14#用心棒、現る!
皆さんは思わぬ場所で、思わぬ人物と再会を果たした――なんてことがありますか?
思わぬ場所というのが、本当に意外な場所でしかなくて。
しかも、もう二度と会うことはないだろうと思っていた人物と再会した時。
どういう行動を起こすのが正しいのでしょう?
いえ、そんなことより、もっと考えなくてはいけないことがあります。
その再会が、わたし――アルアクルにとって、どういう意味になるのか、どんな変化をもたらすのかということを……。
わたしとファクルさん、それにクナントカさんが旅しているところに現れた、ぼろぼろに傷ついた男の人。
その男性は盗賊に襲われたと言い、仲間がいるからと助けを請われました。
わたしたちは男性の仲間を助けるとともに、その盗賊を退治することを決めました。
話を聞けば、男性がやってきた方角――木々の中に、盗賊たちのねぐらがあるらしいです。
男性は隊商を組んでいて、群れをなした盗賊たちによって襲われ、ねぐらに連れて行かれたところ、隙を突いて何とか逃げ出すことができたらしいです。
「この木々の向こうか。ってことは馬車では行けねえな」
ファクルさんの言葉に、わたしとクナントカさんが頷きます。
「そういうことなら、僕はここで待機しています。元より戦力にはなりませんし」
「だが、それは危険だ。俺たちが離れたことで、クリスが襲われる可能性も考えられる」
「なら、わたしが結界を張ります」
「結界ですか?」
「はい」
光属性の魔法で、正式名称は聖域結界です。
どんな攻撃も一切遮断する光の壁を作り、その中にいるものを守るという魔法です。
「その手があったか。アルアクル、やってくれ」
「わかりました!」
ということで、わたしは聖域結果を創り出します。
クナントカさんと馬車を守るように、光の壁が出現しました。
「おお、これが……!」
驚きながら、クナントカさんが壁にぺたぺたと触れています。
「この中にいれば、どんな攻撃を受けても大丈夫ですから」
「わかりました。ありがとうございます、アルアクルさん。僕のために。結婚してください」
「無理ですごめんなさいお断りします」
「今日も『お断りします』いただきました~っ!」
「変態だな」
「変態ですね」
「……というか、そうやってさりげなく自分の思いを告げられるってすげえよな」
「ファクルさん、何か言いました?」
「べ、別に何も言ってねえから!?」
そうですか。では、何か聞こえたような気がしたのは、わたしの気のせいですね。
それにしては顔が赤いのですが……またおでこをくっつけて熱を測った方がいいでしょうか?
「ほ、ほら、盗賊退治に行くぞ!?」
「はいっ!」
ファクルさんは男性を促し、歩き出します。
わたしはその後ろをついて行きました。
この先に盗賊たちのねぐらがあると、ここまで案内してくれた男性が言いました。
よどみなく、迷うことなく、男性はここまで真っ直ぐ、わたしたちを連れてきてくれました。
足取りもずいぶんとしっかりしたものでした。
「そうか。ありがとな」
笑顔でお礼を言ったファクルさんが、その笑顔のまま、腰に帯びていた刀を一息に抜き放ちます。
勇者であるわたしだから見えましたが、普通の人なら気がついた時には刀が現れたと思ったでしょう。
ファクルさんは、自分はCランク冒険者だと謙遜していますが、本当にすごい人なのです!
で、その刀はここまで案内してくれた人の首に当てられていました。
「これはいったいどういうことで?」
困惑している男性に、ファクルさんは告げました。
迷うことなくここまで道案内できたことが怪しいと。
「そんなことで、こんな真似を?」
「あんたは命からがら、必死に盗賊たちのねぐらから逃げてきたんだよな? だとしたら、周囲の景色を見ている余裕なんかなかったはずだ。なのに迷わなかった。おかしいだろ?」
「そ、それは道を覚えるのが得意で」
「まあ、そういう可能性もなくはない。けど、あんたは怪我をしたというわりに、足取りがしっかりしすぎていた。その怪我、見かけだけだろ?」
「いやいや、そんなことは――」
「あんたの役割は標的を見繕い、ねぐらまで案内することだ。道を行く俺たちの前に現れた時、あんたの目はぎらついた。さぞおいしく見えたんだろうな?」
「くそっ、ばれちまったからには――」
仕方ない、男性――いえ、盗賊はそう言って懐から何かを取り出そうとしました。
おそらく武器。
ファクルさんに対抗するためだと思います。
ですが、ファクルさんの刀がそれより早く煌めき、盗賊の意識を刈り取ります。
「さすがファクルさんです! すごいです!」
一瞬にして相手の意識を刈り取るのは、なかなか難しいのです。
「大したことじゃねえよ」
「そんなことありません!」
わたしの言葉に、ファクルさんが微妙にそっぽを向いて、頬を掻きます。
耳の先が少しだけ赤くなっているように見えました。
照れているのでしょうか。
ファクルさん、かわいいです。
「って、照れてる場合じゃねえ!」
やっぱり照れていたみたいです。かわいいです。
ファクルさんは気を取り直すように頭を振ると、アイテムボックスからロープを取り出し、盗賊を素早く絞め上げていきます。
