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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第5章

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37#双子の歓迎会とおっさんの大事な話。

遅れましたが、今年もよろしくお願いします。

 皆さん、おはようございます!

 明けない夜はない。

 いつか誰かが言っていた言葉ですけど、まさしくそのとおり。

 明けない夜はありません!

 そして新しい朝が来るのです……!




「これにて一件落着です!」


 そう告げたわたしの言葉にアモルちゃんたちは、ぽかーんとした顔をしていました。

 かわいいです!

 思わず抱きしめたくなりましたが、そこは自重できる勇者として名高いわたしですから、ぐっと我慢します。


「ぷっ」


 ぷ?


「ははははっ!」


 アモルちゃんが大きな声を出して、笑い出しました。


「わたし、何かおかしなことを言いましたか?」


 ファクルさんとイズを振り返って言えば、


「特にないと思うが」


 と、ファクルさんが言って、


「アルアはいつだって最高にかわいい。大好き」


 と、イズが言います。

 イズのそれは微妙に答えになっていないんですけど……って、何で抱きついてきてるんですか!?

 もう、仕方ないですね。

 わたしは、わたしの胸に頭をぐりぐり押しつけてくるイズの頭を撫でながら、アモルちゃんに向き直ります。

 わからないなら、本人に聞けばいいのです。

 さすがわたしですねっ。


「ドヤ顔のアルア、いつ見ても尊い」

「何か言いました? イズ」

「気のせい」

「そうですか」


 改めてアモルちゃんに問いかけます。

 するとアモルちゃんは、


「こ、これは、その、違くて。ふふふっ」


 どうやら笑いが止まらない様子。

 おかしなことを言ったつもりがないので、気になると言えば気になりますが……。

 アモルちゃんの隣で、フォルティくんが頭を前後に揺らしています。


「さあ、帰りましょう! ファクルさんのお店へ。早く寝ないと、寝不足でお店を開くことになってしまいますよ!」

「アルアクルの言うとおりだ」


 わたしの言葉に、ファクルさんがうなずいてくれます。

 アモルちゃんを見れば、一瞬だけですが、驚いたような、今にも泣き出しそうな、そんな表情をして、だけど最後にはとびきり眩しい笑顔を浮かべて、


「はいっ!」


 と、そう言ってくれました。

 それからわたしたちはみんなでお店に帰ることになったのですが、フォルティくんは半分寝ているみたいな感じになっていたので、ファクルさんが負ぶっていくことになったのです。

 そんなフォルティくんをアモルちゃんがうらやましそうに見つめていることに、わたしは気づいてしまいました。


「アモルちゃん、うらやましいですか?」

「え、あ、え、えっと、その、これは、そういうのじゃなくて……!」

「わたしはうらやましいです!」

「え、……え?」


 アモルちゃんが首を傾げます。


「だってファクルさんに背負ってもらえるということは、合法的にファクルさんと密着できるということですよ!? そんなことになったらわたしはドキドキしすぎて大変なことになってしまいます!」


 大変なことになったら大変ですからね。

 うらやましいとは思いますが、実際にやってもらえるとなると、きっと遠慮すると思います。

 わたしがそんなことを思っていると、呆気にとられたような表情をしていたアモルちゃんが、やがてくすくすと笑い出して、


「アルアクルさんってば変なの」


 変じゃありません。至って普通です。

 そんなことよりも気になることがありました。


「アモルちゃん、呼び方を変えませんか?」

「呼び方……ですか?」

「これからずっと一緒にいるわけですし。その方が仲好しって感じがすると思うんですけど……どうでしょう?」

「あ、えっと……」

「アルアクル姉でもいい?」


 そう言ったのは、てっきり寝てしまったとばかり思っていたフォルティくんでした。


「もちろんです!」


 今度はアモルちゃんの番です。

 そんな思いを込めて、わたしはアモルちゃんを見つめます。


「………………………………………………………………………………あ、アルアクル姉さま」


 顔を真っ赤にして、それだけじゃなくて、両手の指をモジモジと絡ませながらそう言ってくれたアモルちゃんはとってもかわいくて。

 自重できる勇者として定評のあるわたしでしたけど、ダメでした。

 我慢できません!

