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おしかけ勇者嫁〜勇者は放逐されたおっさんを追いかけ、スローライフを応援する〜  作者: 日富美信吾
第2章

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12#関係の変化? 進化?

日間総合31位になりました!

ありがとうございます!


 皆さん、わたしです。アルアクルです。

 誰かが言っていました。

 出会いがあれば、別れがあるものだと。

 その話を聞いた時は、何を当たり前のことを言っているのだろうと思ったものですが……。

 いざ、自分の身にそれが訪れた時、人はどうしようもないくらい、動揺してしまうものなんですね。




 その日はとてもよく晴れた日でした。

 雲一つない晴天です。

 絶好のお洗濯日和です。

 でも、わたしはお洗濯をしません。

 わたしがするのは――この街を旅立つこと。

 つまり、ファクルさんのご家族や狼の執事さん、侍女さんたち。それにファクルさんの幼なじみであるお姉さん――インウィニディアさんとお別れするということでもあります。

 わたしはファクルさんの横に立ち、お屋敷を背景にして立つファクルさんのご家族、それに屋敷の皆さんに頭を下げます。


「短い時間でしたが、大変お世話になりました……!」


 普通に言ったつもりでした。

 でも、わたしの声は震えていたのです。

 だって寂しかったから……。

 この街に来て、まだ1週間くらいです。

 決して長い時間とは言えません。

 それでもその間、皆さんはわたしのことを本当によく気にかけてくれて。

 とても素敵な時間を過ごすことができました。

 こんなに心穏やかに過ごすことができたのは、久しぶりでした。

 だから別れたくない、もっと一緒にいたいと――心の奥で思ってしまったのです。


「あ、あれ……?」


 気がつけば、わたしの頬をぽろぽろと涙が伝い落ちていました。

 こんなふうに涙を流したのは勇者として孤児院から旅立つ時以来でしょうか。

 あの時は確か、院長先生が抱きしめてくれたんですよね――って!?


「あ、あの、お母様……?」


 わたしはファクルさんのお母様に抱きしめられていました。


「大好きよ、アルアクルちゃん。私は――いいえ、私たち家族は、あなたのことを自分の娘のように思っているから」

「わたしが……娘?」

「ええ、そうよ」


 ファクルさんのお母様のぬくもりが、わたしに伝わってきます。

 とくん、とくんと、鼓動の音が、寂しくて、心細くなっていたわたしの心に、元気をくれます。

 わたしはそんなふうにお母様に抱きしめられて、お母様を感じていたので、知りませんでした。

 お母様は元より、お父様、お兄様が「わかってるよな?」という感じの眼差しでファクルさんを見つめていたことを。


「だからアルアクルちゃん。私が言うべき言葉は『さよなら』ではなく『いってらっしゃい』よ」


 お母様がわたしを離して、涙の跡を拭ってくれます。


「はい!」


 わたしが元気よく返事をすると、「いい笑顔よ。大好きよ」と言ってくれました。

 好きって、すごいです。

 だって、それを伝えられるだけで、胸の奥がぽかぽかあたたかくなって、どんなことでもできる、自分は無敵だって思えるようになるんですから。

 今のわたしは無敵です。

 お母様に『大好き』をもらったんですから。

 寂しさとか悲しさになんか、絶対に負けません!


「ファクルさん! ……ファクルさん?」


 ファクルさんにもこの胸に溢れる思いをお裾分けしようと思って、ファクルさんを見たら、なぜか変な汗を流していました。


「どうしましたか? 大丈夫ですか? 調子が悪いのなら、わたしが回復魔法を……」

「だ、大丈夫だから! これは、その、ほら、なんだっ。変な圧力を受けてな……」

「はぁ……?」


 よくわかりませんが、回復魔法は必要ないみたいです。

 でも、この思いはお裾分けしたいと思います。


「ファクルさん!」

「ん?」

「大好きです!」

「へ?」

「大好きです!」

「――――――」


 ファクルさんが固まってしまいました。

 どうしたのでしょう?


