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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第2章

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15#勇者、用心棒の驚愕の正体を知る。


 皆さん、わたしはどこ? ここは誰? そんなことを思わず口走ってしまいたくなるぐらい、混乱しています。

 こんにちは、わたしです。アルアクルです。

 空にぷかぷか浮かぶ雲が、ファクルさんが作ってくれるドーナツそっくりです。

 もちもちした食感で、とってもおいしいのです。

 ファクルさんのドーナツが食べたいなぁ……。

 でも、現実は厳しくて、わたしがそんなふうに考えることを辞めることを許してくれませんでした。

 現実は意地悪です……!




 どういうことでしょう!? 誰か教えてください……!

 盗賊退治をするため、盗賊のねぐらまでやってきたわたしとファクルさん。

 そこで盗賊の用心棒と目される人物が現れたのはいいのですが、まさかその人物に会いたかったと言われるなんて、誰が想像できたでしょうか?

 少なくともわたしは想像できませんでした。


「アルアクル……知り合いか?」

「違います!」


 わたしは言いました。

 でも、そんなわたしの言葉を否定する人がいました。

 わたしに抱きついている美少女です。


「それは嘘」

「嘘じゃないです!」

「だってイズとゆーしゃはとっても熱い時間を過ごした」

「は?」


 と言ったのはファクルさんで、


「え?」


 と言ったのはわたしです。


「熱い時間……ですか?」

「ゆーしゃ、とっても激しかった。あんなに激しくされたの、イズはじめて」

「ちょ、ちょっと、何だか誤解されるような言い方をしないでください!」


 わたしはこの子を知りません。

 なのに、そんな言い方をされると、わたしとこの子が、なんだかただならぬ関係にあるみたいに聞こえるじゃないですか。


「あ、あの、先生……? こいつらを倒して欲しいんですが」


 すっかりその存在を忘れていた盗賊の首魁が、おずおず言ってきました。


「無理。というか、やりたくない」

「そんな!? 先生にはいろいろ便宜を図ってきたじゃないですか!」

「うるさい」


 わたしに抱きついたまま、女の子が首魁に手を向けると、


「ぶげらっ!?」


 首魁が吹き飛ばされて、壁に叩きつけられました。


「今のは魔法か?」

「違います。純粋な魔力です」


 ファクルさんの疑問に、わたしは答えました。

 そう、彼女が放ったのは魔法ではなく、純粋な魔力です。

 しかも高濃度のものを、かなり圧縮した形で。

 わたしはその攻撃方法に覚えがありました。

 でも、まさか……信じられません。


「これで邪魔者はいなくなった。ふたりで思う存分イチャイチャできる」


 女の子がわたしに頭をぐりぐりと押しつけてきます。

 その仕草自体はとてもかわいらしいものですし、見た目は愛らしいので、ついつい頭を撫でたくなります。

 でも、わたしが想像しているとおりなら、彼女はそんな愛くるしいものではないのです。


「わたしの質問に答えてください」

「何? ゆーしゃが知りたいことなら、イズは何だって答える」


 わたしに抱きついたまま、上目遣いで彼女が言います。

 かわいいです――じゃありません!

