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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第4章

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33#勇者は感謝を伝えたい。


 皆さん、おはようございます。

 わたしです。アルアクル・カイセルです。

 皆さんには、日頃、お世話になっている方はいますか?

 その方に感謝の気持ちは伝えていますか?

 わたしは……。




 お店の開店時間前。

 わたしとファクルさんは、お店の裏にある畑に来ていました。

 クナントカさんは厨房に残って仕込み中、イズは店内の飾り付けをしています。

 実はイズ、飾り付けの才能があったんです。

 魔力でいろいろなものを創り出すことができるようで。

 イズが魔力で創ったものをテーブルの上にちょっとした置物として飾ってみたところ、これがファクルさんやクナントカさんだけでなく、お客さんにも好評だったのです。

 それ以来、毎日、お店の開店時間前に、店内を飾り付けることになりました。

 イズ曰く、『出来心でやった。反省している』らしいです。

 というのも、お仕事中、わたしにかまってもらえず、むしゃくしゃした気分でやったのに、それがみんなに褒められて照れくさい――というわけではなく、純粋に面倒くさいとのことでした。

 ちなみに、最初に創り出した、ちょっとした置物というのは人形です。

 わたしをモデルにしたというのですが、わたしより100倍くらいかわいかったのです。

 でも、


『そんなことない。アルアはこれよりずっとずっと、10000万倍以上、かわいい』


 イズの言葉に、クナントカさんだけでなく、ファクルさんまで大きく頷いていたのは、今、思い出すだけでも顔が熱くなるほど恥ずかしいです。

 ……でも、ちょっぴりうれしかったりもします。えへへ。

 そんな毎日の飾り付けですが、やっぱり今も面倒くさそうにいかにも嫌々やっていますが、やめる気配はありません。

 何だかんだ言って、楽しんでいるんだと思います。

 そのことを指摘したら、


『アルア、実はいじめっ子』


 と、そっぽを向きながら、言われてしまいました。

 けど、わたしは、髪の毛に隠れてちょこっとしか見えないイズの耳の先が、ほんのり赤くなっていたことを見逃しませんでした。

 かわいいですよね、イズ。

 魔王だったなんて信じられません。

 あ、そういえば、飾り付けは、わたしも挑戦してみたんです。

 潤沢な魔力があれば、誰にでもできるとイズに手ほどきされて。

 結果、わたしが創り出したものは――禍々しい気配を放つ、呪いの置物になりました。

 イズがわたしを想像して人形を作ったみたいに、わたしはファクルさんを想像して人形を作ってみたのです。

 でも、結果は呪いの置物。

 クナントカさんにはこう言われました。


『夢に出てきて、一生、うなされそうな感じですよね! いい意味で!』


 この人、「いい意味で」をつければ、褒め言葉になると思っているんじゃないでしょうか。なりませんからね!?

 イズはこう言いました。


『これを設置しておくだけで、魔物がものすごい勢いでバタバタ倒れていく。間違いない。元魔王のイズが保証する』


 そんな保証はいりません!

 最後に、一縷の望みをかけて、わたしはファクルさんを見つめました。


『あー、まあ、なんだ。厨房に置いておけば、ネズミや害虫を退治してくれそうでいいじゃないか』


 というわけで、一時期は厨房に設置することも検討されたのですが、妖精さんがそれを見て、ビクゥッ!! となっている姿を見てしまったので、わたしは呪いの置物を封印することにしました。

 おかしいです。こんなはずじゃなかったのに。

 落ち込むわたしに、ファクルさんは言ってくれました。


『アルアクルはよくがんばってくれているから、それだけで充分だ。俺はうれしく思っているから』


 その言葉に励まされたわたしでしたが……。

 もっと役に立ちたいし、日頃、お世話になっている感謝を伝えたいのです。

 でも、なかなか上手くいきません。

 難しいですね。

 ――って、話が盛大にそれてしまいました。

 わたしとファクルさんです。

 今、わたしたちはお店の裏の畑の前にいます。

 クナントカさんとイズは、さっき言ったとおり、お店の中です。

 つまり、ファクルさんと、ふ、ふたりきり……!

 ――だったら、わたしの胸がものすごい勢いでドキドキするのですが、残念ながら違います。

 ……あれ? わたし、どうして『残念』だなんて思ったんでしょう?

