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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第3章

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23#おっさん食堂、多忙中。


 皆さん、どうしましょう!?

 わたしこと、アルアクル・カイセルは混乱しています。

 いえ、困惑? 戸惑い?

 とにかくそんな感じなのです。

 ファクルさんの念願だった食堂が開店。

 初めてのお客さんが現れたとうれしく思っていたら、手のひらに載るほど小さくて、透きとおった男の子だったんですよ!?




 小さな――いえ、小さすぎる男の子は片手を挙げて、元気よく挨拶してきました。

 なんてかわいらしいのでしょう。

 思わず頬がゆるんでしまいます。

 わたしも同じように元気よく挨拶した方がいいでしょうか?

 してみました。

 男の子が満面の笑みを浮かべました。

 本当にかわいいです!

 抱きしめたくなります!

 ――じゃ、ありません!

 この男の子、お客さんでいいんですよね?

 男の子に尋ねたところ、言葉が通じませんでした。

 いえ、わたしの言葉は通じているみたいなのです。

 でも、それに答える男の子が何を言っているのか理解できません。


「★!」


 とか。


「&%#”#$+*!」


 とかとか。


「々△@±????」


 とかとかとか。

 そんな感じだったので。

 わたしが困っていると、男の子も同じように困ったような仕草をします。

 くっ、やっぱりかわいいです!

 ――じゃ、ありません!

 なんてことをやっていたら、イズが言い出しました。


「この子、精霊かも」


 精霊というのは、この世界を構成する力を司る存在です。

 火、水、土、風。それに光、闇というのは有名ですが、それ以外にも細かく存在しています。

 人前にその姿を現すことは滅多にないと聞いたことがあるのですが……。

 何にしても、いつまでも驚いてはいられません。

 精霊さんですが、今はこのお店にやってきたお客さんです。

 そしてわたしはファクルさんのこのお店――そういえば、まだ名前とか決めてませんでしたね……って、話が逸れてしまいました。

 ファクルさんのお店で働く従業員として、完璧に職務を遂行しなければなりません。

 今、わたしに求められる職務とは何か?

 それは!

 そう!

 精霊さんを席に案内することですっ!


「ふぉぉぉ、アルアのドヤ顔……! 尊い」

「眼福ですよ! 結婚して欲しいです!」


 イズとクナントカさんが何か言っていますが、よく聞こえません。

 わたしは精霊さんを席に案内しました。

 品目は決まっているので、あとは精霊さんの要望を聞くだけなのですが……これがまた、困難を極めました。

 何とか意思疎通を図るために身振り手振りを交えていたら、踊りか何かと勘違いされて、精霊さんが踊り始めた時は、もう本当にかわいくて……!

 ――じゃ、ありません!

 とにかく、精霊さんの要望を何とか聞き出して、それを元にファクルさんが作ったお料理を運びます。

 精霊さんはうれしそうに食べ始めました。

 食べながら何か言っているのですが、やっぱりわかりません。

 でも、ファクルさんのお料理を喜んでくれているのはわかりました。

 だって食べることに無我夢中なんですから。


「精霊が俺の料理なんか食べるのかって思ったが、大丈夫だったみたいだな」


 ファクルさんが厨房からこちらを覗いていました。

 初めてのお客さん、しかもそれが精霊だったこともあって、不安だったのかもしれません。


「わたしは心配なんてしてませんでしたよ。だってファクルさんのお料理はすっごくおいしいですから」


 そう言ったわたしの頭をファクルさんは撫でてくれました。

 照れくさそうな、うれしそうな顔をしながら。

 かわいいです、ファクルさん。


「? どうした、アルアクル」

「ふふっ。何でもありませんっ」

「そうか」

「そうですっ」


 その後、ファクルさんのお料理をすべて平らげた精霊さんは、お腹を文字通りぽっこり膨らませて帰って行きました。

 食事代として、木の実を残して。

 最初はただの木の実がお代? と思ったのですが、イズによるとすごい魔力を秘めているらしいです。

 魔力が秘められたものは、商品価値がとても高いとクナントカさんが言いました。

 つまり、この一見した限りではただの木の実としか思えないものが、実はとんでもない代物だったということです。

 そして、それだけの価値がファクルさんのお料理にはあると、認められたということでもあります。

 ファクルさんはその事実に驚き、戸惑っていました。


「喜んでいいんだろうが……すごすぎて現実感がないな」

「なら、これが現実だってことをイズが特別に教える」

「……ちょっと待て。大きく手を振り上げて、お前、何をするつもりだ?」

「決まってる。ヘタレの頬を思いきりぶん殴る」

「死ぬわ! 魔王にそんなことされたら確実に死ぬわ!」

「……ちっ」

「おい、今なんで舌打ちした? まさか本気で()るつもりだったのか……?」


 などというやりとりをしていられる余裕が、この時はまだありました。

 というのも、その後、お客さんがひっきりなしに現れ始めたのです。

 しかも皆さん、人じゃありませんでした。

 ドラゴンだったり、狼だったり、スライムだったり。

 どうしてなのでしょう?