 わたしは頭に思い描いていた名前を口にします。

 否定して欲しい、間違いであって欲しいと、そう思いながら。


「あなた、魔王……ですか?」

「そう。イズはイズヴェル・ジーニエと言って、魔王と呼ばれていた。会いたかった、ゆーしゃ。ずっと探していた」


 わたしの願望はあっけなく打ち砕かれてしまいました……。




 とりあえず盗賊たちは逃げられないよう、厳重にロープで縛り上げて、まとめて転がしておきます。

 あとは村か町についた時、関係機関に連絡すればいいだけです。

 その間に大変な目に遭うかもしれませんが、それは仕方ありません。

 盗賊は誰かのしあわせを踏みにじるような行為を平気でしてきたような人たちです。

 報いを受けるべきです。

 何より、捕まったところで、よくて奴隷落ち、死罪になることもあるのですから。

 というわけで、盗賊のことはこれでおしまいです。

 それよりももっと重大な問題に対応しなければいけません。

 イズヴェル・ジーニエと名乗った女の子――いえ、魔王に、わたしたちを害する意志がないことをしっかり確認してから、クナントカさんと合流します。

 そこで改めて話を聞くことになりました。

 わたしにべったりとくっついて離れない魔王を見て、クナントカさんは驚いていました。


「その子はあれですか。盗賊に捕まって、手込めになりそうだったところをアルアクルさんに助けられて、それで懐いたとか、そんな感じですか?」

「概ね間違っていない」

「全然違います! 適当なことを言わないでください!」

「そのとおり。適当なことを言ったらだめ」

「わたしはあなたに言っているんです!」

「え?」

「自分は関係ないと思っていたんですか?」

「うん」

「信じられません!」


 なんてことをやっている間に、ファクルさんがクナントカさんに説明してくれていました。

 さすがファクルさんです。ありがとうございます。尊敬します。


「つまり、そのお嬢さんは魔王である、と?」

「ああ」

「でも魔王はアルアクルさんが倒したはずでは?」

「そうです! わたしは魔王を倒しました! あの時のわたしはファクルさんの元へ一刻も早く向かいたかったですけど、それでも手を抜くとか、そういったことはしませんでした!」

「そんなにファクルさんの元へ向かいたかったと?」

「当たり前じゃないですか! むしろあの時はファクルさんに会いたくて、会いたくて、その思いを糧にしてがんばっていたと言っても、決して言いすぎじゃないくらいです!」

「――だ、そうですよ、ファクルさん」

「……うるせえな。聞こえてるよ」

「あれ? どうして顔が赤くなっているんです?」

「そ、それはあれだよ! 夕日のせいに決まってるだろ!?」

「まだ夕日には早い時間なんですけどねぇ」

「なら、朝日だ!」

「ははは。では、そういうことにしておきましょう」

「おい、クリス。お前、俺をバカにしてるだろ?」

「まさか、そんなわけありません。僕はアルアクルさんを愛していますが、最近はファクルさんも愛玩動物として鑑賞するのも悪くないと思い始めているところでして」

「否定してねえじゃねえか!」

「そこに気づくとは!?」

「気づくに決まってる!」


 むぅ。ファクルさんとクナントカさんが楽しそうです。

 ファクルさんに思いっきり抱きつきたい衝動に駆られますが、今はぐっと我慢します。

 わたしに抱きついたままの自称魔王のことをはっきりさせなければいけません。


「あなたは本当にあの魔王なんですか?」

「あなたじゃない、イズはイズ」

「え?」

「ゆーしゃにはイズって呼んで欲しい」

「あ、えーっと」

「イズ」


 わたしは困って、ファクルさんたちを見ました。

 ファクルさんは苦笑して。

 クナントカさんは……えっと、どう言えばいいのでしょう?


「くぅっ、百合百合しい匂いがぷんぷんしますっ!」


 あまり関わらない方がよさそうです。


「え、えっと、イズ?」

「!!」


 わたしがそう呼ぶと、彼女の目がまん丸になって、ほわーっと頬がゆるみました。


「もいっかい! もいっかい呼んで!」

「イズ」

「もいっかい!」

「イズ」

「もいっかい!」

「イズ」

「もいっかい! ううん、あともう1000回は呼んで欲しい……!」


 何でしょう。どこかで聞いたことがある台詞です。


「これ以上はダメです」

「ゆーしゃの意地悪! けち!」

「意地悪でもケチでもありません! というか、自分のことは名前で呼ばせておいて、わたしのことは勇者と呼ぶのはどうなんですか?」

「だってイズはゆーしゃの名前を知らない」


 ……確かに名乗っていませんでした。


「わたしはアルアクルです。アルアクル・カイセルです」

「アルアクル……素敵な名前!」

「ありがとうございます」

「イズはこれからゆーしゃのことをアルアクルって呼ぶ!」

「そうしてください。皆さんもそう呼んでくれますから」

「みんなと一緒?」

「え? ええ、そうですけど」

「なら、呼ばない」

「どうしてですか?」

「イズだけの呼び方がしたい!」


 したい、したい! とわたしにぐりぐり胸を押しつけてきます。

 この子、やっぱり胸が大きいです!