 よくわかりません。

 近頃、わたしは自分のことなのに、わからないことが多いような気がします。

 いえ、そうじゃありません。

 ファクルさんと出会ってからです。

 ファクルさんと出会ってから、わたしはわからないことが増えました。

 でも、それが嫌な感じじゃないのです。

 むしろうれしいかもしれません。


「アルアクル?」


 ファクルさんに呼びかけられて、わたしはハッとします。

 また、話がそれてしまうところでした。


「何でもありません。大丈夫です!」

「そうか?」


 ファクルさんがわたしの顔をのぞき込んできます。

 近いです近いです近すぎます!

 そしてファクルさんのいい匂いがして、ドキドキします。


「だだだ大丈夫ですから!?」

「全然大丈夫に見えないんだが!?」

「気にしたらダメですっ!」

「お、おう。わかった。気になるが……気にしないことにする」


 やさしいです、ファクルさん。

 すっごくやさしいです。


「んじゃ、頼むな」


 気持ちを切り替えたファクルさんが呼びかけた相手は、妖精さん。

 そうなのです。

 ここにはわたしたち以外にも妖精さんがいたのでした。

 妖精さんは、スチャッ! と片手を上げると不思議な踊りをはじめて、野菜を育てていきます。


「相変わらず、すごいよなぁ」

「はい」


 ファクルさんの言うとおり、本当にすごいです。

 妖精さんはファクルさんから特製()()()()を受け取り、喜んでいます。

 その姿を見て、胸の奥がほっこりしていると、なぜかファクルさんに()()()()をいただきました。


「どうしてですか?」

「いや、めっちゃ食べたそうに見てただろ?」


 そんなことありません。

 わたしはほっこりしていたのです。


「いやいや、めっちゃ食べたそうにしてたって!」


 ファクルさんが笑いながら言いました。

 確かにファクルさんの()()()()はおいしいですし、大好きですけど、そんな顔はしていません。


「なら、食べるのやめるか?」

「……い、いただきます」

「まだまだいっぱいあるからな?」


 そうやって笑うのずるいです。

 これ以上、怒れなくなるじゃないですか。むう。

 わたしは()()()()を頬張りながら、妖精さんを見ます。

 不思議な踊りをするだけで、どうして野菜をこんなふうに育てることができるのでしょう。

 種も何も植えてないのに。


「あれ……?」


 何も植えてないのに――育てることができる。

 ということは……もしかして。

 わたしは、ある可能性を思いつきました。

 これが成功したら――きっとファクルさんは喜んでくれるに違いありません!




 ――というわけで。

 その日のお店の営業が終わって。

 みんなが寝静まった頃、わたしは厨房に来ていました。

 べ、別にお腹が空いたとか、そういうわけじゃありませんからね!? 本当ですよ!?

 わたしは妖精さんに用事があったのです。


「妖精さん、いますか? いたら出てきてください。大事なお話があります」


 何となくここにいるんじゃないかという方に向かって、わたしは呼びかけました。

 元勇者なので、気配を感じるのは敏感なのです。

 すると、わたしの肩を誰かが叩きました。

 誰でしょう?

 振り返ると、そこに妖精さんがいました。


「あれ?」


 どうやらわたしは見当違いのところに呼びかけていたみたいです。

 ……おかしいです。

 元勇者なのに、恥ずかしすぎますっ。

 ここに誰もいなくてよかったです。

 いたら、真っ赤になってうずくまったわたしを、見られてしまうところでしたっ。

 ファクルさんに教えてもらった深呼吸をして、落ち着きを取り戻しましょう。

 ひっひっふー。

 落ち着きました。もう大丈夫です。

 わたしはキリッとした表情を作って、妖精さんに向き直ります。


「妖精さん、お願いがあります。妖精さんの不思議な踊りを、ファクルさんの髪の毛に使って欲しいんです……!」


 そう、わたしが思いついた、ある可能性というのはこれなのです。

 ファクルさんには、常日頃、いろいろお世話になっています。

 おいしいご飯を毎日用意してくれるのもそうですし、お料理も飾り付けもできないわたしを、こんなに素敵なお店の従業員として雇ってくれています。

 そのお礼をしたいと、ずっと思っていたのです。

 そこでこれです。

 妖精さんの不思議な踊りで、ファクルさんの髪の毛を生やすのです!

