1.叶えたい望みありますか
僕は昔から小さかった。
弱弱しい見た目のせいか、同級生に弄られることがたくさんあった。
僕は積極性がなかった。
友達になりたくても自分から言い出せなくて、いつも決まった人といた。
僕はとても過保護だった。
料理も洗濯も掃除も、自分で何かをすることがなかった。
何をするにも親に頼り、出かけるにしても幼馴染の椋夜に頼っていた。
そんな風に生きていくと、もちろん高校生になっても何もできない人間のままだ。
年を取ると、心も大人になっていくと思っていたけど大間違いだった。心は自分で変えないと成長しないものなのだ。
だから僕は、自分を少しでも変えるべく、今日から一人暮らしを始めることにした。
三畳のキッチン。十二畳のリビング。三畳の寝室。後は洗面台と風呂場、トイレが設置されている。
学園までは自転車で十分といったところである。なかなかいいところだ。
入学してからはもう十ヵ月経っている。もうじき1年生も終わり、新たに学年があがる。
一般的な高校だ。特にこれといって珍しいところはない。
入学した理由はもちろんなんとなく。ただ、実家から遠いところにしようと決めていた。一人暮らしをするつもりで。
ここから、自分を強くするんだ。一人で何でもできるようになるんだ。
洗濯機の動かし方とか、料理の仕方とか全然わからないけど、暮らしていけば慣れると思っている。
よし、頑張るぞ!
夕日が沈む頃、食材を買いに近くのスーパーへ行こうと玄関を開けたその時、なにやら上空から白い球がゆっくりと降りてきた。
なんだろう、雪……にしては大きいな。りんごのサイズはある。
白い球は一直線に降りていき、気づいた時には僕の目の前で停止していた。
浮遊している……。
不思議な物だ。目を擦って幻覚かと疑うが、現実のようだ。
僕は恐る恐る白い球に手を伸ばす。すると、目の前に電子文字が表示された。
≪オめでとう、アなたはエらばれましタ 現在5/12≫
急に出てきた文字に驚愕する。
え、選ばれた?
意味も分からずきょとんとしていると、電子文字は姿を消し、新たな電子文字が姿を現した。
≪アなたは、カなえたいノぞみ、アりますカ? コえにだしてイってみてくださイ≫
叶えたい望み……?
大金持ちになりたい。イケメンになりたい。尊敬される人間になりたい。望みは沢山あった。でも、僕が口にしたのは、そのどれでもなかった。
「自分自身を守れるようになりたい」
強くなりたいという選択肢もあったけど、自分を守れる強さが自分の成長だと思った。困難に立ち向かえる強さ。そういった意味の守るだ。
なんて、何を言っているのだろうか。電子文字に従ってみたけど、何かが起きるわけでも。
呆れてため息をついた途端、白い球が輝きだし、電子文字が変化した。
≪オめでとう。アなたは『半無限シールド』がツかえるようになっタ≫
半無限シールド……?
無限じゃないのかと疑問に思ったが、驚くところはそこではない。
僕を囲むかのように、半透明のシールドが円状にできているのだ。地面はすり抜けており被害はないが、確かに円状のシールドが僕を包んでいる。
僕が歩くと、僕を中心としてシールドも動く。
「これは……買い物どころじゃないな……」
アパートに戻り、白い球について少々調べることにした。