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誤算

※今回、やや衝撃的な展開が存在しています。

 その夜も、俺達は国王軍に対して、ゲリラ戦を展開していた。


 これまで五回の出撃で、内三回、超兵器『クズリ』の完全破壊に成功している。

 クズリは超兵器の中では最も数が多いが、それでも国家全体で二百も存在しておらず、追加供給もできないので、ダメージは大きいはずだ。


 『幻惑魔法使用者(ジャマー)』であるクラーラの魔法により、国王軍一個小隊は完全に視界を奪われているようだった。


 歩兵の人数は今までより多く、約五十人。装甲車も三台、そして超兵器『クズリ』一機が同伴されている。

 今回の目的も、『クズリ』破壊だ。


 極力、兵士には攻撃を加えない計画だった。

 予定通り、まず魔法で姿を隠したミリアが『空中浮遊』で敵陣内に入り込み、クズリへの攻撃体制に入っているはずだ。


 彼女には自動発動する防御結界の魔法が使用されており、さらに彼女自身のフルオート自動高速移動能力も合わさって、短時間であれば無敵の防御力を発揮する。


 攻撃力も強力で、彼女の魔法は超兵器をも一時行動不能に陥れる。

 しかし、それでも超兵器を完全に破壊するのは至難の業だ。驚くべき頑強な外殻を持っているためだ。


 それを破壊可能なのが、ユナの持つ『光輝の剣』だ。

 これはレジスタンス側のクラーラが発掘した、一種の『超兵器』だ。

 その切れ味はすさまじく、おおよそ硬度など無視するかのように対象を切り裂いてしまう。つまり、接近さえできれば、『クズリ』をも容易に破壊可能なのだ。


 クラーラが幻惑魔法を使い、ミリアがダメージを与えて動けなくし、そしてユナが止めを刺す。

 勝利の方程式、まさに完璧な討伐作戦のはずだった。


 そしてミリアとユナの二人は合図を送りあい、タイミングを見計らって、まずミリアが空中に出現した。


 そしてそのすぐ前方に、巨大な火の玉が出現、それを『クズリ』に向けて放った。


 俺たちは、二キロほど離れた林の中からその様子を夜間望遠スコープで観察しており、数秒後に訪れるであろう爆発音に対して身構えていた。


 ――信じられない光景を目撃した。


『クズリ』のすぐ目の前で火の玉が掻き消え、そして、空中に浮遊していたミリアが、力を失ったようにポトリと墜落したのだ。


「まさかそんな……私の……私の幻惑魔法が……かき消された……」


「何だって!?」


 なにが起きているのかまったく分からなかった俺達は、クラーラの一言に血の気が引く思いだった。


「魔力消滅魔法……そもそも魔法を使えるとすれば、異世界転移者以外で可能性があるのはごく一部の王族、それも、私の魔法をかき消せるほどとなると……」


 そう言って再びスコープをのぞき込んだクラーラは、血相を変えて、


「エクト・ノルダムテリア! どうして……どうして国王が、こんな辺境の地、しかもレジスタンスとの最前線にいるの……」


 全身の肌が泡立つのを感じた。


 倒すべき最終目標である、残虐な現国王が、スコープで目視できるほどの近場にいる。

 しかしその彼によって、ミリアが危機に陥っている。


「……ユナ、だめ、今はまずいっ!」


 クラーラの悲痛な叫びが響く。

 俺も急いでスコープを覗くと、ユナが『光輝の剣』を手に、猛然とミリアが倒れた場所に突っ込んでいく。


 と、次の瞬間、彼女はパタリ、と倒れた。

 一瞬遅れて、数発の銃声が聞こえた。


「……ユナが、撃たれたっ!」


 すぐ側で、キルークが声を上げた。


「ばかな……防御結界はどうしたっ!?」


 グラドの太い声も、動揺しているのか、少し震えている。


「それもかき消された……今、あの場所では全ての魔法がかき消されている……このままじゃあ、ミリアとユナが殺されるっ!」


 クラーラの叫びに、まず行動を起こしたのは、いつも冷静なカムリだった。

 ライフルを構え、数発発砲する。

 効果はあったようで、ミリアとユナに迫ろうとしていた歩兵達は一斉に伏せた。


 それを見て、キルークもグラドも、慌てて威嚇射撃を行った。

 こちらは林の中なので、向こうからははっきりとは位置を確認できていないはずだ。


 俺とクラーラはスコープを覗き、現状を確認し続けた。


「……ミリアだけ運ばれて……装甲車に乗せられたわ!」


「ユナ、ユナはどうだ? 大丈夫……大丈夫だよな?」


 自分でも、声が上ずっていたのがわかった。

 今すぐ確認に走りたかった俺だが、クラーラの方が正確に状況を判断できるはずだった。


「わからない……魔法がかき消されているから、現状がよく伝わってこない……スコープで見る限り、ピクリとも動かないわ……」


 クラーラも完全に動揺していた。

 なおも威嚇射撃を続ける俺達に対して、ミリアを連れたその小隊は、撤退を始めた。


 それは、俺達の威嚇に怯んだのではなく、用は済んだ、というふうにも受け止められる行動だった。


 ユナは、倒れたまま放っておかれたようだった。


 そして俺は、装甲車に乗り込む直前に、現国王エクト・ノルダムテリアが浮かべたおぞましい笑みを、決して忘れることはできなかった――。

※ユナは負傷していますが、命に別状はなさそうです。ウィンの出番となりそうです。

※ミリアは現国王が能力を発動している限り、魔法が使えません。


※この物語は、一旦ここで一区切り、となります(第一部 完、といったところです)。この後、しばらく(数か月)期間を置いてからの展開となる予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結おめでとうございます。すごく面白かったです‼ 私も先生のような作品を書けるようになりたいです。 今後も期待してますので、お互いに頑張りましょう‼
2022/01/15 18:32 退会済み
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