 わたしの回復魔法ではダメでした。

 ファクルさんの髪の毛の毛根を復活させることは、できなかったのです。

 あの時ほど、自分の無力を嘆いたことはありませんでした。

 ですが、妖精さんなら?

 何も植えてないのに、野菜を生やして、育てることのできる、あの不思議な踊りなら。

 ファクルさんの髪の毛を増やすことができるのではないか……!?

 わたしがそんな思いを熱く語ると、妖精さんもファクルさんにもらっている()()()()のお礼がしたいと言ってくれました。


「それじゃあ、がんばりましょう!」


 ここに、ファクルさんの髪の毛を生やし隊が結成されたのでした。




 次の日、早速、作戦決行です!

 ファクルさんは自分の髪の毛が薄くなっていると、わたしに気づかれたくないみたいです。

 なので、わたしたちが気づいていることを、ファクルさんに気づかれないようにしなくてはなりません。

 つまり、自然に、いつの間にか、ファクルさんの髪の毛がフッサフッサになっていなくてはいけないのです!

 ……あれ?

 よくよく考えてみると、それってすごく不自然じゃないですかね……?

 ………………(考え中)。

 ……し、仕方ありません! そこは目をつむりましょう!

 気にしないことにするのです!

 というわけで、作戦を開始しますっ!

 朝、わたしと妖精さんはうなずき合うと、お店で出すお料理の下ごしらえをしつつ、朝食の用意をしているファクルさんの背後に、気配を消して近づきました。


「さあ、妖精さん! 踊っちゃってください……!」


 わたしが差し出した手の上に、ぴょこん! と飛び乗った妖精さんが、手や足をわちゃわちゃ動かして、踊り始めようとした、まさにその時でした。


「何だ? どうした?」


 ファクルさんが振り返りました。


「あ、え、な、なんで――」

「ん?」

「な、なんでわたしがここにいるって、気づいたんですか?」

「冒険者時代に培った経験ってやつかな?」


 そ、そうでした!


「……くっ、ファクルさんが、凄腕ベテラン冒険者だったことを、うっかり忘れていましたっ」


 それというのも、厨房に立つファクルさんの姿が、とても様になっているというか、輝いて見えて素敵だからです。


「待て待て。俺はそんなすごい冒険者じゃないからな? 所詮、Cランク止まりなんだから」

「そんなことありません! ファクルさんはとてもとても、とーってもすごい冒険者です! 異論は絶対に認めません!」

「あ、はい」

「いいお返事です!」


 って違いますっ。そんなこと言っている場合じゃありません。


「よ、妖精さん、こうなったら戦略的撤退です!」


 スチャッ!

 妖精さんが手を上げて応えます。


「あ、おい、アルアクル!?」


 ファクルさんが呼びかけてきました。

 立ち止まって返事をしたくなるのをグッとこらえて、わたしは妖精さんとともに、その場から離れました。

 次に作戦を行おうとしたのは、お店が開店して、ファクルさんが竈の前に立ち、料理を作っている時でした。

 真剣なファクルさんは、いつにも増してかっこいいです!

 って、違います。

 そんなことを思っている場合ではありません。

 今、わたしは、ファクルさんの髪の毛を生やすために集中しなければいけないのです。

 本当は調理中のファクルさんには、近づきたくありませんでした。

 厨房はファクルさんにとって、真剣勝負の場。

 それを邪魔するのは、よくないと思うからです。

 ですが、ファクルさんの髪の毛を生やすため。

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけですから!


「というわけで、妖精さん! お願いします!」


 シャキッ!

 手を上げ、妖精さんが踊り始めます。

 ファクルさんが料理に集中している今、きっと上手くいく。

 ――そう思っていた時期が、わたしにもありました。

 実際は全然ダメでした。

 ファクルさんに気づかれてしまいました。


「どうした、アルアクル。注文か?」

「い、いえ、違います」

「ああ、そうか。腹が減ったんだな? これは客に出す料理だから……ちょっと待ってろ。すぐにアルアクルの分、作るから」

「ありがとうございます!」


 じゃありません! 何言ってるんですか、わたし!


「ち、違います! お腹は空いてませんから!」

「そうなのか?」

「そうです!」


 と言い切ったのに、なんと言うことでしょう。

 くぅ~。

 わたしのお腹が、わたしを裏切りました!

