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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第3章

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22#おっさん食堂、本日開店。


 皆さん、おはようございます。

 わたしです。アルアクルです。

 いよいよです。

 今日、ファクルさんの夢だったお店、その第一歩が始まるのです!

 ファクルさんのお料理はとってもおいしいです!

 なので繁盛間違いなし、です!

 わたしにはわかります……!




 朝、目が覚めた時、知らない天井に驚きました。

 ここはどこでしょう?

 本気でそう思いました。

 ですが、すぐ隣でお腹を出して寝ているイズを見ているうちに思い出しました。

 ゲンジさんの大きな木のお家です。


「ふみゅぅ」


 イズの寝言です。かわいいです。

 あまりのかわいらしさに、いつまでも見ていたくなります。


「ほっぺたとか、やわらかそうでつつきたくなりますね」

「アルアならつついても問題ない。むしろどんどんつついて欲しい」

「イズ、起きてたんですか?」

「もちろん。アルアより先に起きてた」

「わたしより先に?」

「アルアの寝顔を堪能するため。アルアの寝顔、とってもあれだった」

「あれ?」

「秘密。こればっかりはアルアにも教えることはできない」

「そんなこと言わないで教えてください! ……はっ、まさか涎を垂らしていたとか、そういうことですか!?」

「秘密ったら秘密」

「イズは意地悪です!」

「魔王にとって、それはむしろ褒め言葉」


 イズがうれしそうに大きな胸を反らしました。

 見た目はちっちゃい女の子なので、かわいらしさ満点です。

 ですが!

 つるーんで、ぺたーんなわたしに対して喧嘩を売っているとしか思えない所業です!

 いいですよ、その喧嘩、言い値で買い取りますよ!




 ――というのは冗談ですからね?

 本気にしたらダメです。

 イズに他意はないことぐらい、ちゃんとわかっていますから。

 ただひとり、わたしひとりで、ぐぬぬとなっていただけです。

 ぐぬぬ。

 大事なことなので、もう一度言いました。

 さて、もろもろの身支度を終えたわたしたちは、四階にある共同の居室で、ファクルさんお手製の朝食を食べました。

 ゲンジさんにいろいろ教わったからでしょう。

 ファクルさんのお料理は今までよりも格段においしくなっていました。


「すごいです、ファクルさん! わたし、感動しました!」

「俺がすごいんじゃなくて、ゲンジさんがすごいんだよ」

「確かにゲンジさんはすごい人でしたけど、いろいろ聞いただけでここまで劇的に成長できるファクルさんも十二分にすごいです。謙遜することはないと思いますよ。いや本当に」

「クナントカの言うとおり。ファクルの料理、すごくおいしくなってる。ファクル(ヘタレ)のくせに生意気。お代わりはよ」

「褒めるか、貶すか、どっちかにしろ」

「じゃあ貶す」

「そっちを選ぶなよ! 褒めろよ!」

「ファクルは褒められて伸びる子?」

「褒められて伸びない奴はいないだろ?」

「冷たくあしらわれたり、罵られたりすると興奮する子はここにいますよ!」


 クナントカさんが驚きの変態発言です。

 いえ、わかっていたので、取り立てて驚くことでもないですね。

 失礼しました。

 さて、そんな感じで終始和やかに朝食の時間を終え、一部期待していた展開にならずがっかりしていた変態(クナントカ)さんがいましたが、当然無視しました。そして喜ばれました。喜ばせるつもりなんてなかったのに……。正直、悔しいですっ。

 わたしたちは食堂である一階に移動します。

 ゲンジさんがきちんとお掃除していたのでしょう。

 厨房は元より、すべてぴかぴかでした。

 ですが、それはそれ。

 ゲンジさんと相棒さんが開いて、歴史を刻んできた大事なお店は、ファクルさんへと引き継がれました。

 ファクルさんのお店として、その第一歩を踏み出すのです。

 わたしたちは気合いを入れてお掃除をしました。

 勇者であるわたしの装備である聖剣から箒に持ち替えて、向かうところ敵なしの大活躍しました。

 ……ごめんなさい。嘘をつきました。

 大活躍をする予定だったのです。

 ですが、結果は大惨事。


「アルア、掃除は綺麗にすること。知ってる?」

「もちろん知ってます。当たり前じゃないですか」

「なら、どうしてアルアが掃除したところには粗大ゴミが発生している?」

「……それはあれです。言ったらダメなやつです」


 イズの鋭い指摘から、わたしは目をそらします。

 いえ、違いますね。

 わたしが目をそらしていたのは、現実からです。

 だって、わたしが掃除したところは、ぐちゃぐちゃで、ごちゃごちゃになっているんですから。


「どうしてこうなった?」


 イズ、それはわたしの方が知りたいです!


