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02#おっさんに「好き」だと伝えたい。


 皆さん、お久しぶりです。

 わたしです。アルアクル・カイセルです。

 一部の方から『今、一番デートしてみたい勇者』と言われたこともあります。わたしみたいな普通の女の子相手に、なんとも光栄なお話ですね。


 神様から勇者の称号を得て魔王退治の旅をしていたわたしは、今、一人で、とある山の中を走っています。

 え? あ……何とかという王子様たちはどこにいったのか? それに、魔王退治はどうなったか……ですか?

 それはですね――って、すみません!

 状況が切迫していて、のんびりお話ししている場合じゃなかったのでした!

 詳しいお話は、また後ほど、機会を改めてさせていただきますので……!


 間に合ってください!

 そんな思いを胸に抱きながら走り続けることしばらく。

 わたしはそこにたどり着きました。


 よかったです。間に合いました。

 ほっと胸をなで下ろしたくなりますが、そんなことをしている場合ではないのです。

 気を緩めてはいけません。


「伏せてください!!」


 わたしは鋭く言い放って、強く踏み込みます。

 わたしの声に振り向いたその人が、わたしを見て、驚いたような顔をします。

 その顔を見た瞬間、胸の奥から言葉が溢れてきました。

 話したいことがいっぱい、本当にいっぱいありました。

 そんな場合じゃないとわかっていても、それでも話したいと思ってしまいます。

 ですが、今はやらなければいけないことがあるのです。

 そちらを優先しなければいけません!


「召喚――《聖剣》!」


 わたしの目の前に目映い光が集まり、凝縮して、わたしの身長に届くほど大きい、一振りの剣になりました。

 勇者だけが召喚できる、この世に斬れないものはない、黄金に輝く剣、絶対の刃です。


 わたしは聖剣を掴みます。わたしの手によく馴染み、まるで自分自身の一部のように感じられます。

 そんな聖剣を構えて、わたしは目の前の敵を、巨大な漆黒のドラゴンを見据えました。


「はぁああああああああああああぁぁぁぁぁあぁあああああ――っ!」


 裂帛の気合いとともに聖剣を振り抜きます。


 GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……!


 ドラゴンの咆吼が響き渡りましたが、でもそれだけです。

 それでおしまいです。

 だってドラゴンはわたしの一撃によって、真っ二つになってしまったんですから。


 わたしが聖剣を手放すと、聖剣は光の粒子となって、消えました。

 頼もしい相棒です。


「ありがとうございました」


 聖剣にお礼を言うと、聖剣から「どういたしまして」という気配が伝わってきたような気がしますが……きっと気のせいですよね。

 わたしがそんなことを思っていると、声がかけられました。


「嬢ちゃん……だよな?」


 やさしい声です。

 ずっと、ずっと聞きたかった声です!


「はい、そうです! わたしです! ファクルさん……!」


 会いたかった人と、わたしはようやく再会することができました!




 わたしとファクルさんは近くの村まで移動することにしました。

 ドラゴンの素材は後で使えることもあるとファクルさんが言うので、わたしのアイテムボックスに収納済みです。


 アイテムボックスというのは、様々なものを異空間に収納する、生活魔法の一つです。

 普通の人は、身の回りのちょっとした小物を収納できるくらいですが、わたしの場合は違います。

 いくらでも、どれだけでも収納することができます。

 しかも、アイテムボックスの中に入れておけば、時間が経つこともありません。

 ファクルさんに言わせると、わたしの勇者としての桁外れの魔力量が、それを可能にしているのだろうということでした。


 そのファクルさんは、最後に別れた時と同じ格好でした。

 魔物の革をなめした鎧。腰には微妙な反りが特徴的な刀と呼ばれるもの。


「ファクルさん、変わっていませんねっ!」


「まあ、そうだろうな。嬢ちゃんたちのパーティーから離れて、まだ一週間も経ってないからな」


 そう言われればそうなのですが、わたしはもう何ヶ月、いえ、何年もファクルさんに会っていないような気持ちでした。


「で、嬢ちゃんは何だってこんなところに?」


「ファクルさんを探していたんです!」


「は? 俺を?」


「はいっ! ようやく見つけることができましたっ!」


「まさか俺を連れ戻しに来たのか? 魔王退治の旅に同行させるために」


「違いますよ。魔王ならもう倒してきましたし」


「そうなのか………………は? 今、なんて?」


 わたしの言葉に、ファクルさんがぽかーんとした顔になりました。

 何だかかわいいです!

