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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第5章

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34#勇者、その気持ちの理由を知りたがる。


 皆さん、おはようございます。

 わたしです。アルアクル・カイセルです。

 皆さんは何かハマっているものはありますか?

 わたしにはあります。

 それは何かと言えば――。





「今日もがんばって、ファクルさんに嫉妬してもらいたいと思います……!」


 ふんす! とわたしが気合いを入れていると、パチパチという拍手の音が。

 見れば、クナントカさんとイズでした。


「いつの間に?」

「アルアクルさんがいるところには、常に僕がいますから! 結婚してください!」

「気持ち悪すぎて無理ですごめんなさい」

「蔑むような眼差しいただきました! ありがとうございます! ありがとうございます! ……あ、お礼を二回言ったのは、それだけ感謝しているという意味で――」


 激しくどうでもいいです。

 というか、クナントカさんの変態具合が留まるところを知らなくて、最終的にどこまで行くのか、ちょっと楽しみになりつつあります。


「最近のアルア、がんばる方向が斜め上で尊い」

「……バカにしていますか?」

「だいじょぶ。バカな子ほどかわいいと言われているから」

「全然大丈夫じゃありません!?」


 イズはわたしのことをいったい何だと思っているのでしょう。


「イズ……」

「ぷんすか怒るアルア、大好き」

「そういえば許されると思っていますよね?」

「許さない?」

「……許しますけど」

「ちょろい」

「今、なんて言いました?」

「アルアは最高にかわいいと言った」

「微妙に違うような気がするんですけど」

「気にしたらだめ。わかった?」

「はい」


 気がついたら、イズの迫力に、わたしはそう返事をしていました。

 まあ、いいです。気にしないことにしましょう。

 でも、ちょっと気になることを言っていましたよね。


「あの、イズ。ちょっといいですか?」

「何?」

「がんばる方向が斜め上ってどういうことですか?」


 ファクルさんに嫉妬してもらうと、すごくうれしくなります。

 だから今日もファクルさんに嫉妬してもらおうと思っていました。

 もちろん、お仕事の邪魔になるような真似は絶対にしませんよ?

 それに妖精さんにも負担をかけないようにしないといけません。

 ファクルさんに嫉妬してもらえるのがうれしすぎて、妖精さんに無理をさせすぎちゃっていたことに気づいたのです。

 妖精さんは「仕方ない」「大丈夫」みたいな感じのことを身振り手振りを交えて伝えてくれましたけど、疲れるまで振り回したわたしの責任は重いです。

 気をつけないとダメです。絶対に。

 せっかく仲好しになれた妖精さんなんですから。

 なので、ここぞという時にファクルさんに嫉妬してもらえるよう、知恵を絞る必要があると思っていたわけですが……斜め上って、どういうことなんでしょう。


「イズはアルアが好き」

「知ってます」


 常日頃、何かある度に言われていますし、今もぎゅうぎゅうと抱きつかれていますから。


「だから本当はこんなこと言いたくない。ファクル(ヘタレ)の得になることなんてもってのほか。ただ、ヘタレの作る料理はおいしい。そこは認めざるを得ない」


 ファクルさんの作るお料理は最強ですからね。


「アルア。アルアはファクルに嫉妬されると喜んでる。それはどうして?」

「え?」

「ヒントはここまで」


 ファクルさんに嫉妬してもらえると、胸がドキドキして、舞い上がるほどうれしくなって。

 けどわたしはイズに指摘されるまで、それがどうしてなのかなんて、考えてみたこともありませんでした。




 今日もファクルさんのお店はお客さんがいっぱいで、厨房に立つファクルさんは大忙しです。

 特に今日はファクルさんのお料理の噂を聞きつけ、隣の国からわざわざやってきたというスライムさんがいます。

 そのスライムさんを見て、イズが言います。


「隣の国から来た? 普通のスライムにはそんな真似、絶対にできない」


 つまり?