 むぎゅっ! と思いきり抱きしめます。


「はいっ! アルアクル姉さまですよ、アモルちゃん!」

「アルアクル姉さま……」

「はい」

「アルアクル姉さま」

「はーい」

「アルアクル姉さま!」

「はい!」


 アモルちゃんもわたしのことを抱きしめ返してくれました。


「ふたりで盛り上がるのずるい。イズもする」


 そう言ってイズもわたしたちに抱きついてきて。

 わたしたち三人は、手をつないでお店に戻ることにしたのでした。

 アモルちゃんとイズがそれぞれ、絶対にわたしと手をつなぎたいと言い張った結果、わたしが真ん中になって。


「モテモテだな」


 ファクルさんの言葉に、わたしは

「うれしいです!」

と笑顔で応えます。

 そうしてお店に戻るとクナントカさんが待っていて、わたしたちがみんな揃っていることに気づくと表情をやわらかくして、


「お帰りなさい」


 と言ってくれました。

 わたしとファクルさん、それにイズはすぐに

「ただいま」

と返事をした後、アモルちゃんを見つめます。

 アモルちゃんは何を求められているのか気づいたみたいで、わたしたちの顔を順に見回すと、はにかみながら言いました。


「た、ただいま」


 と。




 それから数日、わたしとアモルちゃん、それにフォルティくん、あとイズは狭いベッドで一緒に寝て、一緒に朝から晩まで働いて。

 今日はお店の定休日。

 アモルちゃんとフォルティくんを起こさないように気をつけながらイズとともにベッドを抜け出し、厨房に向かいます。

 厨房ではすでにファクルさんとクナントカさんが、今日のための準備を始めていて、


「遅くなりました!」


 わたしの言葉に、ファクルさんが笑顔で

「おはよう」

と言ってくれます。

 わたしも

「おはようございます!」

と返してから、準備を手伝おうと思ったのですが、そうするとファクルさんたちの手をかえって煩わせることになるので、応援することにします。


「がんばってください……!」


 そうしてすべての準備が整った頃、アモルちゃんとフォルティくんが降りてきました。

 飾り付けられていつもとすっかり様変わりした店内を見て、二人とも目を丸くしています。

 かわいいです!

 ――って、違います! そうじゃありません。


「こ、れは……」


 驚くふたりに、わたしは胸を張って言いました。


「アモルちゃんとフォルティくんの歓迎会です!」


 二人は様変わりした店内を見た時よりもさらに大きく目を見開いて、驚いています。


「アルアクルの提案でな」


 ファクルさんの言葉に、アモルちゃんたちがわたしを見ます。

 何だかくすぐったくなって、わたしは髪をぽしょりとかき混ぜます。

 孤児院にいた頃、新しい子が入ってくると院長先生が歓迎会を開いてくれたことを思い出したんです。


「今までいろんなことがあったと思います。でも、今日を限りにそれはもう全部忘れてください! そうして一緒にがんばっていきましょう!」

「……忘れられません。忘れることなんて、絶対にできません」


 アモルちゃんが呟きます。

 ……そう、ですよね。

 わたしが無神経でした。

 あれだけひどい虐待を受けていたのを、簡単に忘れることなんてできるわけが――。


「だって今まであったいろんなことを忘れるって、アルアクル姉さまたちとの出会いも忘れるってことじゃないですか。そんなの嫌です! 絶対に忘れたくない!」

「僕も、ずっと覚えてる!」


 そんなふうに言われて、わたしはどんな顔をすればいいのか、わからなくなってしまいました。


「アルア、顔が真っ赤。かわいい」


 イズがわたしの顔を覗き込んできて言いました。

 確かに顔は熱いですけどっ。

 わざわざ言わなくてもいいと思います!


「イズは意地悪ですっ」

「魔王だから仕方ない」


 それはそうなんですけどっ。


「か、歓迎会を始めますよっ! 問答無用です! いいですね!?」


 みんながやさしい眼差しを向けてきますけど、気にしないことにします!




