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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第4章

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29#あなたのための笑顔。


 皆さん、おはさようございます。

 わたしです。アルアクルです。

 今日はわたしたちの一日を、余すことなく、ばばーん! とご紹介したいと思います!

 ……って、こんな感じでいいんですか? クナントカさん?

 え、もうちょっとはにかんで……こんな感じでしょうか?

 それで……僕と結婚してください、ですか?

 とか何とか言いながら、なんでそんなに瞳をきらきら輝かせているのでしょう?

 わたしが断っても喜びますし、無視しても喜びますし、何をやっても喜んでしまうんですよね、クナントカさん。

 どうしようもないくらい変態なので。

 このままだとクナントカさんが喜んでしまいます。

 放置プレイとか最高のご褒美です! とかなんとか言い出して。

 うーん、困りました。

 なんてことを思っていたら、イズが言ってくれました。

 自分が何とかするか? って。

 ちなみに何をするつもりなのか聞いてみました。

 ……は? ちょ、ちょっと待ってください。それ、本気で言ってますか!?

 う、うわー、すごすぎませんか、それ……。

 さすがにクナントカさんにそんなことをしたら……あ、なんかすでに恍惚とした表情になってますね。

 喜べちゃうんですね、そんなことをされても。

 というわけで、この後、クナントカさんはイズにすごいことをされちゃいました。

 すごいことの具体的な内容は、ちょっと伏せさせていただきます。

 わたしが口にしてはいけないと、ファクルさんにきつく言われてしまったので。

 あと、イズにすごいことをされたクナントカさんはとてもうれしそうでした。

 ご褒美です! ありがとうございます! とお礼まで言われて。

 何でしょう。すごく納得がいかないというか。もやもやしたものが残る、この感じは。

 はい? 何ですか、ファクルさん。

 変態の考えは理解しない方がいい、ですか?

 なるほど、そのとおりですね。

 ファクルさんの言葉に従います。

 変態は理解できないし、理解してはいけない。

 今日の格言、いえ、至言です!

 さて、それでは改めまして。

 わたしたちの一日をお届けします!




 さて、まずはわたしの一日からです。

 目を覚まして身支度を調えたわたしは、鏡を見ます。

 髪の毛は乱れていないか。

 服装はおかしくないか。

 服装の乱れは心の乱れ。なので、身だしなみはきちんとするように。孤児院の院長先生のお言葉です。

 なので毎朝、鏡に映る自分自身を確認するのです。

 ですが最近、ここにもうひとつ、確認することが増えました。

 それは何かというと……。


「こんな感じでしょうか?」


 鏡の中に映るわたしが、にぱっと笑っています。

 そうです。

 自分の笑顔の確認が、最近増えた確認事項なのでした。


「ううん。これではなんかわざとらしい感じがします! もっと、こう、自然な感じで」


 あはっ☆


「……まったく自然じゃないですね。なら、これはどうでしょう?」


 えへっ♪


「まだちょっと不自然な感じです。これでは?」


 うふふ。


「……上品すぎて、わたしっぽくありません。うーん、難しいです、笑顔。こんなのはどうでしょう?」


 げへへへ。


「盗賊です! 盗賊っぽいです!」


 ぶわっはっはっはっ。


「何だか獰猛な大将軍って感じがします! ……あー、もうっ! いったいどうすればいいんでしょう!?」


 鏡に向かって思いつく限りの笑顔を浮かべてみますが、どれがいいのかさっぱりわかりません!

 どうしてこんなふうに自分の笑顔を確認しているのかと言うと。

 それは、その、何と言いますか。


『俺はアルアクルのいつもの笑顔が好きなんだ』


 な、なんて。

 ファクルさんに言われたから、だったりします。

 あの時のことを思い出すと、今でも胸がドキドキして、顔が熱くなってしまいます!

 ああ、ダメです! いけません!

 こんな顔で出て行ったら、みんなに心配されてしまいますっ。

 早く落ち着かないとっ!

 ファクルさん直伝の深呼吸です!

 ひっひっふー。

 もう一回。

 ひっひっふー。

 ……落ち着いてきました。

 さて、気を取り直して、もう一度笑顔の確認です。


「ファクルさんはいつもの笑顔が好きだって言ってくれました」


 再びあの時のことを思い出してしまいそうになったわたしは、ぶんぶんと大きく頭を振って、思い出さないようにしました。


「でも、いつもの笑顔って……どういう感じなのでしょう?」


 やっぱり笑顔、難しいです。

 結局、この日もどんな笑顔をすればいいかわからないまま、わたしは自分の部屋を出ました。

 いつまでも笑顔の確認をしていたら、遅くなってしまいますからね。

 共有スペースには、すでにファクルさんがいて、朝食の準備をしていました。


「お、おはようございます、ファクルさん」

「ん? ああ、アルアクルか。おはよう」


 ファクルさんがやさしく微笑んでくれます。

 胸がドキッとします。

 って、違います! ドキッとしている場合じゃありません!