「あのスライム、なかなかやる」


 魔王であるイズが言うくらいなのですから、相当なのでしょう。

 実際、椅子の上のスライムさんは、歴戦の強者みたいな雰囲気を醸し出しているような――。

 ぽよん、ぷよん。

 ……わたしの気のせいでした。すみません。

 ただ、クナントカさんの話によると、最近のスライムさんは実力者が多いそうで、スライムだからと言って油断はできないらしいです。

 確かに、その意見には同意です。

 だってファクルさんのお料理を求めてやってきているわけですからね。

 ただ者じゃないとわたしも思います。

 何にしてもファクルさんのお料理のすごさがいろいろなところに広まっていて、うれしい限りです。

 ファクルさんもさぞ気合いが入っているかと思えば、そんなことはありませんでした。

 だからわたしは聞きました。


「いつも以上に気合いを入れたりしないんですか?」

「わざわざ俺の料理を食べにここまで足を伸ばしてくれたからか?」

「はい」

「まあ、そのこと自体は素直にうれしい」


 ですよね。

 何とかキリッと表情を引き締めようとしていますけど、口元がゆるんでいるのをわたしは見逃しません。


「けど、それは違うと思うんだよ。そんなことしたら、いつも食べに来てくれてる人たちが面白くないだろ」


 ファクルさんの言うとおりです。


「だから、俺はいつもどおり作るだけだ」


 ファクルさんは手にした包丁でよどみなく食材を刻んでいきます。

 それを熱したフライパンの中に入れれば、激しい音が弾けておいしそうな匂いが漂い始めました。


「もう少し、か」


 火加減を見守るその背中を見つめていると、ふとファクルさんが振り返りました。

 視線がぶつかります。


「そういえばアルアクル、今日は聞かないのか?」

「え?」

「ほら、嫉妬したかどうかって」


 その時、わたしの頭の中に、イズの言葉がよぎりました。

 やさしく微笑むファクルさんに、わたしは思い切って聞いてみることにしました。


「あのファクルさん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど……いいですか?」

「いいぞ。何でも聞いてくれ」

「わたし、ファクルさんに嫉妬してもらえると、すごくうれしくなるんです」

「……ああ、そうらしいな」


 ファクルさんが少しだけ目をそらしました。なぜでしょう?


「胸の奥がすごくドキドキして、こんなにしあわせなことはないって、そう思うんです」

「そ、そうなのか」


 ファクルさんがさらに目をそらしました。心なしか顔も赤くなっているような……。


「そ、そんなにしあわせなのか?」

「それはもう!」


 わたしは自分がどれだけしあわせなのか、ファクルさんに小一時間ばかり語りたくなりましたけど、今はお仕事中だったので、グッと我慢します。


「そ、そうか。そんなに力強く肯定するほどなのか」

「それで、イズに言われたんです。ファクルさんに嫉妬されるとうれしくなるのはどうしてかって。わたし、考えてみたこともなくて」


 だから、考えてみたんです。何でなんだろうって。


「でも、わからなくて。ファクルさん、どうしてなんでしょう? ファクルさんに嫉妬してもらえると、こんなにうれしくて、しあわせな気持ちになるのは、どういうことなんだと思いますか?」

「そ、それを俺に聞くのか」

「はい! ファクルさんには魔王退治の旅を一緒にしていた時、いろんなことを教わりましたから! ファクルさんは何でも知っているすごい人です!」

「アルアクルの期待が俺の予想以上に重い! けど、めちゃくちゃうれしいと思う俺もいる!」


 ファクルさんがちっちゃな声で呟きます。

 何を言っているのでしょう?

 気になって聞きましたが、「な、何でもない」と誤魔化されてしまいました。

 むぅ。気になります。


「で、ファクルさん、わたしがそう感じるのは、どうしてなんでしょう? 教えてください!」

「そ、それはあれだ。いわゆるひとつのほら、それなんだよ」

「あれとかそれじゃわかりません。もっとちゃんと教えて欲しいです」


 そんなふうに言っていた時でした。


「アルアクルさん、そこまでです。それ以上はファクルさんの生命力がゼロになっちゃいますから」


 クナントカさんに言われました。


「それは大変です! 回復魔法を使わないと……!」

「いや、大丈夫だ。そういうんじゃないから」

「そうなんですか?」

「そうなんだ」


 でも、やっぱり心配です。

 わたしは勇者としての力をこっそり解放して、ファクルさんに悟られることなく背後に近づき、回復魔法を使いました。

 ふぅ。これで安心です。




 あの日、結局、ファクルさんは教えてくれませんでした。


『それは、まあ、なんだ。自分で考えて答えを出した方がいい』


 と、そう言って。


『僕もそう思いますよ。その思いはアルアクルさん、あなたが自分で気づかないといけないものだと思いますから』


 珍しく真面目な顔をしたクナントカさんも、ファクルさんの意見に賛同しました。

 なので、次のお休みの日、つまり今日。

 わたしはひとり、迷いの森の中を散策しながら考えることにしました。

 どうしてファクルさんに嫉妬してもらうとうれしくなるのか、その理由を。

 ですが、わたしがその理由にたどり着くことはありませんでした。

 なぜなら、迷いの森の外から悲鳴が聞こえてきたからです。

 わたしは走り出しました。

 そこにたどり着くと、


「……!!」


 倒れていたんです。

 ボロボロに傷ついた獣人の子どもがふたりも――。

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