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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第4章

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おっさんside*資格を得るため、覚悟を決める。


 妖精がかわいいと訴えるアルアクルの方がずっとかわいいと、そう思うのはファクルだけだろうか。

 家に取り憑くという妖精が初めて自分の頭に乗った、あの日。

 そのことがよほどうれしかったのだろう。夕食の席で、アルアクルはそのことばかり口にしていた。

 妖精の話をしているアルアクルはとてもしあわせそうで、見ているこちらまでしあわせな気持ちになった。

 それはファクルだけでなく、クリスやイズヴェルも同じように感じていたはずだ。

 アルアクルを見つめる眼差しはいつもよりずっと穏やかで、


「妖精のことを必死に語るアルア、尊い……」

「心がほっこりしますねぇ……」


 なんてことを口にしていた。まったく同感だ。

 アルアクルにはこれから先もずっとそんな顔をしていて欲しいと、ファクルはそう思った。

 思っていたのだ。本当に。心の底から。

 だからあの日、妖精と一緒に何かしているアルアクルの姿を見た時は微笑ましい気持ちでいっぱいだった。

 相変わらず妖精と一緒にいる時のアルアクルはいい笑顔をしている。

 だが、気をつけないと。構い過ぎると妖精に嫌われるぞ。

 そんなふうにも思っていた。

 だが、それは最初のうちだけだった。

 アルアクルと妖精がこそこそしている。しかも自分に隠すようにして。

 それに気づいた時、面白くないと感じたのだ。

 どうして自分に隠す必要が? 自分に言えないような何かがあるのか?

 胸の奥に渦巻く思いに気づき、愕然とする。

 自分はいったい何を考えた?

