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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第2章

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おっさんside*思いを届けたくて。

おっさん視点です。

ちょっと短めですが、楽しんでいただければ幸いです。


 ファクルとアルアクル、それにクリスの旅にイズヴェルという魔王が加わってから、かれこれ二週間近くが経っていた。

 食堂の店主にアルアクルがナンパされるという事件を経て、ファクルは自分たちの結束は強くなったような気がしていた。

 空気というか、雰囲気というのが、以前より親密になった感じなのだ。

 具体的に言えば――。

 今は夜。

 食事も終わり、火を囲んでまったりしている中、繰り広げられる恒例行事の中に、それは感じることができた。


「アルア、好き」


 イズヴェルがアルアクルに抱きついた。


「アルアクルさん、愛しています! 結婚してください!」


 そしてクリスの求婚だ。

 それに対するアルアクルの答えは決まっていた。

 ともに『ごめんなさい』だ。

 イズヴェルは「がーん」と言いながらも、表情は茫洋としていて変わらず、まるで衝撃を受けていないように見える。

 クリスはクリスで「今日もお断りされました~っ!」と喜ぶ始末で、本当に変態は手に負えない。

 そして断ったアルアクルの顔に浮かんでいるのは、ふたりとのやりとりを愛おしく感じているみたいな、そんな表情だった。

 特にクリスの求婚に対する反応としては、これは驚異的なことなのだ。

 以前は本当に無理、生理的に無理という感じがひしひしと伝わってきたぐらいなのだから。

 そんな3人のやりとりを見つめるファクルは、内心、羨ましく思っていた。

 何が羨ましいって、アルアクルとの距離が近いということもあるが、簡単に思いを告げているところだ。

 好きだとか、愛しているとか、結婚して欲しいとか。

 何だってそんな軽々しく口にできるのか。

 いや、本人たちは真剣だというのはわかる。

 実際、クリスに言われた。

 それはつい先日、食事の準備中、一緒に支度をしていたクリスにファクルが、どうしたらそんなに気軽に求婚できるのかと聞いた時のことだ。


『気軽そうに見えるかもしれませんけど、僕は一回、一回、真剣ですよ!』


 と。


『どうすればより激しく罵られるようにお断りしてもらえるのか、いつも真剣に考えていますから!』


 と。

 真剣の理由が違った。

 そして、クリスはやっぱりどうしようもないほどの変態だった。

 だが、それでも思う。

 自分の思いを告げられるのはすごいことだと。

 その時のファクルはどうかしていたのだろう。

 自分のそんな思いを、うっかり漏らしてしまったのだ。


『なら、ファクルさんも告白すればいいじゃないですか』


 クリスはあっけらかんとそう言った。


『はぁっ!? お前バカか!? 告白ってのは自分が相手のことを好きだってことを伝えることなんだぞ!? わかってるのか!? あ゛あ゛!?』

『ちょ、わかってますからすごまないでくださいよ! 怖い怖いですってば!』


 どうやらちょっと興奮しすぎたようだ。

 ひっひっふー、と師匠直伝の呼吸法で落ち着きを取り戻す。


『でも、実際、思いは言葉にしなければ伝わりませんよ?』


 だから、とクリスが言う。


『行動あるのみですよファクルさん! 大丈夫です、当たって砕けましょう!』


 砕けたくない。


『アルアクルさんの「お断りします」は一回味わうと癖になりますよ!』


 癖になりたくない。

 ファクルはアルアクルのことを好ましく思っている。

 もっとはっきり言えば、好きだった。

 その思いを伝えたい。

 伝えたいが、この年まで童て――ではなく。

 恋人を作ったことがないファクルはいろいろこじらせてしまっていて、それはやはり、とても難易度が高いことだった。

 だが、クリスの言うとおりだ。

 言葉にしなければ、ファクルの思いはアルアクルに伝わらない。

 なら、伝えるべきだろう。

 その時、ファクルは閃いた。

 イズヴェルとクリスが告白したこの流れで、さりげなく告白するのはどうだろう。

 いける気がしてきた。

 よし、いけ。いくんだ!

 ファクルは心の中で自分を必死に鼓舞して、アルアクルを見た。


「な、なあ、アルアクル。その、なんだ。ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ」

「何でしょう?」


 アルアクルが小首を傾げる。

 かわいい――ではない。

 そんなことを改めて思っている場合ではない。

 告げろ。告げるんだ!


「その、な。俺、アルアクルのことが」

「わたしのことが?」

「す、す、す」


 テンパっているおっさんは、この時点ですでにまったくさりげなくなくなっていることに気づいていない。


「す?」


 好きだ――と、そう告げたはずだった。

 だが、おっさんがなけなしの勇気を振り絞って告げた声は、ある音によって遮られてしまった。

 その音というのは、アルアクルのお腹の音。


「ふぇぇっ!?」


 アルアクルの顔が真っ赤になる。


「ち、違うんです! 今のはちょっと聞いただけだとお腹の音に聞こえたかもしれないですけど、でも、そういうことじゃなくて……!」


 言いながら、アルアクルがわちゃわちゃと手を振る。

 そして再び、ぐぅ、となるアルアクルのお腹。


「アルア、さっきあれだけご飯食べたのに、もうお腹空いた?」


 イズの指摘に、アルアクルは涙目になる。


「…………………………………………その、今日は体をいっぱい動かしたから」


 確かに今日は魔物に襲われ、アルアクルは大活躍だった。


「アルア、成長期」

「そう! それです! わたし、成長期だから! 勘違いしないでくださいね、ファクルさん!」

「ああ、勘違いしない」

「って言いながら、ファクルさん笑ってます! 信じてくれてない感じがします!」

「そんなことねよ。ちゃんと信じてる」

「……うぅっ、恥ずかしいです」


 真っ赤になったアルアクルの頭をぽんぽんと撫でてて、ファクルはアルアクルのために料理を作り始める。

 今日こそ思いを告げられると思ったのに、告げられなかった。

 その悔しさを料理にぶつける。

 そんなおっさんの姿を見たアルアクルは、


「わたしのためにファクルさんがあんなに一生懸命力強く料理を作ってくれています! 大好きです……!」


 と感動していたが、半ば八つ当たり気味に料理を作っているファクルがそのことに気づくことは、当然なかった。

 ファクルが再びその思いを告げることができる日は、果たしてくるのだろうか。


「当分、こなさそうですよねぇ……」


 とは、変態クリスの談である。

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