 最悪です!


「……腹の方は違う意見みたいだぞ?」

「た、たまに、こういう見解の相違もあったりするんです!」


 恥ずかしいです。


「と、とにかく、何でもありませんからっ!」


 というわけで、わたしは妖精さんとともに、再びその場から戦略的撤退をしたのでした。

 それからも何度か挑戦してみたのですが、そのたびにファクルさんに気づかれてしまい、なかなか上手くいきません。


「なあ、アルアクル。今日はいったいどうし――」

「ほ、本当に何でもないんです! さあ、妖精さん、いきますよ!」


 そんなわけで、作戦はことごとく失敗してしまったのでした。




 次の日になりました。

 作戦が上手くいかなかったわたしの気分は、間違っても最高とは言えない状態です。

 妖精さんもすっかり落ち込んでしまい、モフモフの毛並みが、心なしかツヤを失っていたような気がします。

 今日はどうでしょう。

 うまくいくでしょうか。

 そんな気持ちを抱えたまま、みんなの共有スペースにやってきたわたしは、そこにいたファクルさんとクナントカさんに朝の挨拶をしました。


「おはようございます!」

「ああ、おはようございます、アルアクルさん。結婚してください!」

「無理です」

「朝から無表情『無理です』をいただきました! 最高の一日の始まりです! ありがとうございます!」


 クナントカさんの変態レベルがとどまるところを知りません。

 まあ、どうでもいいんですけど。


「………………」


 ファクルさんはわたしをチラリと見ました。

 でも、それだけです。

 いつもやさしい声で「おはよう」と返してくれるのに、今日は返してくれません。

 あれ? どうしたのでしょう?


「ファクルさん、どうしたんですか? 喉の調子でもおかしいんですか?」


 ファクルさんは何も言いません。

 これは相当ひどいということでしょう。

 わたしは近づいて、回復魔法を使おうとしました。


「回復魔法を使うつもりですか? 無駄ですよ」

「どうしてですか、クナントカさん」

「だって、ファクルさんは別に喉の調子が悪いわけじゃないですからね。アルアクルさんが来るまで、僕とは普通に喋っていましたから」

「なら、どうして返事をしてくれなかったんですか?」


 ファクルさんが口を開いて何かを言いかけましたが、それより早く、


「それは簡単な話ですよ。ファクルさんは妖精さんに嫉妬したんです」

「ちょ、クリス! お前、裏切ったな!?」

「いつから僕がファクルさんの味方だと錯覚していましたか!? 残念、僕はいつもアルアクルさんの味方です!」

「特に必要はないので、お断りします」

「ありがとうございます!」


 お礼を言われる意味が、さっぱりわかりません。

 まあ、わからなくてもいいです。

 ファクルさんを見れば、頬のあたりが赤くなっていることに気がつきます。


「昨日、アルアクルさんは妖精さんと一緒に何かしてましたよね?」


 クナントカさんの言葉に、わたしは頷きます。


「ふたりが秘密で何かしていると、しかもとても楽しそうだったと、自分より妖精さんと過ごす方が楽しいのかと、そんなふうに嫉妬したんです。心がちっちゃいですよね。自分はきちんとした告白だってしてないというのに」


 クナントカさんが小さい声で何を言ったのか、わたしには聞こえませんでしたが、ファクルさんには聞こえたみたいです。


「う、うるせえ」


 と、そう言っていましたから。


「あ、あの、ファクルさん」

「な、なんだ?」


 ファクルさんの声がうわずっていましたが、わたしの声も負けず劣らず、うわずっていたはずです。


「あの、嫉妬したって……本当ですか?」


 ファクルさんの顔がはっきりとわかるくらい、赤くなりました。


「あ、ああ、そうだ。嫉妬した! ……軽蔑したか?」

「いいえ、そんなことありません!」


 だって、とわたしは続けました。


「ファクルさんに嫉妬してもらえて、わたし、すっごくうれしいんですから!」


 そうです。

 ファクルさんに嫉妬してもらえたと知って、わたしの胸はすごくドキドキしていました。


「だから、ありがとうございます!」

「……なんで感謝するんだよ」

「言ったじゃないですか。すっごくうれしいからですよ!」

「変な奴だな、アルアクルは」

「そんなことありません!」

「いいや、変な奴だ」

「そんなことないって言ってるじゃないですか」


 ファクルさんがわたしの頭を、やさしく撫でてくれます。

 その眼差しがいつもよりずっとやさしくて。

 なんだかわたしの胸はドキドキしてきて。

 一歩、また一歩と、ファクルさんにいつの間にか近づいていて。

 ファクルさんの服の裾を掴もうとした時、


「アルア、何してる?」


 イズがやってきて、わたしに抱きつきました。


「何って……」


 わたしは何をしようとしていたのでしょう?

