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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第2章

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14#用心棒、現る!


 皆さんは思わぬ場所で、思わぬ人物と再会を果たした――なんてことがありますか?

 思わぬ場所というのが、本当に意外な場所でしかなくて。

 しかも、もう二度と会うことはないだろうと思っていた人物と再会した時。

 どういう行動を起こすのが正しいのでしょう?

 いえ、そんなことより、もっと考えなくてはいけないことがあります。

 その再会が、わたし――アルアクルにとって、どういう意味になるのか、どんな変化をもたらすのかということを……。




 わたしとファクルさん、それにクナントカさんが旅しているところに現れた、ぼろぼろに傷ついた男の人。

 その男性は盗賊に襲われたと言い、仲間がいるからと助けを請われました。

 わたしたちは男性の仲間を助けるとともに、その盗賊を退治することを決めました。

 話を聞けば、男性がやってきた方角――木々の中に、盗賊たちのねぐらがあるらしいです。

 男性は隊商を組んでいて、群れをなした盗賊たちによって襲われ、ねぐらに連れて行かれたところ、隙を突いて何とか逃げ出すことができたらしいです。


「この木々の向こうか。ってことは馬車では行けねえな」


 ファクルさんの言葉に、わたしとクナントカさんが頷きます。


「そういうことなら、僕はここで待機しています。元より戦力にはなりませんし」

「だが、それは危険だ。俺たちが離れたことで、クリスが襲われる可能性も考えられる」

「なら、わたしが結界を張ります」

「結界ですか?」

「はい」


 光属性の魔法で、正式名称は聖域結界です。

 どんな攻撃も一切遮断する光の壁を作り、その中にいるものを守るという魔法です。


「その手があったか。アルアクル、やってくれ」

「わかりました!」


 ということで、わたしは聖域結果を創り出します。

 クナントカさんと馬車を守るように、光の壁が出現しました。


「おお、これが……!」


 驚きながら、クナントカさんが壁にぺたぺたと触れています。


「この中にいれば、どんな攻撃を受けても大丈夫ですから」

「わかりました。ありがとうございます、アルアクルさん。僕のために。結婚してください」

「無理ですごめんなさいお断りします」

「今日も『お断りします』いただきました~っ!」

「変態だな」

「変態ですね」

「……というか、そうやってさりげなく自分の思いを告げられるってすげえよな」

「ファクルさん、何か言いました?」

「べ、別に何も言ってねえから!?」


 そうですか。では、何か聞こえたような気がしたのは、わたしの気のせいですね。

 それにしては顔が赤いのですが……またおでこをくっつけて熱を測った方がいいでしょうか?


「ほ、ほら、盗賊退治に行くぞ!?」

「はいっ!」


 ファクルさんは男性を促し、歩き出します。

 わたしはその後ろをついて行きました。




 この先に盗賊たちのねぐらがあると、ここまで案内してくれた男性が言いました。

 よどみなく、迷うことなく、男性はここまで真っ直ぐ、わたしたちを連れてきてくれました。

 足取りもずいぶんとしっかりしたものでした。


「そうか。ありがとな」


 笑顔でお礼を言ったファクルさんが、その笑顔のまま、腰に帯びていた刀を一息に抜き放ちます。

 勇者であるわたしだから見えましたが、普通の人なら気がついた時には刀が現れたと思ったでしょう。

 ファクルさんは、自分はCランク冒険者だと謙遜していますが、本当にすごい人なのです!

 で、その刀はここまで案内してくれた人の首に当てられていました。


「これはいったいどういうことで?」


 困惑している男性に、ファクルさんは告げました。

 迷うことなくここまで道案内できたことが怪しいと。


「そんなことで、こんな真似を?」

「あんたは命からがら、必死に盗賊たちのねぐらから逃げてきたんだよな? だとしたら、周囲の景色を見ている余裕なんかなかったはずだ。なのに迷わなかった。おかしいだろ?」