「ファクルさん?」

「ふぁっ!? い、いきなり何を!? ……あ、ああ、そうか。俺の作る料理が好きとか、そういう」

「違います! わたしはファクルさんが大好きなんです!」

「は?」

「ファクルさんのお母様も、お父様も、お兄様も、みんな大好きです!」

「……………………………………ソ、ソウイウコトデスカ」


 ファクルさんが遠い眼差しをするようになってしまいました。大丈夫でしょうか。心配です。


「まあ、純情なファクルを弄ぶのはそのくらいで勘弁してあげて」


 そう言ったのは、わたしたちの後ろから現れたインウィニディアでした。

 今日、この街を旅立つことを告げていたので、挨拶に来てくれたようです。


「弄ぶ、ですか?」


 わたしは首を傾げます。


「相変わらず天然ね。……これは相当苦戦するわよ、ファクル?」

「わかってる」

「へぇ、いい目をしてるじゃない。昔、冒険者になるって語っていた時と同じね」

「そうか?」

「ええ。どんなことにも諦めず、挑戦する――そんな気概が伝わってくるわ」

「……別に、そんな大層なもんじゃねえが」

「まあ、そうなんだけど」

「おい! 持ち上げておいて落とすなよ!」

「だって、あんたがさっさとはっきりさせればいいだけの話なんだもの。違う?」

「…………違いません」


 なんだか二人だけでわかり合っている感じです。むぅ、って感じです。

 わたしはファクルさんの腕に――いえ、体に抱きつきました。


「お、おい、アルアクル、何を」

「別に意味はありません。わたしがこうしたいからしたんです!」

「お、おう。そうか」

「そうなんです!」


 そんなわたしたちを見て、インウィニディアさんが朗らかに笑います。


「あなたたちのそのやりとり、いつまでも見ていたいけど……ほら、そろそろ旅立たないといけないんじゃない?」


 ファクルさんがわたしの頭をぽんぽんと叩きます。


「だな」

「ですね」


 わたしたちは顔を見合わせると、二人揃って皆さんに向き直ります。


「それじゃあみんな」

「いってきます……!」

「いってらっしゃい!」


 わたしたちは笑顔に見送られて、街を出ました。




 わたしたちが向かうのは、以前、ファクルさんが冒険者の仕事で出向いたことがあるというトリトス地方です。

 落ち着いた雰囲気の田舎で、ファクルさんはそこを訪れた時、店を開くならこういうところがいいなと思ったそうです。

 トリトス地方に向かう馬車や商隊があれば、同乗させてもらったり、護衛するという形を取ることも考えたのですが、生憎と田舎すぎて、誰も向かいません。

 ということで、徒歩で向かいます。


「急ぐ旅でもないし、こういうのもいいだろ」

「ファクルさんとの二人旅です! 魔王退治の旅以来ですね!」

「そうだな――って、王子たちがいただろ?」

「え? そうでしたっけ?」


 あんな人たちのことはどうでもいいので、忘れていました。

 とはいえ、ファクルさんを追放した人たちでもあるので、もし再会することがあったら……ふふふ。


「アルアクルがまた黒くなってる……!」


 黒いって何でしょう? よくわかりません。

 とにかく、二人旅です。

 ワクワクです! ドキドキです!