 答えを教えてくれたのは、人語を解するドラゴンでした。

 ゲンジさんがいないことを訪ねられ、この店をファクルさんに託して逝かれたことを告げると、この店のことを詳しく教えてくれたのです。




 ここは迷いの森と呼ばれている場所だそうです。

 通常は人が入り込むことができないため、動物や精霊、それに比較的気性の穏やかな魔物といった存在たちの楽園なんだとか。

 なのに、ゲンジさんはある日突然、相棒さんと一緒にふらりとここに現れ、食堂兼宿屋を開きました。

 この迷いの森に暮らすみんなの憩いの場所として。

 通常は入り込めないこの場所に、どうしてゲンジさんたちは入ることができたのでしょう。

 そしてそれは、わたしたちについても、まったく同じことが言えます。

 なぜ入ることができたのか。

 ドラゴンは言いました。

 この森を守護する精霊王による導きである、と。

 精霊王とは、精霊を統べる存在です。

 そんな存在に導かれた?

 しかも、その精霊王に、わたしたちはすでに会っているというではないですか。

 わたしたちが会った精霊はひとり(?)しかいません。

 一番最初のお客さんです。

 つまり、あのとてもかわいい精霊さんこそが精霊王だったのです。

 そしてあの時もらった木の実は、精霊王に認められた証とのことでした。


「は、ははは……。この木の実、すごすぎだろ……」


 ファクルさんが半笑いで手の中で木の実を見つめます。

 自分が作った料理の報酬が思っていた以上に価値があったことに、驚いて、戸惑っているのだと思います。

 でも、わたしはそう思いません。

 だって、ファクルさんのお料理は世界で一番おいしいですからね!

 むしろこの結果は当然、いえ、必然だったのではないでしょうか。


「ファクル、そのダジャレ、面白くない」

「ダジャレじゃねえし!」

「そういうことにしておく」

「だから違うって言ってるだろ!?」


 ともあれ、精霊王に導かれ、そして正式に認められたから、この森の住人は安心してお客さんとして押し寄せてくることになったのです。

 それにしても、どうしてゲンジさんと相棒さんが、ここで暮らす存在の憩いの場所を作ったのかは、おふたりがいなくなってしまった今、わかりません。

 でも、ファクルさんは何となくわかると言っていました。

 ゲンジさんとファクルさんのお師匠様は同郷らしく、お師匠様は人の中にいて、いろいろと大変な思いをしていたらしいのです。

 なので、ゲンジさんもきっと同じだったのではないかと。


「人って面倒くさいから。自分と違うという理由で排斥したり。自分よりちょっと優れているかといって嫉妬したり。自己中心的で、ワガママで、度しがたい存在」


 魔王として、人と対立してきたイズだからこそ、人を客観的に捉えることができるのでしょう。

 わたしは人側ですが、イズの言葉に深くうなずきました。

 あ……何とかという王子様たちが、私利私欲から、ファクルさんをパーティーから追放したこと、わたしは忘れていませんし、絶対に許せません。

 勇者としての力を全部使って、生まれてきたことを後悔させてあげる所存ですっ!

 くっくっくっ。


「アルアが悪い顔してる。貴重。これはこれで尊い」

「ですね!そんな顔もかわいいです! 結婚したくなります!」


 イズとクナントカさんが何か言っていますが、やっぱり声が小さくてよく聞こえませんでした。

 いろんな話を聞かせてくれたドラゴンには、お礼としてデザートを食後に提供しました。

 それが間違いの元でした。

 自分たちも食べたいと他のお客さんも騒ぎ出して。

 結果、店を閉めるまで、目の回るような忙しさが続いてしまったのです。

 戦うことは慣れていても、接客は慣れていません。

 なので、クタクタです。

 それはファクルさんも同じみたいで、


「何だよ、何なんだよ、忙しすぎるだろ!? もう嫌だ! 食材怖い、注文怖い……!」

「ならファクルさん、明日はお店を休みますか?」


 わたしの質問に、ファクルさんが答えてくれます。


「休む? そんなことするわけないだろ?」


 ですよね。

 知ってました。

 だってファクルさん、何だかんだ言いながらも、顔にはとてもうれしそうな笑みを浮かべていたんですから。


「明日も料理を作って、作って、作りまくるぞ!」


 今日の評判が評判を呼んで、さらに忙しくなるでしょう。

 接客はまだまだ慣れていませんが、わたしもがんばります。

 ファクルさんのお店のために。

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