 そんな思いはすぐにでも振り払うべきだ。

 そう思っていたのに、態度に表れていたのだろう。クリスに注意されてしまった。

『ファクルさん、料理が雑になってますよ』

 まったく気づかなかった。ダメすぎる。

 思い出す必要がある。自分はどうして食堂を開きたいと思うようになったのかを。

 それはアルアクルが自分の作る料理を食べて、喜んでくれたからだ。

 最初は師匠に嫌々習わされたものだった。

 そもそも料理なんてものをしたことがなかったから、師匠が何を言っているのか理解することが苦痛だった。

 料理は愛情! 愛さえあればラブイズオーバーとか、本当に意味がわからない。

 だが、アルアクルのおかげで気づくことができた。

 自分の作った料理が誰かに喜んでもらえる。こんなにうれしいことはない。

 自分ですら知らなかったことを、アルアクルに教えられた。

 今、自分はその思いを形にすることができた。食堂を開くことができたのだ。

 しかもこの食堂はゲンジに託された、大事な宝物だ。

 ここを守っていくと、ファクルはゲンジに誓ったのだ。

 このままではいけない。

 両手のひらで頬を叩き、気持ちを切り替える。

 料理に集中する。

 食べてくれる人のことを考える。

 だが、気持ちを切り替えることは難しかった。

 まるで妖精との仲を見せつけるかのように、アルアクルが自分の周りをうろちょろしていたからだ。

 普段なら喜ぶことはあっても、こんな苦い思いになるなんてことはないのに。

 一晩寝れば収まっているだろうと思っていたが、次の日になっても胸の奥にはモヤモヤが居座り続けていた。

 その日の仕込みと朝食の支度を一緒に手伝ってくれていたクリスに指摘された。


『ファクルさん、嫉妬するのはどうかと思いますよ』


 と。

 わかっていた。ファクルはアルアクルと一緒に過ごす妖精に嫉妬していた。ふたりで仲良く何か秘密を抱えていることが悔しかった。

 それでもそれを認めたくなかったのだが、第三者から見てもそう感じていたのなら、認めざるを得ないだろう。


『なんだか重々しい雰囲気を醸し出していますけど、バレバレですからね?』


 なんだと。


『というかですよ。そもそもアルアクルさんに告白すらしていないファクルさんには、嫉妬する資格すらないと思うんですけどねぇ』


 まったく、ぐうの音も出ない正論だった。


『嫉妬するならアルアクルさんに告白して、それで玉砕してからにしてくれませんか』


 玉砕したくない。


『一緒にアルアクルさんにお断りされる快感に目覚めましょうよ』


 目覚めたくない。

 そんな馬鹿なやりとりをしていたら、アルアクルがやってきた。

 胸には妖精を抱えている。

 その姿を見たらダメだった。

 クリスにも指摘されたとおり、告白すらしていない自分には嫉妬する資格などないのに、それでも体が硬くなる。

 アルアクルがいつもどおり『おはようございます』と朝の挨拶をしてきたのに、返事をすることができなかった。

 こんな自分が嫌になる。

 そんなことを思っていたら、クリスが自分が妖精に嫉妬していることをバラしてしまった。

 アルアクルに嫌われる、そう思っていたのに。


『ファクルさんに嫉妬してもらえて、わたし、すっごくうれしいんですから! だから、ありがとうございます!』


 わけがわからなかった。

 変な奴だと言ってしまった。


『そんなことありません!』


 そんなふうに言うアルアクルがかわいくて――愛おしくて。

 じっと見つめて、頭を撫でてしまった。

 そうしたら彼女は一歩、また一歩と自分に近づいて来て――何をするつもりだったのだろう。

 イズヴェルがやってきて、いつもみたいに抱きつかなかったとしたら……いったい何をしていたのだろうか。




 それから数日の間、アルアクルのかわいさは天井知らずだった。

 というのも、妖精と一緒に目の前に現れては、キラキラした笑顔を向けてくるのだ。


「どうですか、ファクルさん!?」


 妖精を頭に載せて上目遣い。

 かわいすぎる。

 アルアクルがどんな答えを求めているのか、さすがのファクルでも察しがつく。


「そうだな。嫉妬するな」

「ふふっ、ファクルさんに嫉妬されちゃいましたよ、妖精さん!」


 妖精を胸に抱きしめ、その場でくるくる回り出す。

 もちろん、本気で嫉妬したわけではない。

 告白していない自分に嫉妬する資格などない。クリスに言われたとおりだと考えたからだ。

 それからもことあるごとに、アルアクルは妖精を頭に載せて、ファクルの前に現れた。

 客の注文を伝えにきた時。皿を片付けにきた時。休憩の時などなど。

 そのたびにアルアクルが「どうですか!?」と聞いてくるので、嫉妬したと答えると、アルアクルは本当にうれしそうに喜んでいた。

 ただ、最初は楽しそうにアルアクルに付き合っていた妖精が、最後の方はぐったりしていたのはさすがに申し訳ない気持ちになったので、クッキーに加え、プリンを提供しておいた。

 謎の踊りをしていたので、喜んでくれたのだと思う。

 ちなみに、イズヴェルは本気で妖精に嫉妬していた。


「アルアの胸はイズのものなのに。あの毛玉、絶対に許さない。毛を全部むしってやる」

「お、お前はなんて残酷なことを思いつくんだ!?」


 さすがは魔王だっただけのことはある。


「そんなに残酷……?」


 どうやら毛がなくなる恐ろしさを、イズヴェルはわからないらしい。

 それがどれだけ恐ろしいことか、小一時間ばかり語って聞かせようとしたのだが、


「ファクル、うざい」


 と言われてしまった。解せぬ。


「けど、わかった。毛をむしるのだけはやめる。ファクルがうざくなったら面倒くさいから」


 結果、なんとかなったようで、ほっとする。

 そんなこともありつつ、アルアクルの「どうですか!?」攻撃がしばらくの間続き、ファクルは覚悟を決めた。

 ちゃんとアルアクルに思いを告げて、正式に嫉妬する資格を得るのだ。

 曖昧なまま過ごすのではなく。

 そんなファクルの様子にクリスは気づいたようで、


「ファクルさん、とうとう覚悟を決めたんですね」

「ああ。俺とアルアクルが出会って、もうそろそろちょうど二年になる。だからその日、俺はアルアクルに告白しようと思う」

「そして断られる快感に目覚めるわけですね! 同志!」

「同志じゃね!」

「そういうことにしておきますよ。ファクルさんのお手並み拝見ですね」

「がんばるさ」


 成功させるために、ファクルはできるだけのことをするつもりだった。

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