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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第4章

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32#念願、叶う。

総合評価が5000pt越えました。

ありがとうございます。

 皆さん、おはようございます。

 わたしです。アルアクル・カイセルです。

 誰にだって間違えてしまうことはあると思います。

 でも、さすがにこれは。

 家に取り憑く毛玉さん――ではなく、妖精さんを食器洗いと間違えてしまうのは。

 妖精さんに申し訳ないというか。

 確かに妖精さんはふわふわしていて、食器を洗うのに便利そうというイズの言葉に、わたしも思わず「そうかもしれません……!」なんて思ってしまいましたけど。

 張本人である妖精さんにしてみれば、冗談では済まされない大事件のはずで――。




 イズの魔の手から妖精さんを救出したのはわたし――ではなく、ファクルさんでした。


「何やってるんだよ、イズヴェル」

「カッとなってやった。反省はしない。絶対にだ」

「しろよ! ていうか、カッとなってやったって何だよ……」

「? ファクルは何を言っている? 意味がわからない」

「それは俺の台詞だ!」


 ファクルさんはため息をはき出すと、手の中で震えている妖精さんにやさしい声で語りかけます。


「大丈夫か? ……あーあ、こんなに汚れちまって。待ってろ。今、綺麗にしてやるからな」


 ファクルさんによって、綺麗に洗われていく妖精さん。

 心なしか気持ちよさそうに見えます。


「妖精さんがうらやましです……」

「アルア、ファクルに洗ってもらいたいの?」

「え、なんでそうなるんですか?」


 突然、イズがわけのわからないことを言い出したので、わたしは混乱しました。


「ファクルさんに洗われている妖精を見てうらやましいと言うわけですから、ファクルさんに洗ってもらいたいってことになるのは当然なんじゃないですか?」


 クナントカさんの指摘に、わたしはなるほどと思いました。

 って、違います。

 なるほどとか、そんなふうに思っている場合じゃありません!

 ファクルさんにわたしが洗われる……?

 そんなところを想像しただけで、顔が――いえ、体中が熱くなってきました。

 鏡で今の自分を見たら、肌という肌が真っ赤になっているに違いありません。

 ちらりとファクルさんを見ます。


「あ……」


 ファクルさんもわたしを見ていて、その顔が真っ赤になっていました。

 わたしたちの会話が聞こえていたみたいです。

 って、当たり前ですよね。

 すぐそばで話していたわけですから。


「い、今のは違いますからっ! そういう意味じゃないですからっ!」

「あ、ああ、大丈夫だ。わかってる。わかってるから安心してくれ!」

「は、はいっ! ありがとうございます!」

「ど、どういたしましてっ」


 わたしたちは顔を見合わせ、「ふふふ」「あはは」と笑いました。

 そうやって笑いながらも、でも、笑っているのは顔だけ。

 心の底から笑っているわけじゃなかったのです。

 だって、胸の奥がもやっとしていたから。

 どうしてなのでしょう。

 わたしが変なことを言って、ファクルさんはそれを誤解だと、ちゃんと理解してくれたというのに。

 本当なら、ほっと胸をなで下ろすべきなのに。

 おかしいです。

 わたしがそんなことを思っている間に、妖精さんはすっかり綺麗になっていました。

 元通りの、ふわふわした毛並みです。それを無事に取り戻したみたいで、よかったです。

 最後の仕上げは、ファクルさんが生活魔法を使って、その全身を乾かしていました。

 生活魔法は生活に密着した魔法で、『アイテムボックス』もそのひとつですが、妖精さんを乾かした『温風』もそうです。

 ファクルさんの魔力量は多くありません。

 ですが、その決して多いとは言えない魔力を巧みに操り、絶妙なさじ加減で生活魔法を使うので、妖精さんの毛並みを元通りにすることができたのでしょう。

 いえ、よく見たら、元通りどころか、前よりも綺麗になっている……?

 さすがファクルさんです。

 妖精さんはよほどうれしかったのか、ファクルさんの頭の上に陣取り、そこで飛び跳ねていました。


「お、おい、お前! やめろって! 落ちたらまた汚れるだろ?」


 そうやって言うファクルさんでしたが、その表情はとても穏やかで、妖精さんのことを思っていることが、とてもよく伝わってきました。




 次の日、わたしたちはお店の裏側にいました。


「こんなところに、こんな大きな畑があったなんて知りませんでした」


 わたしの言葉に、一緒に来たファクルさん、クナントカさん、イズが頷きます。

 でも、ここに来るためには、秘密の方法が必要なのです。

 というのも、本当のお店の裏側には何もなく、わたしたちがここに来ることができたのは、今もファクルさんの頭の上に陣取っている妖精さんに導かれる必要があったのでした。

 何でわたしたちがここにやってきたかと言えば、朝食を作る際、ファクルさんが「野菜が足りないな」と呟いたからです。

 それを聞きつけた妖精さんがファクルさんの髪の毛を引っ張り、わたしたちをここまで連れてきてくれたのです。

 ファクルさんは髪の毛が少なくなり始めていることを気にしていたため、それはもう、必死の形相で妖精さんに、


「頼むから髪の毛を引っ張るのだけはやめてくれ……!」


 と懇願していたのは、きっと見なかったことにした方がいいと思うので、そうします。

 わたしは何も見ていません。

 ファクルさんの髪の毛が少なくなり始めていることにも気づいていません。

 でも、わたしは……ファクルさんなら、どんな髪型だって素敵だと思うんですけどね。

 だって、どんな髪型をしていたって、ファクルさんはファクルさんですから。

 ファクルさんの魅力はそんなことぐらいでは、決して損なわれたりしないのです!

