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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第2章

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17#勇者から分泌されているものがあるらしい。


 皆さん、いかがお過ごしですか?

 わたしです。アルアクル・カイセルです。

 いつも自分がしていることを、誰かにしてもらった時、人はどう感じるものなのでしょう?

 ある一言がきっかけになって、わたしは行動を起こしました。

 それがまさか、わたしにあんな変化をもたらすなんて。

 わたしはまったく想像もしていなかったのです。





「アルア、好き」


 今日も朝から、わたしはイズに抱きつかれています。

 ファクルさん作のおいしい朝ご飯を食べたあと、諸々後片づけを終えて、朝の気持ちいい風を背中に受けながら村へと向かっているのにです。


「イズ、ところ構わず抱きつくのはダメです」

「それはできない相談」


 まさかの全否定です!?


「イズはアルアが好き。だからこうして抱きつくことで」

「抱きつくことで?」

「アルア分を補給している」

「……アルア分って何ですか?」

「主にアルアから分泌されているもの。それを吸収するとしあわせな気持ちになれる」


 な、何と言うことでしょう!?

 まさかわたしからそんなものが分泌されているとは。


「そんなにしあわせな気持ちになれるんですか?」

「なれる」


 即答です。


「絶対になれる」


 しかも絶対とまで言い切られてしまいました!?


「すっごくしあわせ」


 とろんと、とろけた表情でイズが言います。

 ごくり。そんなにしあわせになれるんですか……。

 わたしは少しの間考えました。

 それから、イズに離れてもらいます。

 イズは「やだ」「だめ」と抵抗しましたが、やりたいことがあるので譲れません。

 最終的には、あとで好きなだけ抱きついてもいいということで決着しました。


「……あれ? なんだかとんでもない約束を交わしてしまったような気がするんですけど」

「大丈夫。考えたら負け」

「そうですか」


 イズに強く言われて、わたしはうなずきます。


「アルアクルさん、最小限の譲歩で最大限の成果を引き出されてますよ! ちょろすぎませんか!? かわいいです!」

「褒めてるのか貶してるのかわからねえな」


 馭者のクナントカさんとファクルさんが何か呟いていました。

 気になりますが、それよりも今は、優先すべきことがあります。

 わたしはファクルさんに言いました。


「ファクルさん、今のイズの話、聞いていましたか?」

「ん? おう、聞いてたぞ」

「僕も聞いていましたよ!」

「クナントカさんには聞いてませんよ?」

「僕だけのけ者ですか!? くぅっ、最高です! アルアクルさん、結婚してください! そして毎日罵ってください……!」

「え……? あの、ごめんなさい。その、本当に無理です……」

「いつもより心のこもったお断りをいただきました~っ! ありがとうございます!」

「クリスがどんどん高度な変態になっているんだが……」

「そんな褒められても、金貨しか出せませんよ?」

「褒めてねえし、本当に金貨を出すんじゃない!」


 わたしとしてはクナントカさんがどれだけ変態になろうとどうでもいいのですが、ファクルさんとクナントカさんがどんどん仲良くなっているような気がするのは、ちょっといただけません。

 わたしはふたりの間に割って入るように、話を続けました。


「あの、わたしからしあわせな気持ちになれるものが分泌されているという話なんですけど……ファクルさん!」

「おう、何だ?」

「わたしを思いっきり抱きしめてください!」


 ファクルさんに向かって、大きく腕を広げました。


「ぶっ!? ちょ、おい、アルアクル!? い、いきなり何を言って……!?」


 ファクルさんが慌て始めました。


「落ち着いてください、ファクルさん。そういう時は深呼吸です!」

「そ、そうだな! 深呼吸だ! いくぞ!? ひっひっふー。ひっひっふー……」

「なんだかずいぶんと変な深呼吸ですね?」

「師匠直伝でな。これをやると、どんなに慌てふためくような状況になっても落ち着くことができるんだ。ただ、俺がこれをやってると師匠が爆笑するんだよな。何でなんだろうな……」

「何ででしょうね……」


 ファクルさんが遠い目をするので、わたしもしてみました。


「なんでアルアクルまで遠い目を?」

「ファクルさんと同じことがしたかっただけで、特に深い意味はありません」

「そ、そうか」


 落ち着いたはずのファクルさんが、また若干慌てた感じになりました。どうしてでしょう?


「と、とにかくあれだ。アルアクル。何だって俺がアルアクルを、だ、抱きしめるって話になったんだ?」

「ファクルさんに、しあわせな気分になって欲しかったからです!」


 ファクルさんにはいつもおいしいご飯を作ってもらっていますし、他にも魔物と対峙した時の心得など、いっぱいいっぱい、お世話になっています。

 そんなファクルさんに、少しでも恩返ししたいんです。

 わたしは自分が思っていることを正直に語りました。


「だからファクルさん、思いっきり抱きしめてください! そしてわたしから分泌されているしあわせになれる成分を、思う存分堪能してください!」


 わたしは、さあどうぞ! とファクルさんに向かって、両手を広げます。


「……アルアクルがここまで言ってくれたんだ、ここで行かなきゃ男が廃るだろ!?」


 ファクルさんが小さな声で何かを呟き、


「い、行くぞ!?」


 裏声で言いました。


「はい、どうぞ!」


 わたしは、どーんと構えたまま、ファクルさんを待ち構えます。

 ファクルさんとクナントカさんのふたりが妙に仲がよかったりする時とか、普段からファクルさんに抱きついているわたしです。

 だから、いつもと逆になるだけだと、単純にそう思っていました。

 でも、違いました。

 まったく違ったのです。

 わたしを包み込む、大きなぬくもり。

 大好きなファクルさんの匂い。


「どうだ。苦しくないか?」


 すぐ近くから聞こえてくる、低い声。

 とくん、とくんと……響いてくる、ファクルさんの鼓動の音。

 これは大変です……危険が危ないです!