「アルアクルさんはあれですね。とっても不器用なんですね」


 そういうクナントカさんは掃除を器用にこなしています。

 卓の上を拭く時、布に茶がらを包んだものを使っていました。

 そうすると嫌な匂いや、体によくないものの発生を抑えたりすることができるんだとか。

 何でそんなことを知っているんですか?

 ……商人として当たり前の知識、ですか?

 商人たるもの、一見必要と思えないものにも興味を持つことが大事だからと、お父様に教わったらしいです。


「まあ、なんだ。アルアクルにはその分、他でがんばってもらえばいい。だからそんなに気にするな」


 お料理をすることもできませんし、お掃除もダメ。

 食堂の従業員として失格ではないでしょうか……と落ち込んでいたら、そう言ってファクルさんがわたしの頭を撫でてくれました。

 わたしの心は浮かび上がります。


「はいっ! わたし、他でがんばりますっ!」


 何があるのかすぐに思い浮かびませんが、ファクルさんが言うならきっと何かあるはずです!

 そんなわけで、みんな(わたし以外)が活躍して、お掃除は終わりました。

 それから、改めて綺麗な衣装――調理用長衣(コックコート)に着替えたファクルさんとクナントカさんが、一緒に下拵えを始めました。

 わたしとイズはそれを黙って見守ります。


「ヘタレと変態なのに……調理している姿が様になっている。解せぬ」


 イズは黙っていませんでした。

 ファクルさんの姿が様になっているのは当然です。まったく解せないことはありません。

 ですが、クナントカさんの姿が様になっていることに関しては同感です。

 お掃除の時といい……この人、とても有能なのですよね。

 変態なのに。とんでもない変態なのに!

 まったく解せません!

 しばらくすると、おいしそうな匂いが漂ってきました。

 ゲンジさんから教わったというダシ? とかいうものらしいです。

 これがあると、今までのお料理とは次元の違う味を生み出すことができるとか。

 実際、朝食の時に食べたわたしは、その言葉に大いに納得しました。


「さて、準備は整った」


 ファクルさんの瞳が、まるで子どものようにキラキラ輝いています。

 長年の夢がようやく叶う時が来たわけですから、当然です。

 わたしの胸も熱くなります。


「さあ、開店だ!」




 ファクルさんのお店の品目は『おまかせ定食』だけ。

 そうなった理由は簡単で、ファクルさんの作るお料理がとても独特だからです。

 たとえばカレーライス。

 たとえばカトゥ丼。

 どれも()()()()()()()()()()()()()のです。

 なので、お客さんにその時食べたいものを聞き、ファクルさんがそれに応えるという形を取ることになったのです。


「ファクルさんが思いを込めて作ったお料理を食べて、驚いたり、興奮したり、喜んだり、あるいは涙を流すお客さんの姿が、今から想像できます」

「それはいくら何でも大げさだろ」


 ファクルさんが苦笑しています。

 わたしは声を大にしていいました。


「何を言っているんですか!? 全然大げさじゃありません! むしろ全然足りないぐらいです!」


 ファクルさんにぐっと身を寄せて力説します。


「そ、そうか?」

「そうです! 反響が反響を呼んで、大繁盛間違いなしになりますから! 今だけですよ、こんなのんびりしていられるのは」


 お客さんが大挙して押し寄せてきて、大変なことになるのは目に見えています。


「それは楽しみだ」


 そういったファクルさんの顔は、魔物を前にして獰猛に笑う冒険者のそれでした。

 頼もしいです。

 ああ、初めてのお客さんはまだでしょうか?

 待ち遠しく思っているのは、みんな同じ様子でした。

 イズですらそわそわ落ち着かない感じです。

 ふふっと思わず笑ってしまったら、「笑うなんてひどい。ひどい目に遭わせてやる」と思いきり抱きつかれました。

 これのどこがひどい目かわかりますか?

 イズが容赦なくその大きな胸をわたしに押しつけてきているところが、です!

 わたしの、つるーんで、ぺたーんな部分を――わたしのもっとも弱い部分を、的確かつ容赦なく攻めてくるのでしょう。

 さすが魔王です……!

 などということをやっている間も、わたしたちはお客さんが現れるのを、今か今かと待っていたわけですが。

 とうとう初めてのお客さんが現れました。

 ……お客さん、ですよね?

 緑色のとんがり帽子をかぶって、同じく緑色のチョッキを着た小さな男の子。

 だけど、ちょっと小さすぎませんか?

 だって、手のひらに載るほどなんですよ。

 しかも透きとおっているなんて。

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