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こえろく

作者:徒花 諒一
「ねぇ、知ってる〜? パパの時代、痴漢に間違えられないため、バンザイして電車乗ってたらしいよー。」

 茶髪にパッチリメイクの、女子高生の集団が、一際目立つ大声を上げて、電車の中で会話している。

「マジ? 戦時中じゃん。バンザイって。ウケる。」
「ちょまって、痴漢だったら"こえろく"に残らないんじゃね?」
「喘ぎ声が残るんだら? うはっ、おっさんの喘ぎ声、聴かなきゃいけない録音員マジかわいそー。」

『くだらない騒音を聞かされる、録音員は可哀想だな』

 僕は心の中で毒吐く。まぁでも、録音員は公務員だし、メリットはあるのかも。

 女子高生の騒音を聞かせられながらの、いつもの通学路。あいにく、大騒ぎしてる女子高生たちと、僕の目的地は同じである。

「相変わらず、うるさいよな、冴山たち。」

 電車を降りると、同じクラスの木梨が、話しかけてくる。

「そもそも、あいつら、わざとシャツのボタンちゃんと止めないし、スカートちょーミニだし、……善良な男子高校生にはたまりませんなぁ〜、うへへ。」

 汚い笑みを浮かべる木梨。僕は聞こえてないフリをして、先を行く。

「ちょ、待てよ、きくっちー。お前も、やっぱ興味あるだろう?」
「痴漢犯一歩手前みたいな発言してる人と一緒にいると、僕まで冤罪被りそうだ。」

「ハハ、俺はキングボンビーかよ。つーか、もうじき夏になるのに、きくっちーは、相変わらずマスクだし、"こえろく"嫌いなのか?」
「…………。」

 別に、マスクなのは、人より花粉症がキツいだけだ。
 そもそも、僕には、皆がおかしく思える。会話を、関係ない第三者に、盗み聞きされているというのに、なんで気にならないのだろうか?

『大声で駄弁れる、冴山たちが羨ましよ――。』

 

「今日の数学は抜き打ちテストするぞー! 嬉しいだろ?」

 数学の教師は、皆からブーイングの嵐を受ける。そう言ったところで、テストが無くなる訳じゃないのに。言葉の無駄使いじゃないか?

「ほらほら、テスト教室に移動しろ。筆記用具は持ってくるなよ? もちろん、カンペなんて作るなよ?」

 テスト教室は、一席ごと、仮設トイレみたいな箱に包まれている。中は完全防音で、席の外の音は聞こえない。
 中には、問題用紙と、録音機が置かれている。

『途中式まで、声に出さないといけないなんて、面倒くさいなぁ。』

 普通の授業は、ノートに書いていいのに、テストは声だけ。学校からの連絡事項は、メッセージが録音されたSDカードだし。

『紙の方が楽なんじゃない?』

 僕はどうしてもそう思ってしまう。まぁ、昔は紙のせいで、よく読まずに記入して、あとから知らなかったなんて、自業自得の詐欺があったらしいけど。

 グチグチ考えていても、しょうがない。僕は声に出して、計算を始める。

 

「冴山、テスト席は、カラオケボックスじゃないぞー。てか、歌うなら、問題解いてからにしろよ。」

 テスト終わりに、数学の先生はそんなことを言う。

「うるせーな。解けねぇし、暇だし、歌ぐらいいいでしょ? てか、先生、音痴だから嫉妬してるっしょ?」
「な、ち、違うわい!」

 冴山を中心に、クラスは爆笑に包まれる。取り巻きたちが、また援護射撃をし、騒音がどんどん高まっていく。

 僕は一人、うがいをしにいく。テストのせいで、喉はガラガラだ。

 後の授業は他愛のないものだ。冴山たちは、相変わらずうるさいし、木梨は、何かと話しかけてくる。

 
 放課後、文芸部の幽霊部員である僕は、さっさと家に帰る。 
 帰りの電車は、いつもよりも席が空いていた。

『うわ、冴山だ。』

 僕の対角線上に彼女は座る。珍しいことに、取り巻きたちがいない。まぁ、静かならいいか。

『……ん?』

 空席は多いのに、息を荒くした、小太りのおっさんが、冴山の隣に座る。そして卑猥な笑みを浮かべ、おっさんの手が、冴山のふとももに伸びていた。

『痴漢だ。』

 気づいたところで、別に何かするつもりはない。冴山のことだ、自分でなんとかするだろう。

 しかし、冴山は青くなって震えるだけで、ふとももを撫でられ続けている。

『なんで、いつも騒音の元凶の冴山が……?』

 冴山は目をぎゅっと瞑っている。端には涙まで浮かんでいる。

 気づいてるのは僕だけなのか、他は見て見ぬフリしてるのか分からない。
 だけど、おっさんの腕が冴山の胸に伸びたとき、たまらず僕は、その腕を掴みに行った。 

「チッ」

 おっさんは、舌打ちして、何事も無かったように、次の駅で降りて行った。

「…………。」
「…………。」

 僕と冴山に、会話はない。彼女は、一度僕と目を合わせたが、顔を赤くして、逸してしまった。僕は、居心地悪いが、元いた席に戻った。

 何人かに、僕らのやり取りを見られていた気がする。

 そして自分の駅で降りるとき、ふいに肩を叩かれた。冴山だ。彼女は無言のまま、何かを渡してきた。

『ありがとう』と書かれた、小さなメモ紙だった――。

 

 後日、痴漢のおっさんは捕まったらしい。本当に"こえろく"の喘ぎ声から、割り出されたのかもしれない。

 あとは、たいして変わらない。冴山は相変わらず騒音の元凶で、僕はときどき木梨と話すぐらいだし。

 一つだけ違うのは、文字の言葉に価値はない、こんな声が全てのこの時代に、僕と冴山は交換日記を始めたぐらいだ。おっさんが捕まったことは、交換日記で知った。まぁ、所詮、文字の言葉だ。もしかしたら、嘘なのかもしれない。

 でも、僕は、文字の会話を大切にしたい。いつか伝えたい言葉は、彼女だけに届けたい。第三者には聞かれたくない。やっぱり僕は変わり者なのかな? それなら、それで、いいさ。

「さて、今日は何を書こうかな。」



 
 
 閲覧ありがとうございました。この世から、冤罪や詐欺被害が無くなる事を密かに祈ります。

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