 でも、そう言葉にしたら怒られそうな気がするので言えません。残念です。


「あれから一週間も経ってないんだぞ? それなのに倒した?」


 わたしは頷き、ファクルさんと別れてからのことを簡単にお話しさせていただきました。

 あれからすぐに魔大陸に渡ったこと。

 出てくる魔物の強さが桁外れになったこと。

 そんな中、魔王がいる城にたどり着いたこと。

 そして魔王をさくっと倒したこと。


「さくっと?」


「はい! さくっとです!」


 ファクルさんが遠い目をしました。何ででしょうか?


「……まあ、最強最悪と名高いブラックドラゴンをいとも簡単に一刀両断にしてしまえるほどの実力の持ち主だしな。魔王をさくっと倒すのも当然といえば当然か」


 ファクルさんが小声で何か呟きましたが、あまりにも小さすぎてよく聞こえませんでした。


「で、魔王を退治したなら、あの王子たちが放っておかなかったんじゃないのか?」


「王都で凱旋パレードとかパーティーをするとか、結婚して欲しいとか、その他にもいろいろ三人に言われたことは確かです」


 魔王を倒した直後のことでした。

 あ……何とかという王子様がわたしの手を取って「愛している。結婚して欲しい」と言い出したのをきっかけに、他の二人にもプロポーズされました。

 さすがはイケメンです。歯の浮くような台詞も様になっていて、女性たちが群がるのもよくわかります。


「でも、断りました」


「は? なんで? 玉の輿じゃないか」


「そうですね。でも、わたし、あの人たちのこと、興味がないですから」


 そう告げた瞬間、ファクルさんが、ブハッ! と噴き出しました。


「わたし……何か面白いことを言いましたか?」


「いや、そうじゃないんだが……くくっ、あはははっ!」


 しばらくの間、笑い続けていたファクルさんですが、笑いが収まると、どうしてそんなに笑ったのかを教えてくれました。


「王子様たち、俺がパーティーから抜けた時、なんて言ってた?」


「自分がいてはわたしたちに迷惑がかかるとか何とか」


「なるほどな」


「それがどうしたんですか?」


「そうじゃないんだよ。俺はパーティーを追放されたんだ」


「え……!?」


「嬢ちゃんは俺を慕ってくれていたよな」


 やさしい顔でそんなことを言われました。

 そのとおりだったので頷きます。


「はい。だって、ファクルさんのおかげで、今のわたしがいるんですから。ファクルさんを慕うのは当たり前じゃないですか」


「魔王を倒した勇者様にそんなふうに言われると恐縮だが……だからこそ邪魔だったんだろうよ。俺がいたら嬢ちゃんを口説き落とせないと思い込む程度にはな」


「そんなことでファクルさんをパーティーから追放するなんて……許せません!」


「って、嬢ちゃん! どこに行くんだよ?」


「決まっています! あ……何とかという王子様たちに、ガツンと一発、ぶちかましてくるんですっ!」


「相変わらずあいつらの名前は覚えてないんだな。というか、勇者がガツンと一発やったら大惨事になるから辞めとけ」


「でも!」


「俺のために嬢ちゃんがそこまで怒ってくれた。それだけで俺は充分報われた。それに、あいつらのプロポーズを断ったんだろ?」


「さっきも言いましたけど、わたし、あの人たちに興味がないですから」


「なら、もう充分だ」


「ファクルさんがそういうなら……」


「ありがとな、嬢ちゃん」


 ファクルさんに頭を撫でられました! ファクルさんに頭を撫でられました!

 大事なことなので二回言いましたよ!


