婚約を認めないらしい。
私の住むラスコー王国では精霊はとても尊い存在として敬われている。この国には『魔法』という力を使うことのできる者たちがいる。それが精霊と契約した者たちだ。魔法というのは契約した者にしか使えない、人智の及ばぬ力であまり人数はいない。他国でもそれは変わらない。その力は軍事力として、時には新たな文化を育む影響力となり、国力となる。その為平民であっても貴族であっても非常に貴重な人材となる。
精霊は気まぐれにしか人間と契約しない。精霊曰く、気に入った者がいれば契約を申し出るらしい。それは好みの容姿の者だからという理由であったり、面白そうな人間だからという理由であったりと、その精霊によって条件は違うらしい。要はその精霊にとって好ましい者かどうかというのが決め手なのだとか。
そして精霊は気まぐれだ。気に入らなくなると契約を破棄することもある。なのでむやみやたらに精霊の機嫌を損なうようなことは厳禁なのだ。
その為精霊と契約している場合、精霊と契約する以前の婚約者を除いて、精霊が契約者の相手の婚約者を認めないと言えば認められないらしい。基本精霊は契約者を静観しているらしいのだがごくたまに、こういったことがあるらしい。契約した人間を気に入った理由によるのかもしれない。
よって私の婚約は上手くいっていない。何故だリアム。私に独り身でいろということだろうか。であれば養子をとらねば。
「ねえリアム、どうして私の婚約を認めてくれないの?私生涯独身になっちゃうわ!」
「…カミーユに相応しい相手がいないからだよ」
少し不機嫌に答える彼は、まるで子供のようだ。
彼のお眼鏡に叶う人がいたならば婚約を認めるということだろうか。では養子はまだとらなくていいのか。念の為今のうちに両親に相談だけでもしておいた方が良さそうではある。
そういえば私はよく我儘を言ったり、失礼な発言をしたり、こうしてたまに彼を不機嫌にしたりしていたが、彼の逆鱗に触れることがなかっただけなのだろうか。契約破棄には至っていない。
「そういえばリアムは契約破棄しないのね」
「突然どうしたんだ!私は契約破棄などしないぞ!」
「別に契約破棄を望んでいる訳ではないから落ち着いて!私って貴方に結構我儘を言ったりちょっと意見が合わないと言い合いのようになったりしたことがあったでしょう?」
「あ、ああ、そうだな…」
「よく不機嫌にさせていたし…ああ、小さい頃なんかその綺麗な銀髪を『あなたの髪は白髪なの?』なんて失礼なことを言ったりもしたわね」
「そんなこともあったな」
今思い出すと本当に失礼極まりない発言である。いくら小さな子供の発言とはいえ、怒ったりはしなかったのだろうか。
彼はその時のことを思い出したのだろう、くすりと笑っている。
「学園で精霊のことについて学んだときに、精霊は怒ったりすると契約を破棄することが多いって習ったの。綺麗な銀髪を白髪、なんて言われて怒ったりしなかったの?」
「精霊によっては怒ったりもしただろうが、私はそのくらいでは怒ったりしないよ。小さい頃のカミーユの小さな疑問はとても可愛いものだったしね。そもそも私はよっぽどのことでもないとカミーユに怒ったりはしない。もし怒ったとしても絶対に契約破棄などしないでカミーユの一生に寄り添うよ」
そう嬉しそうに私に囁く優しい言葉を載せた甘い声。恐ろしい程癖になる。
いつからだろう、こんな風に癖になっていたのは。
「もう、またそんなこと言って。でも良かったわ、私はもう貴方がいなくなってしまったらなんて考えられないもの」
「本当かい!私もだよ!勿論、私がカミーユの元を去るなんてことはしないから安心していて」
「ありがとう、リアム。貴方はとっても大切な家族よ」
「うん…私もそう思っているよ、愛しいカミーユ」
そう甘く囁く彼の言葉は私を捕らえる。家族なのに、何故だろう。
少し寂しそうに微笑んだ彼に、何故か胸がチクリと痛んだ。