 わたしの胸がドキドキしてきて、どうにかなっていまいそうです!


「アルアクル、大丈夫か?」

「ふぇっ!? だ、だいじょうぶれしゅよ!」

「れしゅ?」


 何と言うことでしょう。噛んでしまいました。

 今のわたしは、間違いなく真っ赤になっているでしょう。

 ただでさえ、大好きなファクルさんに抱きしめられ、自分でも大変なことになっていると自覚できる状況なのに……!

 ファクルさんにそんなわたしを見られたくなくて、わたしはファクルさんの胸元に、自分の顔を押しつけました。


「お、おい、アルアクル?」

「こ、これはあれです! ファクルさんにもっとしあわせになってもらいたくて……! それでこうしているんです! それ以上の意味はありません!」

「そ、そうか。うん、わかった」

「ほ、本当ですからね!?」

「わかったよ。大丈夫だ。変な勘違いはしないから」

「な、なら、いいんですけど」


 全然よくありません。

 心臓が止まりそうです。

 普段、ファクルさんに抱きついている時には感じないドキドキです。


「あの、ファクルさん……しあわせな気分になれましたか?」

「ああ、なってるぞ。すごいなってる」

「そうですか……」

「? どうかしたのか?」

「いえ、何でもありません」

「何でもないって感じじゃないだろ、それ。どうしたんだよ、言えよアルアクル」

「……怒りませんか?」

「ああ。怒らない」


 わたしはファクルさんに抱きしめられたまま、ぽしょぽしょと呟きました。


「……ファクルさんにしあわせになって欲しくて、だから抱きしめてくださいってお願いしたのに。ファクルさんに抱きしめられて、ファクルさんをこんなにも近くで感じられて、わたしの方がしあわせな気分になってしまったんじゃないかって思って。……やっぱり怒りましたよね?」

「言っただろ、怒らないって。てか、怒るわけがない」

「どうしてですか?」

「だって、俺の方がしあわせな気持ちだからだ」

「そんなことありません! わたしの方がずっとしあわせな気持ちです!」

「いや、俺の方がしあわせだ」

「違います! わたしです!」

「いいや、俺だって。いいか? こんな俺に抱きしめられて、しあわせだって言ってもらえたんだぞ? どう考えても俺の方がしあわせだろ。俺は世界で一番のしあわせものだ」

「ファクルさんは『こんな』人じゃありません! すごい人です! わたし知ってます!」

「ありがとな、アルアクル」

「お礼なんていりません! だって本当のことを言っただけですから!」

「そっか」

「そうです!」


 ファクルさんに抱きしめられたまま、頭を撫でられました。

 これもいつもと全然違う感覚です!

 ふわぁ~って、なります。ふわぁ~って。

 本当に……本当にしあわせです!

 わたしの体、隅から隅まで、ファクルさんのおかげで、しあわせで満たされていきます。

 いえ、しあわせという言葉だけじゃ、言い表せません!

 この気持ちはしあわせ以上にすごいものです!


「アルアクルさん、ファクルさん。ふたりの世界に突入しているところ恐縮ですが、村に着きますよ」


 クナントカさんに言われて、わたしとファクルさんはここがどこかを思い出しました。


「お、俺たち、馬車の中でいったい何をしてたんだ!?」


 ファクルさんが慌ててわたしを離します。

 わたしも同じように、慌ててファクルさんから離れました。

 ふたりの間に距離が生まれたことを、ちょっとだけ寂しいと思ってしまいました。

 そんな思いを胸に抱いていると、イズがわたしに抱きついてきます。


「アルアとファクル、いい雰囲気だった」

「え、そうですか?」

「アルア、うれしそう」


 ゆるんでる、とイズに頬をつねられました。痛いです。

 まったくそんな自覚はなかったのですが。

 でも、そうですか。うれしそう、ですか。……えへへ。


「むぅ。アルアはイズの嫁。ファクルにはやらない」

「イズ、何を言ってるんですか?」

「もしかして自覚してない?」

「何をです?」

「本当に自覚していない、だと……!?」


 眠たげな瞳を思いっきり見開き、イズが驚愕しています。

 何だかよくわかりませんが、ファクルさんにはしあわせな気持ちになってもらいましたし、わたしもしあわせな気持ちになれました。

 以前、ファクルさんに、お互いにいい感じの状況になることを指して『うぃんうぃん』というのだと教えてもらいました。

 まさに今のこの感じがそうではないでしょうか。

 なら……また、ファクルさんに抱きしめてもらうのはどうでしょう?

 だ、だってですよ? そうしたらファクルさんはしあわせになって、わたしもしあわせになれるじゃないですか。

 これは……わたしのワガママ、じゃないですよね?

 ちゃんと『うぃんうぃん』ですものね?

 いい、ですよね?

 そんなふうに思う自分に、わたしはちょっと驚きました。




 そういえば『うぃんうぃん』って、ゴーレムとかが動く時の音に似てますよね。

 ゴーレムと何か関係しているのでしょうか?

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