「そ、それは道を覚えるのが得意で」

「まあ、そういう可能性もなくはない。けど、あんたは怪我をしたというわりに、足取りがしっかりしすぎていた。その怪我、見かけだけだろ?」

「いやいや、そんなことは――」

「あんたの役割は標的を見繕い、ねぐらまで案内することだ。道を行く俺たちの前に現れた時、あんたの目はぎらついた。さぞおいしく見えたんだろうな?」

「くそっ、ばれちまったからには――」


 仕方ない、男性――いえ、盗賊はそう言って懐から何かを取り出そうとしました。

 おそらく武器。

 ファクルさんに対抗するためだと思います。

 ですが、ファクルさんの刀がそれより早く煌めき、盗賊の意識を刈り取ります。


「さすがファクルさんです! すごいです!」


 一瞬にして相手の意識を刈り取るのは、なかなか難しいのです。


「大したことじゃねえよ」

「そんなことありません!」


 わたしの言葉に、ファクルさんが微妙にそっぽを向いて、頬を掻きます。

 耳の先が少しだけ赤くなっているように見えました。

 照れているのでしょうか。

 ファクルさん、かわいいです。


「って、照れてる場合じゃねえ!」


 やっぱり照れていたみたいです。かわいいです。

 ファクルさんは気を取り直すように頭を振ると、アイテムボックスからロープを取り出し、盗賊を素早く絞め上げていきます。

 そうしてそこら辺に、っぽい! と転がすと、木々の向こうに見える洞窟を見据えます。

 そこが盗賊たちのねぐら。

 入口に立っている二人は見張りでしょう。


「俺が一人をやるから」

「もう一人をわたしが倒します」


 わたしたは一斉に飛び出して、見張りに肉薄すると、意識を奪います。

 そのまま二人には転がっていてもらいましょう――そう思った時、洞窟の奥から人がやってきたのです。


「おい、お前ら。交代の時間だ――って、なんだてめえらは!?」

「盗賊退治に来た」

「っ!? イッチのやつ、しぐじりやがったな!? おい、敵襲だ!」


 大声で叫ばれました。

 どうやら秘密裏に対峙することはできなくなったみたいです。

 叫んだ人は奥に駆け込んでいきます。

 わたしたちは追いかけました。

 洞窟は自然にできたもののようで、ぐねぐねと入り組んでいて、下もでこぼこで走りづらいです。

 どれくらい走ったでしょう。


「ここは……」

「空洞みたいですね」

「そして、あんたらが死ぬ場所でもある」


 聞こえてきた声に見れば、ヒゲモジャのむくつけきおじさんを中心に、小汚い男の人たちが固まっています。

 斧や鉈、ショートソードなど、不揃いな武器を装備しています。

 身につけている防具も武器と同じく、不揃いです。

 何度も退治したことがある盗賊たちの特徴と一致します。

 つまり、盗賊です。

 間違いありません。

 ファクルさんを見れば、ファクルさんもわたしと同じ確信を得たのでしょう。うなずいてくれました。


「俺たちは死なない」

「はっ、みんなそう言って死んでいくのさ! ……いや、待て。そっちのお嬢ちゃんは別だ。ここでは殺さない。俺がいろいろかわいがってやる。べっぴんさんは、さぞかしいい声で鳴いてくれるんだろうなぁ!」


 おそらくこの盗賊の首魁だと思う人が、わたしを見て、いやらしい笑みを浮かべました。

 かわいがるという言葉の意味がどういうことなのか、知っています。

 盗賊退治に向かうと、必ずと言っていいほど、言われることですから。


「それは無理だな」

「何だ、お前が守るとでも言うのか? 見たところ俺と同じくらいのオヤジじゃねえか。さてはあれか。お前のこれか?」


 首魁が小指を立てて、ファクルさんに見せます。


「ち、違う!」

「おい、何赤くなってるんだよ。気持ち悪いオヤジだな」


 何を言っているのでしょう。

 気持ち悪いなんてとんでもないです!

 赤くなったファクルさんほど、かわいい人はいません!


「俺が無理だと言ったのは、アルアクルが強いからだ。ここにいる誰よりもな」

「は? 強い? そのお嬢ちゃんがか? こいつは笑わせてくれるぜ! なあ、おい!」

「へえ!」


 盗賊たちが笑います。

 なんだかファクルさんを馬鹿にされたようで面白くありません。

 なので、わたしはお仕置きをすることにしました。

 殴るとか、蹴るとか、そんなことはしません。

 軽く威圧しただけです。

 それだけで盗賊たちの大半が気を失ってしまいました。

 涎を垂らしているのはいい方で、おもらしをしてしまった盗賊もいます。


「アルアクル、やりすぎだ」

「仕方ありません。この人たちがファクルさんをバカにしたんですから」

「……俺のためだとしてもだ。だが、まあ、ありがとな」


 ファクルさんに頭を撫でてもらいました! えへへ。


「な、何なんだお前は!? 何なんだよ!?」


 首魁なだけあって、ヒゲモジャは意識をかろうじて保っていました。


「勇者ですが何か?」

「勇者!? 勇者だって!?」


 真っ赤に血走った目で睨まれます。


「なら、こっちも切り札を出すしかねえな! 先生、先生! お願いします!」


 首魁がそう叫ぶと、奥から人影が現れました。

 先生というのは用心棒のことを言うらしいです。

 盗賊退治をする中で覚えました。

 大抵は冒険者崩れの人で、それなりに強い人ではあったみたいですが、ギルドの方針と反りが合わなかったり、人を傷つけることに快感を覚えてしまったり、他にもいろいろな理由があって、堕ちてしまったみたいです。

 さて、この盗賊たちの用心棒は、いったいどんな人でしょう?


「お、おいおい、マジかよ!」


 ファクルさんが驚愕しています。

 それはわたしも同じ気持ちでした。

 だって現れたのは――。


「女の子じゃないですか!」


 蒼い髪、眠たげに半分ほど閉じられた金色の瞳。

 身長はわたしの胸元ほどくらいでしょうか。

 ちなみにわたしは同年代の女の子よりちょっと高めです!

 って、それはどうでもいいですね。

 魔法使いが着ているローブをまとっています。

 まさかこの子が用心棒!? 信じられません!

 ですが、首魁は女の子に全幅の信頼を寄せた眼差しを注いでいます。

 ということは、本当にこの子が用心棒……!


「呼んだ?」


 ぼんやりした声で、女の子が尋ねます。


「先生、こいつらをやっちゃってください!」

「わかった」


 女の子がまずファクルさんを見て、それからわたしを見ます。


「ゆーしゃ」


 え?

 今、わたしを見て、勇者と言いましたか?

 この子と会うのは初めてです。

 なのにどうして?


「会いたかった、ゆーしゃ! ずっと探していた!」


 どうしてわたしは女の子に抱きつかれているのでしょう!?

 誰か教えてください!

 この子、わたしより胸が大きいです! ぐぬぬ……!

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