そうしてそこら辺に、っぽい! と転がすと、木々の向こうに見える洞窟を見据えます。
そこが盗賊たちのねぐら。
入口に立っている二人は見張りでしょう。
「俺が一人をやるから」
「もう一人をわたしが倒します」
わたしたは一斉に飛び出して、見張りに肉薄すると、意識を奪います。
そのまま二人には転がっていてもらいましょう――そう思った時、洞窟の奥から人がやってきたのです。
「おい、お前ら。交代の時間だ――って、なんだてめえらは!?」
「盗賊退治に来た」
「っ!? イッチのやつ、しぐじりやがったな!? おい、敵襲だ!」
大声で叫ばれました。
どうやら秘密裏に対峙することはできなくなったみたいです。
叫んだ人は奥に駆け込んでいきます。
わたしたちは追いかけました。
洞窟は自然にできたもののようで、ぐねぐねと入り組んでいて、下もでこぼこで走りづらいです。
どれくらい走ったでしょう。
「ここは……」
「空洞みたいですね」
「そして、あんたらが死ぬ場所でもある」
聞こえてきた声に見れば、ヒゲモジャのむくつけきおじさんを中心に、小汚い男の人たちが固まっています。
斧や鉈、ショートソードなど、不揃いな武器を装備しています。
身につけている防具も武器と同じく、不揃いです。
何度も退治したことがある盗賊たちの特徴と一致します。
つまり、盗賊です。
間違いありません。
ファクルさんを見れば、ファクルさんもわたしと同じ確信を得たのでしょう。うなずいてくれました。
「俺たちは死なない」
「はっ、みんなそう言って死んでいくのさ! ……いや、待て。そっちのお嬢ちゃんは別だ。ここでは殺さない。俺がいろいろかわいがってやる。べっぴんさんは、さぞかしいい声で鳴いてくれるんだろうなぁ!」
おそらくこの盗賊の首魁だと思う人が、わたしを見て、いやらしい笑みを浮かべました。
かわいがるという言葉の意味がどういうことなのか、知っています。
盗賊退治に向かうと、必ずと言っていいほど、言われることですから。
「それは無理だな」
「何だ、お前が守るとでも言うのか? 見たところ俺と同じくらいのオヤジじゃねえか。さてはあれか。お前のこれか?」
首魁が小指を立てて、ファクルさんに見せます。
「ち、違う!」
「おい、何赤くなってるんだよ。気持ち悪いオヤジだな」
何を言っているのでしょう。
気持ち悪いなんてとんでもないです!
赤くなったファクルさんほど、かわいい人はいません!
「俺が無理だと言ったのは、アルアクルが強いからだ。ここにいる誰よりもな」
「は? 強い? そのお嬢ちゃんがか? こいつは笑わせてくれるぜ! なあ、おい!」
「へえ!」
盗賊たちが笑います。
なんだかファクルさんを馬鹿にされたようで面白くありません。
なので、わたしはお仕置きをすることにしました。
殴るとか、蹴るとか、そんなことはしません。
軽く威圧しただけです。
それだけで盗賊たちの大半が気を失ってしまいました。
涎を垂らしているのはいい方で、おもらしをしてしまった盗賊もいます。
「アルアクル、やりすぎだ」
「仕方ありません。この人たちがファクルさんをバカにしたんですから」
「……俺のためだとしてもだ。だが、まあ、ありがとな」
ファクルさんに頭を撫でてもらいました! えへへ。
「な、何なんだお前は!? 何なんだよ!?」
首魁なだけあって、ヒゲモジャは意識をかろうじて保っていました。
「勇者ですが何か?」
「勇者!? 勇者だって!?」
真っ赤に血走った目で睨まれます。
「なら、こっちも切り札を出すしかねえな! 先生、先生! お願いします!」
首魁がそう叫ぶと、奥から人影が現れました。
先生というのは用心棒のことを言うらしいです。
盗賊退治をする中で覚えました。
大抵は冒険者崩れの人で、それなりに強い人ではあったみたいですが、ギルドの方針と反りが合わなかったり、人を傷つけることに快感を覚えてしまったり、他にもいろいろな理由があって、堕ちてしまったみたいです。
さて、この盗賊たちの用心棒は、いったいどんな人でしょう?
「お、おいおい、マジかよ!」
ファクルさんが驚愕しています。
それはわたしも同じ気持ちでした。
だって現れたのは――。
「女の子じゃないですか!」
蒼い髪、眠たげに半分ほど閉じられた金色の瞳。
身長はわたしの胸元ほどくらいでしょうか。
ちなみにわたしは同年代の女の子よりちょっと高めです!
って、それはどうでもいいですね。
魔法使いが着ているローブをまとっています。
まさかこの子が用心棒!? 信じられません!
ですが、首魁は女の子に全幅の信頼を寄せた眼差しを注いでいます。
ということは、本当にこの子が用心棒……!
「呼んだ?」
ぼんやりした声で、女の子が尋ねます。
「先生、こいつらをやっちゃってください!」
「わかった」
女の子がまずファクルさんを見て、それからわたしを見ます。
「ゆーしゃ」
え?
今、わたしを見て、勇者と言いましたか?
この子と会うのは初めてです。
なのにどうして?
「会いたかった、ゆーしゃ! ずっと探していた!」
どうしてわたしは女の子に抱きつかれているのでしょう!?
誰か教えてください!
この子、わたしより胸が大きいです! ぐぬぬ……!