 仕方ありません。今回はファクルさんに免じて、何もしないことにしましょう。

 それに、今さらにあの人たちのところに行くのも、正直、面倒くさいですし。

 何せ引き留めるあの人たちを振り切って、ファクルさんを追いかけてきたわけですから。

 ですが、許したわけじゃありませんし、絶対に忘れません。

 次に何かあれば……きっちりと報いを受けてもらいたいと思います。ふっふっふっ。


「嬢ちゃんがなんか黒い笑みを浮かべている……!」


「? 何か言いましたか、ファクルさん?」


「い、いや、何も言ってないぞ?」


 何で変な汗をかいているんでしょうか? 変なファクルさんですね。


「ところで、どうやって俺を探したんだ? 簡単じゃなかっただろ」


「そうですね」


 世界は広いです。

 たった一人の人を探すのは、とても大変なことです。


「でも、ファクルさんは困っている人を見捨てることができない人ですから」


 わたしは知っています。口では面倒くさいだ何だと言いながらも、困っている人を放っておけない人だって。

 ついついお節介を焼いてしまう、お人好しだって。


 何にも知らなかったわたしの面倒を見てくれたのが、その証拠です。


 だから、困っていた人を探して話を聞けば、ファクルさんにたどり着けるんじゃないかと思ったんです。

 実際、その作戦は成功しました。

 こうしてファクルさんと再会することができたんですから。


「それにしてもファクルさんは無謀すぎます!」


 わたしたちが今向かっている村は魔物たちが大挙してきて、大変なことになっていました。

 村は魔物たちの退治と原因究明を、冒険者ギルドに依頼しました。

 その仕事を受けたのがファクルさんと、数人の冒険者たちです。


 ファクルさんたちは魔物たちが大挙してきた原因が、何かに恐れてのことではないかと推測しました。

 そしてこの山にやってきて、ドラゴンを目撃したのです。


 ドラゴンは一介の冒険者が太刀打ちできる相手ではありません。

 騎士団など、ある程度、まとまった戦力が必要となります。

 ですが、ドラゴンはファクルさんたちが現れたことに気づき、攻撃してきました。


 ファクルさんは自分が囮になることで時間を稼ぎ、他の冒険者を逃がして、ドラゴンに太刀打ちできるだけの戦力を連れてきてもらうことにしたのです。

 その冒険者たちにわたしは出会い、ファクルさんがここにいることを知って、急行したというわけです。


「わたしが間に合わなかったらどうするつもりだったんですか!?」


「死んでたかもな」


「かもなじゃありません! もっと自分を大事にしてくださいっ!」


「……悪かったよ、嬢ちゃん。謝る。だから頼む。そんな泣きそうな顔をしないでくれ」


「もうこんな無茶はしないと約束してくれますか?」


「それは……」


「なら、泣きます!」


「ひどい脅し文句だ。……わかった。約束する」


「絶対ですよ?」


「ああ、絶対だ」


「嘘吐いたら、責任を取ってもらいますからね?」


「せ、責任!?」


 ファクルさんが変な声を出しました。

 わたし、変なこと言ってませんよね?


「わ、わかったよ。無茶をしなければいいだけだからな」


「ありがとうございます」


「いや、嬢ちゃんが礼を言うのはおかしい」


 ファクルさんに笑われてしまいました。

 そんなことをやっていたら、わたしたちは村にたどり着きました。


 わたしたちの無事な姿を見て、村の人たちや冒険者の方々が駆け寄ってきて、無事だったことを喜んでくれます。

 また、ドラゴンも退治したことを告げると、とても驚かれました。


「信じられないかもしれないが、この嬢ちゃんは勇者だからな」


 ファクルさんに言われて、わたしはアイテムボックスから真っ二つになったドラゴンを取り出してみせました。

 皆さん、納得してくれました。


 その日の夜は、飲めや歌えやのお祭り騒ぎになりました。

 わたしも皆さんに囲まれ、楽しくしていました。

 こんなに楽しい時間を過ごすのは、どれくらいぶりでしょうか。


「嬢ちゃん、楽しんでるか?」


 ファクルさんがやってきました。


「はい!」


「なら、よかった」


 ファクルさんはわたしの隣に腰掛けます。

 皆さんが楽しそうにしているのを眺めています。


「俺を探してたって話だったが……俺を連れ戻しにきたわけじゃないとすると、どういう理由だ?」


 そういえば、その話がまだでした。


「わたし、ファクルさんがいなくなってから、胸の奥が苦しくなって仕方がなかったんです」


「胸の奥が……苦しく?」


「はい。それがどうしてなのか。いっぱい考えました。そしてわかったんです」


 わたしはファクルさんを見つめます。


「わたし、好きなんです……!」


「なっ!? す、すすすすすすす好き!?」


 ファクルさんが素っ頓狂な声を上げました。

 見れば、顔が真っ赤になっています。


「そうです! 大好きなんです!」


 ファクルさんの顔がさらに真っ赤になっていきます。


「ファクルさんの作ってくれたお料理が!」


「は? ……は!?」


 ファクルさんが目を大きく見開いて、信じられないものを見る眼差しを向けてきます。


 ファクルさんの作ってくれるお料理は、すごいんです。

 それまで、パンは固いのが当たり前で、スープだって味がしないのが普通だったのに。

 ファクルさんの作るお料理はどれも信じられないくらいにおいしくて。

 特にぷりん? とかいう玉子を使ったデザートが最高なんです!


「そ、そうか。料理か。……まあ、確かに。俺の作る料理は師匠直伝で、この世界の料理とは一線を画するものだからな」


 ファクルさんがパーティーからいなくなって、ファクルさんの作るおいしいお料理が食べられなくなって。

 わたしの胸の奥が痛くなったのは、それが原因だってわかったんです。


「嬢ちゃんが食いしん坊だったことを忘れてたぜ」


「ファクルさんの作るお料理がおいしすぎるのがいけないんです! わたしは食いしん坊じゃありません!」


「そういうことにしておくよ」


 ファクルさんは苦笑して、わたしの頭をぽんぽんと撫でました。

 絶対に違うのに……!

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