表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪の華  作者: 遊々
1/8

01 婚約解消

初投稿となります。

宜しくお願い致します。

 夢を見ると、いつもそこでは雪が降り積もっている。


 辺り一面雪景色で空は茜が差している。今が何時頃なのかははっきりとは分からない。夕方だろうとは思う。

 雪景色と空の色以外に分かるのは目の前にある蕾をつけた一輪の花。黄色いその花は、雪に埋もれることなく小さく蕾を閉じている。

 どういう種類の花かも分からないこの花は、雪が積もれば積もるほど育ってゆく。

 8年前からずっとこの花を夢で見てきた。変わらないように見えて、この花は少しずつ成長している。以前よりも蕾が大きくなっている。でも花は咲かない。


 いつ、この花は咲くのだろうか。







「カミーユ、すまない。婚約を解消してほしいんだ」


 そう言って、いつもは澄んだ緑を覗かせるその瞳は今日は愁いを帯びて私を見つめる。


「その…学園で好きな女性が出来たんだ。貴方という人がいながら…申し訳ない。このままではカミーユに対しても彼女に対しても不誠実だと思って、婚約解消をしようと思い至った。本当にカミーユには悪いと思っている」

「…分かりました。元々お母様達の口約束の婚約です。幸い、私もまだ14歳で別の婚約者を見つけることも叶うでしょう。両親に伝えておきます」

「…本当にすまない」


 少し口調を崩す、いつものように。


「本当にいいのよ、ユーゴ。私は貴方を慕っていたけれど、兄のように慕っていたの。家族に対する気持ちと同じような気持ちよ。だから気にしないで」

「それでも…すまない」


 そう、本当に辛そうに何度も謝るのは婚約者のユーゴ・ド・ロレーヌ。濃い金髪に澄んだ緑の目で中性的な美しさを持つ、少年というには大人びた、だが青年というにはまだ幼い男の人。私と同じ14歳。同い年なのに兄のように、と言うのは彼の面倒見の良さと、優しさを知っているから。それを私は妹のように享受していたから。


 私はまた口調を引き締める。


「いいえ、お気になさらないで下さいませ。ユーゴ様に幸せが訪れますよう祈っておりますわ」

「…ありがとう、カミーユ」





「本当になんて奴だ!他に好きな女が出来たからって婚約解消だなんて!」

「いいのよ、リアム。確かに将来彼と家族になるのだろうなと何の疑いもなく思って過ごしていたから驚きはしたけど、本当に兄のように慕っていただけだもの。これが恋だったなら苦しんだかもしれないけれど…そうじゃない分助かったのかしら?」

「そうは言うがカミーユ…」

「本当に大丈夫よ。全くリアムは心配性ね。私ちっとも傷ついてなんていないわよ」

「それならいいが…」


 そう言いつつもどこか納得がいっていないのか渋い顔をするのは私と同じ銀髪に同じ深い蒼色の目をした男性。彼は精霊リアム。ユーゴのような中性的な美しさを持つ彼は、本当に男性か女性かぱっと見は分からない。だが彼の細いが引き締まった体に背の高い姿を確認し、彼のテノールの声を聴くといつも彼が男性なんだというとこを思い出す。


 精霊とは本来性別を持たない。精霊と人間が契約をするときに人間が精霊に名前をつける。その時に精霊は性別を持つのだが、契約した人間の対になるのだ。つまり異性になる。何故異性になるのか昔リアムに聞いたことがあるが、そういう決まりだそうだ。


 容姿に関してはある程度好きに変えられるらしいが、契約者が好ましいと思う容姿をとることが多いそうだ。リアムも当然そうしている。このとき私は自分の好きな容姿を知った。中性的な美しい人に弱いらしい。

 容姿を自由に変えられる為、6歳のときに彼と契約して以来の付き合いなのでもう8年になるが、彼は出会った時から今も変わらぬ姿だ。20歳前半といったところだろうか、大人の男性の姿をしている。


「それにしても今日は疲れたわ。両親に報告する前に少し眠るわ」

「それがいい。精神的に疲れたろう。ゆっくりお休みよ」


 そう言って彼は優しく微笑み、私の頭を撫でる。昔から彼は私を甘やかすのだ。一度精霊とはそういうものなのか、と同じく精霊と契約しているユーゴ様に聞いたことがあったが、そうではないらしい。私の精霊は変わり者なのだそうだ。


 普通、精霊というのは契約しても常日頃人間と生活を共にしているということはないらしい。魔法を使うときに人間が精霊を呼ぶ。そういった時でもないと基本、契約者の前に精霊が現れることはないという。私は最初にこれを聞いた時非常に驚いた。リアムは契約してからずっと私と一緒に過ごしてきたから精霊とはそういうものだと思っていたのだ。常識を覆されたような情報に、私はポカンと間抜けにも口を開けていた。

 「僕も最初君の精霊を見たときは驚いたよ」と昔、ユーゴは笑っていた。どうやら魔法を使う訳でもないのに私の隣に精霊が当たり前のような顔でいたことに心底驚いたという。


 ユーゴが精霊と契約したのは5歳の時で、彼は土の精霊と契約していた。精霊と契約すると髪の色と目の色が精霊に合わせて変化する。久しぶりに会った彼の髪が黒髪から濃い金髪に、目が琥珀色から緑へと変わっていたものだから、当時精霊との契約に関するあれこれなど知らない私は衝撃過ぎて3日寝込んだ。なにせ4歳から知り合った(この時すでに婚約していたらしい)婚約者が別人のようになっていたのである。驚かない方が無理というものだ。あとで彼に「ごめん、驚かせたよね」と別に彼は悪くないのに謝らせてしまったのは未だに申し訳なく思っている。


 ちなみに私は氷の精霊と契約している。リアムが銀髪に蒼の目だったので私も同じように髪色と目の色が変化した。元は茶髪に緑の目だった。特に元の色に執着はないのでごくごく自然に変化を受け入れた。寧ろこんなに綺麗な色に変わってよかったのだろうかと思うくらいである。


 さて、両親の帰宅に備えて少し仮眠を取ろう。きっと色々聞かれるのだろう。今のうちに英気を養っておかねば。




初対面の時の年齢を3歳から4歳へ変更しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