 見た目はわたしよりずっと幼いのに!

 どうして、つるーんで、ぺたーんじゃないんですか!?

 世の中、理不尽すぎます……! 解せません……!


「アルアって呼んでいい? それならイズだけの呼び方になる?」

「え、ええ。そうですね」

「なら、そうする! アルア、好き!」


 改めて、がばっ!! と抱きつかれました。


「……話が盛大に逸れてしまいましたが、イズは本当にあの魔王なんですか?」

「そう。本当にあの魔王」


 肯定されてしまいました。

 純粋な魔力を高密度で、しかも圧縮して攻撃手段にする存在を、わたしは魔王しか知りません。

 そういう意味ではイズの言葉は正しいと思うのですが。


「見た目が違いすぎます! わたしが倒した魔王は、蛇の体に、獅子、虎、狼、鷲、鷹の頭を持っていて、しかも王城並に大きかったじゃないですか!」

「あれはその方がいいって言われたから」

「誰にですか?」

「四天王……?」


 どうして疑問系なのでしょう?

 詳しい話を聞いたところ、魔物の中にはかなり知能の高いものもいて、それらの魔物が四天王を自称して、イズにあれこれ入れ知恵をしたらしいです。


「魔物にも知能の高いものがいるなんて知りませんでした」

「けっこういるみたいだぞ。師匠に聞いたことがある」

「さすがファクルさん。物知りです!」

「そんなことねえよ」


 そう言いながらも、ファクルさんはまんざらでもなさそうで、ちょっとうれしいです。

 ファクルさんがうれしいと、わたしもうれしくなります。

 ちなみにというのも変ですが、魔王も魔物で、魔物の中でも一際強い個体が魔王として選ばれるとのことでした。

 確かにイズは、わたしが戦ってきたどの魔物よりも強かったです。


「イズが魔王ということはわかりました。で、こうしてわたしの前に現れたのはどうしてでしょう?」


 イズはわたしに会いたかったと言いました。

 復讐でしょうか?

 あり得ます。

 勇者と魔王は決して相容れない存在ですから。

 思いきり抱きつかれていますけど。

 というか、なんか懐かれている感じがしますけど。

 とにかく、相容れない存在のはずです!


「アルアはイズを倒した。つまり、イズより強い」

「そう、なるんですかね?」

「なる」


 イズに断言されてしまいました。


「だから、イズはアルアの元に来た。アルアとつがいになるために。これはイズたちの掟。自分より強い者と結ばれ、番となり、子を成して、次代へとつないでいく」

「はぁ……って、ちょっと待ってください。番ってあれですよね……?」

「夫婦とか、そういう意味だよな?」

「ですね」


 ファクルさんとクナントカさんの言葉に、わたしの思っていることが間違いではなかったことが証明されました。


「ダメです! イズと番になれません! だってイズは女の子で、わたしも女の子ですよ!?」

「……確かに」

「わかってくれましたか?」

「がんばればいい。気合いと根性があれば、大抵のことは何とかなる」

「がんばっても、気合いと根性があっても、どうにもできないことがあります!」

「いずれ時間が解決してくれる」

「解決できません!」

「アルア、大好き」


 わたしがいくらダメです、無理ですと言っても、イズは聞き入れません。

 こうしてなし崩し的に、イズという魔王が、わたしたちの旅に同行することになりました。

 どうしてこうなってしまったのでしょう……!?

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