 そんなふうに始まったアモルちゃんたちの歓迎会はとても盛り上がりました。

 今は夜。

 昼間の騒ぎが嘘みたいに、静けさが漂っています。

 わたしは一緒のベッドで寝ているアモルちゃんたちを起こさないように気をつけながら抜け出して、リビングに向かいます。

 何となく、なんですけど。

 ここに来たらファクルさんがいるんじゃないかって、そう思ったのです。

 そしてわたしの予感は、見事に的中しました。

 ファクルさんがいたのです。


「お、どうした、アルアクル? 腹でも減ったか?」


 やさしい声で、そんなことをファクルさんが言います。


「確かにわたしは食べることが大好きですけど、いつもお腹を空かせているわけじゃ――」


 ぐぅ、とわたしのお腹が鳴りました。


「気のせいです。気のせいですから!」

「わかったよ。気のせいだ。けど、俺がひとりで食べるのも何だから、アルアクルもつき合ってくれないか?」


 そう言ってファクルさんがアイテムボックスから取り出したのは()()()()でした。


「……仕方ありませんね。ファクルさんがそこまで言うなら、つき合ってあげます」

「そいつは助かる」


 ファクルさんから受け取った()()()()を、わたしは頬張ります。

 いつ食べてもファクルさんの()()()()はおいしいです。

 それからしばらく、わたしが()()()()を食べて、そんなわたしをファクルさんが見つめる時間が続きました。


「ごちそうさまでした。おいしかったです」

「どういたしまして。それで、本当はどうしたんだ? 眠れないのか?」

「いえ。何となくファクルさんに会いたくなって」

「そうか。俺に会いたく――え、今、何て?」

「? ファクルさんに会いたくなって、ここに来たら逢えるかなって思ったんです」

「そ、そそそそうか。それは……よかったな?」

「はい!」


 わたしが満面の笑みでうなずくと、ファクルさんの挙動が怪しくなりました。

 具体的には顔を真っ赤にして、げふんごふんと咳き込みだしたのです。


「あの、大丈夫ですか?」

「お、おう! 大丈夫に決まってるだろ!? 燃えさかるほどに冷静だしな!」


 それ、全然冷静じゃないと思います。

 わたしが笑うと、ファクルさんも自分がおかしいことに気づいたのか、苦笑いを浮かべて頭を掻いていました。


「アモルたちのこと、よかったな」

「はい」

「毎日がもっと楽しくなりそうだな」

「はい」

「なあ、アルアクル」


 ファクルさんの声が真剣なものになりました。

 見れば頬を紅潮させながらも、眼差しも真剣な感じです。


「俺とアルアクルが出会って、もうすぐ二年になる」


 言われて気づきました。

 もう、そんなに経ったんですね。

 いろんなことがありました。

 楽しいことも、悲しいことも、本当にいろいろなことが。

 でも、そのどれもが、すべてわたしの宝物です。

 だって、そのすべてにファクルさんがいるから。


「二年目のその日、大事な話がある。……聞いてくれるか?」


 わずかですが、声が震えているような気がします。


「大事な話、ですか?」

「ああ」

「わかりました。わたしでよければお聞きします」

「アルアクルじゃないと意味がないんだ。……ありがとう」


 ファクルさんは真剣な雰囲気を崩して、ふぅぅぅぅっ、と長い息を吐き出しました。


「もうそろそろ寝た方がいい。おやすみ、アルアクル。また明日」

「はい、ファクルさん。おやすみなさい。また明日です」


 ファクルさんはわたしの頭をくしゃりと撫でてから、自分の部屋に戻っていきました。

 その背中を見送ってから、わたしも部屋に戻ります。

 アモルちゃんたちが寝ているベッドに入ると、アモルちゃん――ではなく、イズが抱きついてきます。


「どこ行ってた?」

「起こしてしまいましたか? ごめんなさい」


 イズが首を横に振ります。


「……ちょっとファクルさんとお話をしていたんです。それで、大事な話があるから聞いて欲しいって言われました」

「そう」

「イズ、ファクルさんの大事な話って何だと思います?」

「食堂の新しいメニュー。間違いない」

「そう言われればそんな気がしてきました!」

「……………………あ、いや、その、アルア?」


 何だかちょっとイズが気まずそうですけど、どうかしたのでしょう?


「イズ、大丈夫ですか?」

「ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、ヘタレに申し訳ないことをしてしまったなんて、全然思ってない」


 イズが小声で何か呟いていましたけど、よく聞こえませんでした。

 出会ってから二年目のその日。

 ファクルさんがいったいどんなメニューのことを話してくれるのか、わたし、とても楽しみです……!

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