 ――と、話が逸れてしまいました。

 そうやってここまで連れてこられたわたしたち。

 妖精さんはファクルさんの頭の上から飛び降りると、大地に降り立ち、その場で短い手足をわちゃわちゃと動かし始めます。


「何をしているんですかね……?」


 クナントカさんが呟きますが、わたしにもわかりません。


「あ、あれは……」

「何か知っているんですか? イズ」

「知っている。イズたち魔族に伝わる邪悪な踊り。見ている者の生命力を奪う」

「そんな恐ろしい踊りがあるんですか!?」

「だいじょぶ。アルアのことはイズが守る」


 そう言ってイズがわたしに、ぎゅむっと抱きついてきます。

 その気持ちがうれしくはありましたが、わたしよりもファクルさんです。


「ファクルさん……! 危ないです! 逃げてください……!」


 そう叫んだ時でした。

 目の前に広がる畑は耕されていますが、何も植えてありません。

 そこからいきなり、ぽこんっ、と芽が出てきたのです。

 しかも、あちこちから。

 ぽこんっ、ぽこんっ、ぽこんっ、と。


「え?」


 と驚いているうちに、その芽はぐんぐん生長して、野菜を実らせていきます。

 トッマートゥ、オイオン、キャーベッシなど。

 他にも瑞々しくて、サラダなどに入れるとおいしい、緑色した細長いキューリィもあります。


「何ですかあのデタラメさは!?」


 クナントカさんと同じように、わたしも驚くことしかできません。


「でも、これでわかりましたね。あの妖精がああやって野菜を育てて、補填してくれていたんですよ。あいつ、とんでもない力の持ち主だなぁ」


 本当にそのとおりです。

 でも、待ってください。


「イズ、魔族に伝わる邪悪な踊りって言ってたのは、どういうことですか?」

「?」

「どうして首をかしげてるんですか? イズが言ったんですよ?」

「アルアクルさんに抱きつく大義名分が欲しかっただけじゃないですかね」

「そうとも言う」


 クナントカさんの言葉を、イズがあっさりと肯定しました。


「そんなことしなくても、普段から抱きついてくるじゃないですか」

「それはそれ、これはこれ」


 もう、イズったら。

 わたしはため息を吐き出しつつ、畑を前にして踊り続ける妖精さんを見ました。

 ぽこんっ、ぽこんっ、ぽこんっ。

 今度はどんな野菜が実のでしょうか。楽しみです。




 それから数日が経ちました。

 食堂で忙しく働くファクルさんの頭の上に、妖精さんが陣取っています。

 ここ最近、よく見られる光景です。

 妖精さんがお店のお手伝いをした時、ファクルさんが感謝の気持ちとして、


「こういうの、お前は食うのか? いつも手伝ってくれていた感謝の気持ちなんだが」


 と、()()()()を差し出したところ、大喜びで。

 以来、よりいっそうファクルさんに懐いてしまったのです。


「それにしたって、気に入られすぎじゃないですかね……」


 クナントカさんが言いました。


「そんなことありません! だってファクルさんですよ!? これは当然の結果だと思います!」

「アルアクルさんのファクルさん上げがとどまるところを知らないんですが……! 結こ――」

「ごめんなさい無理です」

「最後まで言わせてもらえなかった……! こんな、こんなご褒美、最高です! ありがとうございます!」


 クナントカさんは、もう本当に手の施しのようのないレベルの変態になってしまったんですね……。

 まあ、どうでもいいんですけど。

 それにしても、ファクルさん上げとはいったい何でしょう?

 気になりましたが、今は妖精さんです。

 ファクルさんの頭の上に陣取る姿はとてもかわいらしく、ただでさえかわいいのに、かわいさ倍増で、もうどうしたらいいのでしょう!?

 わたしの頭の上にもぜひ陣取ってもらいたいと思うのですが、なかなか難しいです。

 わたしが手を伸ばすと、すぅーっと姿を消してしまうくらいですから。

 おそらく、初めて出会った時の印象が悪かったのだと思います。

 何せ、むんずと鷲掴みにしてしまいましたからね。


「それだけじゃない。アルアの鼻息が荒いから」


 イズの言葉に衝撃を受けます。


「え、そうですか?」

「そう。ふがふがしてる」

「ふがふが……」


 それはいけません。

 それならばと鼻息を抑えようとがんばってみたものの、妖精さんを前にすると、どうしても抑えきれません。

 だって本当にかわいらしくて……!

 ああもう、どうすればいいのでしょう!?


「落ち着け、アルアクル」


 ファクルさんがわたしの頭を撫でます。

 それだけで、荒ぶっていたわたしの心は穏やかになりました。


「自分の気持ちを押しつけてばかりじゃダメだ。相手のことも考えないと。な?」


 自分の気持ちを押しつけてばかりはダメ――。

 相手のことを考える――。

 ……確かに。言われてみれば、そのとおりです。


「……自分の気持ちをまったく伝えないのもダメだと僕は思うんですよねぇ」

「やつはヘタレだから仕方ない」


 クナントカさんとイズが何やらしたり顔で呟くと、ファクルさんが「う、うるせえ!」と怒っていました。

 反省しないといけません。


「ごめんなさい、ファクルさん」

「謝る相手が違うだろ?」


 そうでした。

 わたしは妖精さんに謝りました。

 初めて会った時、むんずと鷲掴みにしてしまったこと。

 ふがふが鼻息荒く、迫ってしまったこと。

 妖精さんはしばらくの間、わたしのことをじっと見つめていたかと思うと、しばらくしてわたしの頭の上に陣取ってくれました。


「ファクルさん……!」

「ああ。よかったな、アルアクル」

「はい……!」


 念願、叶いました!

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