 いつも、誰よりも早く起きて、ファクルさんは朝食の準備をしてくれています。

 本当ならそのお手伝いをしたいです。

 でも、わたしがお手伝いをしたら、朝食が殺人兵器になってしまいます。

 それは絶対にいけません!

 なので、それ以外で何かお手伝いがしたいわたしは、ついさっき、鏡に向かってあれこれやっていた笑顔を浮かべます。

 せめてファクルさんが元気になってくれますように! そう願いながら。


「え、えへへ」

「どうした、アルアクル? なんか顔が引きつってるけど……調子が悪いのか?」


 全然ダメでした……!


「い、いえ、その、大丈夫です!」

「そうか? まだ無理はしなくていいんだからな?」

「無理なんてしてません!」

「お、おう。ならいいんだが……」


 ファクルさんに心配をかけて、かえってご迷惑をかけてしまっている感じがします! ぐぬぬ。

 今度こそ上手く笑って見せます!

 大丈夫、わたしは勇者です! やればできる子ですから……!


「あ、あははぁ……!」


 ど、どうでしょう!? 今度は上手く――できてるわけないじゃないですか!

 なんですか、『あははぁ』って!

 なんか気持ち悪いです!


「なあ、アルアクル。本当に大丈夫なのか……?」


 ファクルさんが朝食を準備する手を休めて、近づいて来ます。


「大丈夫です! 本当に大丈夫ですから! それこそ、世界がぐるんぐるん目まぐるしく大回転するほどですよ!」

「それ、全然大丈夫じゃないだろ!?」


 ファクルさんが衝撃を受けています。


「よく見れば顔も赤いし……もしかして熱でもあるんじゃないのか?」


 気がつけば、ファクルさんの顔がすぐ近くにあって。

 え? い、いったい何を……!?


「どれどれ……って、熱っ!? めちゃくちゃ熱っ!?」


 ファクルさんのおでこが、わたしのおでこに触れていたのです……!

 あわわ、あわわわわ……!

 ど、どうしましょう!? どうしたらいいのでしょう……!?

 胸がすごいドキドキして、破裂しそうです……!

 以前、こうしてファクルさんの熱を測ったことがあるのを思い出しました。

 あの時は平気だったのに。

 むしろわたしの方からやったことなのに。

 ファクルさんにおでこで熱を測られると、どうしてこんなことになってしまうのでしょう!?


「だだだだ大丈夫ですかりゃ! ほほほほ本当ですかりゃ……!」

「いやいやいや、全然大丈夫じゃないからな!?」


 ファクルさんがますます心配そうにしてきます。むぐぐ。

 こ、こうなったら……!

 ファクルさんのおでこにわたしのおでこをくっつけて、むしろファクルさんの方が熱くないですか? 大丈夫じゃないんですか!? と誤魔化すのです!

 わたし、すごい!

 素晴らしいひらめきだと思いませんか……!?


「あ、あー、ファクルさんの方こそ、何だか熱っぽそうじゃないですかー」


 わたしの迫真の演技が炸裂して、ファクルさんはまんまと騙されてしまうことでしょう!


「いきなり棒読みでどうした? って、アルアクルいったい何を――!?」


 ぴとっ。

 ファクルさんのおでこに自分のおでこをくっつけたわたしは驚きます。

 え、嘘!? 本当に熱いんですけど!?


「ファクルさん、大変です! すごく熱いです!」


 しかもどんどん熱くなってきてるんですけど……!


「こ、これは、その、あれだから……! 別に大丈夫だから!」


 すぐ間近にあるファクルさんの顔が真っ赤になっています。


「というか、俺よりアルアクルの方が熱いって!」

「そんなことありません! ファクルさんの方が熱いです!」

「いやいやアルアクルの方だ!」

「違います! ファクルさんです!」


 なんてことをやっていたら、こんな声が聞こえてきました。


「おはようございます、イズヴェルさん――って、物陰に隠れて何やってるんですか?」


 この声はクナントカさんです。


「アルアとヘタレがいちゃこらしてるのを目撃している。ヘタレを相手にすると、とたんにわちゃわちゃするアルアがかわいすぎて」

「なるほど、よくわかります」


 わたしにはまったくよくわかりません!


「というか、イズ!」

「何?」

「いったいいつから見てたんですか!?」

「アルアが自分の部屋で鏡に向かって『こんな感じでしょうか?』って言ったところから?」

「なっ!?」

「おはようからおやすみまで見守るのは、イズの大事な役目」


 えへん! と胸を張るイズ、かわいいです!

 ――じゃありません!


「恥ずかしいです! 最悪です……!


「最悪じゃない。鏡に向かって百面相していたアルア、むしろ最高だった」


 それが最悪なんです……!




 イズに見られていたことがあまりにも衝撃的すぎて、その後一日、わたしは自分が何をしていたのかよく覚えていません。

 なので、わたしたちの一日を余すことなく紹介する、というのはまたの機会ということで。

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