 ファクルさんの服の裾を掴んで、それから……。


「わ、わかりません! わかりませんけど、そんなつもりじゃなかったんです!」

「アルア、顔が真っ赤。かわいい」

「ありがとうございます!」


 違います。お礼を言っている場合じゃありません。

 本当にわたしは、何をしようとしていたんですか!?




 それからしばらくして、わたしが落ち着きを取り戻した頃。

 みんなで朝食を取っていると、クナントカさんが聞いてきました。


「それでアルアクルさん。結局、昨日は一日、妖精さんと何をやっていたんですか?」

「そ、それは……」


 ファクルさんをちらりと見ます。

 こうなったら、話すしかないでしょう。

 ですが、すべてを話すわけにはいきません。

 ファクルさんはわたしには、髪の毛で悩んでいることを気づかれたくないと思っている感じなので。

 だから、そこには触れない方向で話しました。


「つまり、日頃の感謝を伝えようとしていたわけですか。妖精さんと一緒に踊ることで」


 クナントカさんの言葉にうなずきます。

 そういうことにしたのです。


「なら、こそこそ隠れてないで、ファクルさんの前で披露したらどうですか?」


 なんと言うことでしょう。

 クナントカさんが余計なことを言い出しました。

 そんなことをしたら、いきなりファクルさんの髪の毛が生えてきて、大変なことになるじゃないですか。

 でも、わたしの言葉が嘘ではないという証明するためには、そうするしかないのかもしれません。

 それに……妖精さんとわたしが一緒に、ファクルさんの目の前で踊って、ファクルさんの髪の毛が生えてきても、それはたまたまで、ものすごい偶然だった、ということにできるかもしれません。

 いえ、その方向でいきましょう。

 というわけで、妖精さんに呼びかけると、妖精さんが現れました。


「かくかくしかじかです、妖精さん。ここで一緒に踊りましょう!」


 いいの? という感じで妖精さんが体を傾けます。

 大丈夫です。

 さっきの要領でごまかせる――はずです。

 さっそく踊ってみました。

 妖精さんはいつもの謎の踊り。

 わたしはその周りで、妖精さんの踊りを盛り上げる感じで。

 これでファクルさんの髪の毛が生えてくる……!

 踊り終わったわたしは、ファクルさんの頭に視線を注ぎました。

 生え――生え――生え――生え――――――――ない。

 え、あれ?

 生えません!?


「ありがとう、アルアクル。独特というか、かなり独創的な踊りだったが、気持ちは充分伝わった」


 ファクルさんは、とても眩しい笑顔を浮かべてくれました。


「確かに独創的でしたね。悪夢を見ること間違いなしって感じで。あ、もちろん、いい意味ですからね?」


 いい意味のわけがありません!


「アルアの踊り……神を倒すレベル」


 倒しちゃダメです!

 そ、そうですか。わたしの踊りはそんなにダメでしたか……。

 いえ、わたしの踊りはどうでもいいんです。本当です! 嘘じゃありませんから!?

 それより、ファクルさんの髪の毛……生えませんでした。

 妖精さんの力をもってしてもダメだなんて……いったいどうすれば?


「アルアクルと、お前も、本当にありがとな」


 ファクルさんがわたしと妖精さんを撫でてくれます。

 本当は違うのに。

 予定ではここでファクルさんの髪の毛が、フッサフッサになっている予定だったのに。

 でも。

 ファクルさんはわたしたちの踊りを喜んでくれました。

 日ごろの感謝の気持ちが伝わったと、そう言ってくれました。

 なら、喜んで……いいですよね?

 ファクルさんの、こんなに素敵な笑顔を見ることができたんですから。

活動報告に書籍化のご報告を掲載しました。

ブクマ、ポイント評価、感想、いつも励みにしております。

不定期更新ではありますが、これからもどうぞよろしくお願いします。

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