「だが……何か忘れているような気がするんだが」

「食材はわたしのアイテムボックスに収納してありますよ?」


 昨日のうちにファクルさんと一緒に市場に出向いて、いろいろ購入しておいたのです。


「いや、そういうのじゃなくて……うーん、何を忘れてるんだ?」

「思い出せないってことは、どうでもいいことなんだと思います」

「そうなのかもしれないが……なんか気になってな」


 歩きながらファクルさんが、うーんと唸った時でした。

 わたしたちに近づいてくる馬車がありました。


「お二人とも、僕を置いていくなんてひどいですよ!」

「あなたは確か……………………誰ですか?」


 金髪で、睫毛がとても長い美少女です。

 ですが、わたしと同じで、つるーんで、ぺたーんです。

 同志です。


「クナントカですよ、アルアクルさん!」

「違うだろ!? クリスだろ!?」

「やめてくださいファクルさん! 親にもらった名前は捨てたんですから!」

「捨てるな!」


 ファクルさんとのやりとりを見て思い出しました。

 確かにクナントカさんです。

 美少女ではなく美少年。

 つまり、同志ではありませんでした。ぐぬぬ。


「それでクナントカさん、いったいどんな用があるのでしょう?」

「結婚してください!」

「ごめんなさいお断りします」

「久しぶりに『お断りします』いただきましたっ!」


 うれしそうです。


「変態だな」


 ファクルさんの意見に同意です。


「まあ、掴みはこれぐらいにして」

「おい、掴みって何だ」

「僕もお二人の旅に同行させていただきます!」


 聞けば、わたしたちと離れている間に実家と掛け合い、武者修行ならぬ商人修行として、わたしたちと同行する許可を得たそうです。

 以前いたイケメンさんたちが同行していないのは、その方がよりいい経験を積めると考えたからとのこと。


「それに、ファクルさんは食堂を開くんですよね?」

「そうだな」

「店舗を購入する際の交渉や、食材の仕入れ先とか、僕がいるといろいろ捗ると思いますよ?」

「よしクリス。お前の同行を俺は快く受け入れようと思う!」

「ありがとうございます!」


 ファクルさんとクナントカさんが固い握手を交わしています。

 どうしましょう、大ピンチです!

 今のわたしはファクルさんの旅についていくだけの人です! そんなの嫌です!


「あ、あの、ファクルさん……!」

「どうした、アルアクル?」

「ファクルさんが開く食堂、わたしにもお手伝いさせてください……!」

「え?」


 ずっと考えていたんです。わたしとファクルさんは、どういう関係なんだろうって。

 でも、答えは出ませんでした。

 ファクルさんが男友だちと積もる話があるとかで一緒にいられなかった時、街を散策していた時にたまたまインウィニディアさんと会って。

 お茶に誘ってもらえて、わたしは自分が悩んでいることを打ち明けたんです。

 そうしたら言ってくれたんです。


『難しいことは考えないで、思ったとおりに、心のままに行動に移せばいいのよ』


 って。

 その言葉どおり、わたしは行動します。


「お願いします! ファクルさんの食堂、手伝いたいんです……!」

「アルアクル……」


 ファクルさんがわたしの名前を呟いて、困ったような顔をします。


「あ……ご迷惑……でしたか?」


 言葉にしたら、胸の奥がズキッと痛みました。


「ち、違う違う! 違うから、そんな顔するな!」

「でも……」

「これは、その、あれだ。俺にできないことをアルアクルが平然とやってのけるから。アルアクルにはかなわないなって、そう思ったんだ」

「ファクルさんにできないことなんてありませんよ?」


 だってファクルさんはすごい人なんですから。


「……そんなことねえよ。勇気を振り絞れなくて、女の子から大事なことを言われちまうんだから」


 ファクルさんが聞こえないくらい小さな声で、何かを呟きました。

 何と言ったのでしょう。

 気になっているわたしの前で、ファクルさんが自分の頬を殴ります。

 そうです。叩くのではなく、殴ったのです。


「ファクルさん、何を!?」

「いろいろ活を入れたくてな」


 どういうことでしょう?


「ありがとう、アルアクル。手伝ってくれるか、俺の店」

「え……いいんですか?」

「ああ。本当のことを言えば……俺の方から切り出そうと思っていたくらいなんだ。いろいろあって、アルアクルに先に言われちまったけど」


 ファクルさんが眉を下げて、頬を掻きます。


「どうだ、アルアクル?」

「はいっ! お手伝いさせていただきます!」


 よかったです!

 これでわたしとファクルさんの関係はあれですね!

 お店の主人と従業員です!

 ……なんでしょう。

 こうして言葉にすると、とても残念な気持ちになるのは。

 で、でも、あれです!

 わたしもこれで無職じゃなくなるということですし!

 明るく、前向きにものごとを考えたいと思います!


「よろしく頼むな、アルアクル」


 ファクルさんがわたしの頭を撫でてくれました。

 ご褒美です! えへへ。


「二人の世界に入ってるところ申し訳ないのですが」

「そういえばクナントカさんがいたんでした」

「存在を忘れられていた!? ご褒美です! ありがとうございます!」

「変態か!」


 ファクルさんに激しく同意します。


「それはさておき。ファクルさん。今までアルアクルさんのことは『嬢ちゃん』と呼んでいたはずですよね? いったいいつから名前で呼ぶようになったのです?」

「そ、それはその、あれだよ! いろいろあったんだよ!」

「いろいろとは?」


 ファクルさんとクナントカさんが楽しそうに言い合いをしています。

 以前のわたしなら何だか胸がモヤモヤして、二人の間に割って入っていました。

 でも、今のわたしは違います。

 ファクルさんのお店を手伝える、その喜びに包まれていましたから。

 お手伝い、がんばります!

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